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張先生の受験対策講座

張 百々代(はり ももよ)

受験勉強のガイド役となるのがこのコーナーです。受験対策のプロである張(はり)先生が、あなたの合格までの道のりをサポートします。

プロフィール張 百々代(はり ももよ)

精神保健福祉士・社会福祉士。児童養護施設、老人福祉施設での勤務を経て福祉系専門学校講師に。
現在は受験対策講座講師、各大学での受験対策に従事しており、第三者後見人として精神障害者・知的障害者の成年後見活動にも携わっている。

第13回 「現代社会と福祉」

 皆さんこんにちは。コロナワクチンの接種が進み収束への道筋がみえてきたようですが、変異株の影響や人流の増加が不安材料としてあり、第4波の懸念もぬぐい切れない現状です。学生の皆さんはオンライン授業が続き、現場の方々は感染予防対策等で落ち着かない日々だと思います。不自由な生活が続きますが、そのような中でも工夫しながら学習のペースを作っていきましょう。

 今回は「現代社会と福祉」を取り上げます。福祉の歴史的な発展の経緯についての理解をはじめ、福祉政策、現代社会の課題等、広範囲に及ぶ知識と理解が求められます。苦手意識を持つ方が多いと思いますが、この科目は全科目の基盤となる科目なので、他の科目を理解するためにも基本的な福祉の考え方と枠組みについて十分学習しておきましょう。
 では最初に、前回の課題の解説をしておきます。

第23回 精神保健福祉士試験 「社会理論と社会システム」

問題 16 都市化の理論に関する次の記述のうち、最も適切なもの1つ選びなさい。

  • 1 フィッシャー(Fischer,C.)は、都市の拡大過程に関して、それぞれ異なる特徴を持つ地帯が同心円状に構成されていくとする、同心円地帯理論を提起した。
  • 2 ワース(Wirth,L.)は、都市では人間関係の分節化と希薄化が進み、無関心などの社会心理が生み出されるとする、アーバニズム論を提起した。
  • 3 クラッセン(Klaassen,L.)は、大都市では類似した者同士が結び付き、ネットワークが分化していく中で多様な下位文化が形成されるとする、下位文化理論を提起した。
  • 4 ウェルマン(Wellman,B.)は、大都市では、都市化から郊外化を経て衰退に向かうという逆都市化(反都市化)が発生し、都市中心部の空洞化が生じるとする、都市の発展段階論を提起した。
  • 5 バージェス(Burgess,E.)は、都市化した社会ではコミュニティが地域や親族などの伝統的紐帯から解放されたネットワークとして存在しているとする、コミュニティ解放論を提起した。
正答2

解答解説

  • 1 × 「同心円地帯理論」を提起したのは、バージェスです。バージェスはシカゴ大学のパークと共に都市研究を行い、都市の成長過程は「5重の同心円の拡大過程」であるという同心円地帯理論を提起しました。都市形成の過程は、まず都市の中心部に「中央ビジネス地区」が形成され、その周囲に低賃金労働者が住むスラム街や娯楽街である「遷移地帯」が生まれ、その周囲に「労働者居住地帯」が形成され、その周囲に中産階級の「住宅地帯」が形成され、最も外側の部分に水と光と緑にあふれる郊外と呼ばれる「通勤者地帯」が生まれるという理論です。
  • 2 〇 ワースは、近代化に伴って生まれる「都市化」によって形成されてきた都市の特徴として、「規模が大きく、人口密度が高く、社会的異質性が高く、流動的な居住地」であるとし、この都市化によって都市に住む住民の生活様式が変化し、親密で個人的な接触から表面的で一時的な接触に移行し、近隣社会の絆が薄れて衰退していくことによって、無関心や無干渉、孤独、合理性、世俗主義などがみられるようになるとしました。
  • 3 × 下位文化理論を提起したのは、フィッシャーです。都市は人口が集中しているため多様なネットワークが形成され、多様な「下位文化」が生まれてくるという理論です。「コミュニティ喪失論」に対して、都市化はコミュニティを衰退し喪失させるのではなく、「新しい下位文化を育てる」と主張しました。都市化の進展に伴い、親族や隣人との絆よりも、興味や関心を共有する者同士の絆の形成や結合が容易になり、類似した者同士が結び付く「同類結合」が起こり、ネットワークが分化していく中で革新性や創造性に富んだ多様な下位文化が形成されていくという理論で、「コミュニティ変容論」に位置付けられます。
  • 4 × 都市の発展段階論を提起したのは、クラッセンです。クラッセンは、都市形成過程を研究し、「都市形成期」には、都市に人口が集中し都市化が進むが、一定の期間を経ると、都市から人口が流出して都市の空洞化と衰退という「逆都市化」の現象が起こり、その後、「再度の都市化」が進んでいくという過程を繰り返すとしました。「都市循環モデル論」とも呼ばれています。
  • 5 × コミュニティ開放論を提起したのは、ウェルマンです。ウェルマンは、物理的距離に関係なく、心理的距離の近い人間関係によってコミュニティの形成は可能であるとしました。現代社会は、交通や通信手段の発達によって、物理的距離が遠くても親密な人間関係築くことが可能になり、地理的空間を共有することを条件とする従来のコミュニティの捉え方から解放されて、心理的に自由な関係性の構築が可能であるというのが「コミュニティ開放論」です。

 いかがでしたか。「社会理論と社会システム」は、範囲が広く概念的な理解が求められますので、内容をよく理解することを重視した学習をしていきましょう。
 では「現代社会と福祉」について、出題基準に沿って対策を立てていきましょう。

現代社会における福祉制度と福祉政策

 この分野は、福祉制度の概念の変遷、福祉政策の概念と理念について、社会保障の枠組みや定義、ベヴァリッジ報告における社会保障の考え方などに焦点をあてて学習しましょう。わが国の福祉政策の変遷過程については、社会保障制度審議会勧告や社会福祉基礎構造改革なども含めて、戦後から現在に至る時代背景を踏まえてよく理解しておきましょう。
 第23回ではこの分野から、社会福祉法に規定されている福祉サービスの基本的理念が出題されました。


福祉の原理をめぐる理論と哲学

 福祉の原理をめぐる理論や哲学・倫理として、出題率は低くなっていますが、エスピン・アンデルセンの福祉国家論、ロールズの「正義論」やセンの潜在能力理論(ケイパビリティ・アプローチ)の出題実績があります。

 わが国の福祉の原理をめぐる理論と哲学としては、大河内和男、岡村重夫、孝橋正一、仲村優一、三浦文夫、一番ヶ瀬康子等の理論の出題実績がありますので、基本的な理論を押さえておきましょう。

福祉制度の発達過程

 「前近代社会と福祉」「産業社会と福祉」については、イギリスの福祉政策の歴史、ラウントリーのヨーク調査の出題がみられます。わが国の社会福祉制度の歴史では、恤救規則、救護法、中央慈善協会、済世顧問制度、方面委員制度、内務省の救護課設置、救護法、戦時厚生事業などが出題されています。

 わが国の福祉制度の発達過程については、産業の発展や貧困との関係、民間の慈善事業から社会事業への移行、戦時体制の影響などについて、社会背景も踏まえて学習しておくと理解が深まります。

 イギリスの救貧法、慈善組織協会活動、ブースやラウントリーの貧困調査、ナショナルミニマム論やベヴァリッジ報告等のイギリスの福祉国家の形成過程、世界の主要国における社会福祉制度の形成過程を政治や経済との関係で把握し、それぞれの特質を理解しておきましょう。
 第23回では、イギリスの救貧法に関しての出題がありました。今回は後ほど、この分野を中心に解説していきます。

 「現代社会と福祉」については、第二次世界大戦後の生活困窮と福祉、経済成長と福祉、新自由主義等の概念も理解しておきましょう。この分野からは具体的にわが国の戦後の福祉政策として、戦後混乱期、戦後復興期、高度経済成長期にかけての福祉三法体制、福祉六法体制、福祉元年、日本型福祉社会、障害者自立支援制度等が出題されています。戦後の社会福祉事業法による社会福祉法人制度の創設から社会福祉基礎構造改革への過程、近年の社会福祉法人制度改革も含めて学習しておきましょう。

 現代社会の特質として、グローバル化と貧困、科学技術の進展に伴うリスク社会、新自由主義や福祉多元主義などの概念と実際についても理解を深めておきましょう。
 第23回では、「令和元年度版高齢社会白書」からわが国の高齢化の実態に関して、また国連開発計画が出している「人間開発報告書2019(概要版)」からの出題がありました。国連関係の報告書は日ごろ目を通すことは少ないかと思いますが、出題されているものに関しては一度目を通しておいたほうがよいでしょう。


福祉政策におけるニーズと資源

 「需要とニーズの概念」の分野は近年主題率が低くなっていますが、欲求とニーズの関係、必要原則と貢献原則、ニーズ充足の方法、貧困とニードの捉え方、ブラッドショーのニーズ論、潜在的ニードと顕在的ニード、ニードの顕在化に果たす専門職の役割について基本的な事柄を理解しておきましょう。

 「資源の概念」の分野は、資源の意味、資源の性格、普遍主義的な資源の配分、福祉サービスのニーズ判定等の出題実績があります。福祉政策におけるニーズの意味、ニーズと資源の関係、資源の分配方法、ニード充足のための資源の配分と福祉政策について学習しておくとよいでしょう。

福祉政策の課題

 「福祉政策と社会問題」の分野は、貧困、孤独、失業、要援護、偏見と差別、社会的排除、ヴァルネラビリティ等の社会問題に関する理解が求められます。出題実績をみると、社会的排除と社会的包摂、貧困、格差、子どもの貧困対策大綱、ヘイトスピーチ解消法、育児・介護休業法等が出題されています。

 現代社会の福祉政策の課題があらゆる分野から出題されますので、厚生労働白書や国民生活基礎調査等に目を通しておきましょう。また、貧困の概念や失業の実態、若年者の生活、経済格差とその対策、海外の社会保障と福祉の制度と趨勢などについても学習しておきましょう。

 「福祉政策の現代的課題」の分野からは、国連による「人間の安全保障」、「持続可能な開発目標」(SDGs)、「福祉避難所の確保・運営ガイドライン」が出題されています。世帯・婚姻の動向、生活困窮者自立支援制度、自殺対策基本法等とともに、少子高齢化の進展、雇用形態の多様化が進む社会的背景に対して、現在進められているさまざまな諸改革に注意をしておきましょう。

 第23回では、日本における男女共同参画に関する出題がありました。男女共同参画社会基本法の内容、ジェンダー・ギャップ指数も含めて、女性の社会進出の実態等を把握しておくとよいでしょう。

 「福祉政策の課題と国際比較」の分野では、イギリス、アメリカ、ドイツ、フランス、スウェーデン、韓国等の社会保障制度の特徴を整理しておきましょう。「世界幸福度報告書」や世界の各国の福祉改革が出題されています。また、イギリスのベヴァリッジ報告や「第三の道」、コミュニティケアの展開、アメリカの社会保障法、TANF、オバマ政権による医療保険改革、ドイツの介護保険法、フランスの家族手当制度、スウェーデンのエーデル改革、韓国の「老人長期療養保障法」等の出題もみられていますので、国際的な動向も把握しておきましょう。
 第23回では、アメリカのメディケア、スウェーデンの社会サービス法、ドイツの補完性の原則、中国の計画出産政策、韓国の高齢者の介護保険サービスが出題されています。


福祉政策の構成要素

 「福祉施策の論点」の分野は、効率性と公平性、普遍主義と選別主義、自立と依存、自己選択とパターナリズム等の概念を理解しておきましょう。性同一性障害、OECDの「より良い暮らしイニシアチブ」なども出題されています。OECDの相対的貧困率の定義、ジニ係数、国民生活基礎調査、男女共同参画社会や男性の育児休業取得率、ひとり親世帯の労働形態や平均収入、女性議員が占める割合等も押さえておきましょう。

 「福祉政策における政府の役割・市場の役割・国民の役割」の分野からは、国、都道府県、市町村、地方社会福祉審議会のそれぞれの役割について、社会福祉法にどのように規定されているかについての出題実績があります。「福祉行財政と福祉計画」の科目とも重なる分野ですから、並行して学習しておきましょう。

 「福祉政策の手法と政策決定過程と政策評価」からは、福祉サービスのプログラム評価の方法に関する出題がありました。予算や人材等の資源の投入の評価、プログラム実施の適切さを評価する過程の評価、産出の評価、プログラムの達成状況の成果評価、効率性の評価等について理解を深めておきましょう。
 第23回では、政策評価法に関する出題がありました。法律の性格、目的、具体的な評価方法について整理しておくとよいでしょう。

 「福祉供給部門」の分野は、福祉サービスの供給主体としての政府部門、民間営利部門、民間非営利部門、ボランタリー部門、インフォーマル部門、社会的企業等が出題されています。

 「福祉供給過程」の分野からは、受益と負担、福祉サービスの準市場(疑似市場)についての出題実績があります。福祉サービスの利用者負担の意味、国民負担率、応能負担と応益負担、所得控除の性格、公費負担方式と社会保険方式における受益と負担の対応関係、準市場の概念と仕組みについてよく理解しておきましょう。公と民の関係、再分配の意味と方法、割当、行政計画等についても学習しておきましょう。

 この分野からは第23回で、福祉政策における資源供給の在り方に関し、現物給付と現金給付の性格の違い、負の所得税の考え方、普遍主義と選別主義の違いについての出題がありました。資源供給の方法について、その性格と内容を理解しておきましょう。

 「福祉利用過程」の分野からは、福祉サービスの評価について、評価の視点、第三者評価等が出題されています。福祉サービス利用に関する情報の非対称性、福祉サービス第三者評価事業、苦情解決制度等についても学習しておいてください。

福祉政策と関連政策

 ここからは、関連政策として非常に幅広い分野からの出題があります。最低賃金制度、住宅セーフティネット法、不登校児童の教育支援策等が出題されています。住宅政策、労働政策等、多様な分野における政策について絶えずアンテナを張って情報をつかんでおくことをおすすめします。

 第23回では、住宅政策と労働政策の分野からの出題がありました。住宅政策の分野では、住宅セーフティネット法、公営住宅法、住生活基本法、国際人権規約における住居の扱いなどが出題されています。これらのそれぞれの法律の規定を把握しておきましょう。

 労働政策の分野からは、「労働施策総合推進法」の内容として、法律の対象、子を養育する者の雇用継続、事業主のパワーハラスメント防止措置、労働時間の短縮・労働条件の改善措置、求職活動の援助等の規定が出題されました。この分野は今後も出題の可能性が高いと思われますから、内容を整理しておくことをおすすめします。


相談援助活動と福祉政策の関係

 この分野からは、「ソーシャルワーク専門職である社会福祉士に求められる役割について」(2018年(平成30年))が出題されています。共生社会の実現のための協働と連携を構築していく人材としての社会福祉士の位置付けについて理解を深めておきましょう。

 以上全体を概観してきましたが、今回はイギリスの福祉の発展の歴史について解説していきます。

イギリスの産業革命と貧困

 イギリスは、産業の発展に伴い、土地を所有しない貧民が仕事を求めて都市にあふれ、国として何らかの対策を行うことを迫られました。このような貧困者の急激な増大という状況に対して、救貧税の制度が生まれました。また、労働できる貧民と労働できない貧民に分け、労働意欲のある者には仕事をさせ、労働できるにもかかわらず労働していない貧民は処罰の対象とするなど、さまざまな施策が講じられていきました。


エリザベス救貧法

 これらの貧困対策の集大成として、1601年に「エリザベス救貧法」が制定されました。エリザベス救貧法は、救貧の財源として教区ごとに救貧税を徴収し、教区ごとに置かれる貧民監督官が救貧行政を実施しました。

 貧民を働くことができる「有能貧民」、働くことができない「無能貧民」、及び「扶養する者がいない児童」に分類し、「有能貧民」は、ワークハウスすなわち「労役場」に収容して強制労働を課し、「扶養する者がいない児童」は強制的に徒弟制度の対象とし、救済対象は「無能貧民」に限定して、救貧院に収容するという制度でした。

 このように、エリザベス救貧法は本質的に、救貧を目的とするよりも、都市の治安を維持し、都市にあふれた浮浪者や貧困者を排除、抑圧することを目的とする法律でした。

ワークハウステスト法

 ワークハウスは、労働力のある貧民に労働を課す収容施設でしたが、貧困者が増大し、収容者の増加によって救貧費用が増大していきました。また、貧困への濫給がみられ、国は救貧費用を抑制するために、過酷な労働に耐える意志の有無を確認して、救済の申し出を思いとどまらせるための法律として、1722年に、「ワークハウステスト法」を制定しました。

 この法律の制定により、ワークハウスは、利用する際に過酷な労働に従事する意志を確認して労働を強制される収容施設となりました。入所者には厳しい労働と規則が課せられ、違反者には厳しい処罰が行われ、ワークハウスは「恐怖の家」と呼ばれるようになりました。その結果、救済を申請する有能貧民は減少し、実質的には、老人や児童、障害者、病人などの混合施設となってしまい、労役場というより救貧院としての性格が強くなっていきました。


ギルバート法

 このような、エリザベス救貧法のもとにおける抑圧的、処罰的救貧行政に対して、人道的な立場から批判が生まれてきました。議員のトーマス・ギルバートは、「貧困者のよりよい救済と雇用に関する法律」案を提出し、1782年に、通称「ギルバート法」が制定されました。

 この法律は、労役場、すなわち実質的な救貧院には、老齢者と病者等の労働能力のない者だけを収容し、労働能力のある者は、労役場以外の居宅において職業を斡旋するという院外救済を行うものでした。

スピーナムランド制度

 18世紀初頭には、イギリスの産業革命が急速に進展し、人口が急激に都市に集中した結果、仕事を得られない貧民や生活に困窮する低所得者層が増大しました。また、1789年のフランス革命の影響を受けてイギリスの物価も高騰し、物価高騰に比べて収入は増えないため、困窮に陥る民衆が続出しました。これに対して、スピーナムランド村の治安判事総会で決定し採用されたのが、スピーナムランド制度です。

 スピーナムランド制度とは、パンの価格に基づいて基本生活費を計算し、この基本生活費に届かない収入世帯には、院外救済として救貧税を財源に賃金補助を行うという制度です。この制度は全国に広がってゆき、物価高騰にあえぐ困窮者を救済していきました。

 ただ、低賃金でも賃金補助が行われるため、雇用主があえて賃金を引き下げるという事態が生まれ、労働しなくても賃金が補助されることが労働者の勤労意欲をそぐという弊害をもたらしました。また救貧税が膨れ上がり、主な納税者である農業労働者の貧困化という状態が引き起こされました。


新救貧法

 ギルバート法やスピーナムランド制度によって救貧税が膨大化し、救貧税の徴収で貧困化した農業労働者が暴動を引き起こす結果をもたらし、1834年には新たな救貧法が制定されました。新救貧法は、マルサスの『人口論』やアダム・スミスの『国富論』の考え方をもとに、公的救済は怠惰を生み出すだけであり、貧困は自己努力によって克服すべきものであるとして、公的な救済を最小限に抑制するという考え方によって制定されました。

 新救貧法は、従来の教区ごとの救済行政ではなく、救済行政を全国一元化する「全国統一の原則」、最底辺の労働者の生活水準より低い救済基準とする「劣等処遇の原則」、それまで行われていた院外救済を禁止し、ワークハウスに収容する「院内救済の原則」を規定し、救貧の対象を限定し、救貧を抑制することを大きな目的として制定されたものです。

エリザベス救貧法 有能貧民は強制労働、児童は徒弟奉公、無能貧民だけを救済対象とした。浮浪者の処罰と抑圧が目的
ワークハウステスト法 過酷な労働に耐える意志の有無を確認して救済を抑制する法律
ギルバート法 職業斡旋などによる居宅保護
スピーナムランド制度 不足賃金の補助による居宅保護
新救貧法 救貧抑制を目的に「全国統一の原則」「劣等処遇の原則」「院内救済の原則」を掲げた

慈善組織協会

 この時期のイギリスは、産業の発展により中産階級が台頭してきました。これらの人々は「自らの経済豊かさという身分は、貧困者に対して慈善という義務を負う」という意識により、慈善に力を注ぐようになっていきました。

 さまざまな慈善団体によって慈善活動が行われていきましたが、それぞれの活動が無秩序に行われていたために漏給や濫給の弊害が生まれ、組織化の必要性が認識されて、1869年にロンドンで「慈善組織協会」が設立されました。

 この活動は、貧困は個人の責任であるという自由主義的慈善事業観に立ち、救済の対象を限定する制限主義的な思想に基づいていたため、道徳的な生活によって自助努力をしても貧困から抜け出せない「救済に値する貧民」だけを対象とし、怠惰や素行不良等の「救済に値しない貧民」は公的救済に委ねるという思想的立場での活動でした。


貧困調査――ロンドン

 19世紀後半から、民間の活動家による貧困調査が行われました。チャールズ・ブースは1886年から1891年にかけてロンドンにおける貧困調査を実施し、『ロンドン市民の生活と労働』を著わしました。その著書でブースは、3割以上が貧困線以下に該当していることを指摘しました。貧困の原因は、従来考えられていたような個人の責任によるのではなく、「不安定雇用」や「不衛生な環境」等の社会的要因が大きいことを指摘しました。

貧困調査――ラウントリー

 ラウントリーは、ブースの貧困調査に続いて地方都市の貧困状態を明らかにするために、自分自身が生まれ育ったヨーク市において、1899年から3回にわたって貧困調査を実施し、『貧困―都市生活の研究』を著わしました。彼は「マーケットバスケット方式」を採用して貧困の分析に「絶対的貧困概念」を用い、貧困を「第一次貧困」と「第二次貧困」に分類しました。

 第一次貧困は、肉体的必要を維持するのに必要な最小限度に足りない状態、第二次貧困は、収入の一部を他の支出に少しでも振り分けると肉体的維持が不可能になる状態として調査しました。この調査の分析の結果、貧困に陥る主な原因は、低賃金等の社会的な要因であることが明らかにされました。

 また、この貧困調査によって、人生の途上には貧困に陥る段階があるという、「ライフサイクル」の概念を初めて明らかにしました。ラウントリーは、労働不能な状態のため貧困に陥る段階として、「子ども時代」、次に「結婚後の子育て時代」、最後は「リタイア後」であると指摘しています。

慈善組織協会 1869年ロンドンに設立。「救済に値する貧民」を対象に制限主義的救済を実施
ロンドン調査 ブースによる貧困調査
貧困の原因は不安定雇用等の「社会的要因」であることを明らかにした
ヨーク市調査 ラウントリーによる貧困調査
マーケットバスケット方式を採用。絶対的貧困概念により「第一次貧困」と「第二次貧困」に分類。ライフサイクル論を提示

ナショナルミニマム

 後にシドニー・ウェッブの妻となったビアトリスは、シドニーと結婚する前、義理の従兄である、ブースのロンドン調査に参加していました。また夫となるシドニーは、漸進的社会主義を掲げるフェビアン協会の会員で、後に重要な活躍をする人物です。

 このウェッブ夫妻は結婚後、1897年に『産業民主制論』を著わし、標準賃金や標準労働時間と産業効率の関係を述べ、労働者の経済的福祉と個人的自由のためにも、国民の最低限の生活を保障すべきであるという、「ナショナルミニマム論」を展開しました。

救貧法及び困窮者救済に関する王命委員会報告

 貧困者の急激な増大に対して、イギリス政府は1909年、新救貧法を検討するために「救貧法及び困窮者救済に関する王命委員会」を設置しました。この委員の1人として、シドニー・ウェッブが選ばれています。

 この委員会が出した報告書は、「多数派意見」と「少数派意見」に分かれました。多数派は、慈善組織協会のロックが代表的な論者で、困窮者のための新たな救済制度は、貧困は個人の責任であるという、新救貧法の精神を引き継ぐべきであるとしました。具体的には、ソーシャルワークの技術を取り入れ、慈善活動を推進し発展させることによって、救済を進めていくべきであるとしました。

 これに対して、「ナショナルミニマム論」を提示したシドニー・ウェッブが代表的論者である少数派の意見は、貧困は個人の責任によって生じるというより、社会の仕組みがもたらしているものであるから、社会的責任で救済すべきであると主張しました。


国民保険法

 少数派報告の意見は、国民にすぐには受け入れられませんでしたが、ウェッブ夫妻は啓蒙活動を全国的に展開していきました。その後の総選挙によって、労働者階級を含む政党が勝利し、さまざまな社会保障関連の法律が成立していきました。その1つが1911年の国民保険法です。この法律は、健康保険と失業保険から成り、社会保険によって病気や失業による貧困から国民を守ろうとするもので、イギリス救貧法体制の改革を目的として制定されました。

ベヴァリッジ報告

 1942年には、第二次世界大戦後のイギリスの社会保障体制のあり方について、ベヴァリッジ報告が出されました。これは、住宅・雇用・教育を含む包括的社会保障を提唱したもので、ナショナルミニマムの具現化のために、戦後実現されるべき「社会保障計画」を具体的に提言したものです。

 この報告書では、「窮乏」「疾病」「無知」「不潔」「怠惰」の5大巨悪に対して、均一拠出・均一給付という「社会保険」を中心に、国が責任をもってナショナルミニマムを達成すべきであるとし、これを「公的扶助」と「任意保険」で補うという考え方を提示しました。

 この報告書の提言をもとに、第二次世界大戦後のイギリスの社会保険の枠組みが構築されました。その後イギリスは、ゆりかごから墓場までといわれる、老齢、疾病、障害、失業等をすべて包含した福祉国家体制を築き上げていきました。

ナショナルミニマム論 ウェッブ夫妻が『産業民主制論』で提唱
国民の最低限の生活の保障をナショナルミニマム論として提示
王命委員会報告 救貧法を継承すべきとする多数派報告と、社会全体でナショナルミニマムを保障すべきとする少数派報告を提示
国民保険法 健康保険と失業保険から成る法律
ベヴァリッジ報告 ナショナルミニマムを具現化するための「包括的な社会保障計画」を提言。「社会保険」を中心に、「公的扶助」と「任意保険」で補うという考え方を提示

 いかがでしたか。次回は「地域福祉の理論と方法」を取り上げます。では第23回の精神保健福祉士の国家試験問題から今回の課題をあげておきますので、チャレンジしてみてください。

第23回 精神保健福祉士国家試験 「現代社会と福祉」

問題 25 イギリスの新救貧法(1834年)に関する次の記述のうち、最も適切なもの1つ選びなさい。

  • 1 劣等処遇の原則を導入し、救貧の水準を自活している最下層の労働者の生活水準よりも低いものとした。
  • 2 パンの価格に基づき定められる最低生計費よりも収入が低い貧困者を対象に、救貧税を財源としてその差額を給付した。
  • 3 貧困調査を実施して、貧困は社会的な要因で発生することを明らかにした。
  • 4 働ける者を労役場で救済することを禁止し、在宅で救済する方策を採用した。
  • 5 貧困の原因として欠乏・疾病・無知・不潔・無為の5大巨悪を指摘した。

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※専門科目のみ