再録・誌上ケース検討会
このコーナーは、月刊誌「ケアマネジャー」(中央法規出版)の創刊号(1999年7月発刊)から第132号(2011年3月号)まで連載された「誌上ケース検討会」の記事を再録するものです。
同記事は、3人のスーパーバイザー(奥川幸子氏、野中猛氏、高橋学氏)が全国各地で行った公開事例検討会の内容を掲載したもので、対人援助職としてのさまざまな学びを得られる連載として好評を博しました。
記事の掲載から年月は経っていますが、今日の視点で読んでも現場実践者の参考になるところは多いと考え、公開することと致しました。
第66回 苦手な介護者とのかかわり方を考える
(2004年7月号(2004年6月刊行)掲載)
スーパーバイザー
奥川 幸子
(プロフィールは下記)
事例提出者
Tさん(訪問看護ステーション・看護師)
提出理由
クライアントは独居の86歳の女性。痴呆症状があり、日常生活について準備、確認、声かけが必要で、毎日サービス(訪問介護、訪問看護、配色サービス)が入っている。
キーパーソンは、別居の長女(64歳)。週に1回、2時間ほどかけて来訪し、一泊している。また、毎日内服確認の電話をするなど精一杯介護しているためか、援助者には常に攻撃的な言動で接している。
長女の大変さを受け止めて接しようと思うが、事実ではないことも感情的になって攻撃されるため、つい反論してしまい、受け止めることに徹することができない。長女への接し方を振り返り、今後のかかわり方を考えたい。
事例の概要
クライアント:Fさん、86歳、女性
プロフィール:女学校を卒業後、結婚。夫と子どもに尽くし、娘も大学まで出して、教育熱心だった。自宅は持ち家で長く(30年くらい)住んでいるが、近所付き合いはあまりない。
几帳面な性格で、礼儀を重んじ、挨拶も大切にしていた。夫を亡くした後は独居で、「子どもには迷惑をかけたくない」と何とか自立した生活を送っていた。
既往歴等:
53歳 狭心症で内服開始。
81歳 白内障の手術(両目)。
83歳 転倒し、腰椎圧迫骨折と腰痛のため、A病院に入院。骨粗鬆症を指摘される。
84歳 検査入院で肝臓がんが発見される(その後、月1回通院。がんの進行はほとんどなし)。
現在の状況:要介護4
食事:普通食。準備があれば自力で摂取。
排尿:トイレでするが、時に間に合わず失敗あり。はくタイプの紙おむつを使用。たまに、汚したおむつを洗濯機に入れたり、こたつに入れたりする。
排便:毎日下剤内服。2日に1度の排便。
入浴:週2回、洗体、洗髪は看護師の一部介助。浴槽の出入りは手すりを使って何とか可能。
更衣:口頭指示が必要。衣類の準備も介助。
移動:室内は何とかつかまり歩行可能。屋外、長距離は車いすを使用。不安定さはなし。
服薬管理:看護師が日時を書いて準備。ヘルパーなど訪問者が声をかける。飲み忘れあり。
金銭管理:長女が管理(通帳はFさん宅)。
炊事:以前は調理方法や味にこだわっていたが、現在はヘルパーにまかせている。
洗濯:ヘルパーが介助。
痴呆症状:物忘れあり。時間の感覚は鈍っている。人の認識は一応可能で、きちんと挨拶をし、気遣いをすることもできる。布団や洗濯物などは、取り込むことができる。
経済状況:年金生活。月10万円程度。サービスの利用と日常生活費、通院の費用などで不足する分は長女が負担している。
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プロフィール
奥川 幸子(おくがわ さちこ)
対人援助職トレーナー。1972年東京学芸大学聾教育科卒業。東京都養育院附属病院(現・東京都健康長寿医療センター)で24年間、医療ソーシャルワーカーとして勤務。また、金沢大学医療技術短期大学部、立教大学、日本社会事業大学専門職大学院などで教鞭もとる。1997年より、さまざまな対人援助職に対するスーパーヴィジョン(個人とグループ対象)と研修会の講師(講義と演習)を中心に活動した。主な著書(および共編著)に『未知との遭遇~癒しとしての面接』(三輪書店)、『ビデオ・面接への招待』『スーパービジョンへの招待』『身体知と言語』(以上、中央法規出版)などがある。 2018年9月逝去。