介護・福祉事業所で「人が育つ」組織をつくる3つの秘訣! 離職を防ぎ生産性を高める「心理的安全性」の活用術

2026/02/17

介護現場の離職を防ぎ、自律的に人が育つ組織へ。心理的安全性をベースにした「栄光会」流の人材育成の極意。

 

内田光栄、長谷守紘

 

内田光栄(うちだ こうえい) 株式会社栄光会代表取締役。柔道整復師。治療院や機能訓練特化型デイサービスなど多角化経営を行い、「従業員が幸せになる会社」づくりに邁進している 。

 

長谷守紘(ながや もりひろ) 岡崎女子大学子ども教育学部講師。博士(心理学)。公認心理師、臨床心理士。ケアの現場における心理的安全性の研究を行っている 。



なぜ介護現場で「人が育たない」のか?

 介護・福祉事業所を立ち上げたばかりの方、あるいは運営の中で「スタッフが定着しない」「指示待ち人間ばかりで主体性がない」と悩んでいる管理者は少なくありません。厚生労働省の調査でも、介護職のストレス要因の多くに「職場内の人間関係」が挙げられています 。
 「人が育つ」環境をつくるには、単に技術を教えるだけでは不十分です。大切なのは、スタッフが安心して意見を言え、自ら挑戦したくなる「心理的安全性」を土台とした仕組みづくりです。本記事では、驚異の成長率と低い離職率を誇る「株式会社栄光会」の取り組みから、そのコツを詳しく解説します。


「心理的安全性」で沈黙の文化を打破する

 「心理的安全性」とは、誰に対しても気兼ねなく、率直な意見や質問ができる状態を指します 。これが低い職場では、ミスが隠蔽され、重大な事故につながる恐れがあります 。

 心理的安全性の提唱者であるエイミー・エドモンドソン教授の理論に基づき、職場においてメンバーが「恐怖」を感じずに発言・行動できるための「4つの因子」について解説します。

 介護・福祉の現場では、多職種連携やミスの報告が不可欠なため、この4つの状態を整えることが、離職防止やサービス向上に直結します。

1. 話しやすさ(Openness)
「何を言っても拒絶されない」という安心感です。
上司や同僚に対して、反対意見や「それは違うのではないか」という懸念を率直に伝えられる。
わからないことを「わからない」と言える。
現場でのメリット:ケアの方針について疑問を感じた際、すぐに確認ができるため、重大な事故や判断ミスを未然に防ぐことができます。

2. 助け合い(Assistance)
「困ったときはお互い様」と協力し合える関係性です。
自分の仕事が手一杯なときに、周囲に「助けてほしい」とヘルプを出せる。
誰かがミスをしたとき、責めるのではなく「どうカバーするか」をチーム全員で考える。
現場でのメリット:一人で抱え込むスタッフが減り、精神的なバーンアウト(燃え尽き)を防ぐことができます。

3. 挑戦(Willingness to Help / Risk-taking)
「新しい工夫や挑戦が歓迎される」という空気感です。
「もっとこうすれば利用者様が喜ぶのでは?」という新しいアイデアを試すことが許される。
 挑戦した結果、うまくいかなかったとしても、そのプロセスが評価される。
現場でのメリット:現場の創意工夫が活発になり、サービスの質が向上します。「指示待ち」ではなく「自ら考える」スタッフが育ちます。

4. 新奇歓迎(Appreciation of Difference)
「異質な存在や、個々の強みが尊重される」ことです。
キャリアや年齢、価値観が異なるメンバーの意見も「面白い視点だ」と受け入れられる。
「普通はこうするべき」という固定観念を押し付けず、個々の強みを活かす。
現場でのメリット:多様な視点が入ることで、マニュアル一辺倒ではない、利用者様一人ひとりに寄り添った柔軟なケアが可能になります。

 例えば、栄光会では管理者がメンバーの「弱さ」を丸ごと受け止める1on1面談を仕組み化しています。上司が「聞き役」に徹することで、メンバーは「ここでは本音を話してもいいんだ」と実感し、主体性が育まれます 。


経営理念を「自分事」に落とし込む

 「なんのために働いているのか」が曖昧だと、仕事は単なる作業になり、やりがい(ウェルビーイング)が失われます 。
 栄光会の理念は「感動創造企業」です 。「感動創造企業」という理念は、単なるスローガンではなく、現場のスタッフ一人ひとりが具体的な行動に落とし込めるよう、栄光会では多角的な工夫がなされています。

1. 「感動」を具体的に定義する
 理念が形骸化する最大の原因は、人によって解釈が異なることです。栄光会では「感動」を感覚的なものではなく、以下のように定義しています。

「事前期待」を「事後評価」がはるかに上回ること
 利用者が「これくらいはしてくれるだろう」と思っているラインを、スタッフのサービスが大きく超えたときに初めて「感動」が生まれると定義しています。

「作業」と「仕事」を分ける
 マニュアル通りの介助は「作業」。それに対し、相手の背景や想いを汲み取り、プラスアルファの価値を提供することを「仕事」と呼び、どちらを目指すべきかを明確にしています。

2. 理念を共有し、浸透させる場をつくる
 理念は伝えて終わりではなく、繰り返し確認し、自分事にする場が必要です。

経営計画発表会の開催
 年1回、全社員が集まる場で、代表自らが理念に込めた想いや、1年後のビジョンを語ります。会社の進む方向を透明化することで、スタッフに安心感と「自分もその一翼を担っている」という当事者意識を持たせます。

1on1面談によるフィードバック
 定期的な個人面談で、日々の業務の中で「理念に沿った行動ができたか」を対話します。単なる注意ではなく、理念に基づく成功体験を承認することで、スタッフの心に理念が定着していきます。


人が定着する4つの要素

 人材が定着する組織には、以下の4つの要素がバランスよく整っています。

  • 会社が好き:経営理念に共感し、会社の進む方向にワクワクできる。

  • 仕事が好き:自分の役割に価値を感じ、利用者様からの「ありがとう」を糧にできる。

  • 仲間が好き:心理的安全性が高く、何でも相談でき、お互いを認め合える。

  • 待遇が好き:頑張りが給与や休日に反映され、生活の安心が担保されている。

 どれか一つが欠けても不満の種になります。特に介護現場では「仕事は好きだが、待遇や人間関係が……」というケースが多く、ここを仕組みで解決するのが栄光会流です。

 栄光会では、業務スキル以上に「一人の人間としての幸せ」を重視します。「時間の使い方」「お金の使い方」「生きがい」「人間関係」「健康」という5つの観点から教育を行い、スタッフ自身の人生が充実することを目指します。社員の幸福度(ウェルビーイング)が高まってこそ、利用者様に最高の感動を提供できるからです。


育成は相手の「幸せ」を願うことから始まる

 部下の育成がうまくいかないとき、私たちはつい「スキル不足」に目を向けがちです。しかし、本来の育成とは、その人が自分らしく活躍し、幸せを感じられる未来への土台をつくることです 。
 日本において心理的安全性の研究・実践を牽引してきた石井遼介氏によると、心理的安全性とは、実務的には「組織全体の成果に向けた、率直な意見、素朴な質問、そして違和感の指摘が、いつでも、誰もが気兼ねなくいえること」です。このような心理的安全性を確保することによって、チームの学習が進み、仕事に対するエンゲージメントが上がり、離職率は下がり、定着率が上がります。そして、何よりチームで高いパフォーマンスを発揮し、すぐれた仕事を成し遂げることができるようになるとされています。
 まずは、今日からスタッフへの「承認(ほめること)」と「傾聴」を始めてみませんか? 小さな進歩にスポットを当て、「あなたを見ています」というメッセージを伝え続けることが、強い組織づくりの第一歩です 。


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