第28回 患者中心の病気の予防と医療(6)
生活習慣病への対応
その人の病気の原因となっている習慣を早く改めるようにしなければ、いくら人間ドックで病気を早期発見したところで、それではただ「検査をする」というだけになってしまいます。
これまで成人病と呼ばれてきた病気、つまり最近問題になっているメタボリック症候群、高血圧、糖尿病、高脂血症、ある種のがんなどは、その人のこれまでの生活習慣によってもたらされているものだと考え、「習慣病」という言葉を提唱しました。
そして早速、1978年に「習慣病への対応」というリーフレットを作り、厚生省(当時)や一般の人々への啓蒙を始めました。その頃日本人の死因の上位を占めていた脳卒中の原因の一つが日本人の塩分摂取量が多すぎることとされていたので、「食塩の摂取は一日10g以下に落とすべきだ」と書いたのですが、厚生省(当時)が言っている「一日12g」と合わないので、「あまり勝手なことを言わないように」という注意を受けたことがありました。
厚生省がようやく「成人病」を「生活習慣病」へと表現を変えるようになったのは、1996年になってからでした。これは前述したように厚生大臣(当時)の諮問機関である公衆衛生審議会成人病難病対策部会で討議され、「生活習慣病」の概念導入を求める意見を厚生大臣に具申したことによります。
生活習慣病と称される病気は、一度かかるとほとんどの場合には治らない慢性病であって、病気を発見してから治療をするのでは遅すぎるのです。それよりももっと早く、日頃の生活習慣を考えて病気にならないように日々を送ることが必要だということです。ある新聞は、「これまで“早期発見、早期治療”の観点で進められて成人病対策を、病気の予防に重点を置いた対策に転換するための第一歩」と評しました。
これまで成人病と呼ばれてきた病気、つまり最近問題になっているメタボリック症候群、高血圧、糖尿病、高脂血症、ある種のがんなどは、その人のこれまでの生活習慣によってもたらされているものだと考え、「習慣病」という言葉を提唱しました。
そして早速、1978年に「習慣病への対応」というリーフレットを作り、厚生省(当時)や一般の人々への啓蒙を始めました。その頃日本人の死因の上位を占めていた脳卒中の原因の一つが日本人の塩分摂取量が多すぎることとされていたので、「食塩の摂取は一日10g以下に落とすべきだ」と書いたのですが、厚生省(当時)が言っている「一日12g」と合わないので、「あまり勝手なことを言わないように」という注意を受けたことがありました。
厚生省がようやく「成人病」を「生活習慣病」へと表現を変えるようになったのは、1996年になってからでした。これは前述したように厚生大臣(当時)の諮問機関である公衆衛生審議会成人病難病対策部会で討議され、「生活習慣病」の概念導入を求める意見を厚生大臣に具申したことによります。
生活習慣病と称される病気は、一度かかるとほとんどの場合には治らない慢性病であって、病気を発見してから治療をするのでは遅すぎるのです。それよりももっと早く、日頃の生活習慣を考えて病気にならないように日々を送ることが必要だということです。ある新聞は、「これまで“早期発見、早期治療”の観点で進められて成人病対策を、病気の予防に重点を置いた対策に転換するための第一歩」と評しました。
生活習慣をデータベース化する
私は1992年から、健診を受けた人の生活習慣をデータにすることを考えまして、生活習慣ドック“ライフ・ハビット・インベントリー(life habit inventory)”という名前をつけて、これを商品化(JMIC・日本医療情報システム株式会社)しました。
これをチェックすることで習慣の変容をもたらすことができるというものです。点数制になっていて、200余項目のチェックリストの答えをコンピュータで処理するというものです。
それには、食習慣ばかりでなく、生活習慣にも大きなファクターを配分しています。運動はどうか、生活習慣の堅実さはどうか、あるいは健康観はどうか、何を健康と考えるのか。そして、その人の行動の動機づけは何によっているのか、健康への関心はどうか、精神的な安定度はどうかなど、その人を行動づけているファクターを集めて採点して、その結果についてアドバイスをします。
これをチェックすることで習慣の変容をもたらすことができるというものです。点数制になっていて、200余項目のチェックリストの答えをコンピュータで処理するというものです。
それには、食習慣ばかりでなく、生活習慣にも大きなファクターを配分しています。運動はどうか、生活習慣の堅実さはどうか、あるいは健康観はどうか、何を健康と考えるのか。そして、その人の行動の動機づけは何によっているのか、健康への関心はどうか、精神的な安定度はどうかなど、その人を行動づけているファクターを集めて採点して、その結果についてアドバイスをします。
行動科学の重要性
よくない習慣を直すのには3つの段階があります。
第一段階は、正しい健康の知識を得るということ、第二は、それに達するための動機づけ(モチベーション)、そして三つ目が実行へのドライブをどうしてかけるかというテクニックです。このテクニックは非常に必要であって、行動科学が専門にする分野でもあります。行動科学とは、人間の行動・行為を科学的に研究し、その一般法則を解明しようとする学問のことです。
ところが、日本の医学教育や看護教育では行動科学をあまり教えていませんでした。健康行動を促すにはどうしたらいいのか、ただ説教をするだけでは効果がないということをなかなか認めようとはしませんでした。太りすぎの医師、あるいはタバコの好きな医師が、いくら痩せるように勧めたり禁煙のことを話したりしても、当然、患者さんにとっては説得力をもちません。
患者さんというのは、医師の言うこと、看護師の言うことよりも、友だちの言うことを信じてしまうという傾向があります。教壇からいくら正しいことを教えてもなかなか説得力をもたないのです。ところが、同じような環境にいる友だちが言うと、「それじゃ、だまされたつもりでやってみるか」というようなことになって、民間療法などにかなりのお金を使ったりします。
EBM(科学的証拠に基づいた医療)の裏づけのないものにお金を使う、これでは医療費の無駄づかいということになってしまいます。米国は高額すぎる医療費が問題になっていますが、健康食品とか民間療法など、信頼のおけないことに多額のお金を使っているというので、ハーバード大学では代替療法の研究をもっと科学的に行うために新しく大きな研究所をつくりました。
第一段階は、正しい健康の知識を得るということ、第二は、それに達するための動機づけ(モチベーション)、そして三つ目が実行へのドライブをどうしてかけるかというテクニックです。このテクニックは非常に必要であって、行動科学が専門にする分野でもあります。行動科学とは、人間の行動・行為を科学的に研究し、その一般法則を解明しようとする学問のことです。
ところが、日本の医学教育や看護教育では行動科学をあまり教えていませんでした。健康行動を促すにはどうしたらいいのか、ただ説教をするだけでは効果がないということをなかなか認めようとはしませんでした。太りすぎの医師、あるいはタバコの好きな医師が、いくら痩せるように勧めたり禁煙のことを話したりしても、当然、患者さんにとっては説得力をもちません。
患者さんというのは、医師の言うこと、看護師の言うことよりも、友だちの言うことを信じてしまうという傾向があります。教壇からいくら正しいことを教えてもなかなか説得力をもたないのです。ところが、同じような環境にいる友だちが言うと、「それじゃ、だまされたつもりでやってみるか」というようなことになって、民間療法などにかなりのお金を使ったりします。
EBM(科学的証拠に基づいた医療)の裏づけのないものにお金を使う、これでは医療費の無駄づかいということになってしまいます。米国は高額すぎる医療費が問題になっていますが、健康食品とか民間療法など、信頼のおけないことに多額のお金を使っているというので、ハーバード大学では代替療法の研究をもっと科学的に行うために新しく大きな研究所をつくりました。
動機づけがポイント
「動機づけ」というのは、自分が納得して、そして意思決定をして、新しい習慣を取り入れるにはどうするかということです。これは個人に動機づけをすること以外に、よい環境、よい友だちのなかに入れることなど、その集団の行動に同調させるというようなこともテクニックとしては必要です。
たとえば、禁煙の行動変容については、(図)にあるように、何を言っても無関心な人はもう相手になりません。
図 行動変容
たとえば、禁煙の行動変容については、(図)にあるように、何を言っても無関心な人はもう相手になりません。
図 行動変容
しかし、何らかの関心がある人、たとえば友だちが心筋梗塞になったとか、ある有名人が肺がんになったとかということを聞くと、少しずつ心の準備が始まって、それでは自分も気をつけようかという気になり始めたころに、ぐっとドライブをかける。それで禁煙するのに成功させることができたりします。
けれども、半数の人は継続期の間に気持ちがたるんでしまう。どうすればこれを維持させられるか。それが行動療法の宿題というわけです。
私たち医療者はこれまで人間の健康を臓器中心に考えてきました。そしてまた、同じように疾病の診断や治療をできるだけいい方法で、しかも安価でできるかという研究はしてきたのですが、患者中心(ペイシェント・オリエンテッド)の研究、つまり、診断や治療方法がどの程度に安全性を保証するものかという患者さんの側に立ったリサーチがこれまでは少なかったのです。
けれども、半数の人は継続期の間に気持ちがたるんでしまう。どうすればこれを維持させられるか。それが行動療法の宿題というわけです。
私たち医療者はこれまで人間の健康を臓器中心に考えてきました。そしてまた、同じように疾病の診断や治療をできるだけいい方法で、しかも安価でできるかという研究はしてきたのですが、患者中心(ペイシェント・オリエンテッド)の研究、つまり、診断や治療方法がどの程度に安全性を保証するものかという患者さんの側に立ったリサーチがこれまでは少なかったのです。
(2008年5月19日)
- 日野原先生が顧問をつとめている特定非営利活動法人医療教育情報センターからの市民公開シンポジウムのお知らせ
-
【テーマ】第6回 市民公開シンポジウム「現代の養生訓―健康に生きる」
現代に生きる我々はどのようにして病気を予防し、いつまでも健康でいることができるのかを考えます。
【開催日時】平成20年6月14日(土)12時30分より(12時開場)
【会場】ベルサール西新宿
【参加料】入場無料
※詳細は以下をご参照ください。
医療教育情報センターのホームページ http://www.c-mei.jp/
(シンポジウムのページは左の柱から「シンポジウム&セミナー」を選んでください)