ソーシャルワーカーに知ってほしい 理論とアプローチのエッセンス 第8回

2025/04/23

認知理論とリフレーミング

 経験、コトバ、自己イメージの関係を探ったとき、脳につくられる「フレームワーク」、つまり「認知」について知った。この「認知」の力を活用することで、何を変えることができるのかを探ってみよう。


【著者】

川村 隆彦(かわむら たかひこ)

エスティーム教育研究所代表

「エンパワメント」や「ナラティブ」等、対人支援に関わる専門職を強めるテーマで、約30年、全国で講演、研修を行ってきた。
人生の困難さに対処する方法を YouTube インスタグラム で発信中。


認知は脳につくられるフレームワーク

 水が半分入ったコップを見て、ある人々は「半分もある」と考え、ほかの人々は「半分しかない」と考える。こうした捉え方の違いは認知によるものだ。
 認知とは、物事を認識し解釈するフレームワークである。同じものを見ても、フレームワークによって、捉え方に大きな違いが出てくる。認知理論ではこの原理を活用する。つまり意図的にフレームワークを変えることで、解釈や感情を変化させようとする
 ところで、フレームワークは変えられるのだろうか? またフレームワークを変えることで、何が変わるのだろうか? 

 

 

フレームワークを変えると見える世界が変わる

 自宅の外壁に緑の苔が付着したので、薬剤を散布し、ブラシで清掃しようと考えた。薬が目に入らないように、スキー用のゴーグルをかけて外に出た、その瞬間、世界がオレンジ色に染まって見え、景色のすべてが輝いて見えた。そのとき私は叫んだ。「もしかすると、世界は自分が考えているよりも明るいのかもしれない!」 
 フレームワークはゴーグルに似ている。オレンジのゴーグルを通して見たとき、世界がオレンジ色に見えたように、フレームワークを変えるなら、これまでとは違う考え、解釈、感情を得ることができる。

 

 

 

私たちのフレームワークは一人ひとり異なっている

 「次のいずれの出来事が、あなたを悲しませるだろう?」と質問し、クラスで話し合ったことがある。

 

〇アルバイトの契約を切られた
〇テストで65点だった
〇友人が引っ越した
〇親に叱られた
〇入りたかったグループに入れなかった

 

 話し合いながら気づいたことは、「自分が悲しいと感じることを、必ずしも、ほかの人は感じていない」という事実だった。私たちのフレームワークは、一人ひとり異なっているのだから、受け止め方や感情に違いが出るのは当たり前だ。
 ところで、この質問の正解がどの出来事もあなたを悲しませないことだと伝えると、「それはおかしい」との訴えがあった。しかしよく考えるなら、出来事自体があなたを悲しませるのではなく、出来事に対する「あなたの認知」がそうさせていることに気づく

 

リフレーミングによってフレームワークを変えた経験

 あなたには、これまでリフレーミングを通して、フレームワークを変えてきた経験があるだろう。それは物事への受け止め方、解釈、意味づけを変えた経験であり、それによって、これまでとは別の態度、感情を抱いた経験だ。例を挙げよう。

 

<リフレーミングの例>

○見慣れた絵や写真を、新しい額に入れ直し、別の壁にかけてみたら、今までとは違った風景のように見えた。
○庭が雑草で覆われたてしまったが、忙しさのために手入れができず、落ち込んでいた。この際、考え方を変え、もっと雑草を楽しもうと決めたら、不思議と雑草の花が愛おしく見えた。
○事故で足を負傷したとき、自分は不幸だと思った。しかし、病院で自分よりもひどい状態の人を見かけたとき、むしろ幸運なのだと感じた。
○子どもが家中走り回り、片づけても、散らかり放題……ひどく落ち込んでしまった。でもいつかこの子どもたちも家を出る日が来る……そのとき、走り回り、散らかす人もいない。いつか静まり返った部屋で一人過ごす日が来る……そう考えたとき、散らかった部屋は、愛する子どもたちが、まだ家にいることの証だと気づいた。

 

 このような経験を思い出すなら、これまで以上にリフレーミングを「意識」できるようになるだろう。

 

経験への解釈は「相対的なフレーム」

 「過去に経験したことは『絶対』であり、変えることはできない」と思い込んでいる人もいる。しかし「経験—正確には経験への解釈」は「相対的」であり変わるものだ。冬の朝、水道水に触れたとき「冷たい!」と感じたにもかかわらず、極寒の外にゴミを出して戻り、同じ水に触れると「温かい」と感じたことはないだろうか? 
 日々、経験を重ねるごとに、私たちの解釈もまた変わっていく。今「つらい」と感じる出来事でも、後に「あれは温かかった」と振り返ることがあっても不思議ではない。

 

フレームワークを広げてみる

 小さな砂粒でも、目の前に近づけすぎると、巨大な岩に見える。それは「近視眼」というものだ。私たちは日々、自分の問題をこのように見る傾向がある。もしそうならば、目の前の岩を少しずつ遠ざけてみよう。するとあなたのフレームは広がりはじめ、見えなかった風景が入ってくることで、問題の占める部分が小さくなる。岩だと信じ込んでいたものが、実は、砂粒だとわかったならば、それを大空へ放り投げることもできる。
 このように、目の前に近づけたものを遠くに動かすことで、あなたのフレームワークを広げることができるのだ

 

人生という長く、大きなフレームから捉え続ける

 今回、フレームワークを意図的に変えることで、新しい見方と感情が得られると知った。もちろん慣れ親しんだフレームワークを捨てることは容易ではないが、試してみる価値はある。
 大切なことは、どのような問題であっても、人生という長く、大きなフレームで捉え続けることだ。そうすれば、抱えている問題が、今、どんなに大きく見えたとしても、将来、強さを与えてくれる貴重な教訓になると気づく。

 

 次回は、神経言語プログラミングについて取り上げたい。