子どももクラスも学校も変わる! 子ども主体の多層型SSTって?

2025/04/30

今のSSTから一歩先へ! 学校全体でできる「多層型SST」に取り組んでみましょう。

SST(ソーシャルスキルトレーニング)とは、対人関係を円滑にするための具体的な知識と技術を育む支援のことです。近年普及してきたこの取り組みですが、いまの学校現場でのSSTは、大人の「この子にはSSTが必要」という判断から始まって、個別に行われることが多いのではないでしょうか。

 

このような従来のSSTでは、マジョリティにとっての「ふつう」を押し付けてしまう、子どもの意見が置き去りになってしまう、本来全員に必要なスキルを一部の子どもにだけ必要なものと捉えてしまう、といった「罠」があります。

 

これからは、一歩進んで、すべての子どもたちが他者とよい関係性を構築し、お互いに折り合いをつけて共存・共生していくスキルを学ぶことが大切になります。そのためには、大人にとって都合のよいソーシャルスキルを押し付けるのではなく、「子ども主体のSST」へとアップデートしていく必要があります。

 

学校全体でこのようなSSTを実践していくためには、多層型支援システムの考え方を導入し、すべての子どもに向けた第1層支援、第1層支援のみでは足りない場合に向けた第2層支援……という流れで展開していくことが重要です。

 

ある小学校での実践事例とともに、子ども主体の多層型SSTのポイントをご紹介します。

 

①なぜ小学校でSST? 多層型SST導入のポイント

A小学校では、最近「気になる子」が増えている様子。校長先生と特別支援教育コーディネーターは、相談して、来年度から学校全体でSSTの導入を決定しました。
新年度。校長先生は、目指す学校像・児童像として、「子どもたちが安心してすごすことができる学校」「自分も他者も大切にできる児童」という目標を掲げ、これらの目標達成のためにSSTを位置づけました。

 

このように、まずは学校としてなぜSSTに取り組むのか、その目的を明確にし、学校経営計画の中に位置づける必要があります。

 

②推進チーム結成! そしてSST実施計画の作成へ

校長先生は、特別支援教育コーディネーターや生徒指導担当の教員などでSST推進チームを結成しました。また、外部の専門家を呼び、年3回定期的な研修を行うことにしました。
ここからは、推進チームのメンバーで、教職員研修や各学年でのSST計画・実施のタイミングなど、具体的な年間計画を立てていきます。

 

SST推進チームは、教職員全体の意見を聞いて実行可能な計画を作成することがポイントです。また、教職員全員がSSTの目的や内容について共通認識を持つ機会を作ります。子どもを置き去りにしないためにも、まずは先生を置き去りにしないようにしましょう。

 

③標的スキル(獲得を目指すスキル)を選定しよう

A小学校のなかでも「気になる子」の多かった4年生では、当初の標的スキルとして「上手な聴き方」「感情のコントロール」が想定されていました。ところが、子どもたちに学びたいスキルのアンケートをとってみると、「上手な話し方」「あたたかい言葉かけ」が上位に。
教師たちが研修講師の専門家に相談すると、「攻撃的な言動は、人と関わりたい気持ちが空回りしている結果なのでは?」という仮説が浮かび上がってきました。そこで、4年生では、人とつながるためのスキルとして「上手な話し方」「あたたかい言葉かけ」のスキルを学ぶことにしました。

 

第1層支援のSSTでは、クラス全体にソーシャルスキルを浸透させることで、子ども同士が支え合う環境を育む効果が期待できます。あいさつ、相手を思いやる、嫌なことを断るなど、多岐にわたる標的スキルを扱いますが、標的スキルを教師が一方的に決めるのではなく、子どもたちが「何を学びたいか」という視点を取り入れることが重要です。

 

④すべての子どもに向けたプログラム:第1層支援

夏休み明け、いよいよSSTの初回授業。担任の先生があたたかい言葉かけについて説明すると、「えー面倒くさーい」などと言う子どもたちが出てきました。わざとらしくお世辞を言うのではなく、「嬉しい」「すごい」と思ったら素直に相手に伝えればよいのだと話すと、教室は落ち着きました。担任の先生は、クラスに「あたたかい言葉かけ」が受け入れられない雰囲気があったことに気づきました。
SSTのプログラムに取り組んでいくと、10月に行った「上手な話し方」のSSTでは、標的スキルに対しての肯定的な意見や、素直な言葉が出てくるようになりました。

 

実際の授業では、一方的な教示にならないよう、子どもたちの素直な気持ちを引き出すことを意識します。ロールプレイなどの活動を通して、多様な表現方法を肯定的に捉えるようにします。
第1層支援の実施後には、学年グループで振り返りを行い、子どもたちのアンケート結果や行動の変化などを踏まえて、第2層支援が必要な子どもたちを検討します。

 

⑤よりきめ細かなサポート:第2層支援

4年生のHさんは、思っていることを伝えられず発言が少ない児童です。また、同じクラスのIさんは、相手を見下すような態度をとってケンカになってしまいます。
担任の先生は、本人に加え、Hさんが利用している通級の先生とIさんがよく行く保健室の先生にも話を聞き、Hさんは「話すタイミングがわからない」、Iさんは「マイナスな言動をして注目を得ようとしている」ということがわかりました。
1月の第2層支援では、本人たちにもニーズを確認したうえで、Hさんは「上手な話し方」を実行するタイミングを練習し、Iさんは「あたたかい言葉かけ」に対するポジティブな経験を重ねることで、標的スキルを身につけることを目指していきます。

 

第2層支援では、標的スキルの欠如タイプを分析し、それに応じた支援を行います。Hさんは話すタイミングが未獲得だと考えられるので獲得欠如タイプ、Iさんはスキルを知っているけれど、周りとの関係性のなかで適切な場面で実行できない実行欠如タイプと推測されました。支援の計画にあたっては、同じようなニーズのある子どもたちと合同で練習したり、第1層支援を受けた子どもたちとのやりとりを組み込んだりすることも検討してみましょう。

 

⑥振り返り

3月中旬、4年生の授業を見ながら、校長先生と担任の先生は子どもたちや教職員の変化について話し合いました。クラス全体の雰囲気だけでなく、HさんやIさんの周囲との接し方にもSSTの成果は表れているようです。
校長先生は、今の雰囲気を次年度も引き継げるよう、改めてSSTの位置づけについて学校全体で共有することを考えています。

 

多層型SSTを継続的に実施していくためには、定期的な研修や振り返りの機会を設け、PDCAサイクルを回していくことが重要です。子どもたちの声に耳を傾け、共に学び合う姿勢をもつことこそが、「子ども主体のSST」実践の鍵となります。

 

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本記事の内容は、下記書籍の内容をもとに編集・作成しております。