現場の「迷い」を断ち切る!障害福祉サービス支給決定・実務の「急所」 第1回 支給決定のモヤモヤ ~希望通りにすることが「正解」か?~

2026/03/17

著者
小川 幹夫(おがわ みきお)


自治体職員。都内自治体にて、10年にわたり障害福祉サービスの支給決定・支給量算定実務に従事。現場での豊富な経験に基づき、制度の「建前」と運用の「実態」をひも解く視点を持つ。司法書士有資格者として、行政法および障害福祉制度の高度な法的思考(リーガルマインド)に基づいた実務解説を得意とする。東京都身体障害者福祉司会元会長。

 

 はじめまして。
 執筆担当の小川と申します。よろしくお願いします。


はじめに

 この連載では「現場の「迷い」を断ち切る!障害福祉サービス支給決定・実務の「急所」」と題して、障害福祉サービスの中で、主に居宅介護・重度訪問介護の支給決定・支給量算定の実務にかかる判断のあり方を、私自身の経験に基づく一つの見解として整理していきます。


 なぜ、居宅介護・重度訪問介護を中心とするのか?


 この二つは、障害のある方の地域生活を支える中核的なサービスです。それにもかかわらず、支給量は市区町村ごとに定められる支給決定基準によって大きな差異が生じることがありえます。

 

 だからこそ、その判断のあり方を改めて考える必要があるのです。

 
分 類 テーマ
1 基礎・構造 支給決定の「モヤモヤ」:希望通りにすることが「正解」か?
2 基礎・構造 希望と必要性の区別:デマンドとニーズを混同しない考え方
3 基礎・構造 障害支援区分:区分と支給量のギャップをどう説明するか?
4 基礎・構造 支給量算定ロジック:自治体独自のルールの存在を意識する
5 実務・判断 計画(案)と本計画:両者を区別して位置づける理由とは?
6 実務・判断 医ケア児(親の休息):感情論と制度論の板挟みをどう捉えるか
7 実務・判断 医ケア児(夜間支給):公平性の観点から見た支給決定の重み
8 応用・トラブル 介護保険との適用関係:介護保険優先の原則を考えてみる
9 応用・トラブル 介護保険との適用関係:65歳介護保険移行後の支給決定は?
10 応用・トラブル 一人暮らし・24時間:権利としての自立と、体制確保の現実
11 応用・トラブル 転居と援護の実施責任:前市との支給量引き継ぎの幻想
12 法務・総括 審査請求(記録):不服申し立て時に問われる記録の重要性
13 法務・総括 審査請求(法務):法的根拠に基づかない対応のリスク
14 法務・総括 事例検討:あなたならどう判断しますか?(問いかけ)
15 法務・総括 総括:学び続けることが自分と利用者を守る武器になる
 

  上記のテーマを概ね月2回のペースで連載していく予定ですので、お付き合いください。


「希望に沿いたい」と感じながらも

 さて、初回のテーマは「支給決定のモヤモヤ ~希望通りにすることが「正解」か?~」とさせていただきました。
 支給決定実務に携わる皆さんも、一度はこの疑問を抱いたことがあると思います。
 

 ここでいう希望は、例えば、


  「家事援助で1日3食、毎日欠かさず調理してほしい」
  「お風呂は週7日、ゆっくり浴槽に浸かって入りたい」
  「重度の障害があっても一人暮らしをしたいので、常時ヘルパーに傍にいてほしい」


といった具体的なものだと想定しましょう。


 こうした希望を受けて、現実の支給量にどこまで反映させていくべきなのか。今回のテーマはここになります。

 

 恐らく、読者の皆さんの多くは福祉関係者で、福祉の専門職の方もたくさんいらっしゃると思います。
 皆さんは福祉の理念を持って「利用者に寄り添い、できるだけ手厚い支援を提供したい」という偽らざる気持ちを心に抱いていると思います。
 ですから、内心では「できる限り希望に沿いたい」と感じておられるのではないでしょうか?
 
 しかし、現実の支給決定の場面では、


  「希望通りにすることが可能か?」
  「希望通りにすることが適切か?」


 という二つの問いに直面します。


可能か?(制度上の標準支給量)

 まず、「可能か?」という問いから確認していきましょう。


 支給量の算定は、国が示す「介護給付費等に係る支給決定事務等の事務処理要領」(以下「事務処理要領」とします。)という枠組みのもと、各市区町村が定める支給決定基準に沿って行われます。 
 事務処理要領が示す障害支援区分に応じて、市区町村の支給決定基準の中で標準支給時間(単位)数が定められているのが通例です。


 希望の支給量がこの標準支給時間(単位)数の範囲に収まるかどうか、これが「可能か?」という問題です。
 収まる場合は「可能」という判断になります。


 なお、収まらない場合でも、利用者の個別の状況や必要性により「非定型の支給決定」として認められる可能性はあります。

 


適切か?(自立支援の理念)

 次に「適切か?」という問いです。


 障害のある方本人やご家族からすれば、支給量は「多ければ多いほど安心」という感覚があるのは自然なことです。
 しかし、自立を支援するという障害者総合支援法の趣旨からすれば、必ずしも「支給量が多ければ多いほどよい」とは言い切れません。

 なぜなら、場合によっては、多すぎる支給量が「支援に頼る構造」を固定してしまい、本人の生活を支えるどころか、本来持っている力を発揮する機会を奪ってしまうこともあるからです。


 居宅介護も重度訪問介護も、本来は「自立を支えるサービス」です。
 ここでいう自立とは、「何でも一人でやる」という意味ではありません。
 「自分でできることを、自分のペースで行う権利と機会が尊重されること」。これも自立の重要な要素です。
 本来発揮できるはずの力を、過度な支援によって奪ってしまうことは適切でしょうか?


 例えば、時間をかければ自分でできる日常生活動作があったとします。

 そこに支援者が常に先回りして介入し続けたとすると、本人が積み重ねられたはずの「できた」という経験が失われてしまうかもしれません。

 その結果、「本当はできること」が、いつの間にか「できないこと」になってしまい、かえって自立を阻害する結果となってしまいます。


 自立とは、自分の力で社会と関わりながら生きていくことだと考えます。
 障害福祉サービスは、その実現を支えるためにあるのです。


 だからこそ、支給量の算定には、「この支給量が本当に適切か?」という問いが欠かせません。


「正解」を求めて熟思する皆さんとともに

 支給決定は、単に基準に則って支給量を算定する事務手続ではありません。
 その内容は、障害のある方やそのご家族の生活に、そして支援に携わる多くの専門職の実践に、長く影響を及ぼします。
 だからこそ、関係者が十分に意思疎通を図り、お互いに納得できる形でサービスが提供されることが大切です。


 本連載が、現場で日々判断に向き合う皆さんとともに考える場となれば幸いです。