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宗澤忠雄の福祉の世界に夢うつつ

宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

疲労が溜まりやすい福祉の現場。
皆さんは過度な疲労やストレスを溜めていませんか?
そんな日常のストレスを和らげる、チョットほっとする話を毎週お届けします。

プロフィール宗澤 忠雄 (むねさわ ただお)

大阪府生まれ。現在、埼玉大学教育学部にて教鞭をとる。
さいたま市障害者施策推進協議会会長等を務め、埼玉県内の市町村障害者計画・障害福祉計画の策定・管理等に取り組む。著書に、『医療福祉相談ガイド』(中央法規)、『成人期障害者の虐待または不適切な行為に関する実態調査報告』(やどかり出版)等。青年時代にキリスト教会のオルガン演奏者をつとめたこともある音楽通。特技は、料理。趣味は、ピアノ、写真、登山、バードウォッチング。

よっこらしょ

 そんなこんなで、バタバタと20年余りが経過しました。浅知恵と悪知恵を駆使し、保育所や学童保育を活用しながら子育て・家事・仕事のやりくりを重ねて、何とか一つの区切りにたどり着きました。でも、私の子育ての浅知恵や悪知恵が現在の子育て現役世代の親御さんにとって役立つとは到底思えないのです。

 折にふれて、娘の通った保育所や学童保育に顔を出してきました。すると、現代の保育所・学童保育は、制度的な条件面でも、親の非正規・不安定雇用に由来する生活困難においても、私の娘が通っていた当時とは比べることのできない異質の困難が顕在化していることが分かります。

 私の子育ては、20世紀福祉国家型の子育てがギリギリのところで成立していた時代の所産であったと受けとめています。つまり、親にはとりあえず安定した職業があり、保育所や学童保育を利用しながらであれば、それぞれの家族単位での子育てが何とか成立した時代を指します。今や、このような子育ての前提条件は崩壊しています。

 不安定・不規則な就労による生活困難はその最たるものでしょう。就業時間も夜中を含めて拡散していますから、子育てに困難を抱える親御さんが、日常的にサークルを組んで育児の悩みを話し合い、地域で保育所を共につくっていくような運動を展開する条件はほとんどありません。インターネットで呼びかけて役所に集合し保育所不足に抗議する動きが東京23区内で相次いだように、従来よりも「一揆的な」取り組みを余儀なくされています。

 そこで、親子が孤立を深めて子育ての困難を重ねていくと、親子関係が煮詰まる方向に振れるか、親が子育てから離脱する方向に振り切れるかのいずれかに陥りやすい。これはまさに、子ども虐待の土壌です。

 少子高齢化の問題は、経済・雇用・社会保障・社会福祉などのすべてを含めたわが国の政策の失敗です。平たくいえば、「子どもを大切に育む」という当たり前のことすらわが国は実現できなかったのです。痛ましい子ども虐待の件数の増加は、その証左に過ぎません。

 だから今こそ、子育て困難にあえぐ現役の親子に対して、国と社会が総力を挙げて、子育てのサービスと環境の改善をはからなければなりません。それが、子どもの権利条約を批准した国の最低限度の責任です。ここで、先行世代は限られた自分たちの経験を伝えようとするのではなく、現役の子育て世代を真中に据えた新しい取り組みに力を合わせるべきでしょう。

 日々の子育ては、途切れることなく、見返りや報いもなく、社会的に評価される営みでもありません。それでも、多くの親は子育てを通じて、個人的な幸福にとどまらず、育みあう人のつながりをつくることの幸せを積み重ねてきたのではないでしょうか。子育ての幸せは、個人的な幸福であると同時に、子の育ちを介してつながる多くの人の親密さに響き合う幸せであると考えます。

 娘は、今を生きる地域社会の人の輪に包まれて一市民として巣立とうとし、先行世代から次世代につながる社会の歩みの環に参入しようとしています。親としてこの日を迎え、この時に娘と大人同士の会話ができることのすべてに、私は幸せを感じます。

 万人にとってかけがえのない子育てを、次世代につなげたいと願っています。

さまざまな思い出