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どうなる? 介護保険

介護と仕事の“両立”

 8月27日、「国民生活に関する世論調査(2012年6月)」(内閣府大臣官房政府広報室 以下、世論調査)が公表されました。この調査は1948(昭和23)年から続けられていますが、介護保険サービスがはじまる前年の1999年から、「老後は誰とどのように暮らすのがよいか」という設問が加えられました。
 今年の調査では、子世帯と「同居する」が24.1%、別居が68.9%で約7割になります。ただし、別居と回答した人の半数は「近くに住む」としています(表1参照)。
 設問がはじまった2001年9月調査と比べてみると、「同居する」が10%近く減り、「近くに住む」が約18%と大幅に増えました。また、「息子(夫婦)と同居する」が減り、「どの子(夫婦)でもよいから近くに住む」が増えていることがみてとれます(表2参照)。

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老後は「別居」だけど「近居」したい
 「2011年国民生活基礎調査の概況」(厚生労働省大臣官房統計情報部 以下、基礎調査)では、世帯総数4,668万世帯のうち65歳以上の人がいる高齢世帯は1,942万世帯で、全世帯の約4割と報告しています。高齢世帯のうち「単独世帯」24.2%、「夫婦のみの世帯」30.0%で、子世帯とは別に暮らす高齢世帯は54.2%です。世論調査では7割が別居を希望していますが、実現できているのは5割ともいえます。
 また、「国民生活基礎調査の概況」が3年ごとに報告している「介護の状況」(2010年国民生活基礎調査の概況)では、介護認定を受けた高齢者のうち「在宅の者」の世帯構造は、「単独世帯」26.1%、「夫婦のみの世帯」19.3%で、子世帯と別居しているのは45.4%で、高齢世帯全体より約9%少なくなります。

「同居」している利用者は何人?
 介護保険サービスの利用者がどのような暮らし方をしているのか全国的な調査データがみつからないので、つぎのような計算をしてみました。
 2010年度の介護保険サービス利用者は約524万人(年間実受給者数)で、施設サービス利用者112万人と居住系サービス(有料老人ホームなどの特定施設、認知症高齢者グループホーム)の利用者38万人を除くと、在宅サービスの利用者は約374万人という計算になります(厚生労働省大臣官房統計情報部「2010年度介護給付費実態調査の概況」より)。
 基礎調査の「介護の状況」にある世帯割合で単純計算してみると、ひとり暮らしの在宅利用者は約98万人、高齢配偶者と暮らしている在宅利用者は約72万人、子世代と同居している在宅利用者は約204万人になり、配偶者や子どもなど介護家族と同居しているのは約276万人ということになります。

1人当たり費用は「在宅」が12万円、「施設」が30万円
 介護保険サービスはおおまかに在宅と施設にわかれますが、利用者1人当たりにかかる費用は在宅サービス12万2,000円、施設サービス29万5,900円で、17万3,900円もの開きがあります(「2011年度介護給付費実態調査の概況」より)。
 同じ認定ランクであれば必要なサービス量は同じと考えられますが、在宅サービスが施設サービスの半分以下の費用で済んでいるのはなぜでしょうか?

介護休業制度の利用は0.14%
 いずれにしても、子世代と同居する利用者が約204万人とすれば、働きながら親の介護生活を支えている人が相当数になります。
 厚生労働省は「介護のために離職しなくても済むよう、柔軟な働き方を可能とするため、介護休業制度を含む両立支援制度を一層普及する」(厚生労働省版提言型政策仕分け第6回〈2012.07.06〉議事録より)という方針を出しました。
 「“病院死”から“在宅死”への提言」(8月15日更新)でも紹介しましたが、「介護休暇制度の規定がある事業所」は事業所規模5人以上で67.1%、事業所規模30人以上で85.9%と介護休業制度が“普及”しているとの報告があります。しかし、介護休暇中は無給が7割で、実際に介護休暇を与えた事業所はわずか2.5%、介護休暇を取った人は0.14%足らずです。介護休暇制度があっても利用できないなか、介護を理由に転職・離職する人は年間約15万人になります。

働きながら介護できるか?
 日本がモデルにしたといわれるドイツの介護保険制度は、「一定の条件を満たす家族介護は、有償労働と同様に評価され、年金の受給権と受給額に反映される」そうです。
 『外国の立法』第252号(国立国会図書館調査及び立法考査局)の『ドイツにおける介護休業制度の拡充』によると、ドイツでは今年1月、仕事と介護の両立をさらに進めるために、「家族介護時間法」が施行されたそうです。最長2年の家族介護ができるよう、介護休業中も一定の所得水準を確保し、「特に低賃金労働者には、パートタイム勤務と家族介護に同時に従事することによって、フルタイム勤務を継続した場合と比べても遜色ない年金受給額が確保される」という内容です。
 日本でも介護休業制度の“規定がある”だけでなく、「同居」や「近居」、あるいは「遠距離」にしても、働きながら介護できるよう、具体的な課題分析と施策を求めたいものです。

表1
2012年全体男性女性
 同居する24.1%26.9%21.6%
  息子(夫婦)と同居する12.7%15.6%10.2%
  娘(夫婦)と同居する5.4%4.1%6.4%
  どの子(夫婦)でもよいから同居する6.0%7.2%5.0%
 近くに住む34.1%29.1%38.7%
  息子(夫婦)の近くに住む7.8%8.6%7.2%
  娘(夫婦)の近くに住む7.5%4.9%9.9%
  どの子(夫婦)でもよいから近くに住む18.8%15.6%21.6%
 子どもたちとは別に暮らす34.8%38.6%33.4%
 わからない7.0%7.8%6.2%
「国民生活に関する世論調査」2012年6月調査より

表2
 20122001増減
 同居する24.1%33.8%-9.7%
  息子(夫婦)と同居する12.7%18.9%-6.2%
  娘(夫婦)と同居する5.4%6.3%-0.9%
  どの子(夫婦)でもよいから同居する6.0%8.6%-2.6%
 近くに住む34.1%16.5%+17.6%
  息子(夫婦)の近くに住む7.8%9.2%-1.4%
  娘(夫婦)の近くに住む7.5%7.3%+0.2%
  どの子(夫婦)でもよいから近くに住む18.8% +18.8%
 子どもたちとは別に暮らす34.8%36.3%-3.8%
 わからない7.0%9.9%-2.9%
「国民生活に関する世論調査」2012年6月調査、2001年9月調査より

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プロフィール
小竹 雅子(おだけ まさこ)
市民福祉情報オフィス・ハスカップ主宰。「障害児を普通学校へ・全国連絡会」「市 民福祉サポートセンター」などを経て、2003 年から現在の活動に。著書に岩波ブックレット『介護認定介護保険サービス、利用するには』(09 年11月)、『介護保険Q&A 第2版』(09年5月)、『こう変わる!介護保険』(06年2月)などがある。
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