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宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、埼玉大学教育学部にて教鞭をとる。
さいたま市障害者施策推進協議会会長等を務め、埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

劇団わくわく探訪

 先週末、新潟市にある「劇団わくわく」を訪問しました。まさに心躍る劇団です。

次回演目「鼠小僧~其の三」の本読み

 この劇団のホームページから紹介すると、次のようです。

 「劇団わくわくは、『見る人も演じる人もわくわくさせたい』をモットーに結成された劇団です。メンバーは知的障がいのある人とその家族、そして支援者のボランティアさんを中心に構成されています。
 障がいのあるなしにかかわらず、演劇を楽しみ、地域の皆様に、ほのぼのとした笑いを提供しております。」

 「2011年11月、朱鷺メッセで開催された『ぷれジョブフォーラム in 新潟』において、有志で『かさ地蔵』の劇が演じられました。子供たちのユーモラスで予想外?の演技に場内は大きな笑いと感動の渦に包まれました。」

 「そしてその後、自分も演劇やってみたいという人たちが集まって、なんと素人だけで劇団を結成してしまいました。恐れ知らずの劇団員たちは、見よう見まねで試行錯誤を繰り返し、なんとか劇場公演をやるまでになってしまいました。そして何度か公演を重ね、ありがたいことに、今では公演を楽しみにしてくださるファンの方々もいらっしゃるようになりました。まだまだ稚拙な舞台ではありますが、皆様の応援に背を押され、がんばっています。」

 このように劇団わくわくは、「ぷれジョブフォーラム in 新潟」をきっかけにはじまり、劇団として独立したところです。

 「ぷれジョブ」とは、障害のある子どもたちが地域で就労体験する取り組みです。障害福祉サービスではなく、地域の身近な事業所の協力を得て、子どもたちの「体験してみたい」あるいは「できそうな」仕事を選び、ボランティアのジョブサポーターに見守られながら職業体験を進めるのです。

 訪問した日は、10月公演の「地獄のそうべえ」を終え、次の演目である「鼠小僧~其の三~」の本読みに入るところでした。

「地獄のそうべえ」パンフレットと「鼠小僧」の脚本

 まず、脚本と演出を手がけるキャサリン朋子さんが作品のあらましと意図を説明し、それぞれのもち役を出演者が読み合せます。

 キャサリン朋子さんの話しぶりは、長年にわたるプロのキャリアを積んだ演出家のように聞こえるのですが、実は、保育所の元保育士で、現在は就労継続支援B型事業所の支援者です。

 1回目の読み合わせでは、劇団員がそれぞれのもち役の台詞を重ね、みんなで「一つの芝居」を作り上げていこうとする模索と努力を感じ取ることができます。

 知的障害のある役者さんの中には、本読みの初期段階に親御さんのサポートの必要な人もいます。しかし、本番の公演ではサポートはつきません。知的障害のある劇団員のみなさんの役柄をイメージした台詞は、確かな演技力を感じさせるものです。

 そして、休憩をはさんで、2回目の読み合わせに入ると、1回目よりもはるかに息の合った台詞のやり取りとなり、芝居全体のイメージ共有が進んでいることが分かります。

千両箱を運ぶ鼠小僧のデッサン

 このような本読みが進行する中で、音楽担当と大道具・美術担当の方たちは、芝居のそれぞれの場面にふさわしいイメージを膨らませて具体化していきます。画像のデッサンは、本読みのさ中に、知的障害のある美術担当の方が描いたものです。見事な画です。

鼠小僧が困った人にばらまいた小判のデッサン

 この劇団にプロフェッショナルは誰もいません。芝居好きが集まって、それぞれの知恵と力を合わせて芝居のアンサンブルを作り上げていきます。「好きこそものの上手なれ」なのでしょう。本読みを進める皆さんの輪のアンサンブルに、私は心を打たれました。

「地獄の惣兵衛」のそうべえ役の近藤弘基さん(上左)とふっかい役の滝沢慎平さん(上右)、そして障害のある人の演劇を研究するゼミ生

 初対面の訪問者である私を皆さんはとても暖かく迎え入れてくださいます。前の演目でやった役柄のことや大道具・美術を担当するやりがいなど、とても朗らかなお話をたくさんの劇団員から伺いました。

 子どもたちの職業体験にかかわるフォーラムをきっかけに、演劇好きの仲間が集まって結成した劇団です。障害のあるなしの垣根を超えて自分たちとみんなの楽しみと幸せを追求するところに、はかり知れない意味があると思います。

 就労による自立だけが地域生活の目標ではありません。心温まる人の輪の中で幸福を追求する営みがあればこそ、真の地域生活の自律と充実を実現することができます。

 劇団わくわく探訪の帰途、私は自治体の障害者計画・障害福祉計画の施策に、このような自主的な地域活動を支援する施策をぜひ盛り込みたいと考えました。