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岡田慎一郎の「古武術介護のトリセツ」

車椅子・ベッドからの抱え上げ

 「全介護状態の方の移乗動作で、どうしても抱え上げなくてはならない場合、力まかせになるので、何か良い技術はないか」と質問されることが多くあります。
 これは、前々回にも書きましたが、まず本当に全介護状態なのか、足も接地出来ない状態などかと、もう一度、被介助者の残存能力を引き出せないか、試みてみましょう。
 それでも困難である場合、例えば、つま先に拘縮があり足が接地出来ない、両足が切断されているなどの状態などで、はじめて今回の技術が出番となります。

 一般的に、全介護状態の方を移乗する場合、腰のあたりを持ち、吊り上げるようにしてしまうことが多いと思われます。(写真1)

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(写真1)

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 しかし、この方法ではどうしても力まかせで、特に腰や肩に負担が集中して、身体を痛める危険性が高まります。
 そこで、まず被介助者の抱え方を工夫します。いきなり正面から腰を持たずに、被介助者の横につくようにします。首は被介助者の胸の横、左手は大腿の裏を抱えて、右手は腰に回すようにします。(写真2、3)

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(写真2)

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(写真3)

 なぜ、正面から抱えないのか。ある程度動ける方ならば、正面に立っても動くスペースができ、誘導もしやすいでしょう。しかし、全介護状態の方の場合、正面から抱えてしまうと、前傾しながら腰が上がるという、立ち上がりの基本動作を止めてしまうことにつながります。全介護状態の方の場合、ある程度動ける方よりも、さらに前傾を引き出さないと腰は上がってこないのです。そこで、正面ではなく、横につくと、動きを最後まで引き出しやすいというわけです。
 また、腰だけを持つよりも、全身を密着させ、一体となることにより、介助者の動きを被介助者に伝えやすくなり、被介助者の動きも引き出しやすくなります。
 抱え上げる体勢が出来たからといって、いきなり垂直に立ち上がると、前傾して腰が上がってくる動きを止めてしまい、写真1のように、吊り上げる動作に戻ってしまいます。
 そこで、前傾して、腰が上がる動作を止めない方向を考えると、介助者も斜め後方に向かって立ち上がるようにします。(写真4)

okada20090309-4-1.jpg
(写真4)

 動きの精度が高いと、足場を変えずに出来ますが、難しい動きなので、最初は後ろに一歩下がると良いでしょう。被介助者の前傾と、介助者の後ろに一歩下がる動きが合わさると、斜め上に上がる力が合成されます。その力が無理の無い抱え上げを実現させています。
 全介護状態だから基本動作は使えないと諦めないで、全介護状態だからこそ、基本動作を最大限に引き出すことが重要です。そのためは、身体の使い方の工夫という視点が必要不可欠となってくるのです。
 そして、基本動作と身体の使い方の工夫が一致したとき、無理だと思われていた技術が、介助者、被介助者、双方に優しい技術として現実のものになるのです。


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プロフィール
岡田慎一郎
(おかだ しんいちろう)
介護支援専門員、介護福祉士。1972年生まれ、茨城県出身。身体障害者施設、高齢者施設の介護職員を経て、朝日カルチャーセンター等の講師を務める。武術家甲野善紀氏との出会いにより編み出した、古武術の身体操法に基づく介護技術(古武術介護)で注目を集める。著書に、『親子で身体いきいき古武術あそび』(日本放送出版協会)、『古武術介護入門』(医学書院)、雑誌掲載など多数。(タイトル写真提供:人間考学研究所)
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