こどもまんなか社会とこどもまんなか保育 少子化社会における保育の役割

2025/06/23

 先日、1年間に生まれたこどもの数が70万人を割ったというニュースがありました。コロナ禍以降、出生数の低下には拍車がかかり、国の予想よりも15年ほど少子化が早まっているといわれます。
 少子化だからこそ、一人ひとりの子どもを大切にしたい……こどもまんなか社会には、そんな思いが込められています


1. こどもまんなか社会とは?

 近年、私たちの社会では「こどもまんなか」という言葉を耳にする機会が増えました。これはこども家庭庁が掲げる大きな目標のスローガンであり、「こどもの未来を社会全体で支える」という強い思いが込められています。
 「こどもまんなか」の考え方は、保育や子育てにおいて「こどもの視点やニーズを最も優先する」ことを指します。これは「こども主体」という言葉と表現が異なるものの、本質的には「子どもの最善の利益を守る」という共通のゴールを目指しています。つまり、どのような表現であれ、「子どもの最善の利益を最優先に考える」という普遍的な理念に立ち返ることが重要です。この考え方は、こどもを尊重し、その健やかな成長を社会全体で支えるための基盤となるものです。


2. こどもまんなか社会における保育の役割とは?

 「こどもまんなか社会」の実現において、保育園・認定こども園・幼稚園や保育者は、その中心的な存在として非常に重要な役割を担っています。保育者は、こども一人ひとりに合った保育を提供しながら、家庭や地域と連携し、こどもの成長を支える立場です。国や自治体が制度を整えたとしても、実際にそれを活かすのは現場の力に他なりません。
 現在の日本は出生率が低下し、保育施設には空き定員が増加傾向にあります。今現在は保育者が不足していますが、将来的にこどもの人数が減れば、保育施設は統廃合され、質の高い保育者が選ばれる時代が来る可能性があります。だからこそ、保育者は現状に安住せず、「先を見据えて学びを身につける」ことが、自身の専門性を高め、生き残る力となります
 保育は単にこどもを見ているだけではなく、こどもと「かかわる」ことにこそ本質があります。日々の丁寧なかかわりを通して、こどもたちの安心感や信頼が育まれていくのです。また、保育は時代とともに求められるものが変化するものであり、保育所保育指針もこれまでに4回改定されている通り、「変化すること」を前提とした専門職です。したがって、変わり続けるこどもたちの姿に応じて、保育者自身も柔軟に変化していくことが、これからの保育に求められる「生き残る力」といえるでしょう。


3. こどもまんなか保育を実践するために

 こどもまんなか保育を実践するには、保育者の意識改革とスキルアップが不可欠です。

 

(1) 本質を見失わない思考と実践

 保育の現場では、「保育者が管理しやすい方法」や「昔からそうしてきたから」といった根拠のない慣習が優先されてしまうことがあります。しかし、大切なのは、常に**「こどもにとって最善の利益とは何か」**という視点に立ち返り、柔軟な対応をすることです。
 また、研修で得た知識をそのまま鵜呑みにするのではなく、「なぜそうするのか?」「目の前のこどもたちにとって、それはどうなのか?」と自分たちで問い直し、現場やこどもの姿と照らし合わせながら「どう活かしていくか」を対話することが重要です。魔法の言葉や小手先のコツに頼るのではなく、日々の丁寧なかかわりを通してこどもとの信頼関係を築くことこそが、最も確実な方法です。

 

(2) 四つの環境を整える

 こどもが主体的に育つためには、以下の四つの環境をバランスよく整えることが鍵となります。

 

物的環境: 保育室や園庭のレイアウト、おもちゃの配置など、こどもたちが興味をもち、主体的に活動できる空間づくりを指します。こどもの姿を観察し、柔軟に変化させていくことが大切です.
社会的環境: こども同士の自然なやりとりや協力を促す環境です。トラブルや衝突を「学びのチャンス」と捉え、大人がすぐに介入せず、こども自身の解決力を引き出す支援が求められます。
心理的環境: こどもが「失敗しても怒られない」「自分の気持ちを表現していい」と感じられる安心感のある雰囲気です。保育者の何気ない声かけ一つで、こどもの挑戦への意欲が左右されるため、常に肯定的な姿勢を心がけましょう.
人的環境: 保育者個人のかかわり方だけでなく、園全体の保育方針やチームワークを指します。保育者同士が共通認識をもち、オープンな情報共有を行い、互いに支え合うことで、こどもは安心して過ごせるようになります.

 

 これらの環境は相互に影響し合うため、いずれかに偏ることなく、常に全体を見直す視点が重要です。環境構成は最初から完璧を目指す必要はなく、こどもたちの姿を見ながら試行錯誤を重ね、微調整していくことで「結果的に100点に近づいていく」ものだからです。

 

(3) リーダーの姿勢と自己変革

 「こどもまんなか保育」を実現するためには、園長や主任といったリーダー層の姿勢が大きく影響します。

 

現場への関与: 園長は管理業務に追われるだけでなく、積極的にクラスに入り、現場のリアルな状況を肌で感じることが不可欠です。現場を知ることで、職員の苦労を理解し、こどもたちのニーズを正確に把握できるからです。
職員への信頼と支援: 職員の提案を前向きに承認し、任せる勇気を持つことが重要です。園長が職員を信頼し、適切なフォローアップや具体的なフィードバックを行うことで、職員の主体性や自己判断力が育ち、園全体の質向上につながります。
責任感と感情の管理: 園長は問題が発生した際に責任を明確にし、感情的にならず冷静に対応する姿勢が求められます。不機嫌さを表に出す園長は、職場の雰囲気を悪化させ、職員のやる気を削いでしまいます。リーダーは自身の機嫌を自分で管理し、安定した態度で接することが信頼関係構築の基本です。
聞く力と謙虚さ: 園長は「話しすぎない」勇気をもち、職員や保護者の意見をじっくりと聞く力を養うことが大切です。謙虚な姿勢で現場の意見に耳を傾け、対等な関係を築くことで、職員は自由に意見を発信できる風通しの良い環境が生まれます。

 

(4) 「自分を主語に動く」姿勢

 保育者が「辞めたい」と感じる原因には、待遇だけでなく、威圧的な接し方や人間関係の悪さなど、園の働きにくさが大きく影響しています。このような状況を他責するだけでなく、「今、自分にできることはないか?」と探す姿勢が重要です。たとえ小さな一歩でも行動を起こすことで、状況は変わり、経験値として蓄積されます。
 保育の仕事は、困難な面も多いですが、「こどもの成長を見守る喜び」や「自分で仕組みを考えたり環境を整える楽しさ」といった「やりがい」を見出すことができます。自分自身が「何のために保育をしているのか」という軸をもち、好きという気持ちを原動力に行動し続けることが、こどもの最善の利益につながる保育を実践し、保育者としてのやりがいも高めるでしょう。


もっと知りたい方はこちら!
本記事の内容は、下記書籍の内容をもとに編集・作成しております。