高齢者の「いつもと違う」に気づくコツ 介護現場でどこを見る? どう対応する?

2026/04/14

監修者・著者プロフィール

清水奈穂美(しみず・なおみ)氏

佛教大学看護学部看護学科地域・在宅看護学 准教授
東京女子医科大学病院にて病棟勤務、がん医療やケア、在宅看取りやポスピスへの移行支援に携わる。在宅ケアに関心をよせ、淀川キリスト教病院問看護ステーション(現・よどきり訪問看護ステーション)にて訪問看護に従事。訪問看護の面白さにふれ、訪問看護認定看護師、在宅看護専門看護師を取得し、地域・在宅の多職種らとともに食支援や栄養ケアを介した地域づくりや滋賀県にて医療と介護をつなぐ看取りの見える化の推進事業を展開している。また、在宅ケアにおける判断力や臨床推論力を育むために学生から現任教育までを担い、地域で活躍する看護職の育成、キャリア形成支援に取り組む。22年4月より現職。


介護職の「気づき」がチームケアのカギになる

 介護実習や看護実習、あるいは新任職員として現場に入った際、最も不安になるのは「利用者の異変に気づけなかったらどうしよう」ということではないでしょうか 。高齢者は、成人に比べて病気の兆候がわかりにくく、些細な変化が命に関わる急変に直結することがあります 。
 この記事では、“生活を支えるプロフェッショナル”である介護職やケアマネジャーが現場で得た「気づき」が「自信」につながる、高齢者の「いつもと違う」の見抜き方やチーム対応のポイントをわかりやすく解説します。


なぜ高齢者の「いつもと違う」はわかりにくいのか

高齢者には、特有の身体的特徴があります。まずはこの3点を押さえておきましょう。

 

病気にかかりやすく、直しにくく、重症化しやすい

加齢に伴い、臓器などの機能が低下するため、病気から身体を守る「免疫力」、病気から回復する「回復力」、病気のダメージを受けたときに踏ん張れる「予備力」が低下しやすくなります。

 

体調を維持する力が弱まる

高齢者は、身体のバランスを一定に保とうとする恒常性(ホメオスタシス)を維持する機能が低下します。そのため、例えば熱中症(体温の調節機能の低下)、高血圧(血圧が上がりやすい)、低血糖(血糖をコントロールする力の低下)、脱水(身体の水分や電解質を維持する力の低下)などが起こりやすくなるのです。

 

本人が症状に気づきにくい

感覚機能や認知機能の低下により、高齢者自身が症状を自覚できなかったり、うまく伝えられなかったりすることが多々あります 。

 

 だからこそ、高齢者の日頃の生活を熟知している介護職の「気づき」が、命を守る重要なサインとなるのです 。


迷ったときに確認すべき「バイタルサイン」と「栄養状態」

 「何となく様子がおかしい」と感じたとき、客観的なデータとして確認すべき項目が「バイタルサイン」と「栄養状態」です 。これを知っておくだけでも、現場での不安は大きく軽減されます。

 

バイタルサインの5項目+栄養状態

①体温 いつもより1℃以上高い場合は発熱を疑います。高齢者は平熱が低めな人も多いので、「普段の体温」を知っておくことが大切です 。
②意識 表情、話し方、しぐさがいつもと違うか確認します。呼びかけに反応がない場合は緊急事態です 。
③呼吸 正常な呼吸は1分間に12〜20回です。24回以上の場合は呼吸困難、もしくは10回以下の場合には意識障害を疑います。その際には、酸素飽和度(SpO₂)の数値(96%以上が正常)をみながら対応を急ぎます。
④脈拍 正常な脈拍は1分間に60〜80回で、リズムは規則的です。100回以上の頻脈や、50回以下の徐脈、脈が不規則な不整脈などが疑われる場合は注意が必要です 。
⑤血圧 上が140mmHg以上、下が90mmHg以上は高血圧です。急激な変化がみられる場合には、緊急対応が必要な症状が現れていたり、重大な病気が隠れていたりする可能性があります。
⑥栄養状態 食事や水分の摂取量が急に減ったり、体重が減少したりするのは、病気のサインかもしれません 。サルコペニア(筋肉量や筋力の低下)やフレイル(心身が衰えた状態)のリスクも高まります。
 

 このような変化に気づいたときには、必要に応じて医療職と連携したり、生活のしかたやケアの工夫を検討したりすることが大切です。


高齢者の心や生活の変化

 あわせて気をつけたいのは、高齢者の心や生活の変化です。

 

注意が必要な「心」の変化

 個人差はありますが、高齢者は、病気による健康の喪失や家庭内での役割の喪失、退職にともなう社会的な役割や経済力の喪失、愛する人や親しい人との死別など、その人にとって大切にしてきたことを喪失する出来事が多くなります。
 喪失体験をきっかけに、食欲低下不眠などの症状が現れ、それが慢性化すると心の病気を発症する可能性があります。また、高齢者のうつ病は、気分の落ち込みなどの精神的な症状よりも頭痛や腰痛、胃の不快感などの身体的な症状が目立ちます。

 

注意が必要な「生活」の変化

 これまでの人生の中でさまざまな出来事を経験してきた高齢者は、一人ひとりがそれぞれ異なる思いをもって暮らしてきました。そのため、加齢や病気、症状によって生じる暮らしにくさを感じつつも、自分らしく生きることを選択し、何とかしていく力をもち合わせています。
 だからこそ、これまでの暮らしを理解し、今の暮らしに病気や症状が与える影響を考え、これからの暮らしを支える必要があるのです。症状と生活は互いに影響し合うものであり、両方の視点からの気づきがとても大切になります。
 例えば、以下のような生活の変化がみられた場合には、病気の兆候かもしれません。

 

□几帳面できれい好きな人が身だしなみに気をつかわなくなった(意欲低下)
□季節に合った衣服を着ていない(見当識障害)
□高血圧をもつ人が急に字がうまくかけない(失語症)
□手に力が入らない(運動障害)

 

 このような変化に気づき、すばやく医療職につなげることで、病気の早期発見や重症化の予防につながることがあります。


介護職の皆さん、一人で頑張りすぎないで!

 生活を支えるプロである介護職は、利用者に最も近い場所で「暮らしの変化」を見つけられる存在です。あなたの小さな気づきが、チーム全体の大きな助けになります 。
「いつもと違う」に気づくためには、まず「いつもの様子」をよく観察することから始めてみましょう 。利用者の表情、触れたときの感触、食事のペースなど、日々のコミュニケーションの中に、多くのヒントが隠されています 。
 最初は誰でも、「自分の判断が間違っていたら恥ずかしい」「チームに余計な負担がかかったら申し訳ない」と思うものです。しかし、高齢者のケアにおいて「何もなくてよかった」は、立派な成功です。不安を一人で抱えず、チーム全体で共有しましょう。専門職の力を合わせ、対応を考えていくことが、高齢者がその人らしく「生き切る」ことにつながるのです。


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