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長谷川和夫先生に聞こう! 認知症のエトセトラ

認知症介護のストレスを減らすために その2

 前回は、介護のストレスを減らすためには、認知症の方の気持ちを理解することが大切であると書きました。そこで今回は、認知症の方は毎日をどのような気持ちで過ごしていらっしゃるのかについて、書いてみたいと思います。 
 私たちは日々、無数の判断をして暮らしています。周囲に起こることを正しく理解し、経験や知識から判断して行動しています。そういう認知行動ができるのは、過去と現在がきちんとつながって、連続した線になっているからです。
 ところが認知症では、自分の体験をまったく忘れてしまい、以前にあったこと、ずっと覚えていたこと、ついさっきしていたことまでが、記憶からスッポリ抜け落ちてしまいます。にもかかわらず一生懸命周囲に適応しようとする行動が、周囲の人には理解されずに、摩擦を生み出してしまうのです。
 たとえば、こんなエピソードがあります。

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 ある認知症の方がいきなりテレビの電源コードをハサミでパチンと切ってしまいました。周りの人はびっくりして、「何をするの! 危ないじゃない!」と怒りました。でも、その方の頭の中では、テレビのスイッチの切り方がわからないけど、何とかして消したいと思うあまりに、コードを切ってしまったのです。
 このように認知症の人の行動は、周囲には問題行動に見えても、本人の中では理屈が通っているのです。徘徊と言われる行動も、今いる場所が自分の家のような気がしないので、手掛かりになるものを探しているのかもしれないし、トイレの場所がわからなくて歩いているのかもしれない。今の家の記憶がなくなって、子どもの頃の家の記憶だけが残っているから、そこへ帰ろうとしているのかもしれません。
 認知能力が衰えると、理解できない事象が周りからストレートに自分を襲ってきます。それを言語で説明できないから、人に理解されない。周りのできごとがわからなくなり、秩序がなくなっていく。頭の中に空白状態があって、どうして自分がこうなったのか思い出せない。さらに人の目が厳しくなり、居場所がなくなる……。
 そして、そのときの気持ちを表現したり、つじつまを合わせたりしたいがために、暴れ、物を壊し、聞き分けがなくなり、不可思議な行動に出たりするのです。だからよく、「認知症が出てから、人が変わってしまったようになった」と言われるのでしょう。
 物事を認知できなくなったときに自分の心がどうなるのか、想像することは難しいものです。多分、そこには大きな喪失感があるでしょう。その悲しみを思うと、認知症の世界に住む人に共感できるのではないでしょうか。そして、その共感が優しさになり、介護者自身のストレスを減らすことにつながると思います。
 次回は、ストレスを減らすための介護のポイントについて話をしてみようと思います。


コメント


最近、家族介護者でもあり専門職の方の立場、医師
、要介護者はいないけれども認知症に携わる立場の方々など1つのテーマに対する、色々な摩擦やディスカッションを拝見しました。私は、いつも会って語調や表情などの観点を伺い精神状態も見ながら折り合いがつく様に話合いをしてきましたので、活字の迫力や影響力にパソコンのマウスが触れない位、ビックリ仰天させられる事がありました。
そこで改めて感じた事ですが、認知症の方に限らず介護者も周囲に合わせたいけれども自分の主義主張を理解してもらえない憂鬱感、ジレンマを抱えたり、摩擦が生じた荒波の中でプラス思考に変換できず価値観を責め合ったり、その違いに喘ぎながら、それでも何とか自分を理解してもらいたくて色々な表現方法を使い表現しようと妥協しない方もおられます。「おのれを愛するごとく汝の隣人を愛せよ」
と言うお互いに傷つけ合わせずに、お互いの良い側面を尊重するという姿勢を意識しあえば、認知症の方に対する許容範囲が広がりパーソン・センタード・ケアが受け入れられやすいのですが。
私の今後の課題の一つとなりました。長谷川先生のご指導と御力は、まだまだ必要ですので、どうぞ本年も御活躍を御祈りしております。御健康に、お気を付け下さい。私も、地道に頑張ります。


投稿者: 玉本あゆみ | 2010年01月04日 10:47

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プロフィール
長谷川和夫
(はせがわ かずお)
認知症介護研究・研修東京センター名誉センター長、聖マリアンナ医科大学名誉教授。専門は老年精神医学・認知症。1974年に「桜、猫、電車……」の長谷川式認知症スケール(HDS-R)を開発者して以来、常に認知症医療界の第一人者として時代を牽引してきた。最近では、「痴呆」から「認知症」への名称変更の立役者でもある。『認知症の知りたいことガイドブック』(中央法規出版)、『認知症を正しく理解するために』(マイライフ社)、『認知症診療のこれまでとこれから』(永井書店)など著書多数。
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