認知症の薬について教えてください
【質問】
「認知症を治す薬はない」と言われましたが、薬を処方されました。効果はあるのでしょうか。
【回答】
体験者としては「効果がある」とはとても言えません。認知症を「治す」薬は、現在はありません。「進行を遅らせる」薬があるだけです。進行を遅らせるというのは、認知症の「今の状態」が長く続くということで、それもやがて悪化していきます。効果があったと喜ぶ瞬間はまず来ないでしょう。
ただ、攻撃的になるなどの手に余る症状にはそれなりのお薬があり、それなりに効果がありますから、両方を専門医の指示に従い、よく相談しながら、飲むしかない。これが現実です。私は妻に飲ませ続けました。
薬には苦労しました。
発症から3年目に初めて受診した病院では、妻を「廃用性痴呆」と診断し、「元気の出る薬」といってうつの薬ヘキストールを処方し、散歩や歌、オセロゲーム、男女交際など、脳を活発にする生活を指示しました。当時の妻のメモに妻の字で「何事も前向きに」と専門医のことばが書きつけてあります。妻なりに一所懸命だったのです。しかし、薬を飲み続けても効果は無く、1年後にはトイレの床に排尿し便を壁にこすりつけ、急激に進行しました。
2つ目の病院では、「アルツハイマー型老年痴呆」の診断で、専門医は「申し訳ありませんが、この病気を治す薬はありません」と言い、薬では、アリセプトに加えて鉄剤とビタミン剤の併用を処方し、イチョウの葉のエキス錠や食べ物では背の青い魚を勧め、日常生活では認知症の進行を緩やかにしているようだと、デイサービスの利用を勧めます。
アリセプトは最初は5㍉を飲み始めましたが、ひどい下痢になって服用をやめ、その後、半分の2,5㍉にして飲み続けました。2年半後にこの専門医は「奥さんはよく持ちこたえていますね。薬のどれかが効いたのか、デイサービスのおかげか、いいや、ご主人のお世話が一番でしょう」と言いました。誇らしい気持ちの反面、離れて暮らす長男の顔も名前も忘れ、ごぼうのささがきもできなくなった妻が、よく持ちこたえている状態なのかと衝撃を受けました。薬のどれかが効いたといってもこの程度のことなのかと、暗い気持ちになったものです。
薬は医師の処方通りに服用しながら、一番身近な家族がよく観察し、本人の声なき訴えである異変を医師に伝えることが大切です。妻の場合、脳の血流をよくする小児用バファリンは手足に青痣ができると私が訴えて中止、毛細血管が切れやすくなったそうです。身体のこわばりを防ぐネオバストンも眠気が強くなったと私が訴えて中止。鉄剤とビタミン剤は身体に蓄積され過ぎているからと医師が中止しました。
また、薬は相乗作用も配慮しなければなりません。とくに高齢者は何種類もの薬を飲んでいるのがふつうです。妻は抗生物質やコレステロールを抑える薬も飲んでいましたので、薬はすべて専門医とかかりつけ医に相談し、安全性を確認して服用するようにしました。お薬手帳に飲んでいる薬をまとめるとよいでしょう。
昨年末から3つの新薬が相次いで承認されましたが、どれも治せる薬ではありません。過大な期待は禁物です。ただ、貼り薬(リバスチグミン(商品名イクセロン/リバスタッチパッチ))は、錠剤や散薬も飲めなくなった認知症の人には朗報でしょう。
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