第60回 ターミナルケアで必要なこと
ターミナルは終点ではない
「ターミナルケア」という言葉があります。日本では「終末医療」または「終末期ケア」といいます。私は朝日新聞に毎週コラムを書いていますが、私が書いた記事に関して投書がありました。「どうぞ私の愛する人を終末期患者とは呼ばないで下さい」というものでした。「見捨てられるように響くから」というのです。
そこで私は「緩和医療」「緩和期患者」というように呼ぶのはどうかという提言をしました。その後、終生期ケアと表現されるようになっています。
日本では、ターミナルという言葉を「終点」という意味で使っているからです。以前はJRの終点駅の周辺にはターミナルホテルというのがありました。ところがターミナルケア(図1)という言葉が使われるようになってから、それらのホテルはほとんど名前を変えました。
そこで私は「緩和医療」「緩和期患者」というように呼ぶのはどうかという提言をしました。その後、終生期ケアと表現されるようになっています。
日本では、ターミナルという言葉を「終点」という意味で使っているからです。以前はJRの終点駅の周辺にはターミナルホテルというのがありました。ところがターミナルケア(図1)という言葉が使われるようになってから、それらのホテルはほとんど名前を変えました。
しかし、外国では今もターミナルホテルがあります。というのは、外国ではターミナルという意味には、到着であると同時に出発という意味もあるからです。私はストックホルムから帰国するときにロンドンのヒースロー空港で乗り換えましたが、日本に向けて旅立つ人は、「ターミナルCに行ってください」と書いてありました。そのCというターミナルは終着ではなくて、到着であるとともに、これから出発するところでもあるのです。
そういう意味では、日本で終末医療と訳したことは問題かもしれません。その人は死んでしまうかもしれないけれども、死んでからも命はあるという感じをポジティブに考えてターミナルという言葉を使えば、ターミナルケアという言葉の与える意味も少しは変わってくるのかもしれません。
回復することがある
たとえば、がんにかかったとします。しかし、早期発見だったので完全に治癒したり、あるいはかなり遅く発見したのだけれども、手術や化学療法や放射線療法などによって完全によくなることがあります。もう駄目だと思ったのに治癒に至ることもあります(図2)。
私が主治医をした患者のなかに、85歳で乳がんが発見された方がいました。彼女は「どうしても手術は嫌だ」と訴えました。それから10年後、その方は95歳になっていましたが、がんはだんだんと縮小してそのまま治ってしまった。そういうこともありました。
また、ある患者は胃がんの末期でしたが、一流の病院に入ったところ「手術してもしょうがない」とされて、「それでは故郷に帰ります」と言ってそれっきり疎遠になったのですが、5年後にその人に会ってびっくりしました。はっきりと手が付けられないがんだと言われた人が元気でいるのです。それを見ると、やはりその人に癒しの力があったのでしょう。そういう奇跡のようなこともあり得るのです。
いろいろな意味で、現代の科学ではまだ解明されていないことがたくさんあるのだということを謙虚に受け入れなければなりません。人体の精緻な働きなど、まさに神様の配剤としか思えないようなことが、私たちの目の前に展開しているのですから。
(2010年1月18日)
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