成年後見制度のあれこれ 第12回 成年後見制度の今後の課題

2025/05/13

【執筆】
君和田 豊(きみわだ ゆたか)
 君和田成年後見事務所代表、社会福祉士・精神保健福祉士・社会保険労務士・旧:訪問介護員(ホームヘルパー)1級
 2007(平成19)年に社会福祉士登録。2012(平成24)年に現:公益社団法人日本社会福祉士会の成年後見人養成研修修了後、一般社団法人千葉県社会福祉士会権利擁護センター「ぱあとなあ千葉」の登録員として活動中(後見人等の候補者として千葉家庭裁判所に名簿登録)。


 本連載もいよいよ今回で最後となりました。

 今回はこれまでの総まとめとして、成年後見制度の現状とそれを踏まえた制今後の課題についてまとめたいと思います。


第二期成年後見制度利用促進基本計画

 成年後見制度の見直しについては、タイトル通り「成年後見制度の見直しに向けた検討」が、 法制審議会の民法(成年後見等関係)部会 でなされています。第1回会議(令和6年4月9日開催)において、見直しに当たっての検討課題が示されています。検討内容は、 こちらの資料 にもわかりやすくまとめてあります。
 ただ、「成年後見制度の利用の促進に関する法律」に定める成年後見制度利用促進基本計画に、法制審議会における調査審議を踏まえた所要の対応が含まれていますので、成年後見制度については厚生労働省HPの 「成年後見制度利用促進」のページ を参照する方がわかりやすいと思います。
 この中で成年後見制度の利用の促進に関する施策を総合的かつ計画的に推進するために、現在は 「第二期成年後見制度利用促進基本計画(令和4年度~令和8年度)」 (以下、「基本計画」)が策定されています。この計画の中で「優先的に取り組む事項」として挙げられているのは、次の5点です。

・任意後見制度の利用促進
・担い手の確保・育成等の推進
・市町村長申立ての適切な実施と成年後見制度利用支援事業の推進
・地方公共団体による行政計画等の策定
・都道府県の機能強化による地域連携ネットワークづくりの推進


 広く、あるいは細かい点ではまだまだ論点として挙げられる課題はあると思いますが、全体の主要な課題とその動向を探る一元的な資料としては、こちらが最もよいと思います。

 今回はこの項目に沿って、内容と現状を見ていきましょう。


1.任意後見制度の利用促進

 法定後見と並んで成年後見制度の一つである任意後見制度ですが、2025(令和7)年3月22日に公表された最新の「成年後見関係事件の概況(令和6年1月~12月)」によると、成年後見関係の年間申立件数41,841件に対して任意後見監督人選任の審判開始申立は874件と、全体の2%程度となっています。
 これは任意後見契約の開始なので、まだ開始されていない任意後見契約全体はこれ以上ですが、それでも過去の年間申立件数を見ても制度利用はかなり低調と言えます。
 法定後見と異なり、任意後見の場合は後見人を本人が選ぶことができ、 後見人の権限内容を個別に決めることができますので、成年後見制度としては任意後見制度の方が望ましいものと言えるでしょう。「基本計画」の中間報告結果が「第5回成年後見制度利用促進会議(令和7年3月25日)」で出ていますが、任意後見制度の周知・広報は確かに進んだと思います。ただ肝心なのは「その運用の確保」ですので、なお一層の改善が望まれるところです。

 

2.担い手の確保・育成等の推進

 担い手の確保・育成等については、①市民後見人及び法人後見の確保・育成、②親族後見人の支援、が挙げられています。現状で圧倒的に不足している成年後見の担い手について、特に①市民後見人及び法人後見の推進は、全面的に賛同するところです。
 個人的には、成年後見人としては第一義的に親族後見人が最も望ましいと思います。その理想が難しく親族以外にその担い手を求める場合は、身近な存在である市民後見人が望ましいと考えます。
 ただ、法的な面で複雑化・高度化する課題を抱えた方には、専門職後見人が望ましい場合もあります。その場合でも個人の専門職ではなく、法人後見の方が望ましいでしょう。この点については中間報告書でも着実な進展は見られますが、①と同時にまだまだ道半ばといったところでしょうか。

 

3.市町村長申立ての適切な実施

 身寄りがない方の増加を背景として、必要な場合は、積極的な市町村申し立ての活用が望まれるところです。
 そのためには、申立費用やその後の成年後見人等の報酬助成のために成年後見制度利用支援事業の推進も欠かせないところです。申立については、最新の「成年後見関係事件の概況(令和6年1月~12月)」でも、成年後見事件の概況」でも、引き続き申立人の1位は市区町村となっています。
 また、成年後見制度利用支援事業については、筆者の活動地域である千葉県でも、活動開始当初から比べて本当に普及してきたなと感じます。
 参考までに、千葉県では県内54市町村全てで事業を実施しています。ただ市町村の後見人等への報酬助成については、市区町村申立のみに限定されたり、親族・本人等の申立でも生活保護世帯に限定しているところも多く、この点については更なる拡充を願う次第です(※例えば松戸市については、申立人は市区町村に限らず、親族・本人等の申立も対象として、生活保護世帯、非課税世帯、課税世帯でも条件によっては対象としています)。

 

4.地方公共団体による行政計画等の策定

 中間報告書では、2024(令和6)年4月時点において、1,741市町村中1,358市町村で計画策定・必要な見直しが行われており、2019(令和元)年10月時点の134市区町村から比較すると、こちらも着実に進んでいます。ただ、計画では令和6年度末で全市町村となっていることから、こちらの達成は難しそうです。2期計画の終期である令和8年度では、全市町村を達成できるのではないでしょうか。

 

5.都道府県の機能強化による地域連携ネットワークづくりの推進

 都道府県による協議会の設置については、2022(令和4)年4月で19都道府県 でしたが、2024(令和6)年4月時点において、47都道府県中、37都道府県で設置がなされています。なお計画では令和6年度末で全都道府県となっていることから、こちらの達成は難しそうです。

 

 以上、第二期成年後見制度利用促進基本計画の中間報告書の内容を中心に、成年後見制度の課題を見てきました。この他にも報告書等が出されていますので、是非興味があれば参照してみてください。

 

おわりに

 ここまで見てきた成年後見制度の今後の課題は、どれも計画内容の確実な実施が心から望まれるものばかりです。

 旧:禁治産・準禁治産制度と比較すれば、成年後見制度は本当に良い制度だとは思いますが、制度開始25年の間で課題も多く出てきました。ただ今回の見直し内容からは、きっと今後は良き制度になると期待できます。今から本当に楽しみです。

 

 これまで全12回の連載となりましたが、最後までお付き合いいただきありがとうございました。

 本連載の内容が、皆さんの今後の後見活動の一助になれば幸いです。