教育的認知行動療法とは?
2025/10/27
教育現場での活用について
知っていますか? 認知行動療法
認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy:CBT)は心理療法のひとつです。心理療法には自己理解に役立つ交流分析や、心理的負担を和らげるピアカウンセリングなど多数あります。また、そのうちの1つである行動療法は、特定の行動に着目し、行動を学び直すことで不適切な行動を修正するものです。そして、そこから発展したものが認知行動療法です。認知が行動に大きく影響すると考え、認知と行動の両面に働きかける手法として発展しました。
どんな場面で使われている?
認知行動療法は、アメリカの精神科医アーロン・ベックが、もともとはうつ病の治療のために開発したものです。現在では、不安症や強迫症、PTSDなど、多くの精神疾患の治療に用いられています。つまり、精神科医療の現場で広く活用されているといえます。
「認知」とは、物の受け取り方や考え方です。その時々で起こる事象を適切に判断できなければ、適切に行動することはできません。認知の歪みが不適切な行動を招き、不適切な行動がさらに認知の歪みを深める、まさにこの2者は表裏一体です。
認知行動療法(CBT)とは?
- ・ 「認知」=物事の受け止め方・考え方
- ・ 「行動」=その認知に基づいた具体的な振る舞い
- ・ 認知の歪み(例:自分は絶対にできない、私はみんなから嫌われている)→不適切な行動(極端に避ける、相手に暴言を吐いたり暴力を振るう)
- ・ CBTは「認知(考え方)」と「行動」に働きかけ、望ましくない状況や症状を改善する
たとえば「手を100回洗いたい!」
強迫症の例を考えてみましょう。一日に100回以上手を洗わないと気が済まない人に対して、まずは「一日の手洗い回数を数回に抑えられる」ことを体験的に学びます。その結果、「手はこんなに洗わなくても大丈夫だ」という新たな認知が形成されて、過度な手洗いへの執着から解放されます。適切な行動が自信となって、認知のゆがみ→不適切な行動という負のスパイラルから抜け出せるようになるのです。
荒れる小学校の教育現場
まず、現在の教育現場において、1000人あたりの暴力行為発生件数が2021年に小学校が中学校を僅かに上回り、現在は小学校が多いという事実をみなさんはご存知でしょうか? 小説「積み木くずし」に代表されるように、中高で吹き荒れていた暴力行為は、今やその舞台が小学校にとってかわろうとしているのです。学習環境の秩序が小学校で崩壊し始めていると言わざるを得ない状況なのです。
そして、上述の状況との明確な因果関係は不明ですが、小学校教員の離職率は増えている傾向にあります。長時間労働や児童への指導・保護者対応への精神的負担などがその背景にあるといわれています。学校教員全体でみると、令和5年度学校教員統計調査では精神疾患による病気休職者数が過去最多の7,119人(全教職員の0.77%)でした。東京都教育委員会の調べでは、都における新規採用教員の1年以内の離職率は4.9%。これは、新規採用者の約20人に1人が1年以内に退職している計算になり、特に若手教員の離職率が目立ちます。
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教育現場にも認知行動療法は活用できる!?
子どもの支援に、学級運営に、教員のメンタルヘルス対策として、教育現場で認知行動療法を活用しようという運気が高まっています。それは、教員向けの記事であったり、最近では日本経済新聞(2025年7月12日付・会員限定)にも「認知行動療法、教育現場にも」という記事が配信されていました。
子どもの「暴言や暴力」という不適切な行動を適切な行動へと変化させるために、先の強迫症での適用例でもみられるように、認知の歪みを変えて行動を変容させていく認知行動療法は、教育現場でも有効な方法になり得るのではないでしょうか。
教室できる かんしゃくや感情爆発を繰り返す子への認知行動療法!?
特別支援教育の研究を長年続けられている三重大学・松浦直己教授は、教育現場で応用できる認知行動療法の手法をまとめた書籍を中央法規から刊行しています。最近では、特に現場を悩ますかんしゃくや感情爆発を起こす子どもに対する認知行動療法の活用法を具体的に示した『教室できる かんしゃくや感情爆発を繰り返す子への認知行動療法』を出版しました。まさに教育的認知行動療法の提案となっています。
この本では、教員が知っておくべき知識、学ぶべき内容、組織としてやるべきことなどが具体的に、とてもわかりやすく書かれています。松浦直己教授はこう断言します。「生徒を変えられるのは先生方です」と。
