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長谷川和夫先生に聞こう! 認知症のエトセトラ

母との「出遭い」をめぐって

 前回に引き続き、今回は母との「出遭い」について語りたいと思います。
 私は5才頃から烈しい気管支喘息の持病がありました。気候の変わり目が鬼門です。秋晴れの日も喘息で寝込んでいました。食べ物にもアレルギーもあり、鯖、そして茄子が原因で喘息をおこしました。さらに、運動や疲れもきっかけになりました。
 一度発作がおこると三日三晩は急性期で、烈しい呼吸困難のため横になって眠ることができません。数枚の厚い布団を体の前後に置いて、それによりかかってウトウトするくらいがやっとでしたから、看ている親もつらかったでしょう。弟と2人の妹がいましたが、元気な彼等が羨ましく、ひがんだものです。しかし、母は長男である私をことに気にかけてくれました。戦時中でしたから、今から考えると本当に命と隣り合わせの日常の中で、大変だったと思います。

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 母の性格は温厚でお人好し、絶対に嫌とかNOといえない人でした。厳格で気難しいところのあった父に仕え、100%優しい人といってよいでしょう。私が小学校2、3年の頃でした。たぶんいじめにあったのでしょう。「学校に行きたくない。嫌なことをいう奴がいるから」とぼそっと僕が言うと、母は『えーっ、誰なの。よし、私が学校にいってやる。そして叱ってやるよ。何という子なの』とすごい迫力。僕はそんなに烈しく怒る母をみたのは初めてでした。本当にあわてて、「そんなんじゃないよ。いいよ、いいよ」と断りました。母のいつもの優しさ、温かさはがらりと変わって、きついまなざし、顔色をかえて怒る母に仰天しました。そんな母のまだ知らぬ一面に「出遭い」、幼かった僕は、強い後ろ盾を感じたものです。とにかく、さまざまな母の愛に満ちた姿はありますが、この時の母の姿が常に心に浮かびます。
 「出遭い」は英語で“encounter”といいます。思いがけず、バッタリ遭遇すること、計画なしに人と人とが対面する意味があります。遭遇ということでは、戦場で敵と「出遭う」という意味もあります。この「出遭い」にしっかり向き合ってゆくことが、生きることでしょうか。親と子の「出遭い」も私たちに大切なことを教えてくれると思います。


コメント


長谷川先生のお話を毎週楽しみにしています。私は認知症の方の介護の経験を経て、現在は認知症の方を抱えるご家族の相談業務を行なっています。相談にみえる方達はみなさん少しでもお母様又はお父様が安心してその方らしく暮らせるように一生懸命で、その思いに感動することが多くあります。しかし、私自身はなかなか親孝行できる気持ちがないのが正直なところです。今はまだ母も健康なのであまえているのだと思います。母とも「出遭い」なのであれば、少しでも思ったことを言葉にしたいと思います。「ありがとう」も言わないことが多いので…。


投稿者: あじさい | 2007年11月15日 19:13

物語を読んで、私も口うるさい母親ではなくいざというときに子どもを守れる強い母親になろうと思いました。子どもにどんなときでも安心の灯台でいられるように。
そして、家族や友達との意外な一面に出遭えて、何かを得られる自分になりたいなぁ。


投稿者: 考えるイルカちゃん | 2007年11月18日 11:12

弱い者苛めが嫌いで「乗り込んでやっつけてあげる!」と言ってもらったり、誰かに守ってもらえるって、もの凄く心強くて温かい気持ちになりますよね…私にも同じ様な経験があります。小学校3年生の時に、両親が経営していたお店から少し離れた場所に一戸建て住宅を購入し、私達一家はお引っ越しをしました。幼馴染の御友達と離れてしまい転校先では、なかなか新しい環境に馴染む事が出来ませんでした。当時、私はポチャポチャと肥えており平均体重を少し上回っておりました。そんな私を同級生の男の子達は「暗い…ブルドック(まん丸顔で頬にも御肉がたっぷり付いていたので犬のブルドックと言われました)」等と自分の体形を非難され、男子にからかわれておりました。そんな時に、同じ学校に通っていた6年生の兄が飛んできて「俺の妹に何してるんや!」と怒鳴りながら追い散らしてくれました。ベランダで洗濯物を干していた祖母も、自宅の前を通る(自宅前の道は通学路でしたので)同級生を見つけた時に、二階から突然、「こら~あゆみを苛めるのは、あんたか!?ちょっと待っときなさい!」と大声で怒鳴ってくれました。それ以降、兄や祖母の存在に安心がもて勇気も出す様になり、反動で強くなり明るさも取り戻しました。
同級生の態度も徐徐に変わっていきました。
それ以降、自分の経験から弱い者苛めをする人が嫌いで、今でも弱い者苛めをしたり、差別をする様な人には兄や祖母の様に正義の味方に変身してしまいます。認知症ケアに到達できたのは、その経験と“a fateful encounter ”だったのかもしれません。人にされたことを自分は決してしないタイプなのか、自分の弱さに流されて自分も同じ事を(苛め)するタイプになってしまうのかは、きっと自分の為にやっつけに行ってくれる存在(守ってくれる)の有無、どの様な“encounter”するのかにも因るのでしょう…私は、子供の時から両親が商売で多忙だったので、いつも傍にいてくれた祖母や兄の存在にも大変感謝しております。子供の頃から空手を習っていた空手2段の兄は存在しているだけでも、心丈夫だったので天国に行ってしまった事は寂しいですが、いつも傍にいて守ってくれると信じております。兄との“encounter”は永遠に宝物です。兄と兄弟として引き合わせて下さった神様や両親にも感謝しております。今から思えば、兄は両親や祖母にも小学校で私を守ってあげなさいと使命を受けたのかもしれませんが、兄の逞しさを引き継いでいきます。
兄の妹に生まれてきた事に誇りに思います。


投稿者: 玉本あゆみ | 2010年01月26日 07:56

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プロフィール
長谷川和夫
(はせがわ かずお)
認知症介護研究・研修東京センター名誉センター長、聖マリアンナ医科大学名誉教授。専門は老年精神医学・認知症。1974年に「桜、猫、電車……」の長谷川式認知症スケール(HDS-R)を開発者して以来、常に認知症医療界の第一人者として時代を牽引してきた。最近では、「痴呆」から「認知症」への名称変更の立役者でもある。『認知症の知りたいことガイドブック』(中央法規出版)、『認知症を正しく理解するために』(マイライフ社)、『認知症診療のこれまでとこれから』(永井書店)など著書多数。
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