張先生の受験対策講座

受験勉強のガイド役となるのがこのコーナーです。受験対策のプロである張(はり)先生が、あなたの合格までの道のりをサポートします。
- プロフィール張 百々代(はり ももよ)
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精神保健福祉士・社会福祉士。児童養護施設、老人福祉施設での勤務を経て福祉系専門学校講師に。
現在は受験対策講座講師、各大学での受験対策に従事しており、第三者後見人として精神障害者・知的障害者の成年後見活動にも携わっている。
第13回 「現代社会と福祉」
福祉国家論
資本主義の発展に伴い貧富の差が生まれ、自由主義経済の発展は必然的に経済的格差をもたらします。この格差を解消するために、社会保障制度の充実が求められてきました。
このような背景をもとに、「福祉国家」が形成されていきました。「福祉国家」とは、社会保障制度を実現している国家のことで、この福祉国家の形成や福祉の提供方法に関して、様々な立場や視点から福祉国家論が提唱されています。
まずは、ウィレンスキー、マーシャル、ローズに関して取り上げていきます。
ウィレンスキー
ウィレンスキーは、福祉国家形成の条件は何であるのかということに焦点を当てて、『福祉国家と平等』で福祉国家について論じました。彼は、64の国について、福祉国家を形成するために大きな影響を与えているものが何であるのか、福祉事業への公共支出の差を基準に検証していきました。
「イデオロギー」「政治体制」「経済」のいずれが福祉国家の発展に影響を与えているのかを検証した結果、イデオロギーや政治体制は、福祉国家形成に大きな影響はなく、「福祉事業への公共支出の差」は、主に「経済水準」であると結論付けました。
経済水準の発展に伴い少子化と高齢化が進展するため、福祉ニーズが増大し、その結果、様々なサービスが創出され、それが制度化されていくという過程をたどります。また、制度化される過程で、行政の権限を持つ官僚制が強化されていき、それが福祉国家形成に結び付いていくとして、ウィレンスキーは「福祉国家収斂理論」として提示しました。
マーシャル
マーシャルは、『シティズンシップと社会的階級』において、「市民権(シティズンシップ)」の概念で福祉国家を定義しました。
「市民権(シティズンシップ)」には、「市民的権利(公民権)」「政治的権利(参政権)」「社会的権利(社会権)」の3つの要素があるとし、この市民権(シティズンシップ)を獲得してきた歴史的経緯を分析して、福祉国家の条件を提示しました。
マーシャルは、市民権(シティズンシップ)は、18世紀、19世紀、20世紀と段階的に発展してきたとし、18世紀は「市民的権利(公民権)」を確立したとしています。「市民的権利(公民権)」とは、現代の私たちには当然の権利と思われている職業選択の自由や移動の自由等の「自由権」「平等権」「財産権」等のことです。
19世紀には、選挙権、被選挙権のような「政治的権利(参政権)」を確立したとしています。19世紀以前は、これらの権利は一部の特権階級だけに限定されていましたが、この「政治的権利(参政権)」が労働者階級にまで拡大されたのが19世紀です。
20世紀は、「社会的権利(社会権)」が確立されていく時代であるとしました。「社会的権利(社会権)」とは、「社会保障を受ける権利」や「教育を受ける権利等」を意味します。 18世紀には、「自由権」や「平等権」等の「市民的権利(公民権)」が獲得されましたが、それらを行使するための「教育の機会の保障」や「生存権の保障」が未熟なために、実質的な平等は保障されず、社会全体に格差が生じていました。この格差を解消し、実質的に平等な社会を作り出すために生まれたのが「社会的権利(社会権)」です。
マーシャルは上記のような分析を通して、「社会的権利(社会権)」が保障されている国こそが「福祉国家」と呼ぶことができるとしました。18世紀に確立された「市民的権利」と19世紀に確立された「政治的権利」が保障されているだけでは「福祉国家」とは呼べないとしています。
ローズ
ローズは、「福祉ミックス論」を提唱しました。「福祉ミックス論」とは、福祉の総量(TWS)が、家族(House)による福祉と、市場(Maraket)において購入される福祉と、国家(State)によって提供される福祉の総量であるという理論です。
ローズは、これらの家族、市場、国家による福祉は、それぞれ不完全なものであり、相互に補完的に補い合う関係にあるとしています。
ウィレンスキー | 『福祉国家と平等』 福祉国家収斂説 |
福祉国家を推進するのは経済水準、高齢化、官僚制であるとした |
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マーシャル | 『シティズンシップと社会的階級』 福祉国家を「市民権」の概念によって定義。社会的権利が獲得された段階を福祉国家とした |
18世紀:市民的権利(公民権) 19世紀:政治的権利(参政権) 20世紀:社会的権利(社会権) |
ローズ | 「福祉ミックス論」を提唱 | 社会における福祉の総量(TWS)は、家庭(H)、市場(M)、国家(S)が担う福祉の合計 |
次に、福祉国家形成における社会政策、社会サービスの運営の基本的な考え方である「選別主義」と「普遍主義」についてみていきましょう。
選別主義
「選別主義」とは、救済の基準を設定し、申請者の資力や稼働能力、親族による扶養の可能性を調べるミーンズ・テストを実施して、一定以下の水準の者だけを救済の対象とするという考え方です。
限られた資源を最も必要とする人たちに集中して分配できるという効率性は確保されますが、受給者にスティグマが発生します。そのため、受給率が低くなるという漏救問題が発生します。
普遍主義
「普遍主義」とは、救済の対象を限定しない考え方です。ミーンズ・テストを実施しないためスティグマはありません。しかし、中・高所得者層にも一律に受給資格が与えられて給付対象になるため、財政負担が増大するという側面があります。
選別主義 | 救済の基準を設定し、一定以下の水準の者だけを救済の対象とする残余的福祉モデルに代表される |
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普遍主義 | 救済の対象を限定しない。スティグマを軽減するが財政負担は増大する制度的再分配モデルに代表される |
最後に、ティトマスとエスピン‐アンデルセンを取り上げていきます。
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