第56回 リハビリテーションの本来の意味
リハビリテーションの広い概念
リハビリテーションという言葉は、「リハビリ」と短縮された言葉で、すっかり医療の分野で定着するようになりました。いまや総合病院であればどこでも運動療法室や機能回復室などが設けられ、脳卒中後の腕や脚が「まひ」した人や、あるいは腕などを骨折して筋力低下をきたした人たちが熱心に運動訓練を受けている姿を見ることができます。
老人の場合には、介護保険制度でも行われている介護予防が、よく知られるところです。現在では、病気や障害を負った際に受ける一連の治療のひとつともなっています。
しかし、リハビリテーションの本来の意味は、医療的なものに限らず、教育分野や職業分野、社会的なものまで含むもっと広い概念をもっています。その理由をお話しします。
老人の場合には、介護保険制度でも行われている介護予防が、よく知られるところです。現在では、病気や障害を負った際に受ける一連の治療のひとつともなっています。
しかし、リハビリテーションの本来の意味は、医療的なものに限らず、教育分野や職業分野、社会的なものまで含むもっと広い概念をもっています。その理由をお話しします。
リハビリテーションの父
広くリハビリテーション医療に関わる人は誰でも、「リハビリテーションの父」と呼ばれるハワード・ラスク博士(1901−1989)の名前を知っています。わずか半世紀あまり前、多くの医師は、リハビリテーションは“医学の本流から外れたどうでもいい仕事”と考えていました。その当時、ラスクは、「医師はただ薬指やつま先など身体の部分のみを治療するのでなく、人間全体を治療するべきだ」と主張しました。
リハビリテーション医療の原点は、まさにこの「人間全体を治療する」という点にあることをしっかりと確認したいと思います。
ラスクがリハビリテーションに関わるようになった経緯は、第二次世界大戦中、軍医として大勢の戦傷者の診療にあたったことにあります。
身体を負傷した兵士を見て、「ただ病気を診断して生命を救うことだけでは十分でない」と思い、また、「熱が下がり痛みが消えた段階で“治療した”としてそのまま放置し、それ以上の回復に手を差し伸べないとすれば、その患者たちは“私の命を救ってはくださった。でも何のために?”というだろう」という思いに駆られたからだといわれます。
リハビリテーションは、まず欠損した身体の機能を補うところから始まり、その後、脳血管障害などによって身体機能を失った患者の機能回復などにも適用されるようになりました。医学と生理学に裏付けられた理学療法や作業療法の効果は、たちまち一般の人々にリハビリテーションという考え方を浸透させるに至りました。日本にチーム医療という概念が本当に理解されるようになったのは、リハビリテーション医療の分野での効果が大いに貢献しているのではないかと思われます。
私は昭和12(1937)年に京都大学医学部を卒業しましたが、当時はリハビリテーションという言葉はありませんでしたが、聴診とか触診、視診などの診察所見を表現するのに「理学的所見」という言葉を使っていました。それらをどうして理学的所見というのかと私は以前から疑問に思っていました。
私は終戦後間もない1951年にアメリカに留学して気づいたのですが、どうも日本では、physic(医術)とphysics(物理学)とを間違って翻訳したのではないかということでした。
最近は複雑な器具を用いてリハビリテーションを行いますから、その意味では理学的という言葉を使ってもいいのですが、本来はphysicであって、英国の古い内科の教科書は『Textbook of Physic』であり、それが『Textbook of Medicine』と呼ばれていました。Physic あるいはMedicineという言葉は非常に広い意味をもっており、“医”全体を指したり、内科(internal medicine)を指したりするようになっていました。
リハビリテーション医療の原点は、まさにこの「人間全体を治療する」という点にあることをしっかりと確認したいと思います。
ラスクがリハビリテーションに関わるようになった経緯は、第二次世界大戦中、軍医として大勢の戦傷者の診療にあたったことにあります。
身体を負傷した兵士を見て、「ただ病気を診断して生命を救うことだけでは十分でない」と思い、また、「熱が下がり痛みが消えた段階で“治療した”としてそのまま放置し、それ以上の回復に手を差し伸べないとすれば、その患者たちは“私の命を救ってはくださった。でも何のために?”というだろう」という思いに駆られたからだといわれます。
リハビリテーションは、まず欠損した身体の機能を補うところから始まり、その後、脳血管障害などによって身体機能を失った患者の機能回復などにも適用されるようになりました。医学と生理学に裏付けられた理学療法や作業療法の効果は、たちまち一般の人々にリハビリテーションという考え方を浸透させるに至りました。日本にチーム医療という概念が本当に理解されるようになったのは、リハビリテーション医療の分野での効果が大いに貢献しているのではないかと思われます。
私は昭和12(1937)年に京都大学医学部を卒業しましたが、当時はリハビリテーションという言葉はありませんでしたが、聴診とか触診、視診などの診察所見を表現するのに「理学的所見」という言葉を使っていました。それらをどうして理学的所見というのかと私は以前から疑問に思っていました。
私は終戦後間もない1951年にアメリカに留学して気づいたのですが、どうも日本では、physic(医術)とphysics(物理学)とを間違って翻訳したのではないかということでした。
最近は複雑な器具を用いてリハビリテーションを行いますから、その意味では理学的という言葉を使ってもいいのですが、本来はphysicであって、英国の古い内科の教科書は『Textbook of Physic』であり、それが『Textbook of Medicine』と呼ばれていました。Physic あるいはMedicineという言葉は非常に広い意味をもっており、“医”全体を指したり、内科(internal medicine)を指したりするようになっていました。
スピリットを与える
ラスクがリハビリテーションに取り組んだきっかけは、ラスクの師であるモリス・ピアソルの次の言葉“Not add years to age,but add life to age”を教えられたことによるといわれています。日本語にしますと、「われわれは、人々のいのちに齢を加えてきたが、今の齢にいのちを与えるのもわれわれ医師の責任である」ということです。
文明社会においては、この半世紀に人間はたいへんな長寿を享受できるようになってきましたが、そればかりでなく病気や障害のある人に、生きがいを与えること、こういうようにすればもっと前向きに生きることができるというスピリットを与える、それがリハビリテーションだということです。
生まれつき病気のある人、戦争で障害を受けた人、あるいは病気をわずらった患者に手術などの医療を施すことによっていのちを与える、生きがいを与える、希望を与えるということがリハビリテーションの本質なのです。
文明社会においては、この半世紀に人間はたいへんな長寿を享受できるようになってきましたが、そればかりでなく病気や障害のある人に、生きがいを与えること、こういうようにすればもっと前向きに生きることができるというスピリットを与える、それがリハビリテーションだということです。
生まれつき病気のある人、戦争で障害を受けた人、あるいは病気をわずらった患者に手術などの医療を施すことによっていのちを与える、生きがいを与える、希望を与えるということがリハビリテーションの本質なのです。
(2009年9月14日)
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