精神科看護の「倫理」について考えてみよう
2024/06/26

精神科看護の「倫理」について考えてみよう
1 精神科看護とは
精神科看護とは、「精神的健康について援助を必要としている人々に対し、個人の尊厳と権利擁護を基本理念として、専門的知識と技術を用い、自律性の回復を通して、その人らしい生活ができるよう支援することである」と定義されています(一般社団法人日本精神科看護協会)。
精神的健康とは、単に精神疾患に起因するものだけではなく、人々が生きる過程で直面する多様なこころの問題を含みます。つまり、精神科看護師には、精神疾患を有する人々にとどまらず、すべての人々を対象とする幅広い支援活動が求められているのです。
また、対象となる人々の生命、人格に対する深い尊厳とともに、高い職業倫理をもって判断し、行動しなければならないことは言うまでもありません。
さらに、精神科看護師には、患者-看護師関係を基盤に対象の個別性を尊重し、自律性の回復に向けて支援しなければなりません。
2 なぜ倫理が大切なの?
もともと備わっている自然治癒力が弱まったり、心身の問題について修復する力が低下したりすると、自身で欲求を充足することが難しくなります。
看護とは、対象者のセルフケア活動が低下したとき、回復や必要な選択を補うための一連の相互作用ということもできます。
精神科看護師は、患者さんの健康上の課題などの解決に向けて目標指向性をもち、共感性をもって、患者さんに必要な看護援助を行う責任があります。
しかし、精神科看護の対象となる患者さんは、病識や治療・ケアへの認識が乏しいことなどによって、看護に対して両価的な反応を呈することも少なくありません。
継続的に、適切な看護を提供するためには、知識・技術・対応能力・ストレスコントロールなどの専門的技術が要求されます。その専門的技術の基軸になるものが、精神科看護の倫理観なのです。
3 精神科看護の12の倫理指針
精神科看護師の倫理的課題の解決に向けた取り組みをさらに推進するために、日本精神科看護協会が定めた「精神科看護職の倫理綱領」があります。 この中で、精神科看護の質を維持・向上させるための看護実践の際の指針となる、以下の12の項目が示されています。
- ①人権尊重
- ②善行
- ③無危害
- ④知る権利、自律、自己決定の尊重
- ⑤守秘義務
- ⑥自己管理
- ⑦人格の陶冶(とうや)
- ⑧継続学習
- ⑨看護の探究・発展
- ⑩多職種連携
- ⑪社会貢献・正義
- ⑫法や制度改正等に向けた政策提言
これらは、精神科看護の専門職として社会に対して果たす倫理的役割と質の高い看護援助に不可欠な要素を示したものといえます。
4 具体的なケースで考えてみよう
ここでは、「④知る権利、自律、自己決定の尊重」を例に、倫理観を大切にした具体的な対応について考えてみましょう。