福祉の現場で思いをカタチに
~私が起業した理由 ・トライした理由 ~
志をもってチャレンジを続ける方々を、毎月全4回にわたって紹介します!
【毎週木曜日更新】
第73回②
NPO法人 all smile代表 田村有希さん
エントリーシートを活用して
よりスムーズに撮影できるように
田村 有希(たむら ゆき)さん
NPO法人 all smile代表
ダウン症の長男が通っていた特別支援学校の保護者から「成人の晴れ着姿の撮影をあきらめている」という声を聞く。着付けやヘアメイクの技術を持つ田村さんは、何とかその願いをかなえようと、2009年に「障がい者達の成人を祝う写真撮影会」を発足。2019年NPO法人格を取得。現在、年数回「障がい者達の20歳を祝う写真撮影会」を継続中。Lethe代表。
取材・文 石川未紀
前回は、第一回「障がい者達の成人を祝う写真撮影会」を開催するまでの経緯について伺いました。
――田村さんの熱意が伝わって、多くの方が「障がい者達の成人を祝う写真撮影会」に賛同して協力してくださったのですね。
はい。最初は手探りでした。フェイスブックは開設しましたが、あとはほぼ口コミです。高等部卒業後はいくつかの地域の就労継続支援B型(以下B型作業所)や生活介護などに分かれていきましたので、こんな活動をしているということを口伝えでお知らせしていました。
内訳は衣装、ヘアメイク、着付け、撮影料、六つ切り写真一枚、すべて込みで、10,000円でスタートしまして、現在は12,000円でおこなっています。
――破格ですね。
ええ。前回も申しましたが、衣装を譲っていただけたのは大きかったですね。場所も息子が通うB型作業所の多目的室をお借りしているのですが、主旨に賛同していただいて、一日を通して安く借りることができています。また、始めた当初は、障がいのある方が慣れている学生時代に関わった方にもきていただきました。実はここで撮影したご家族の方などが、私も何か協力できることがあったらやってみたい、とのお声もいただき、いろいろな方の協力があって、成り立っています。そんなこともあり、4年目くらいからは、保護者以外のお手伝いもなく、自分たちのスタッフで運営していけるようになりました。
――田村さんの人を惹きつける力のおかげですね。
口コミで、撮影希望者は集まったのですが、前回も申しましたが、障害は人それぞれ違います。ですから、撮影前には、必ずエントリーシートを書いてもらうようにしています。障がい名を書いていただくだけでなく、こだわりや好きなこと、嫌いなこと苦手なことなどを知ることも私たちにとっては大事です。言葉での声掛けや会話はできるのか、パニックや発作はあるのかなどのチェック項目も設けて、事前に収集できる情報を把握できるようにしています。また、可能な限りご家族の方と電話などで直接お話して留意点などを伺います。
あるとき、事前に予定していた写真の撮影以外にもご家族で撮りたいとおっしゃった方がいらして、障がいのある方はそのことを受け入れられずに、パニックになってしまったことがありました。その後、無事に撮影はできたのですが、その様子を見ていたスタッフが辞めてしまったんです。私たちはもっと細やかにもっと慎重に事前の情報を把握しておかなくてはいけないのだなと感じました。
今年で18回目を迎える撮影会ですが、このエントリーシートは毎年見直されて作り直されています。たくさんの機会を得て、学んだことはたくさんありますが、慣れてはいけないとも思っています。私たちにとっては18回目でも、晴れ着を着る方はいつも初めてなのですから。
――大事な視点ですね。
はい。障がいの重い、軽いではなく、その方の特性を見ることがとても大事なんです。ヘアメイクも普通なら30分以上かけて仕上げるところを20分以内で、振袖も10~15分くらい。袴なら5分くらいで着つけます。
――それはすごいですね。
歩きながら帯を締めたこともあります(笑)。髪の毛を触られるのが嫌だという方もいらっしゃるので、手早くできるだけ触れる時間を多くしないなどの工夫もしています。
――着付け、撮影に至らなかったことはあるのでしょうか?
いいえ、ないです。申し込んで来ていただいた方は全員撮影できています。
――それは着付け等の技術もすばらしいのでしょうね。
さまざまな障がいのある方の着付けをさせてもらって私たちも学ばせてもらっています。また、手早くできるようにスタッフも昨年は着付け担当を4名、ヘアメイク3名の方に手伝いに来ていただきました。より重度な方は私が担当するようにしています。
それぞれの技術はもちろん、チームワークも素晴らしいですね。ありがとうございました。
ヘアメイク中
●インタビュー大募集
「このコーナーに出てみたい(自薦)、出してみたい(他薦)」と思われる方がいらっしゃいましたら、terada@chuohoki.co.jp までご連絡ください。折り返し連絡させていただきます。
「ファンタスティック・プロデューサー」で、ノンフィクション作家の久田恵が立ち上げた企画・編集グループが、全国で取材を進めていきます
本サイト : 介護職に就いた私の理由(わけ)が一冊の本になりました。
花げし舎編著「人生100年時代の新しい介護哲学:介護を仕事にした100人の理由」現代書館