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どうなる? 介護保険

生活援助は“単なる身の回りの世話”?

 10月15日、財務省「財政について聴く会」(財政制度等審議会財政制度分科会、吉川洋・会長)で、「社会保障予算(医療、介護等)」(資料1 2012年10月財務省主計局)が報告されました。
 「介護」の項目では、(1)介護納付金(40~64歳の第2号介護保険料)に総報酬割を導入、(2)自己負担割合(現行1割)の見直し、(3)軽度者への給付の見直し、(4)地域支援事業の見直しが提案されています。
 (3)の「軽度者介護」では要支援1~要介護2の表がつけられ、「単なる高齢者の身の回りの世話をすることにとどまっている側面もあることをどう考えるか」、「軽度者に対する給付は、見直しを図るべきではないか」とあります。

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介護給付は「身体介護」?
 介護保険サービスを利用する最初のハードルとなる介護認定(要支援認定・要介護認定)は、施設に暮らす高齢者に介護職員が提供する“介護の手間”にかかる時間をもとに判定基準が作られています。自宅など「在宅」で暮らす高齢者の実態にあわないという指摘が長くありますが、「在宅」高齢者の調査データにもとづく見直しがおこなわれたことはありません。
 そうしたなか、財務省資料は、「在宅」の要介護3~5のホームヘルプ・サービスは「身体介護が中心」であるとしています。しかし、ホームヘルプ・サービスとは「身体介護」のことなのでしょうか。

「掃除」は“単なる身の回りの世話”?
 資料はまた、「『掃除』がサービスの半分以上を占める」として、「2010年度予算執行調査」(以下、執行調査)では、「生活援助サービスの内容」が掃除64%、買い物・薬の受け取り16%、一般的な調理、配下膳11%と報告しています。
 10月3・4日に厚生労働省老健局が開催した2012年度地域包括ケア推進指導者養成研修(中央研修)資料(以下、中央研修資料)の「これからの介護予防 ~地域づくりによる介護予防の推進~」に執行調査の「結果」が掲載されています。
 表1にあるように執行調査は3種類で、調査対象は509件、445名と報告されています。介護予防ホームヘルプ・サービスの利用者だけでも約56万人(厚生労働省大臣官房統計情報部「2010年介護給付費実態調査の概況」)になりますが、利用者の0.1%に満たない抽出方法が気になります。

費用を抑制しないと「長続き」しない?
 財務省資料では「制度創設10年あまりで費用が2倍以上に伸びており、費用を抑制しなければ、長続きする制度とならない」として、第2号介護保険料と利用者負担の引き上げてはどうかとしています。
 介護保険の総費用は2000年度の3.6兆円から2010年度の7.8兆円と倍増しています。しかし、総費用の1割は利用者負担ですから、利用者の負担も2倍以上になっているわけです。残りの9割もまた、介護保険料(第1号介護保険料、事業主負担を含む第2号介護保険料)と税金(国、都道府県、市区町村)で分担していますから、それぞれの負担も増えています。
 総費用を分担するどの立場も、「費用を抑制しなければ、長続き」しないと考えているのでしょうか。

利用が少なければ「抑制」していい?
 財務省はまた、「『要支援』の認定を受けても、介護サービスを利用しない者が相当割合存在」するという理由で、“軽度者”へのサービスを見直してはどうかとしています。
 その資料として、「2010年国民生活基礎調査の概況」の介護アンケートから、「訪問系・通所系・短期入所サービス等を利用していない者の利用しなかった理由の割合」(複数回答)で、「家族介護でなんとかやっていける」54.7%、「介護が必要な者(本人)でなんとかやっていける」43.2%を紹介しています。
 サービスの利用が少ないと、現に利用している人を抑制していいという理屈になるのでしょうか。なお、財務省が引用した国民生活基礎調査は、集計対象が22万8,864世帯という大規模なものですが、紹介されている介護アンケートの集計対象は5,912人足らずです。

人口の6.3%が「介護者」
 9月26日に総務省統計局が公表した「2011年社会生活基本調査」の「生活時間に関する結果の概要」では、「15歳以上で日常的に介護している人(介護者)」は682万9,000人、人口比で6.3%と報告しています(表2参照)。身体介護は、「清拭・入浴・身体整容」が50%(表2参照)。
 介護者のうち「介護支援を利用している人」は200万9,000人(29%)です。「介護支援」のすべてが介護保険サービスとは言えませんが、介護者の3割弱しか外部の支援を得ていないことになります。
 2025年まで高齢化が進行すると言われるなか、介護保険制度を「長続き」させるために“軽度者”へのサービスを抑制していいのか、広く議論を求める必要があるのではないでしょうか。

表1 2010年度財務省予算執行調査結果
調査件数介護予防ホームヘルプ・サービス
(1)509件主として身体介護をおこなっているもの(28件)の悪化率は4%
主として生活援助をおこなっているもの(509件)の悪化率は10%
(2)445名身体介護は全体の約14%が利用、生活援助は約97%が利用
介護予防訪問介護の提供時間に占める生活援助の割合は約93%
(3)445名生活援助は「掃除」64%、
「買い物・薬の受け取り」16%、「一般的な調理、配下膳」11%
身体介護は、「清拭・入浴・身体整容」が50%
厚生労働省老健局「2012年度地域包括ケア推進指導者養成研修(中央研修)」(2012.10.03・04)資料より
表2 15歳以上で日常的に介護している人(介護者)
合計682万9,000人(人口比6.3%)
性別男性267万5,000人39%
女性415万4,000人61%
年代別30歳未満39万9,000人6%
30~39歳48万7,000人7%
40~49歳92万5,000人13%
50~59歳198万9,000人29%
60~69歳182万1,000人27%
70歳以上120万8,000人18%
総務省統計局「2011年社会生活基本調査」(2012.09.26公表)「生活時間に関する結果 結果の概要」より

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プロフィール
小竹 雅子(おだけ まさこ)
市民福祉情報オフィス・ハスカップ主宰。「障害児を普通学校へ・全国連絡会」「市 民福祉サポートセンター」などを経て、2003 年から現在の活動に。著書に岩波ブックレット『介護認定介護保険サービス、利用するには』(09 年11月)、『介護保険Q&A 第2版』(09年5月)、『こう変わる!介護保険』(06年2月)などがある。
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