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張先生の受験対策講座

張 百々代(はり ももよ)

受験勉強のガイド役となるのがこのコーナーです。受験対策のプロである張(はり)先生が、あなたの合格までの道のりをサポートします。

プロフィール張 百々代(はり ももよ)

精神保健福祉士・社会福祉士。児童養護施設、老人福祉施設での勤務を経て福祉系専門学校講師に。
現在は受験対策講座講師、各大学での受験対策に従事しており、第三者後見人として精神障害者・知的障害者の成年後見活動にも携わっている。

第5回 「精神保健福祉相談援助の基盤」

 皆さまこんにちは。初夏を迎えましたが新型コロナ感染症の厳しい状況は変わらず、連日の報道に不安が募ります。学生の皆さまはオンライン授業などで、現場の皆さまはコロナ対策で、不自由な日々を送っておられることと思います。落ち着かない日々の中だと思いますが、少しずつでも学習に取り組むことによって集中力が養われ、前向きになることができます。着実に一歩一歩、学習を進めていきましょう。

 今回は「精神保健福祉相談援助の基盤」を取り上げます。この科目は、精神保健福祉士としての相談援助の理念や価値という、援助の根幹にかかわる内容になります。人間の尊厳という価値や倫理、権利擁護などの理念をしっかりと理解しましょう。

 また、現代社会の急激で多様な変化に対して、精神保健福祉士に求められている役割もいっそう広がり、重要になってきています。精神保健福祉士の法律上の位置付けや役割とともに、多職種連携やマクロ的な介入の視点などもしっかり押さえておきましょう。今回は後ほど、ソーシャルワークの専門職としての発展の経緯について、医療ソーシャルワーカー、精神科ソーシャルワーカーの発展の経緯を含めて取り上げていきます。

 では、最初に前回の課題の解説をしていきます。

第23回 精神保健福祉士国家試験 「精神保健の課題と支援」

問題 16 アルコール健康障害対策基本法に関する次の記述のうち、正しいもの1つ選びなさい。

  • 1 酒に酔っている者の行為を規制し、又は救護を要する酩酊(めいてい)者を保護する等の措置を講ずることによって、過度の飲酒の害悪を防止することを目的としている。
  • 2 重度アルコール依存症入院医療管理加算の施設基準を定めている。
  • 3 アルコール健康障害に関連して生じる飲酒運転、暴力、虐待、自殺等の問題をアルコール関連問題としている。
  • 4 都道府県及び市町村に対し、アルコール健康障害対策推進基本計画の策定義務を規定している。
  • 5 アルコールの輸入、輸出、製造、譲渡に関する規定がある。
正答3

解答解説

  • 1 × 選択肢の記述を規定しているのは、「酒に酔って公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律」である。この法律は、「酩酊者」の行為の規制と保護によって過度の飲酒による害悪を防止することを目的としており、警察官による酩酊者の保護、酩酊者による迷惑行為の制止や罰則規定、アルコール慢性中毒者等に関する保健所長への通報義務等が規定されている。
  • 2 × 重度アルコール依存症入院医療管理加算の施設基準を定めているのは、厚生労働省通知である。施設基準では、この加算がつくのは「当該医療保険医療機関にアルコール依存症に係る適切な研修を修了した医師、研修を修了した看護師、 作業療法士、精神保健福祉士又は臨床心理技術者がそれぞれ1名以上配置されていること」という要件が規定されている。
  • 3 〇 「アルコール関連問題」の規定は、記述どおりである。国民の責務として、国民はこの「アルコール関連問題」に関する関心と理解を深め、アルコール健康障害の予防に必要な注意を払うよう努めなければならないとされている。
  • 4 × 「アルコール健康障害対策推進基本計画」の策定が義務付けられているのは、政府である。都道府県は、「都道府県アルコール健康障害対策推進計画」を策定するよう努めなければならないと「努力義務」が規定されている。市町村に関しては、計画策定の規定はないので注意しておこう。
  • 5 × アルコールの輸入、輸出、製造、譲渡に関する規定があるのは、「アルコール事業法」である。「アルコール事業法」は、アルコールの酒類の原料への不正な使用の防止、アルコールの製造、輸入、販売の事業の運営等について規定している。

 いかがでしたか。では今回の「精神保健福祉相談援助の基盤」について、出題基準と過去問題の出題実績を分析しながら、頻出分野を中心に受験対策について取り上げていきます。

精神保健福祉士の役割と意義

 「精神保健福祉士法」は、私たちが目指している精神保健福祉士の根拠法です。法律に規定されている精神保健福祉士の定義、業務、役割、義務、罰則規定等を押さえておきましょう。精神保健福祉士の義務として、誠実義務、信用失墜行為の禁止、資質向上の責務等の出題がみられます。

 精神保健福祉制度の歩みとして、精神保健福祉士国家資格成立に至るまでの精神科ソーシャルワーカーの歴史、資格成立の経緯についても基本的な内容を整理しておきましょう。第21回では、精神科ソーシャルワーカーの歴史が出題されています。今回は後ほどこの分野についても取り上げていきます。

 「精神保健福祉士の専門職倫理と倫理的ジレンマ」については、国際ソーシャルワーカー連盟(IFSW)の倫理綱領が出題されています。「精神保健福祉士の倫理綱領」と併せてよく読み込んでおくとよいでしょう。精神保健福祉士実践の現場で出会う倫理的ジレンマについては、さまざまな場面における倫理的ジレンマとその対応方法を押さえておきましょう。

社会福祉士の役割と意義

 精神保健福祉士に関連する専門職については、社会福祉士や介護福祉士について、それぞれの役割、法律上の定義、業務、義務等を理解しておきましょう。社会福祉士等に関する業務規定や日本社会福祉士会、日本介護福祉士会、日本精神医学ソーシャルワーカー協会等の、社会福祉に関する専門職団体が設立された経緯が出題されています。

相談援助の概念と範囲

 国際ソーシャルワーカー連盟のソーシャルワークの定義、ソーシャルワークが拠り所とする基盤、仲介者としての位置付け、価値、理論、実践について、重要語句を押さえて理解しておきましょう。

 ソーシャルワークの形成過程としては、仲村優一、浅賀ふさ、竹内愛二、村松常雄、窪田暁子、ジャレット、ビアーズ、キャノンが出題されています。医療ソーシャルワーカー、精神科ソーシャルワーカーの歴史等をよく学習しておきましょう。

 第23回では、ソーシャルワークの専門職としての属性について出題されました。今回は後ほど、ソーシャルワークが専門職として認知されるようになった経緯と専門職としての属性について取り上げて解説していきます。

 アプローチ論としては、ホリス、トール、マイヤー、ジャーメイン、アプティカー、ロビンソン、トーマス等が出題されています。課題中心アプローチ、ナラティブアプローチ、解決志向アプローチ、システムズアプローチ、ストレングスアプローチ等の出題実績があります。短文事例問題に対応できるように、アプローチ論の内容をよく理解しておきましょう。

相談援助の理念

 この分野は、精神保健福祉士として実践を進めていく上で、精神障害者の人権をどうとらえるかという理念を扱っています。ノーマライゼーション、アドボカシー、エンパワメント、ストレングス、ピープルファースト、社会的包摂(ソーシャルインクルージョン)などの相談援助の基本的理念は、援助の際の基盤となる考え方ですから、人権尊重の視点、利用者主体の考え方などとともに、事例問題にも対応できるよう、それぞれの理念の内容をよく押さえておきましょう。

 ノーマライゼーションの理念、アカウンタビリティ、アドボカシー、ストレングス、レジリエンス、ソーシャルインクルージョンの概念などが繰り返し出題されています。基本的な理念ですから理解を深めておきましょう。

精神保健福祉士が行う相談援助活動の対象と相談援助の基本的考え方

 この分野の中項目は、「保健、医療、福祉等の各分野における相談援助の対象及び相談援助の基本的考え方」とされています。ピアサポーター、ピアカウンセラー、セルフヘルプグループ、ヘルパーセラピーの原則、リカバリー等の概念とそれらを相談援助の実践の場でどのように適用するか、事例問題に対応できるようにしておきましょう。

 精神保健福祉士が行う相談援助活動に関しては、セルフヘルプグループへのかかわり方、プロセス重視という援助の視点、生活障害の捉え方、ストレスとコーピングスキル、人間と環境との関係の視点という具体的な援助の視点、OJTやスーパービジョン、専門性の向上等が出題されています。

相談援助に係わる専門職の概念と範囲

 この分野については、医療機関、福祉行政機関、民間における専門職とその役割を、制度面からも十分に学習しておくことが求められます。看護師、作業療法士、理学療法士、言語聴覚士、介護福祉士、管理栄養士等の専門職の専門的業務について整理しておきましょう。また、行政機関としての保健所や市町村、福祉事務所、地域包括支援センター等の役割についても理解しておきましょう。

 医療機関における専門職、社会復帰調整官、精神保健指定医、社会福祉主事、精神保健福祉相談員、介護福祉士、障害者にかかわる相談支援専門員の資格要件と業務内容が出題されています。関連分野の専門職種について、基本的な業務内容等を整理しておくとよいでしょう。

精神障害者の相談援助における権利擁護の意義と範囲

 ここは非常に出題頻度の高い分野です。権利擁護の機能、アドボカシーの種類、権利擁護システムとしての第三者評価事業、苦情解決制度、障害者の権利条約における合理的配慮等、さまざまな側面からの出題がみられますので、注意して学習しておいてください。

 特に、アドボカシーの機能、精神障害者の権利擁護としての調整機能について出題されています。ケースアドボカシー、クラスアドボカシー、シチズンアドボカシー等の意味、権利擁護の発見機能、仲介的弁護機能、介入の機能、対決の機能、変革の機能等について、よく理解しておきましょう。

 権利擁護の実践として、「障害福祉サービス等の提供に係る意思決定支援ガイドライン」(平成29年3月厚生労働省)が出題されています。現場では、利用者の意思決定をどのように支援するかということが絶えず問われます。現場での実践に直結する内容ですから、ガイドラインをよく読み込んでおくことをおすすめします。

精神保健福祉活動における総合的かつ包括的な援助と多職種連携(チームアプローチ含む)の意義と内容

 この分野では、コミュニティソーシャルワークや多職種連携、チームアプローチの考え方についての学習が求められます。多職種チームの連携形態、チームビルディングの諸段階等が出題されています。マルチディシプリナリ・モデル、インターディシプリナリ・モデル、トランスディシプリナリ・モデルの性格と適用対象について整理しておきましょう。

 精神科病院からの退院促進に伴い、地域での多職種連携の重要性が増してきている現在、障害者にかかわるさまざまな相談機関やサービス、専門職種との連携のあり方を問う問題は今後いっそう増えていくと思われます。多職種連携とチームワークの目的、また、チームを形成していく諸段階で、精神保健福祉士として留意すべき事柄についてしっかり押さえておきましょう。

 以上、出題範囲と重点内容を確認してきましたが、ここからはソーシャルワークが専門職として認知されるようになった経緯と、医療ソーシャルワーカー、精神科ソーシャルワーカーの歴史について取り上げていきます。

慈善組織協会

 ソーシャルケースワークの源流は、イギリスで1869年に始まった慈善組織協会運動(COS)にあります。19世紀後半のイギリスでは貧困問題が顕在化し、個別、恣意的に行われていた慈善事業の結果、濫救や漏救が生まれたことに対して、慈善事業を組織化する必要から生まれたものです。

 この慈善組織協会は、貧困は個人の責任によるという価値観に基づき、素行不良・怠惰による「救済に値しない貧民」の救済は行政が行うべきであるとし、病気や障害などで働けないために貧困に陥っている「救済に値する貧民」だけを対象として、友愛訪問活動による救済活動を実施しました。

友愛訪問活動

 慈善組織協会の働きはその後、1877年にアメリカのバッファローに導入されました。アメリカで慈善組織協会の活動に従事したリッチモンドは、友愛訪問活動が広い知識と社会的訓練を必要とする専門性の高い働きであることを認識し、その活動を理論化し、科学化、体系化して、1917年に『社会診断』を著し、ケースワーク理論を確立しました。

応用博愛学校

 リッチモンドは、友愛訪問活動従事者に対する教育と訓練の必要性を感じ、1897年の「全国慈善矯正会議」で、活動従事者に対する教育と訓練を目的とした「応用博愛事業学校」の必要性を提言しました。そして翌年の1898年には、ニューヨークの慈善組織協会で、6週間という期間を設定して、世界で初めての教育と訓練のための「夏期講習会」を開催しました。この教育・訓練の流れは、1903年シカゴに、1904年ニューヨークに、それぞれ「博愛事業学校」の開設へと展開していきました。

慈善組織協会 「救済に値する貧民」対象として、友愛訪問活動による救済活動を実施した。
友愛訪問活動 リッチモンドは、慈善組織協会活動の友愛訪問活動を通して、ケースワーク理論を確立した。
応用博愛学校「夏期養成講座」 1898年リッチモンドが提唱して世界で初めて、専門職教育が実施された。

専門職化についての議論

 1915年のアメリカのボルチモアで開催された、「全米慈善矯正会議」(National Conference of Charities and Correction)において、フレックスナーによって「ソーシャルワークは専門職か」という問いが投げかけられました。

 フレックスナーは、専門職であるために必要な条件として、(1)基礎となる科学的研究(基礎科学)のあること、(2)知は体系的で学習されうるものであること、(3)実用的であること、(4)教育的手段を講じることよって伝達可能な技術があること、(5)専門職団体・組織を作っていること、(6) 利他主義的であること、という6つの条件を提示し、まだこれらが満たされていないとして「ソーシャルワークは、いまだ専門職ではない」と結論付けました。

ミルフォード会議

 アメリカでは、慈善組織協会活動を始め、セツルメント活動やグループワークの発展等により、ソーシャルワークが専門化、分化していきました。その結果、ソーシャルワークの共通基盤であるジェネリックな分野よりも、特定の専門分野におけるスペシフィックな分野の専門性が追及されるようになり、ソーシャルワークのあり方が問われるようになりました。このような状況に対してミルフォード会議が出した1929年報告書は、ジェネリック・ソーシャル・ケースワークの重要性が提起され、ソーシャルワークの統合化が図られる契機となりました。

 またこの時期は、1929年の世界大恐慌による困窮状態に対応するため、公的機関によるケースワーカーの採用、グループワーク、コミュニティ・オーガニゼーションの発展と専門化が進んでいきました。1935年には社会保障法が成立し、公立のソーシャルワークのための施設や機関が増加していき、さまざまな分野におけるソーシャルワーク技術が発展し、分野ごとのさまざまなソーシャルワークの専門職団体が設立されていきました。

全米ソーシャルワーカー協会設立

 1955年には、分野ごとのソーシャルワークの諸団体が参加して、「全米ソーシャルワーカー協会」が設立されました。また、資格付与制度として認定ソーシャルワーカー制度が創設され、倫理綱領が制定されました。

 この協会に参加したのは、専門職団体としての医療ソーシャルワーカー協会、学校ソーシャルワーカー協会、アメリカ・ソーシャルワーカー協会、アメリカ精神医学ソーシャルワーカー協会、アメリカ・グループワーカー協会、研究団体としてのコミュニティ・オーガニゼーション研究協会、社会福祉調査グループでした。

グリーンウッド

 これらの経緯を経て、グリーンウッドは1957年、全米ソーシャルワーカー協会の機関誌に、「専門職の属性」という研究論文を発表しました。グリーンウッドは専門職の属性として、(1)体系的な理論があること、(2)専門職としての権威があること、(3)倫理綱領があること、(4)コミュニティの承認を得ていること、(5)専門職的副次文化(サブカルチャー)があることの5つを挙げたうえ、ソーシャルワークはすでにこの基準を満たしているとし、「ソーシャルワークはすでに専門職である」と結論付けしました。

フレックスナー 1915年、ソーシャルワーカーが専門職であるための条件を示し、いまだ専門職ではないとした。
ミルフォード会議 1929年、ジェネリック・ソーシャルワークの重要性を指摘。
全米ソーシャルワーカー協会設立 1955年ソーシャルワーカーの全国組織を設立。倫理綱領制定、資格付与制度を創設。
グリーンウッド 1957年、ソーシャルワーカーが専門職であるための条件を示し、すでに専門職であると位置付けた。

医療ソーシャルワーカー

 医療ソーシャルワーカーの分野では、1895年にイギリスのロイヤル・フリー・ホスピタル(王立施療病院)に、「アルモナー(almoner)」としてメアリー・スチュアートが配置されたことから始まります。

 この「アルモナー」とは、限られた医療資源を真に必要とする人に提供するために、施設への入所の可否を決定するという役割を担う人材で、現在の医療ソーシャルワーカーの源流といわれています。アーモナー、アルマナーと呼ばれることもあります。

キャボット博士とキャノン

 アメリカにおいては、マサチューセッツ総合病院のキャボット博士が、医療ソーシャルワーカーを採用したことに始まります。キャボット博士は、患者が回復して退院しても、再入院を繰り返しているという実態に、患者の生活背景や家族状況、経済的状況と病気が深いかかわりがあると考え、福祉的な視点でのかかわりを担う人材の必要性を覚えたことによります。2人目に採用されたキャノンは、医療ソーシャルワーカーとしてキャボット博士の理念を具現化し、実践に結び付けていきました。

我が国の医療ソーシャルワーカー

 日本では、医療ソーシャルワークと精神科ソーシャルワークが最初から明確に分かれていたわけではなく、医療ソーシャルワークがまず実践され、その後、精神科に特化したソーシャルワークが発展していきました。まず、医療ソーシャルワークの発展の経緯からみていきましょう。

清水利子

 日本の医療ソーシャルワークは、最初は貧困者に対する事業として実施されました。清水利子は、日本女子大学で社会事業教育を受け、1926年から済生会芝病院の済世社会部で救済事業に従事し、患者や家族の相談にかかわっていきました。

浅賀ふさ

 1929(昭和4)年には、聖路加国際病院に、アメリカのシモンズ女子大学で社会事業の専門教育を受けたのちキャボット博士の薫陶を受けた浅賀ふさが、医療ソーシャルワーカーとして配置されました。配属先の医療社会事業部では、貧困者のための無料・低額の医療事業が実施され、グループワークやリハビリテーションなどにも取り組みましたが、戦争が激しくなり、この時期はまだ、医療ソーシャルワーカーの他の医療機関への配置は進みませんでした。

アルモナー イギリスのロイヤル・フリー・ホスピタルにメアリー・スチュアートを配置。
キャボット博士 アメリカのマサチューセッツ総合病院に医療ソーシャルワーカーを配置。
清水利子 済生会芝病院の済世社会部で救済事業に従事。
浅賀ふさ 聖路加国際病院の医療社会事業部に医療ソーシャルワーカーとして配置。

我が国の精神科ソーシャルワーカー

 日本で初の精神科ソーシャルワーカーに言及した記録としては、1928(昭和3)年の出版物に掲載された「松沢病院の歴史」の記事に「遊動事務員」という言葉がみられます。この記録によると、遊動事務員は、精神病院に入院する患者の家族の実情の把握や患者の様子を家族に知らせるなどをして患者の幸福を増進し、家族や社会との連絡を円滑にする業務を行う者として想定されていました。この記録から、1920年代当初に精神科医療ソーシャルワーカーの萌芽をみることができます。

社会事業婦の配置

 第二次世界大戦後の1948(昭和23)年に、国立国府台病院の精神科に、院長である村松常雄が医療社会事業部を設置し「社会事業婦」を配置したのが、本格的な精神科ソーシャルワークの導入となります。

 村松常雄は、「精神衛生相談なる事業は、精神衛生運動の実際的仕事として最も重要なるものの一つであって、精神の健康、異常、疾病其他に関する一切の相談に応じ、鑑別、診断、処置等を行うが、原則として医療は行わない建前を普通とすることは、他の健康相談に於けると一般である」「この事業のためには精神科専門医師の外に、精神衛生の教育訓練を受けた社会婦、又は保健指導婦、又は公衆看護婦を必要とする」としています。

国立精神衛生研究所

 1952(昭和27)年には、国はこの国府台病院に隣接して「国立精神衛生研究所」を開設し、精神科医、心理学者に加えて、精神科ソーシャルワーカーをも含む臨床チームの運営を開始しました。この国立精神衛生研究所では、ソーシャルワーカーを含めた精神保健の専門家の研修が行われるようになり、精神科ソーシャルワーカーへの関心が高まっていきました。

日本医療社会事業家協会

 1953(昭和28)年には、浅賀ふさらにより「日本医療社会事業家協会」が結成され、精神科の領域を含む医療ソーシャルワーカーが加入しました。1958(昭和33)年には「日本医療社会事業協会」に改組され、現在の「日本医療社会福祉協会」へと発展していきます。

日本精神医学ソーシャルワーカー協会設立

 この翌年の1959(昭和34)年には、都立松沢病院に、精神科ソーシャルワーカーが配置されていきます。その後、次第に精神科ソーシャルワーカーの配置が進められていき、1964(昭和39)年には、現在の「精神保健福祉士協会」の前身である、「日本精神医学ソーシャルワーカー協会」が設立されました。このときの構成員の所属先は、ほとんどが精神科病院でした。精神科病院で働く精神科ソーシャルワーカーは、生活療法等のリハビリテーションを主に行っていました。

精神衛生相談員

 1964(昭和39)年のライシャワー事件を契機に、1965(昭和40)年には、精神衛生法が一部改正されました。この改正で、保健所が地域の精神保健行政の第一線機関として位置付けられ、保健所に「精神衛生相談員」が配置できることとされました。精神衛生相談員の任用対象者として、大学で社会福祉に関する科目を修め卒業した者、精神衛生に関する知識および経験を有する者、その他政令で定める資格を有する者等が含まれました。

精神科ソーシャルワーカー業務指針

 1989(平成元)年、日本精神医学ソーシャルワーカー協会から「精神科ソーシャルワーカー業務指針」が出されました。業務指針は、精神科ソーシャルワーカー業務は社会福祉学に基礎を置くべきこと、自己決定の原則を重視すべきこと、精神障害者の社会的復権を支援する専門職としての役割を担うべきこと等の基本的理念に基づいて作成されています。

精神科ソーシャルワーカーの国家資格化

 ソーシャルワーカーに関する国家資格の制度としては、1987(昭和62)年に「社会福祉士及び介護福祉士法」が成立し、社会福祉士が国家資格化されました。このときはまだ、独立した精神保健福祉士という資格は国家資格化されませんでした。

 1987(昭和62)年には「精神衛生法」が改正され「精神保健法」が制定されました。この附帯決議において、精神科ソーシャルワーカー等のマンパワーの充実を図ることが明記されました。1995(平成7)年には、「精神保健法」は「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」に改称・改正され、附帯決議に「精神科ソーシャルワーカーの国家資格制度の創設」について検討することが盛り込まれ、精神保健福祉士の国家資格化への取り組みが加速しました。そして、1997(平成9)年には「精神保健福祉士法」が制定・公布され、精神保健福祉士の国家資格化が実現しました。

精神保健福祉士の業務の拡大

 その後、社会的ニーズに対応して、精神保健福祉士の業務の範囲が拡大し、2010(平成22)年の精神保健福祉士法の改正では、障害者自立支援法(現在の障害者総合支援法)における「地域相談支援の利用に関する相談」が精神保健福祉士の業務として明記されました。

社会事業婦 1948(昭和23)年国立国府台病院に社会事業婦という名称で精神科ソーシャルワーカーを初めて配置。
日本精神医学ソーシャルワーカー協会設立 1964(昭和39)年日本精神医学ソーシャルワーカー協会設立。構成員の所属先はほとんどが精神科病院勤務者だった。
精神衛生相談員 1965(昭和40)年精神衛生法一部改正により、保健所に精神衛生相談員が配置できることとされた。
精神科ソーシャルワーカー業務指針 1989(平成元)年、日本精神医学ソーシャルワーカー協会(現・日本精神保健福祉士協会)が作成。精神障害者の社会的復権と自己決定権を重視。
附帯決議 1987(昭和62)年、精神衛生法改正の附帯決議で精神科ソーシャルワーカー等のマンパワーの充実を図ることを明記。
国家資格化 1997(平成9)年、精神保健福祉士法制定により精神保健福祉士が国家資格とされた。
業務範囲の拡大 2010(平成22)年、精神保健福祉士の業務に地域相談支援の利用に関する相談が規定された。

 いかがでしたか? ソーシャルワークの発展の経緯とともに、精神科ソーシャルワーカーの歴史についても理解を深めておきましょう。次回は、「精神保健福祉の理論と相談援助の展開」について取り上げます。では今回の課題を、第23回と第21回の精神保健福祉士国家試験から2問あげておきますので、チャレンジしてみてください。

第23回 精神保健福祉士国家試験

問題 21 次のうち、グリーンウッド(Greenwood,E.)が掲げたソーシャルワーク専門職の属性として、適切なもの1つ選びなさい。

  • 1 個人的な責任を伴う、理論を携えた活動であること
  • 2 地域社会の承認があること
  • 3 専門職を養成するための教育システム及びその訓練課程があること
  • 4 利他的な動機があること
  • 5 構成員の大多数が加入している専門職能団体があること
第21回 精神保健福祉士国家試験

問題21 精神科ソーシャルワーカーの歴史に関する次の記述のうち、正しいもの2つ選びなさい。

  • 1 1948 年(昭和 23 年)に、精神科ソーシャルワーカーは精神衛生相談員という名称で初めて精神病院に配置された。
  • 2 1964 年(昭和 39 年)に、保健所の精神衛生相談員を主たる構成員とする日本精神医学ソーシャル・ワーカー協会が設立された。
  • 3 1987 年(昭和 62 年)の精神衛生法改正時の附帯決議では、精神科ソーシャルワーカー等のマンパワーの充実を図ることとされた。
  • 4 1993 年(平成 5 年)の障害者基本法では、精神科ソーシャルワーカーの具体的な業務が規定された。
  • 5 2010 年(平成 22 年)の精神保健福祉士法の改正では、精神障害者への地域相談支援の利用に関する相談が精神保健福祉士の役割として明確に位置づけられた。