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どうなる? 介護保険

高齢者虐待の被害者は約1万7,500人

 12月21日、厚生労働省老健局は「2011年度高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律に基づく対応状況等に関する調査結果」(高齢者支援課認知症・虐待防止対策推進室 以下、調査結果)を公表しました。
 この調査は、2006年4月に施行された高齢者虐待防止法(高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律)にもとづく対応について、全国の市区町村、都道府県を対象に毎年、行なわれています。
 調査結果では、「養護者」(高齢者の世話をしている家族、親族、同居人等)による虐待は1万6,599件で、2010年度に比べて69件(0.4%)減ったと報告しています。しかし、「施設従業者等」(特養など養介護事業の業務に従事する者)による虐待は、2010年度の96件から151件になり、約6割増となっています。

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高齢者虐待は介護現場で働く人が発見する
 表1、表2にまとめたように、虐待件数は通報・相談などにもとづき、都道府県や市区町村の「事実確認調査」を経て確定されます。
 在宅では、ケアマネジャーと介護職員(介護保険事業所職員)による通報・相談が約4割ともっとも多く、家族・親族が約1割で、被害者である高齢者本人からも約1割が寄せられています。
 “施設”では、現職と退職した介護職員による通報・相談が約5割になり、家族・親族が約3割と続きます。
 介護の現場で働く人たちが、高齢者虐待を発見していると言うこともできます。

なぜ、介護施設の虐待事例が増えているのか?
 一方、“施設”で働く介護職員による虐待事例は151件ですが、被害を受けた高齢者(被虐待高齢者)は328人になり、1件平均2人の被害が出ています。被害者は80代以上が半数を超え、認定ランクも要介護3~5が約7割です。
 “施設”には、介護保険3施設のほか、認知症高齢者グループホーム、小規模多機能型居宅介護など居住系の地域密着型サービス、ケアハウスやショートステイ施設、有料老人ホームなどが含まれます。
 虐待事例が多かったのは、特別養護老人ホーム(30%)、認知症高齢者グループホーム(24%)、有料老人ホーム(12%)、老人保健施設(11%)です。
 高齢者虐待防止法では、高齢者虐待を(1)身体的虐待、(2)介護・世話の放棄、(3)心理的虐待、(4)性的虐待、(5)経済的虐待と5分類していますが、“施設”では身体的虐待が約75%と非常に多く、心理的虐待(約37%)が続きます。
 介護技術の教育を受けた人がなぜ、病気や障害の重い高齢者に身体的な危害を加えたのでしょうか。
 調査結果では、加害者181人(介護職員81.2%、看護職員5.0%、施設長3.9%など)のうち、「40歳未満が4割強」と報告していますが、虐待の動機や、昨年度に比べて約1.6倍となった理由などは明らかにされていません。

在宅の相談・通報は約2万6,000件
 在宅での高齢者虐待についての相談・通報件数は、昨年度に比べて1.3%(321件)増え、2万5,636件になりました。
 相談・通報の「事実確認調査」をした結果、虐待事例と判断されたのは1万6,599件(66.4%)で、昨年度に比べて0.4%減少したと報告されています。
 そのほかの相談・通報は、「虐待ではないと判断した」のが4,360件(17.4%)、「虐待の判断に至らなかった」のが4,039件(16.2%)です。
 被害を受けた高齢者は1万7,103人で、性別では女性が76.5%になり、施設(66.2%)よりも多くなります。年代は70代(36.0%)、80代(42.6%)が中心です。認定ランクは要介護1~3が約6割で、認知症自立度II以上が約半数になります。同時に、「自立、未申請」も3割になります。
 介護家族などの加害者は1万8,126人で、被害者数より1,000人以上多く、複数の家族などによる虐待が存在することがうかがえます。
 被害者の暮らし方は「虐待者と同居」が86.2%と9割近くなり、加害者の立場は息子が40.7%と最多で、夫(17.5%)、娘(16.5%)が続きます(表5参照)。
 虐待の内容は、身体的虐待が64.5%で、心理的虐待の37.4%が続き、経済的虐待25.0%、介護等放棄24.8%です。施設などでの虐待に比べると、経済的虐待が際立ち、介護等放棄が増える傾向があります。
 また、「虐待の種類・類型」は2万5,287件になり、複合的な虐待が多いこともみてとれます。

虐待事例への自治体の対応
 高齢者虐待防止法では、市区町村や都道府県が高齢者虐待について相談・指導・助言、通報・届け出の受理、安全確認などの業務を担っています。
 調査結果をみると、施設での虐待事例への対応は、「指導」(129件)と「改善計画提出依頼」(114件)が多く、介護保険法などによる「報告徴収、質問、立入検査」は27件、「改善勧告」は12件です。
 高齢者虐待防止法では「『養護者』を支援する」こともポイントとされています。在宅での虐待事例(1万7,729件)への対応では、介護保険サービスの利用(13.6%)のほか、面会制限、一時入院、緊急一時保護などで加害者との「分離を行った」のが6,323件(35.7%)です。助言・指導、ケアプランの見直し(15.5%)、新たな介護保険サービスの利用(9.3%)、見守り(12.0%)などで「虐待者を分離していない」のが1万213件(57.3%)です。高齢者と介護家族などの“分離”の有無を問わず、介護保険サービスで対応しているケースが半数近いことが示されています。
 なお、成年後見制度の利用につなげたのは726件(4.1%)で、市区町村長による申立が約5割です。社会福祉協議会が実施する日常生活自立支援事業の利用は268件(1.5%)です。

被害者だけでなく、加害者も出さない支援策を
 高齢者虐待防止法が施行されて7年になりますが、毎年度の調査結果をみると、介護保険制度が高齢者虐待の発見や解決の基盤になっていることを教えられます。
 しかし、高齢者虐待は“事実確認”されたものにとどまりませんし、法律では規定されていませんが、ゴミ屋敷に代表される「セルフネグレクト(自己放任)」(判断力や認知力の低下の有無を問わず、介護や地域とのつながりを拒否し、自傷により自らの健康や安全を脅かす状態)の問題も指摘されています(内閣府経済社会総合研究所「セルフネグレクト状態にある高齢者に関する調査報告書」2012年1月より)。
 高齢者虐待の動機や原因をさらに掘り下げ、高齢者と介護家族(養護者)だけでなく、介護職員などが加害者になることも防ぐ有効な支援策が必要ではないでしょうか。

表1 施設職員などによる虐待件数
2011年度施設職員など(施設従業者等)による虐待
相談・通報件数 687件
相談・通報者 741人
当該施設職員30.40%
家族・親族27.20%
当該施設元職員14.80%
匿名など8.90%
都道府県4.90%
虐待件数151件
特別養護老人ホーム30.00%
認知症高齢者グループホーム24.00%
有料老人ホーム12.00%
老人保健施設11.30%
表2 介護家族などによる虐待件数
2011年度介護家族など(養護者)による虐待
相談・通報件数2万5,636件
相談・通報者 2万7,281人
ケアマネジャー・介護職員42.40%
家族・親族12.20%
高齢者本人11.10%
警察9.40%
市町村職員7.20%
虐待件数 1万6,599件
未婚の子と同一世帯38.20%
既婚の子と同一世帯24.00%
夫婦二人世帯18.60%
単身世帯9.30%
表3 施設などで虐待された高齢者
2011年度施設職員など(施設従業者等)による虐待
被害高齢者 328人
性別 328人
男性33.80%
女性66.20%
年代 328人
60代3.00%
70代24.40%
80代41.40%
90代19.80%
100歳以上1.80%
認定ランク 328人
自立0.30%
要支援11.50%
要支援21.80%
要介護15.80%
要介護213.10%
要介護322.00%
要介護423.80%
要介護523.50%
表4 在宅で虐待された高齢者
2011年度介護家族など(養護者)による虐待
被害高齢者1万7,103人
性別1万7,103人
男性23.40%
女性76.50%
年代1万7,103人
60代9.80%
70代36.00%
80代42.60%
90歳以上10.80%
不明0.80%
認定ランク1万7,103人
自立、未申請30.20%
要支援17.00%
要支援28.80%
要介護120.40%
要介護221.30%
要介護319.30%
要介護413.80%
要介護58.90%
認知症自立度1万1,834人
自立13.60%
自立度Ⅰ15.80%
自立度Ⅱ30.90%
自立度Ⅲ24.20%
自立度Ⅳ8.40%
自立度M2.00%
不明3.80%
表5 虐待者
 2011年度施設職員など(施設従業者等)介護家族など(養護者)
虐待者181人1万8,126人
介護職員81.20%息子40.70%
看護職員5.00%17.50%
施設長3.90%16.50%
開設者2.20%息子の配偶者(嫁)6.70%
管理者1.70%5.20%
虐待内容195件2万5,287件
身体的虐待74.80%身体的虐待64.50%
心理的虐待37.10%心理的虐待37.40%
介護等放棄10.60%経済的虐待25.00%
性的虐待4.00%介護等放棄24.80%
経済的虐待2.60%性的虐待0.60%
2011年度高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律に基づく対応状況等に関する調査結果(2012.12.21公表)より

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プロフィール
小竹 雅子(おだけ まさこ)
市民福祉情報オフィス・ハスカップ主宰。「障害児を普通学校へ・全国連絡会」「市 民福祉サポートセンター」などを経て、2003 年から現在の活動に。著書に岩波ブックレット『介護認定介護保険サービス、利用するには』(09 年11月)、『介護保険Q&A 第2版』(09年5月)、『こう変わる!介護保険』(06年2月)などがある。
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