【福祉・自治体職員向け】制度の狭間に落ちる被災者を救う「災害ケースマネジメント」とは?
2026/09/08
近年多発する大規模自然災害。避難生活からその後の生活再建において、住まいの喪失や心身の不調、経済的困窮、孤立など、被災者が抱える複雑な生活課題を、画一的な支援制度だけで解決することは困難です。そこで今、一人ひとりに寄り添い生活再建を支援する伴走型アプローチ「災害ケースマネジメント」に注目が集まっています。
著者プロフィール
菅野 拓(すがの・たく)
大阪公立大学大学院文学研究科准教授。専門は人文地理学・都市地理学・サードセクター論・防災復興政策。博士(文学)。東日本大震災の発災直後から、仙台市における被災者生活再建支援事業や生活困窮者自立支援事業の立ち上げにかかわる。その実践を踏まえ「災害ケースマネジメント」の概念を提案し、熊本地震・平成30年7月豪雨など全国の被災地に広め、内閣府による制度化・推進にも影響を与える。内閣府「被災者支援のあり方検討会」委員など歴任。単著に『災害対応ガバナンス―被災者支援の混乱を止める―』など。
頻発する災害と被災者支援の現状
近年、大規模な自然災害が全国各地で頻発しています。発災直後、自治体や支援者は人命救助や避難所運営に追われますが、本当に困難な課題は「その後」の生活再建の過程で生じます。
被災者は、住まいの喪失、失業、健康悪化、そして孤立など、重層的で複雑な問題を抱えがちです。しかし、現在の災害法制は「住家の被害程度(罹災証明書)」を基準とした画一的な支援になりがちで、一人ひとりの実情に合わせた支援が届きにくいという限界があります。
そこで近年注目を集めているのが、「災害ケースマネジメント」というアプローチです。本記事では、平時の福祉・相談支援に携わる方々に向けて、災害ケースマネジメントの基本と、平時の「包括的支援体制」との関連性について解説します。

災害ケースマネジメントとは何か?
災害ケースマネジメントとは、被災者一人ひとりの被災状況や生活課題を個別に把握し、専門的な支援機関が連携しながら、被災者が自立し生活を再建できるよう「伴走型」で支援する取り組みです。
●特徴その1 制度の狭間を埋める「オーダーメイド」の支援
現行の被災者支援制度は非常に複雑です。さらに、申請主義が基本となっているため、「どの窓口に行けばいいかわからない」「制度そのものを知らない」といった理由から、支援が必要な人ほど制度の狭間に落ちてしまうリスクがあります。また、平時から障害や高齢、生活困窮などの脆弱性を抱えている「要配慮者」は、災害によってその課題がさらに増幅されます。災害ケースマネジメントでは、「アウトリーチ(訪問支援)」オーダーメイドで組み合わせることで、個別の困難を解決に導きます。

多機関協働による「餅は餅屋」の支援体制
災害という未曾有の事態において、行政単独で全ての被災者支援を行うことは不可能です。ここで重要になるのが、「餅は餅屋」の考え方に基づく官民連携(マルチセクター化)です。
●特徴その2 専門性をもつ民間組織との連携
避難所から応急仮設住宅、あるいは在宅避難へと移行する中で、被災者の課題は個別化します。社会福祉協議会が運営する地域支え合いセンターや、災害支援を専門とするNPO、さらには弁護士や建築士といった士業団体など、それぞれの強みを持つ機関が協働する「三者連携」が不可欠です。
たとえば、被災者が抱える「罹災証明の判定への不服」や「自宅を修理すべきか解体すべきか」という悩みには、建築士や弁護士の専門的知見が大きな助けとなります。行政は制度の枠組みを提供し、専門職やNPOが現場で伴走する。この連携を「ケース会議」や「情報連携会議」を通じて機能させることが、災害ケースマネジメントの核となります。
●特徴その3 災害派遣福祉チーム(DWAT)と福祉避難所の役割
介護や福祉の現場においても、災害時の対応は喫緊の課題です。避難所での生活が困難な要配慮者を受け入れる「福祉避難所」ですが、能登半島地震においては、福祉施設自体の被災やスタッフの不足により、十分に機能しないケースも見られました。
このような状況下で活躍が期待されるのが、DWAT(災害派遣福祉チーム)です。避難所におけるアセスメントや環境改善、そして在宅避難者へのアウトリーチによる状況把握など、専門的な視点からの介入が被災者の命をつなぎます。2025年の災害救助法改正により「福祉サービスの提供」が救助メニューに追加され、DWATが在宅被災者へのアウトリーチ活動などにも参画しやすくなりました。

「フェーズフリー」が災害時にも生きる
福祉職やケアマネジャーなど、平時から地域住民の生活を支えている方々にとって、災害ケースマネジメントは決して「新しい特別な業務」ではありません。
災害ケースマネジメントのもう一つの重要な柱が、「社会保障のフェーズフリー化」です。これは、平時の社会保障や福祉の仕組みを、非常時(災害時)にもシームレスに機能させるという考え方です。

重層的支援体制の延長線上にある災害対応
災害時に生活再建が困難になるのは、平時から支援を必要としていた人や、社会とのつながりが希薄だった人が少なくありません。そうした人たちを支える専門性を持っているのは、まさに地域のケアマネジャー、ソーシャルワーカー、地域包括支援センターの職員などです。
近年、多くの自治体で「重層的支援体制整備事業」が進められていますが、この平時の多機関協働のネットワークこそが、災害時には「災害ケースマネジメント」を起動させるためのオペレーティングシステムとして機能します。
愛媛県宇和島市のように、平時の「我が事・丸ごと」の地域づくり(重層的支援体制)を基盤として、発災後に被災者の生活再建支援をスムーズに展開した事例もあります。「平時にできないことは、災害時にもできない」という言葉の通り、平時からの「顔の見える関係」と「お互い様のネットワーク」の構築が、最大の事前防災となるのです。
災害は、住まいや財産だけでなく、これまでの日常やコミュニティを奪います。被災者が納得できる生活を取り戻すためには、制度の枠を超えた「伴走支援」と、地域全体での「協働」が求められます。
福祉職や自治体職員の皆様が、平時から培っている相談支援のスキルやネットワークは、災害時に被災者の命と尊厳を守る大きな力となります。ぜひ、ご自身の地域でどのような連携が可能か、平時から話し合ってみてください。

