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張先生の受験対策講座

張 百々代(はり ももよ)

受験勉強のガイド役となるのがこのコーナーです。受験対策のプロである張(はり)先生が、あなたの合格までの道のりをサポートします。

プロフィール張 百々代(はり ももよ)

精神保健福祉士・社会福祉士。児童養護施設、老人福祉施設での勤務を経て福祉系専門学校講師に。
現在は受験対策講座講師、各大学での受験対策に従事しており、第三者後見人として精神障害者・知的障害者の成年後見活動にも携わっている。

第23回 「精神保健福祉相談援助の基盤」

 皆さんこんにちは。急に秋めいてきましたが学習は進んでいますか。焦らずに着実に進めていくことが合格の秘訣です。一緒に頑張っていきましょう。

 今回は、「精神保健福祉相談援助の基盤」を取り上げます。相談援助の対象・価値・理念・意義や、関連専門職、権利擁護、チームアプローチなど、精神保健福祉士として押さえておくべき価値や権利擁護が、大きなテーマになっている科目です。今回は精神保健福祉の理論や実践に影響を与えた人物と理論について取り上げていきます。では最初に、前回の課題の解説をしておきましょう。

第23回 精神保健福祉士国家試験 「精神保健の課題と支援」

問題 17 次のうち、自殺対策におけるポストベンションの活動として、適切なもの1つ選びなさい。

  • 1 自殺で亡くなった中学生の同級生に対して実施される心のケア
  • 2 自殺対策強化月間におけるインターネットを活用した支援窓口の広報
  • 3 救命救急センターに搬送された自殺未遂者に対するフォローアップ支援
  • 4 地域住民に対するうつ病予防のための講演会
  • 5 希死念慮を有する者を対象とした電話による相談
正答1

解答解説

  • 1 〇 「ポストベンション」とは、自殺によって遺族になった人、関係者への影響を、できるだけ少なくするための「事後対応」のことです。遺族等、残された者は、自殺者に対して何も力になれなかったという自責感、恐怖や不安感等、さまざまな感情に襲われ、うつ病や不安障害に襲われる可能性が高くなります。また、後追い自殺の危険性もあります。混乱した感情、不安や怒り、体に出ている症状などの反応に戸惑い、不安になりやすいため、このような状態は多くの人が経験することだということに気づくことができるように支援し、やがて落ち着いてくることを知らせると安心することが多いです。残された児童たちに行われる心のケア、遺族や同僚への事後対応、後追い自殺予防、遺族会の結成や遺児への支援などは、ポストベンションに該当します。
  • 2 × この選択肢の記述は、「事前対応」である「プリベンション」に該当します。「プリベンション」は、自殺の要因について分析し、自殺を引き起こさないためのさまざまな対応を、個人のレベルおよび組織や社会全体のレベルとして取り組むことです。自殺問題に対する意識の普及啓発、ゲートキーパーの養成、生きやすい温かな社会づくり、生命の尊さを考え、生きる誇りと自信を育てる教育や心の健康問題に関する正しい知識の普及・啓発等が該当します。
  • 3 × 選択肢の記述は、「危機対応」である「インターベンション」に該当します。「インターベンション」とは、自殺が起きようとしている状況や自殺未遂の危機にある場合、それを早期に発見し早期に対応して、自殺を回避できるように介入することです。また、自殺未遂や自殺企図を行った人に対して、適切なケアを提供すること、再度の自殺企図を予防すること等は、この「インターベンション」に該当します。
  • 4 × 選択肢の記述は、「事前対応」である「プリベンション」に該当します。「プリベンション」とは、個人レベルでは、希死念慮を有する者を対象とした電話による相談や自分自身のメンタルヘルスに留意すること等、社会全体の取り組みとしては、心の健康の保持・増進に関する取り組み、自殺予防のためのさまざまな講演会の開催などが該当します。
  • 5 × 選択肢の記述は、「事前対応」である「プリベンション」に該当します。「プリベンション」は、すべての人を対象とした自殺予防のための教育・啓発のほか、対象者に応じた個別の電話相談なども該当します。

 いかがでしたか。「精神保健の課題と支援」では、児童虐待、職場のメンタルヘルス対策、災害時支援等についても幅広く学習しておきましょう。

 では今回の「精神保健福祉相談援助の基盤」に入っていきましょう。この科目は、ソーシャルワーカーの価値や倫理、関連専門職とのチームアプローチ、自己決定、権利擁護などが出題基準として上げられています。エンパワメントやアドボカシーの概念など、援助の基本的姿勢をよく理解しておきましょう。今回は、精神保健福祉の理論や実践に影響を与えた人物と理論について取り上げていきます。




精神保健福祉の理念

 精神保健福祉の理念について、ピネル、テューク、コノリー、ジョーンズの実践内容を取り上げていきます。

ピネルの「鎖からの解放」

 フィリップ・ピネル(Pinel,P.)はフランスの精神科医で、1793年からビセートル病院で、1795年以降はサルペトリエール病院に勤務し、精神病の患者が鎖につながれて犯罪者と同じように取り扱われていた非人道的な扱いに対して、患者を鎖から解放し、閉鎖病棟の改善とホスピス病棟の開放化に取り組みました。

 ピネルは、人道的な心理学的臨床を重んじる精神理学医療を重視しました。薬の過剰投与を廃止し薬物療法の過度依存を戒めました。また患者の人権を重視し、臨床による心理学的な温かみのある心理学療法を重んじました。また、精神病者が余暇活動や仕事などの作業活動を行うことを通して心身の健康が育まれることや規律正しい作業生活を送ることで回復が促されることなどの価値を、すでにこの時期から認めていました。

テュークの「道徳療法」

 イギリスでも、精神病院の患者は鎖でつながれて、動物のように扱われていました。当時の患者の様子は、絵画による記録が残っています、通常の足枷に加え、両肩から胸と上腕を巻く鉄のハーネス、鉄の首輪によって、床に打ち込まれた鉄柱につながれている様子が描かれています。

 お茶の商人でクエーカー教徒だったウイリアム・テューク(Tuke,W.)は、同じ信仰を持つ友人が劣悪な環境の精神病院で死亡したことをきっかけとして、精神疾患の患者のために、19世紀前半、イギリスのヨーク市に理想的な療養施設としてのヨーク療養所(ヨーク・リトリート)を設立しました。

 ヨーク療養所の施設は、当時の一般家屋のスタイルに似せて建てられており、親しみやすい外観と内装で、患者の気持ちを落ち着かせるものでした。テュークは、このヨーク療養所で「道徳療法」を展開しました。

 テュークが展開した「道徳療法」の特徴は、治療者と患者との関係を親子関係のように保護と愛情で満ちたものにし、治療行為は子供に教育するように権威と愛情と誠実さで行い、収容施設を家庭のような環境にしたことです。

 道徳療法というと堅苦しいイメージを抱きやすいですが、テュークは、幸福な環境が自制を生むという考え方のもとに、精神障害者に必要なのは、新鮮な空気、適度な運動、おいしい食事とお茶であり、あたたかさ、優しさ、穏やかさという家庭的な雰囲気が症状を癒すという信念によって道徳療法を展開していきました。

コノリーの「無拘束の原則」

 イギリスでは、精神病院の処遇改善の動きが進められ、1845 年には精神病者法が制定され、地方自治体に精神病院の設置が義務付けられました。同時期、ジョン・コノリー (Conolly,J.)は、精神障害者に対して無拘束運動を進め、「無拘束の原則」を確立しました。

 コノリーは、ロンドン近郊の大規模な精神病院で、全面的に拘束具を廃止しました。また、施設は色々な点で患者がそれまで住んでいた家に似ているべきであると考え、住み込みの医療監督者とその妻を中心とした、家庭に似た環境を整えました。

ジョーンズの「治療共同体」の理念

 ジョーンズ(Jones,M.)は、イギリスで「治療共同体」の理念を提唱し、患者の自主性を尊重した開放的な病院運営を実施しました。「治療共同体」の理念は、前述の「道徳療法」の考え方を基盤としています。

 「治療共同体」では、患者の役割が、処遇に対する消極的関与から積極的関与へと移行します。患者は、自分の病気の原因について積極的に探究する直接的な責任を持ちます。また、患者は単に処遇を受けるという従属的な人間ではなく、施設職員の協働者という積極的な位置付けがされます。患者は治療会議に参加し、そこで自分の問題を自由に述べることが許されます。

 「治療共同体」は、治療会議への患者の参加や、患者による自己管理などを通して、治療者と患者の一体感を養い、身分関係や階級制を排除し、構成員一人ひとりがそれぞれの独自性に基づいた権威を対等に持ち、職員と患者間の自由なコミュニケーションが保障され、受容的な態度が重視される、民主的で平等な社会組織を意味しています。
 このようにジョーンズは、精神科病院の全ての資源が「治療共同体」を作り上げるために、最も適切に組織されることの必要性について提言しています。

ピネル 鎖からの解放、人道的処遇(パリのビセートル病院)
テューク ヨーク療養所設立、道徳療法
コノリー 無拘束の原理
ジョーンズ イギリスで「治療共同体」の理念を提唱。患者の自主性を尊重し開放的病院運営を実施

 次に、精神保健福祉の実践に影響を与えた人物と理論について取り上げていきます。

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