福祉の現場で思いをカタチに
~私が起業した理由 ・トライした理由 ~
志をもってチャレンジを続ける方々を、毎月全4回にわたって紹介します!
【毎週木曜日更新】
第75回①
認定特定非営利法人よりどりみどり
就労継続支援B型 みどり工房・みどり食堂 浅野美花さん
四半世紀にもわたる活動のはじまりは
子どもの未来のために立ち上げた母たちの思い
プロフィール 浅野美花(あさの みか)
母の統合失調症発症による経験と、飲食業での専門性を活かし、認定特定非営利法人よりどりみどりに勤める。よりどりみどりでは、従たる事業所みどり食堂をおもに担い、食堂運営のほか区役所や区立図書館内カフェスペースでのお弁当販売や、イベントではお菓子や手工芸の販売もおこなっている。
取材・文 毛利マスミ
――四半世紀にわたり、精神障害者福祉の活動を続けられていらっしゃいますが、活動の歩みを教えてください
認定特定非営利活動法人よりどりみどり(以下、よりどりみどり)では、障害者総合支援法に基づく障害福祉サービス事業(就労継続支援B型事業所「みどり工房」の運営)と一般市民との交流・啓発活動等の事業(精神保健福祉に関する啓発活動等)の二本柱で事業展開をしています。精神科を受診している精神障害者・精神障害を持つ軽度知的障害者を対象に、就労継続支援B型事業所である「主たる事業所みどり工房」と「従たる事業所みどり食堂(以下、みどり食堂)」で受け入れています。
約26年前の1998年に、精神障害の子どもをもつ親御さんたちが「自分たちの子どもの未来のために」と立ち上げたのが、私たちの活動の前身です。東京の代々木駅から徒歩1分の地で、当事者の方のご自宅の一角を間借りしてのスタートでした。当初はおもに、親御さんたち、当事者、そして地域の方々が、不定期に集まる居場所だったそうです。
いまでは、当事者家族が活動を立ち上げることは少なくありませんが、当時はこうした活動自体がとても珍しく、画期的な取り組みだったと聞いています。
その後、2000年の社会福祉基礎構造改革、2003年の支援費制度の開始など障害者福祉制度が大きく変わるなか、2002年には手弁当ながらも週5日の定期開所をスタートしました。そして2003年には「東京都精神障害者共同作業所みどり工房」と名称をあらため、活動を本格化。さらに2010年3月に、東京都より「特定非営利活動法人よりどりみどり」の設立認証を受けると、翌年には食品営業許可も取得し、従来からの手工芸品、受託清掃、下請け封入作業に加え、クッキーなどのお菓子やお弁当づくりをはじめるなど、活動の幅を広げるようになりました。
さらに翌年の2011年には、東京都の「障害福祉サービス事業所」の指定を受け、就労継続支援B型事業所となり、2013年にはコミュニティカフェ部門もスタート。現在のみどり食堂の前身となるgreencafeも開き、お弁当販売も本格的に手がけるようになりました。また、2017年には認定特定非営利法人となり、2020年にはgreencafeからみどり食堂に名称をあらため、少しだけ広い場所で活動を開始。年月をかけて地域に根付いた活動を続けてきました。
現在の渋谷区神宮前と千駄ヶ谷に拠点を移したのは、2023年のこと。じつは、事業所のある区画が立ち退きの対象となったことから、引越しを余儀なくされたんです。
新しい物件は、できれば馴染みのある代々木近辺を探したのですが、なかなかよい物件に巡り会わず、食堂の閉鎖も考え始めるほどでした。でも、ご縁に恵まれて福祉に理解のある大家さんに出会い、現在のみどり食堂の物件への引越しを決めました。そのタイミングで、利用者(以下メンバー)の負担を減らすため、食堂から徒歩10分ほどの場所に工房の移転を決め、現在は渋谷区千駄ヶ谷と神宮前を拠点に活動をしています。
――お菓子づくりをする事業所は多いですが、食堂運営まで手がける事業所は珍しいのではないでしょうか。
はい。食堂運営まで手がけているB型事業所は、渋谷区ではうちだけだと聞いています。
メンバーさんは、ふだん一般の方と接する機会は少ないですので、接客するという経験は、メンバーさんにとってとても励みになる活動だと感じています。
食堂を担ってくれているメンバーさんのなかには、かつて栄養士として仕事をしていた方、実家が飲食店経営で自身も家業を手伝っていた方など、飲食業のプロとして活動していた方をはじめ、お客様と接するのが好きな方などが集まって、月曜から金曜日のランチやお弁当を提供しています。
工房での食事提供やみどり食堂で使う食材の買い出しもメンバーさんにお願いしているのですが、間違ったものを買ってきてしまうことも、よくあること。「ランチメニューは豚しゃぶで!」と思っていても、「鶏肉を買ってきた」なんてことは日常茶飯事です。メンバーさんは、ふだん買い物に行くことも少ないので、「自分で選んで買う」ということが、じつはとても難しい。
もちろん、買い物リストをもって出かけるのですが、スーパーの陳列棚には、本日のおすすめ商品が手に取りやすいところに並んでいますので、ついつい目移りしてしまい、「これがいいのかな」となってしまうようです。
そんなとき内心、「ランチの献立をどうしよう」とドキドキしつつも、「ありがとう」といって受け取るようにしています。「まちがえた」という指摘には、傷ついてしまう人が多いですから。でもメンバーには、次につなげられるという場合には「次からは気をつけようね」と、伝えるようにしています。ここは、練習する場ですので、失敗しても大丈夫なのです。
買い出しから、こんな調子ですので、その日の献立も買い物の状況次第で、臨機応変にやっていて、毎日が楽しいんですよ。
――ありがとうございました。次回は、活動を続ける上での課題などについておうかがいします。
みどり食堂は、ランチ激戦区の商店街から1本路地を入ったところにある。
開店当初は、メンバーさんが路地に立ち、呼び込みのチラシを配布して広報に努めた。
当事者さんの丁寧な仕事でおいしいランチを提供。お弁当販売では接客もする。
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「ファンタスティック・プロデューサー」で、ノンフィクション作家の久田恵が立ち上げた企画・編集グループが、全国で取材を進めていきます
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花げし舎編著「人生100年時代の新しい介護哲学:介護を仕事にした100人の理由」現代書館