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どうなる? 介護保険

“病院死”から“在宅死”への提言

 厚生労働省では2010年4月から、厚生労働省版提言型政策仕分けを実施しています。その目的は「自ら改革を実施するために、厚生労働省の事務・事業や所管する独立行政法人、公益法人等の事業などの在り方について、公開(一般傍聴可)、かつ、外部の視点を入れて、議論を行う」ものだそうです。
 2012年度は5月からはじまり、第5回(6月29日)、第6回(7月6日)では「医療・介護の連携」がテーマとなり、8月10日には、第6回議事録(宮山徳司・座長)が公表されました。
 第6回では、「最期まで住み慣れた地域・在宅等で、自分らしく、満足度の高い生活を過ごす」という多くの国民の願いを実現するため、「適切な医療と介護サービスが提供され、QОLの高い在宅生活を実現する体制」をめざし、「自宅が病室となり、道路が病院の廊下と同じようになるよう、地域における医療と介護の連携の仕組みの道筋を早急に付けることが求められる」という提言がまとめられました。

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“地域の病院化”?
 介護保険制度では昨年の法改正、今年度の介護報酬改定、そして「社会保障・税一体改革」のなかでも「地域包括ケア」という言葉がひんぱんに登場します。
 介護保険制度における「地域包括ケア」を具体的に提案した「地域包括ケア研究会報告書」(2010年3月、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社、2009年度厚生労働省老健保健健康増進等事業)では、“2025年の地域包括ケアシステムの姿”では「病院等に依存せずに住み慣れた地域での生活を継続する」と掲げられていました。
 脱病院化による高齢者の地域生活の継続とは、「自宅が病室となり、道路が病院の廊下と同じようになる」という “地域の病院化”のことだったのでしょうか。

「地域完結型医療・介護」
 いずれにしても提言では「自宅が病室」となるためには、(1)地域における取組み、(2)質の高い人材の育成、(3)家族に対する支援、(4)厚労省の組織体制の4点が必要としています。
 (1)では、これまでの「医療機関完結型医療」から「地域完結型医療・介護」の流れを作るために、市区町村の積極的な医療・介護資源の把握と情報提供、健康増進・介護予防に取り組むことが必要とし、定期巡回・随時対応サービスの全国的普及が必要としています。
 (2)では、「患者の生活を支える」という意識をもった在宅医療を担う医師の育成、連携を担う専門職の育成と質の向上、介護職には医療に関する基礎的知識など専門性の向上が必要としています。
 (3)では、在宅生活の継続のために「家族による支援が必要な場合も多い」ので、介護休業制度の普及、介護離職の実態把握と対策の検討が必要としています。また、「家族介護の位置づけ、評価、支援の在り方などについて、国民的な議論を開始する時期に来ている」としています。
 (1)~(3)の「医療と介護の連携」を推進するため、(4)では厚生労働省内に「連携推進室のようなプロジェクト・チームを設置すべき」としています。

79歳以下のアンケート調査
 第6回資料3「療養場所に関する希望について」では、8,000人(40歳以上79歳以下)のアンケート結果として、「終末期に痛みがあるときに、過ごしたい場所」は52~55%が自宅を希望し、「痛みなどの苦痛はないが、介護が必要なときに過ごしたい場所」は36~40%が自宅を希望することが報告されています。
 介護保険サービスの利用者の平均年齢は82.5歳(2011年)ですから、79歳以下の調査には違和感があります。

「家族介護支援制度」の現状
 また、「地域完結型医療・介護」の提言では「家族による支援」が前提条件のひとつとなっていますが、同資料「家族介護を支援する制度等について」では、現行の支援制度として、(1)啓発・普及、情報提供、(2)相談・支援、(3)レスパイトケア、(4)仕事と介護の両立支援が挙げられています。
 (1)では家族介護教室、認知症高齢者の見守り体制の構築、家族介護者のヘルスチェック、交流会などが具体的内容とされています。「2011年度介護保険事務調査の集計結果」(2012年1月25日、厚生労働省老健局介護保険計画課)では、全国1,584保険者のうち地域支援事業(任意事業)として家族介護支援事業を実施しているのは58.5%、家族介護継続支援事業は64.5%、認知症高齢者見守り事業は43.9%と報告しています。
 (2)は地域包括支援センターの総合相談をさします。「地域包括支援センターにおける業務実態に関する調査研究事業報告書」(2012年3月、株式会社三菱総合研究所、2011年度厚生労働省老人保健健康増進等事業)では、地域包括支援センターの課題として「業務量が過大」(26.3%)、「業務量に対する職員数の不足」(21.5%)と介護予防ケアプラン作成、支援困難事例対応、総合相談などの“業務量”が多すぎることを指摘しています。
 (3)はデイサービスとショートステイで、今年度の介護報酬改定により、デイサービスは長時間化、ショートステイは緊急利用者の受け入れ加算が創設されたことが注記されています。
 (4)では介護休業制度、介護休暇制度、勤務時間短縮措置があげられています。「『2011年度雇用均等基本調査』の概況」(7月25日、厚生労働省雇用均等・児童家庭局)では、「介護休暇制度の規定がある事業所」は事業所規模5人以上 で67.1%、事業所規模30人以上で85.9%です。しかし、日数制限がある事業所が94.6%、無給の事業所が70.8%ともあります。そして、「介護休暇を取得した者がいた事業所」はわずか2.5%で、「常用労働者に占める介護休暇取得者の割合」にいたっては0.14%です。一方、「就業構造基本調査」(総務省)では介護を理由に離職・転職する人が2006年には約15万人と報告しています。
 「国民生活基礎調査の概況」(厚生労働省)をみると、同居家族が介護する可能性の高い三世代世帯が1986年の44.8%から2010年には16.2%と激減し、65歳以上の単独世帯と夫婦のみの世帯が、1986年の3割から2010年度には5割と1.5倍になりました。
 “病院死”(医療機関完結型医療)から“在宅死”(地域完結型医療・介護)にシフトするため、今後、厚生労働省内に「連携推進室のようなプロジェクト・チーム」が設置されるとして、どのような政策が打ち出されるのか注目したいと思います。


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プロフィール
小竹 雅子(おだけ まさこ)
市民福祉情報オフィス・ハスカップ主宰。「障害児を普通学校へ・全国連絡会」「市 民福祉サポートセンター」などを経て、2003 年から現在の活動に。著書に岩波ブックレット『介護認定介護保険サービス、利用するには』(09 年11月)、『介護保険Q&A 第2版』(09年5月)、『こう変わる!介護保険』(06年2月)などがある。
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