第59回 人間は病む生きもの
疾病・病気はどのように発生するか
病気になるのは、3つの原因が考えられます。1つは感染が起こるとか、あるいは寒冷にさらされるなど生物学的な原因です。2つ目は、気持ちが滅入って、それが心理的にその人を悩ましたりして病気に至ります。3つ目は、貧困など社会的な問題から心身に影響が現れます。つまり生物学的、心理的、社会的要因によって器質的な変化が起こってくるということです(図1)。
つまり、healthという言葉はその3つの意味を語源的に含んでいるのです。体の健康と精神の健康は区別できるものではなく、両方ともが全体として扱われるというところにhealthの本来の姿があるということをよく理解してほしいと思います(図2)。
病気をもっていても
ここで病気に対する言葉として、Rehabilitationの言葉を説明しましょう(図3)。Reというのは、「元の」「元に」、Habitは「住む」という意味をもっています。「元の住いに」「元の習慣に」「元の生き方に戻ってくる」ということがリハビリテーションの理想の状態を意味しています。
現代は医学の進歩によって、簡単に血圧を下げることもできますし、糖尿病もコントロールすることができるので、病気をもちながらでもまったく普通の生活を送ることができます。車に乗ればどこにでも行くことができますし、文明国であればどこででも人工透析を受けることができるので、海外旅行もすることができます。もちろん病気をもっているのですから、病人といえば病人です。
しかし、病気をもっていても、その生活のスタイルを見ると、たとえがんをもっていても、その人がさわやかな気持ちをもって生きることができるのです。
人間は完全ではない
健康というのは幸福に似ています。財産があり、勲章をもち、優雅に過ごすようなお金がなければ幸福になれないというのではなく、戦争中、ものがなかったけれども、わずかのお米をもらっても、砂糖をわずかにもらっても、心の底から「ありがとう」と言いました。もののないときに何かを与えられると、感謝して、自分だけではもったいないのでみんなで分け合おうという気持ちになりました。貧しいときには、お隣にもお分けしようという気持ちと、それに対する感謝の念がありました。
ところが、富んでくると、自己中心になって、だんだん人のことは考えないようになってしまいがちです。健康もそうです。健康なときにはそれを「ありがたい」とは感じないのです。健康を損なってはじめて健康のありがたさに気づくのです。幸福感とはものがあるからではなく、幸福だと感じることをいいます。病気があっても健やかだと感じる。朝、目覚めた時に感じるさわやかな気持ち、それが健康感なのです。
完全な健康というものはありません。私でもPETやMRIという最新の医療検査機器で身体を調べますと、小さな梗塞が発見されるでしょう。幸いなことに、その梗塞は大切なところをよけてあるから異常が自覚されないので、あってもなくても同じです。私は、今のところ、PETなどで自分の身体のアラを探す気持ちはありません。
患者が、「フラフラするからPETで検査してください」と要望するので、医師が「では検査しましょう」と言って検査を行うのですが、医師やその家族はおそらくそのような検査は受けていないのではないでしょうか。なぜなら検査をして何かがわかったとしても、今のところしょうがないということを知っているからです。
私たちは認知症になるという遺伝子をもっていれば、いずれ認知症になるということがわかります。そういう遺伝子はみんなもっているのです。
ニーチェが言ったように「人間は病む生きもの」で、みんな何かの欠陥はもっているのです。病んでも、その人に健康感をもたらせること。それがQOLという考え方に通じるということをみなさんに知ってほしいのです(図4)。
ところが、富んでくると、自己中心になって、だんだん人のことは考えないようになってしまいがちです。健康もそうです。健康なときにはそれを「ありがたい」とは感じないのです。健康を損なってはじめて健康のありがたさに気づくのです。幸福感とはものがあるからではなく、幸福だと感じることをいいます。病気があっても健やかだと感じる。朝、目覚めた時に感じるさわやかな気持ち、それが健康感なのです。
完全な健康というものはありません。私でもPETやMRIという最新の医療検査機器で身体を調べますと、小さな梗塞が発見されるでしょう。幸いなことに、その梗塞は大切なところをよけてあるから異常が自覚されないので、あってもなくても同じです。私は、今のところ、PETなどで自分の身体のアラを探す気持ちはありません。
患者が、「フラフラするからPETで検査してください」と要望するので、医師が「では検査しましょう」と言って検査を行うのですが、医師やその家族はおそらくそのような検査は受けていないのではないでしょうか。なぜなら検査をして何かがわかったとしても、今のところしょうがないということを知っているからです。
私たちは認知症になるという遺伝子をもっていれば、いずれ認知症になるということがわかります。そういう遺伝子はみんなもっているのです。
ニーチェが言ったように「人間は病む生きもの」で、みんな何かの欠陥はもっているのです。病んでも、その人に健康感をもたらせること。それがQOLという考え方に通じるということをみなさんに知ってほしいのです(図4)。
(2009年12月22日)
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