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野田明宏の「俺流オトコの介護」

できないことは押しつけない

 母がアルツハイマー病だと宣告され、進行予防にいろんなチャレンジを試みた。
 まず、小学校1年生向け算数のドリル。このドリルは、宣告されて直ぐに購入してきたので簡単すぎるかな? と想像したりもしながら買い求めたことを記憶している。
 なぜなら、
 59+21=80
 母は、私が口頭で質問する二桁の数字では問題なく回答できていたから。三桁となるとアウトだったが、確定診断時の、簡単な足し算&引き算も出来ていたようにも記憶している。
 ところが、ドリルを開いて驚くべき現実と向かい合うことになった。
   13
  +21
 この形で表記されている場合、母は全く、どうして良いか判断できないでいた。
 13+21は?
 と口頭で問えば 直ぐに34と正しい答えが戻ってくるのに。結局、このドリルでの進行予防は数時間で諦めた。数時間とは3時間ほどだったが、かなり母を叱ってしまった。
 できないことを押しつける、最初の愚弄だった。
 名前 住所 生年月日なども、反復させた。母の場合、生まれが和歌山県で、故郷をとても懐かしむことが多くなったので現住所より生まれた場所を取り込んだ。今はもう、その在所は存在しないのだけれど。
 で、母は以下のように反復した。不思議だが、最初はペーパーに筆記してなくても言えたのだ。もっとも、漢字にすると読めない字も多く、イメージではひらがなの世界だ。
 「わたくしは のだかずこ ともうします。しょうわいちねん じゅうにがつさんじゅうにち にうまれました。うまれたところは わかやまけんひだかぐん ふなつきむら たかつお です」
 ちゃんと言えればオレは拍手。母も、まんざらでもなさそうに喜びを笑顔で表現した。
 母は、和歌山県日高郡舟つき村高津尾という所で生まれた。母の父、つまりオレの祖父だが、発電所の所長をやっていた。大正から昭和初期にかけてだから重責であったらしい。早くに死んでしまったのだけれど、仕事中の感電死だった。
 祖父がそのまま生存していれば、母はそこそこのお金持ちの娘としてどこかに嫁いだはず。
 人生とは、なかなかじゃないです。
 アルツハイマー病の家族を介護していて誰もが遭遇し、なぜ? と疑問に思うことに、頻繁に転び出すことがある。一緒に買い物に出、舗装された道路を歩いているにもかかわらずだ。
 まあ、よくよく確認すると、ほんの数ミリ程度の段差? 出っ張りがあり、そこに躓くのだ。そして、豪快に滑り込む。脚のスネからは、よく血を出した。顔面、血まみれのこともあった。
 そこで、下半身のトレーニングに勤しんだ。スクワット。
 母は楽しそうにやっていたけれど、今、振り返れば効果があったかは大いなる疑問だ。
 下半身を鍛えても、そこに指令を発する脳が萎縮してしまえばどうにもならないのだから。
 過去の失敗から強く思う。今更だが、
 できないことは押しつけない。

アルツハイマーを宣告された数ヶ月後
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コメント


私も、姑が8年前に失語になったばかりの時に、入院先に、その頃子供が使ってたおもちゃで、あいうえおが、全部ボタン式になってるのを持参しベットの脇でやってると、様子を見に来た言語療法士の先生にあとで注意を受けました。
「お義母さんは、今までの知識、経験、プライドは残っているけれど、それを言語や動作でうまく表せないだけなんです。子供の場合は何も無い中におさめてゆくので、それとはちがうのですよ。」と・・・
あの頃は若かった分一生懸命いろいろ考えてたけど結局無駄でしたね。
でも、無駄だったにせよ考えたのは”愛”があったからですかねえ。


投稿者: セブン | 2010年10月08日 12:46

スクワットですね、なるほどと思います。お母さんを想う息子さんの一念、愛情があふれている写真ですね。想いのこもった一枚です。なにか不思議に感動させてくれる一枚ですね。


投稿者: my男 | 2010年10月09日 00:56

野田さん お疲れさまです。
連休最中ですが、在宅介護最前線ですもんね。

お母さんのスクワット、形になってますね。
でも、算数の件、経験者でしか分からないことだと思います。
難しいなあ。


投稿者: 熊夫 | 2010年10月11日 12:09

セブンさま

やはり、皆さん、いろいろとチャレンジなさるんですね。
でも、今さらですが、
認知症そのものを、介護者である私たちが把握する必要がありました。
だけど、愛 は確かに存在したはすです。
もっとも、
これ以上悪くなったら困る
という気持ちを抱えていたことも事実ですけれど。

my男さま

スクワット。
振り返れば、心の救いは、
和ちゃんが、楽しそうにやってくれたことですね。
介護者が、鬼軍曹になってはいけません。

熊夫さま

難しい と言うより、
単に、認知症を私が知らなさすぎた
ということだと思います。
でも、
わかっちゃいるけど
という愚かな心理もありましたね。
やれやれ


投稿者: 野田明宏 | 2010年10月12日 13:54

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プロフィール
野田明宏
(のだ あきひろ)
フリーライター。1956年生まれ。約50カ国をバックパックを背負って旅する。その後、グアテマラを中心に中央アメリカに約2年間滞在。内戦下のエルサルバドルでは、政府軍のパトロールにも同行取材等etc。2002年、母親の介護をきっかけに、老人介護を中心に執筆活動を開始。2010年現在、83歳になる母と二人暮らしで在宅介護を続ける。主な著書は『アルツハイマーの母をよろしく』『アルツハイマー在宅介護最前線』(以上、ミネルヴァ書房)など多数。『月刊ケアマネジメント』(環境新聞社)にて、「僕らはみんな生きている」連載中。
http://www.noda-akihiro.net/
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