成年後見制度のあれこれ 第11回 成年後見制度の実践例

2025/05/09

【執筆】
君和田 豊(きみわだ ゆたか)
 君和田成年後見事務所代表、社会福祉士・精神保健福祉士・社会保険労務士・旧:訪問介護員(ホームヘルパー)1級
 2007(平成19)年に社会福祉士登録。2012(平成24)年に現:公益社団法人日本社会福祉士会の成年後見人養成研修修了後、一般社団法人千葉県社会福祉士会権利擁護センター「ぱあとなあ千葉」の登録員として活動中(後見人等の候補者として千葉家庭裁判所に名簿登録)。


 今回は、これまでの内容を踏まえて、個別のご支援の例を見ていきたいと思います。
 成年後見における制度利用について、もし身近に似たようなことがあれば、ご参考となれば幸いです。なお、内容は実際の事例をもとにしていますが、個人の特定を避けるために一部架空の内容に修正している部分もあることをお断りさせていただきます。


事例1 認知症高齢者の財産管理と生活支援

背景

 Aさん(80代・男性)は一人暮らしを続けていましたが、認知症が進行し生活が困難な状況に。地域包括支援センター経由で市町村申立となり、後見類型として審判確定となりました。

 

審判確定後

1.現状把握

o審判時には通所介護事業所での宿泊(お泊りデイ)にて生活。契約等については、宗教活動中の知人が家族同様に支援(家のカギや通帳等も管理)。
o自宅については公営住宅を契約中で、室内等も一人暮らしの状態のまま。

 

2.今後の支援方針の検討

o在宅復帰は困難な状況。よって施設入所等を検討し、特別養護老人ホームへの入居を申請。3か月後に無事に入居可能となる。
o自宅である公営住宅については、家庭裁判所の許可を受けて解約手続き。居室の動産等については、退去時に大部分が処分となる。

 

3.主な手続き

o被後見人等の居住用不動産を処分する場合には、事前に家庭裁判所に「居住用不動産処分許可」の申立てをし、その許可を得る必要がある。賃貸借契約の解除でも必要。
o配偶者は結婚後間もなくお亡くなりになり、子供もおられなかったため、相続人は兄弟姉妹となる。相続人調査を行い9人兄弟であったが、全員が甥姪の代襲相続のため、関わりがなく連絡を行っても音信不通がほとんど。結果、甥の1名に知的障害があり司法書士の後見人が選任されていたため、唯一の親族連絡先となる。

 

4.選任後の実務

o後見人が財産管理および生活支援を開始。申し立て時では不明であった預貯金等も自宅から見つかる。
o特別養護老人ホームの入居からほぼ1年後にお亡くなりに。
oご遺骨については、配偶者が納骨されていた墓が遠方であったことから、墓地の改葬許可と墓じまいを行い、配偶者のご遺骨と共に共同墓に納骨。財産関係については、甥の後見人に引き渡し。

 

本事例のポイントと課題

•本人の意思確認

 認知症により意思確認ができない場合でも、家族同様の関係の知人(お亡くなりになった配偶者の知人であり、夫婦で共に宗教活動を行っていた)がいたため、ご本人の意思を最大限尊重し確認することができました。

 

•相続人調査及び納骨

 相続人調査は困難な状況でした。生前から兄弟間で争いがあり、連絡のついた甥姪も本人との面識がない等の理由で関わりを拒否されていました。
 納骨については、本人が実家の墓所への納骨を希望していなかったことから、本来ならば配偶者の墓所への納骨が望ましい状況です。しかし墓所の継承者がおられないことから、墓所を運営する宗教法人が納骨を拒否されたため、共同墓への納骨となりました。


事例2:知的障害者の福祉サービス契約支援

背景】

 Bさん(40代・男性)は軽度知的障害があるものの、福祉制度による支援は受けず、高等学校卒業後は父親と二人で生活を続けてきました。病気により父親が亡くなり単身での生活が困難な状況となり、親族の支援を受け保佐類型として審判確定となりました。

 

審判確定後

1.現状把握

o審判時には基幹相談支援センター経由ですでに計画相談支援事業所がついており、支援者(市役所、相談支援専門員、親族など)で会議を実施。
o一人暮らしの居室での生活の継続は困難な状況から、新たな生活先の確保が必要となる。当面は生活保護の受給と、今後は各種福祉サービスの利用援助を行う必要性あり。なお申立て前の就業先は解雇となっている。

 

2.今後の支援方針の検討

o金銭管理が困難なことから、単身での生活が難しく、グループホームへ入居。食事の提供もあることから、本人も生活環境の変化に戸惑いながらも、慣れてくると快適と言われ安堵。
o一般就労を続けてきたので一般雇用も考えられるが、特例子会社でかなり条件の良い就業先が見つかり、障害者雇用での契約に。真面目な性格で仕事にも熱心に取り組むことから、就業先でも高評価。当初は契約社員であったが、5年の有期労働契約の更新を待たずに、3年目の更新で無期雇用契約(正社員転換)となる。

 

3.主な手続き

o叔父(亡き母親の弟)が申立人となり、家庭裁判所申立。軽度知的障害だが「補助」ではなく「保佐」類型に(グループホーム契約に加え、金銭管理全般が必要な状況)。
o審判確定後に、療育手帳の取得を始め、グループホームなどの障害者福祉サービスの契約や、就労先との雇用契約書の締結も行う。障害基礎年金の申請も行い2級該当に。あまり意見表明がないものの、本人の希望を大前提として話を進める。

 

4.選任後の実務

o生活及び就労先も決まり、単身となっても充実した生活を行っていた。数年がたち、生活支援員などの援助もあり徐々に個人の金銭管理が出来るようになってきた。このため独力した生活の希望も本人から寄せられたことから、先ずはサテライト型グループホームへの移行を考えていた矢先、本人が指定難病を発病し、グループホームでも日常生活が困難に。
o有料老人ホームなどへの転居を経て、最終的には療養病床でお亡くなりに。
o本人の財産並びにご遺骨については、長らく音信不通であった妹が入院中から親身になって支援を続けており、葬儀もあげることが出来た。

 

本事例のポイントと課題

•本人の難病の把握

 今でも悔いが残るが、本人の難病については遺伝性疾患のようであり、父親始め親族内でもどうも同じ疾患で亡くなったようである。長年音信不通だった妹の証言で判明したが、本人からの説明はなく、書類等でも事実は就任当初から不明であった。早くから判明していれば、本人の意向を踏まえたもっと別の支援をも考えられた。

 

•親族との関わり

 両親の離婚もあり、兄弟姉妹でも長らく音信不通の状況であった。就任当初より相続人が判明して保佐人としては連絡がとれていたが、本人の年齢もまだ高齢期に至っていないことから、まさかお亡くなりになるとは考えていなかったため、連絡も含め十分な意思疎通が出来ていなかった。

 
 

まとめ

 以上、二つの事例を見てみましたが、いかがだったでしょうか。

 

 類型や属性などは異なりますが、共通するのは単身での生活が困難な状況となりながら、きっかけは別としてそれぞれ支援につながり、地域で孤立することなく生活を続けることができたことです。

 

 また、支援開始から終結(死亡)まで、まさに生涯の伴奏者たる役割を知ることができるように、今回はあえて両方ともお亡くなりになられた例を挙げさせていただきました。

 

 最後にですが、良かったことは、お二人とも成年後見制度の利用が必要となった時に、知人や親族など、申立てにつなげられる関係者の方が身近におられたことです。身寄りがない方が世の中に増えているのは明らかですが、それでもこのような時に制度利用につながることができる人の関わりこそが、本当に大事なことであると思います。