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岩本ゆりの「病気との付き合い方~医療コーディネーターからの手紙~」

Letter26「緩和ケアをご存知ですか? その1」

 もしものお話です。友人の一人が長年がんを患っています。今は治療中で、体力が落ちて辛そうです。あなたは元気付けようと、友人をちょっと高級なホテルランチに誘いました。友人はこれまで例え治療中であっても外食の誘いに喜んで出掛けてきました。しかし、今回ばかりは断ってきました。最近身体がだるく、何をするのも億劫で、ここ数日は身体に痛みも出てきたのだと言います。「緩和ケアを受診した方が良いと主治医に言われた」と友人は言いました。

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 友人の言葉を聞いたあなたは、どのように感じたでしょうか? 主治医にあきらめられて、退院を促されるのだろうか、もう治療ができないのだろうか、などと想像してはいないでしょうか?

 あなたが友人の話を聞いて感じられた通り、緩和ケアは重要な医療でありながら、「治す」ことを追求しないために「敗北の医療」として捉えられ、治療が出来なくなったら緩和ケアへ、という間違った認識が広まっています。

 しかし緩和ケアを端的に申しますと、治すこと一辺倒の医療ではなく、苦痛を和らげる医療であり、患者のQOL(生活の質)を大切にした医療です。詳細な定義についてはこちら(NPO法人 日本ホスピス緩和ケア協会 緩和ケアをめぐる言葉)をご覧下さい。

 2002年にWHO(世界保健機関)が緩和ケアの定義を行った際「治療の初期段階」から行う医療であることを明確に打ち出しています。敗北の医療ではなく、治療と並行して行う医療であるという姿勢を打ち出したことは大きな進展でした。

 ではこの友人の場合はどうなったのでしょう? 3カ月後、あなたは気になっていた友人からの電話を受けました。友人はランチの誘いを断った後、主治医の提案を受けいれて緩和ケアを受診したそうです。通い初めてほどなく、今までなかなかすっきりしなかった身体の痛みが消えたようです。次に食欲が出て、体力が少しずつですが回復してきたと言います。3カ月経って血液検査の結果も良くなっているので、中断していた治療を再開することになった、という嬉しい報告でした。そして今度は友人の方から、久し振りにランチに行かないか、という誘いを受けました。もちろんあなたは喜んで再会を約束しました。

 緩和ケアとは、まず痛みを抑える、体に負担の大きな治療は一時中断する、不安に耳を傾ける、といったことを通じて心身の状態を整え、再度治療の可能性があればまた治療を受けることが出来る、という医療なのです。決して緩和ケアは死に行く人だけを対象にした治療ではありません。

 緩和医療が患者にとって大きな助けであることは間違いありませんが、まだこれから発展する医療分野であることから、情報が目に触れる機会はあまり多くありません。そこで今回から数回に分けて、最新情報を交えて緩和ケアのトピックスをお知らせしていきたいと思います。


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プロフィール
岩本ゆり
(いわもと ゆり)
看護師・医療コーディネーター、NPO法人楽患ねっと副理事長。楽患ナース株式会社取締役。1995年東京医科大学病院産科病棟、1999年東京大学病院婦人科病棟、特別室・緩和ケア病室を経て、2002年NPO法人楽患ねっと開設、2003年医療コーディネーター開業、現在に至る。
2008年フジサンケイ・大和証券グループ Woman Power Project 第7回ビジネスプランコンテスト優秀賞2003年日本看護協会広報委員就任。
主な著書は『あなたの家にかえろう』(共著、2006年)、『患者と作る医学の教科書』(共著、日総研出版2009年)など。

私は看護師として、患者さんが落ち込んだ時も、前向きな時も、患者さんの人生の傍らに寄り添い、その力となる存在であり続けたいと思います。読者の方々のご相談もお待ちしています。
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