2040年を見据えた第10期基本指針について
2026/04/09
第134回「社会保障審議会介護保険部会」で示された第10期基本指針の見直し骨子について、注目すべきポイントを紹介します。
2026年3月9日に開催された 第134回社会保障審議会介護保険部会 では、令和9年度(2027年度)からスタートする「第10期介護保険事業計画」に向けた基本指針の見直し案が提示されました 。人手不足の深刻化と85歳以上人口が急増する「2040年」を見据え、自治体や事業者の取り組みがどのように変わるのか、見直しの骨子を整理します。
介護保険の「基本指針」とは
介護保険法第116条に基づいて国(厚生労働省)が定めるものであり、正式名称は「介護保険事業に係る保険給付の円滑な実施を確保するための基本的な指針」です。
市町村や都道府県が「介護保険事業(支援)計画」を作成する際に、サービス見込み量の算定基準(参酌すべき標準)や計画に盛り込むべき重要事項を示す「全国共通の指針」としての役割を担います。
第10期基本指針の見直し骨子
提示された基本指針の見直し案は、3年間の計画のみならず、2040年を見据えた「長期的な視点」が強調されています。
1 中長期推計の義務化と都道府県の関与強化
第10期計画では、市町村だけでなく都道府県も、2040年度を含む中長期的な推計を実施することが基本的記載事項(必須)となります。
(1) 共通の課題認識
都道府県と市町村が将来の需要や人口動態に関するデータ等を共有することで、地域課題に対する共通の認識を持つことができ、広域的な調整や支援が実効的なものとなります。
(2) 老人福祉圏域単位の議論
市町村を越えた議論が必要な課題(医療・介護連携、人材確保等)について、老人福祉圏域単位等での調整・協議を行う会議体の設置など、本格的な議論のための体制構築が進みます。
2 「地域類型」に応じたサービス提供体制の構築
全国一律ではなく、地域の人口動態に合わせた「大都市部」「一般市等」「中山間・人口減少地域」という3つの類型を念頭に置いた計画策定へと移行します。
(1) 大都市部
2040年に向けて需要が急増する一方、生産年齢人口が減少する地域。ICTやAI等の活用、民間活力の導入によってサービス基盤を維持・整備する工夫が求められます。
(2) 一般市等
需要がピークを迎え、増加から減少に転じる地域。将来の人口減少を見据えた柔軟な対応の準備が求められます。
(3) 中山間・人口減少地域
既に需要が減少しており、サービス維持が困難な地域。員配置基準の緩和等を伴う「特例介護サービスの新たな類型」や、介護保険財源を活用した柔軟な「事業による仕組み」を市町村の判断で導入可能とすることが検討されています。
3 医療・介護連携の深化と居住支援
「新たな地域医療構想」との接続を強化し、在宅医療や介護との連携を計画策定の初期段階から議論することが求められます。
(1) 高齢者向け住まいの把握
有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の入居定員や要介護者の状況を把握し、サービス見込み量に反映させる仕組みが導入されます。
(2) 住宅・福祉の連携
改正住宅セーフティネット法 を踏まえて住宅部局と福祉部局が連携することで、高齢者の住まいの安定的な確保にかかる体制が強化されます。
4 人材確保・生産性向上・経営基盤の強化
都道府県を主体とした「介護人材確保に関するプラットフォーム」や「介護現場革新会議」の構築など、地域の関係者が協働する体制を整えます。
(1) 伴走支援の充実
単なる機器導入の補助にとどまらず、業務改善に向けた専門職による伴走支援が強化されます。
(2) 経営の協働化・大規模化
小規模法人のネットワーク化や事務部門の集約等、経営基盤の強化に向けた目標設定と方策の記載が求められます。
見直し骨子に対する委員の意見
各テーマに対し、有識者委員からは現場の実情に即した多角的な意見が出されました。
1 中長期推計と計画の在り方について
・行政の計画は理念先行になりがちであるため、人材不足等の厳しい現実を前提とした、実効性の高い計画にするべきとの指摘がありました。
・施設稼働率の低下や認知症有病率の変化、在宅医療のトレンド等、最新の動向を織り込んだ推計モデルを活用すべきとの意見が出されました。
2 地域類型と柔軟な対応について
・山間地域での基準緩和(柔軟な対応)について、一度緩和すると標準に戻すのは困難であり、制度への信頼を損なわないよう慎重に検討すべきとの声がありました。
・中山間地や離島等の類型設定にあたっては、移動手段や移動時間といった物理的な交通インフラの影響も踏まえた考え方を示すべきとの提言がありました。
3 医療・介護連携と住まいの透明性について
・高齢者救急や早期退院後の受け皿として介護施設の役割が重要になるため、医療側の新たな構想と密接に整合を図るべきとの意見がありました。
・適切な囲い込みや過剰サービスの懸念を背景に、有料老人ホーム等の運営状況の透明化と、自治体による実態把握の徹底を求める意見が相次ぎました。
4 人材確保と生産性向上について
・人材確保の核心は賃金であり、基本指針において「処遇改善」という言葉を明確に位置づけるべきとの強い要望がありました。
・生産性向上や大規模化の目的は単なる効率化ではなく、利用者への「ケアの質の向上」であることを忘れてはならないとの指摘がありました。
まとめ
第134回部会で議論された第10期基本指針の見直し案は、“2040年を乗り越えるための地域デザイン図”としての性格を鮮明にしました。
委員の議論を通じ、制度の柔軟性を高めることの重要性が共有される一方で、それがサービスの質の低下や高齢者の尊厳(虐待防止等)の軽視に繋がらないよう、厳格な実態把握と組織風土の構築が不可欠であることも再確認されました。
今後は令和8年度末の指針告示に向け、介護給付費分科会等での具体的な基準策定と並行して議論が深められる予定です。

