第58回 医学のアート
アートとタッチ
ウィリアム・オスラー(1849−1919)は、「医学はサイエンスに基礎づけられたアートである」と言いました。「サイエンス」というのは知識と技術を意味します。
そして「アート」というのは、技術にも含まれますが、病む人にタッチをするそのタッチの仕方で、経験や態度が問題とされます。患者から病歴を聞くときの椅子の位置、姿勢、テーブルを隔てて患者と相対する問診にもそのタッチがあり、そこにアートが具現されることになります。
それは音楽でいえば、ベートーベンやドビュッシー、バッハの音楽を演奏するとき、同じ音楽理論を勉強し、同等の高いテクニックをもった音楽家であっても、私たちの耳にはそれぞれの演奏者によって曲の味わいの違いを感じます。だから私たちは演奏家を選んで音楽会に行くのです。誰もが同じ音楽を演奏するのではありません。それをパフォーマンスといいます。そのように理論とテクノロジーをみんなの前でどのように表現するか、その表現の仕方がアートです。
つまり、理論とテクノロジーをどのように目の前の患者に適用するかというのが、人間性を重んじた医療ということになります。そういう意味では、音楽と医療は非常に似ているところがあります。
そして「アート」というのは、技術にも含まれますが、病む人にタッチをするそのタッチの仕方で、経験や態度が問題とされます。患者から病歴を聞くときの椅子の位置、姿勢、テーブルを隔てて患者と相対する問診にもそのタッチがあり、そこにアートが具現されることになります。
それは音楽でいえば、ベートーベンやドビュッシー、バッハの音楽を演奏するとき、同じ音楽理論を勉強し、同等の高いテクニックをもった音楽家であっても、私たちの耳にはそれぞれの演奏者によって曲の味わいの違いを感じます。だから私たちは演奏家を選んで音楽会に行くのです。誰もが同じ音楽を演奏するのではありません。それをパフォーマンスといいます。そのように理論とテクノロジーをみんなの前でどのように表現するか、その表現の仕方がアートです。
つまり、理論とテクノロジーをどのように目の前の患者に適用するかというのが、人間性を重んじた医療ということになります。そういう意味では、音楽と医療は非常に似ているところがあります。
医療者の気持ちを合わせる
声のトーンもとても大切です。オーケストラは本番の前にそれぞれの楽器の音合わせ、いわゆるチューニングをしますが、それは「ド」の音ではなく、「ラ」の音で合わせます。ラの音というのはチューニングしやすい、みんなの気持ちが一緒になる音なのです。
神奈川県平塚市近くの中井町にはライフ・プランニング・センターが経営しているピースハウスというホスピスがあります。ここでソプラノ歌手の島田祐子さんのお母さんが、がんで3カ月ほど療養して亡くなられたのですが、半年ごとに遺族の方々が集まって亡くなられた方をしのぶ会に3人の島田さんの姉妹がこられたことがあります。
その席で、島田さんから、
「先生に質問があります」
と聞かれました。
「この病院では看護師に絶対音感の教育をしているのですか」
「どうしてそのようなことを聞かれるのですか」
と聞きますと、
「ナースが全員、患者さんに「ラ」の音で話しかけているからです」
というのです。本当のチーム医療は、気持ちを合わせると、呼びかける音調も同じようになるのだということを私は教えられました。これは大切なことです。
神奈川県平塚市近くの中井町にはライフ・プランニング・センターが経営しているピースハウスというホスピスがあります。ここでソプラノ歌手の島田祐子さんのお母さんが、がんで3カ月ほど療養して亡くなられたのですが、半年ごとに遺族の方々が集まって亡くなられた方をしのぶ会に3人の島田さんの姉妹がこられたことがあります。
その席で、島田さんから、
「先生に質問があります」
と聞かれました。
「この病院では看護師に絶対音感の教育をしているのですか」
「どうしてそのようなことを聞かれるのですか」
と聞きますと、
「ナースが全員、患者さんに「ラ」の音で話しかけているからです」
というのです。本当のチーム医療は、気持ちを合わせると、呼びかける音調も同じようになるのだということを私は教えられました。これは大切なことです。
患者との信頼関係を築く
よきケアの提供者になるためには、一体どういうことを学ぶべきなのでしょうか。ケアをする人がいくら「頑張って」と掛け声をかけても、患者にそのような気持ちが起こらなければ効果は上がりません。
患者には、この人は私を本当に知ってくれており、しかも大切に思ってくれているという、医療提供者との心の交流が必要なのです。
患者には、この人は私を本当に知ってくれており、しかも大切に思ってくれているという、医療提供者との心の交流が必要なのです。
(2009年10月14日)
- この連載に関するお問い合わせ先
-
◆「新老人の会」に関するお問い合わせ先◆
財団法人ライフ・プランニング・センター「新老人の会」事業部
〒102-0093 東京都千代田区平河町2-7-5 砂防会館5F
TEL:03-3265-1907
FAX:03-3265-1909
ホームページ:http://www.lpc.or.jp/senior_soc/ -
◆日野原重明先生が顧問をつとめている「NPO法人医療教育情報センター」に関するお問い合わせ先◆
医療教育情報センター事務所
〒151-0053 東京都渋谷区代々木2-27-16 ハイシティ代々木303
TEL:03-5333-0083
FAX:03-5333-0084
ホームページ:http://www.c-mei.jp/