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福祉の現場で思いカタチ
~私が起業した理由わけ・トライした理由わけ

志をもってチャレンジを続ける方々を、毎月全4回にわたって紹介します!

【毎週木曜日更新】

第75回④
認定特定非営利法人よりどりみどり
就労継続支援B型 みどり工房・みどり食堂 浅野美花さん

利用者さんには生活を彩りよく、
人生をよりどりみどりに主体的に生きてほしい

プロフィール 浅野美花(あさの みか) 

母の統合失調症発症による経験と、飲食業での専門性を活かし、認定特定非営利法人よりどりみどりに勤める。よりどりみどりでは、従たる事業所みどり食堂をおもに担い、食堂運営のほか区役所や区立図書館内カフェスペースでのお弁当販売や、イベントではお菓子や手工芸の販売もおこなっている。

取材・文 毛利マスミ


前回は、浅野さんが精神保健福祉の世界に入られた理由などについておうかがいました。今回は、認定NPOとしてのもう一つの柱である啓発活動についてと、みどり工房・食堂の今後についてなどお聞きします。

――認定NPO法人よりどりみどりの活動の、もう一つの柱が精神保健福祉に関する啓発活動だとうかがいました。どのような内容か、教えてください

 精神障害を抱えた人が、住み慣れた地域で暮らしていくために地域や周囲の理解を深めることを目的に、イベントや地域のみなさんも参加できるプログラムを企画しています。ヨガやハイキングなどを行う「健康づくり」「地域のお祭り・イベント参加」「ゴミ拾いなど社会貢献活動」などありますが、月に一度、地域の区民会館を借りておこなう「どなたでも食堂〜お夕ご飯の日〜」には、毎回30〜50名集う、楽しい会になっています。メンバーさん、地域の人たち、大学生ボランティア、みどり工房のOB、精神保健福祉の仕事に興味がある方など、老若男女、多種多様な方々が集まり、おいしい料理とおしゃべりを楽しんでいます。

――毎日の食堂運営にさまざまなイベント開催と、本当にお忙しい毎日だと思いますが、浅野さんの仕事に対するやりがいを教えてください。

 精神疾患の場合、私の母のケースもそうでしたが、「危害を加えるのではないか」という誤った認識から、拘束されたり、社会から孤立してしまったりすることも少なくなく、多分、うちのメンバーさんも多かれ少なかれ周囲の無理解を経験してきていると思います。
 子どもの頃からの疾患であれば、家族も時間をかけて理解を進めることも多いとは思いますが、やはり成人期に発症することがほとんどですので、家族の理解を得ることも難しいという現状があります。親としても、「就職までしたのになぜ?」と、納得ができないんですよね。もちろん、家族ぐるみで支えてらっしゃる方もいらっしゃいますが、家族との縁も切れている方も多い。

 私が接するメンバーさんは本当にみなさん、心優しい。精神の病にかかる方は、心が繊細でやさしい方が多いと日々、感じています。
 きっとみなさん、ふつうに生活していたけれど、色々なストレスが多い出来事が積み重なって、最後にそれが溢れ出るように発症してしまったのだと。「耐性が足りない」と言われればそれまでですが、優しいが故に「自分が悪い」と思い込み、病んでしまった人が非常に多いのではないでしょうか。

 たぶんメンバーさんは、自分の毎日の生活を送るだけでも手いっぱいなのではないか? と思うんです。それでもみどりにがんばって通ってきてくださって、色々なことにチャレンジして、少しでも社会とつながろうとモチベーションを持って活動してくれています。それでも、なかなかうまくいかないことも多いなか、誰のせいにするでもなく、一生懸命生きて、通ってきてくれているんです。
 そして、みなさん本当に純粋に多くのことを考えてくださっていて、「ありがとう」とか感謝の気持ちを素直に表現できる方がとても多い。
 そうしたメンバーさんと接するのは、わたしにとっても力になるし、心からの励みになっています。

 わたしの母が発症した20年前に比べたら、 社会の精神疾患への理解は進みましたが、
 やはり、 精神疾患の方がニュースになることもありますよね。たった一つの出来事で「やっぱり」と思われ、精神疾患であるというだけでセンセーショナルに取り上げられちゃうんです。
 もっと社会の理解が進めば、苦しむ家族・当事者がいなくなると思います。

――いまの課題や今後について教えてください

 うちの法人の名前である「よりどりみどり」は、「個性の異なる色々な人が集まる場」、「事業所として、よりどりみどりに作業を選んで取り組むことができる場」という意味が込められています。
 私が担当しているメンバーさんは、一般就労か障害者雇用で就職したいと何度もチャレンジしています。受ける度に落ちてはいますが、それでも、何十回と挑戦を続けています。こうした方のなかには、「やはり企業は無理だから、A型事業所に切り替えようか」と、就労をあきらめてしまう方も大勢いらっしゃいます。
  障害者雇用に対して、ずいぶんと社会の理解は進んできたとは思うのですが、まだまだ足りないというのが現実です。いまだに「よりどりみどり」の人生ではなく、自分の思い描く未来につながらない。わたしは、そうした利用者さんの思い描く未来へつながる施設でありたいと願っています。

 今後については、パソコンを学びたいというメンバーさんは多いので、仕事とつなげる意味においても、もっと触れる機会を多くつくっていきたいと考えています。
 また食堂での仕事は、体を動かすことが多いので、薬を服用しているメンバーさんにとっては、副作用で、動きが緩慢になったり疲れやすくなったりする方も多いので、なかなか難しいということがあります。ですから、食堂の仕事にプラスして、この場所を拠点になにか新しい請負の仕事を始めてみたいとも考えています。つねに社会に合わせてアップデートすることは大事だと思っているので、どんどん取り入れたい気持ちはあるのですが……。社会のスピードが早すぎて、ついていくのはなかなか大変なんですけどね。

 メンバーさんはみなさん、すばらしい人間性をもっていますので、よいつながりさえ得られたら、世の中で気持ちよく生きていかれるのです。ここでの活動を通して、生活を彩りよく、よりどりみどりに主体的に生きてほしいと心から思っています。

ありがとうございました。

みどり食堂から徒歩10分ほどの場所にある、みどり工房。ここでは、地域の清掃業務や七宝細工、皮革工芸品などのほか、封入作業などを和気あいあいとした雰囲気のなかでおこなっている。

集中力や繊細さが必要な皮革工芸をあつかう事業所は減ってきているが、みどり工房では商品をつくり続けている。

インタビューを終えて
 常に困難を抱える人の立場からていねいに活動を続けることが、当事者さんを根っこから支えていることがよくわかりました。私たちを取り巻く社会的環境は、みどり工房が産声を上げた時代から大きく変化しましたが、私たちの精神障害者への意識はまだまだ旧来にとどまっているように感じます。「ともに生きる」ことが当たり前な社会になるよう、意識のアップデートが求められています。

●インタビュー大募集
「このコーナーに出てみたい(自薦)、出してみたい(他薦)」と思われる方がいらっしゃいましたら、terada@chuohoki.co.jp までご連絡ください。折り返し連絡させていただきます。

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100歳時代の新しい介護哲学

「ファンタスティック・プロデューサー」で、ノンフィクション作家の久田恵が立ち上げた企画・編集グループが、全国で取材を進めていきます

本サイト : 介護職に就いた私の理由(わけ)が一冊の本になりました。

花げし舎編著「人生100年時代の新しい介護哲学:介護を仕事にした100人の理由」現代書館