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張先生の受験対策講座

張 百々代(はり ももよ)

受験勉強のガイド役となるのがこのコーナーです。受験対策のプロである張(はり)先生が、あなたの合格までの道のりをサポートします。

プロフィール張 百々代(はり ももよ)

精神保健福祉士・社会福祉士。児童養護施設、老人福祉施設での勤務を経て福祉系専門学校講師に。
現在は受験対策講座講師、各大学での受験対策に従事しており、第三者後見人として精神障害者・知的障害者の成年後見活動にも携わっている。

第37回  「権利擁護と成年後見制度」

 皆さん、こんにちは。今回は「権利擁護と成年後見制度」を取り上げます。この科目では、憲法における基本的人権、民法上の契約の概念、親族、扶養義務、親権と認知、相続、遺言等、行政法における行政行為、行政不服申し立て、成年後見制度、権利擁護のための組織や機関、消費者保護の制度など、各分野の法律の内容等をよく理解しておきましょう。

 また、民法の改正等が行われていますので注意しておきましょう。法改正については、次回から必要と思われる内容を集中的に取り上げていきます。今回は、成年後見制度について取り上げていきます。では、まず前回の課題の解説をしておきましょう。

第22回 精神保健福祉士国家試験 「保健医療サービス」

問題70 日本の医療費の自己負担限度額に関する次の記述のうち、正しいもの1つ選びなさい。

  • 1 食費、居住費、差額ベッド代は、高額療養費制度の支給の対象とはならない。
  • 2 医療保険加入者が70歳未満である場合、二人以上の同一世帯で合算した年額の医療費の自己負担限度額が定められている。
  • 3 医療保険加入者が医療保険と介護保険を共に利用した場合、それらの費用を世帯で合算した月額の自己負担限度額が定められている。
  • 4 医療保険加入者が70 歳以上である場合、入院の費用に限り、世帯単位での医療費の自己負担限度額が定められている。
  • 5 医療保険加入者が高額長期疾病(特定疾病)の患者である場合、医療費の自己負担を免除することが定められている。

正答1

解答解説

  • 1 正しい。高額療養費の対象は、病院に支払うすべての費用が対象になるわけではなく、保険診療の対象になる自己負担分だけです。入院時の食費、居住費、高度先進医療に要する費用・医薬品や、再生医療等の製品の治験に係る診療、法律では承認されているが保険には収載前の医薬品、特別な病室代や差額ベッド代、歯科治療の金や合金の使用、時間外診療、大病院の初診察料、180日以上の入院、制限回数を超える医療行為、未承認薬等の患者本人からの申し出により使用する治療薬等は、高額療養費の対象から除外されています。
  • 2 誤り。医療保険加入者が70 歳未満である場合、二人以上の同一世帯で合算した「年額」ではなく、「月額」の医療費の自己負担限度額が定められています。これは世帯合算制度の説明です。世帯合算制度とは、自分一人だけの自己負担額では高額療養費の上限に達しない場合でも、同じ月に同じ医療保険に加入している場合、同じ世帯の他の世帯構成員の医療費の自己負担額と合算することができる制度です。被保険者とその被扶養者の住所が異なっていても、家計を同じくし実質上の扶養関係にあれば合算できます。
  • 3 誤り。医療保険加入者が医療保険と介護保険を共に利用した場合、それらの費用を世帯で合算する制度は、高額医療・高額介護合算療養費制度です。この制度は、月額の自己負担限度額ではなく、「年額」の自己負担限度額が定められており、1年間の合計が基準額を超えた場合はその超えた額が、高額医療・高額介護合算療養費として支給されます。
  • 4 誤り。70歳以上75歳未満の場合は、「入院」の自己負担額に、世帯内の「外来」の自己負担額も合算することができます。また、70歳以上75歳未満の場合は、その月の自己負担額が2万1000円以内でも合算できます。70歳未満の場合は、その月の自己負担額が2万1000円以上あることが必要です。
  • 5 誤り。医療保険加入者が高額長期疾病(特定疾病)の患者である場合、医療費の自己負担は免除されるのではなく、自己負担上限額が月額原則「1万円」と定められています。これは、長期間に渡って治療の継続が必要な疾病で、著しく高額な医療費が必要となる場合に自己負担限度額を通常より引き下げる特例制度です。対象となる特定疾病は、血友病、人工腎臓を実施している慢性腎不全、抗ウイルス剤を投与している後天性免疫不全症候群です。70歳未満の人工腎臓を実施している慢性腎不全の上位所得者は、2万円となっています。

 いかがでしたか。では、今回の「権利擁護と成年後見制度」に入っていきましょう。今回は、成年後見制度について取り上げていきます。

成年後見人選任申し立て

 成年後見制度は、判断能力が欠けてきた人等の人権を護るために民法に規定されている制度です。成年後見人の選任を希望する場合は、まず家庭裁判所に対して後見開始の審判の申し立てを行います。成年後見制度は人権と深くかかわりますので、申し立て権者は、民法では、「本人、配偶者、4親等内親族、未成年後見人等」に限定しています。
 この制度は、判断能力が欠けた人のための制度ですから、身体障害のために行動が不自由である、あるいは浪費癖があるという人は対象になりません。

 老人福祉法、知的障害者福祉法、精神保健福祉法では、市町村長が申し立てることができると規定しています。これは、親族等がいない等のために後見開始の審判の申し立てができず、結果的に本人の権利が護られないという事態に陥らないように設けられている制度です。

申し立て書記載事項

 後見開始審判の申し立て書には、後見開始、保佐開始、補助開始の別を記入し、申し立て動機とその具体的理由を記入します。後見類型の場合は、包括的代理権と取り消し権が付与されますが、保佐類型、補助類型の場合は、個別の法律行為について付与申し立てを行わなければなりませんから、申立書の中の代理行為目録、同意行為目録の該当する箇所にチェックを入れます。

診断書・後見人候補人

 家庭裁判所に対する後見開始の審判の申し立て時には、主治医による診断書が必要ですが、必ずしも精神科病院の医師でなくてもよいことになっています。また、希望する後見人候補人がいる場合は、申し立て書の「後見人候補人」の箇所に希望する候補人名を記入して申し立てることができます。

後見人の要件

 後見人は、複数でも法人でもよいことになっています。後見人になることができない者として、未成年者、家庭裁判所で免ぜられた法定代理人・保佐人・補助人、破産者、被後見人に対して訴訟をし又はした者とその配偶者及び直系血族、行方の知れない者が、欠格事由の対象として規定されています。

法定後見制度民法の規定による
申立権者本人、配偶者、4親等内親族、未成年後見人、市町村長等
診断書主治医による診断書。必ずしも精神科病院の医師でなくてよい
申立書記載事項後見、保佐、補助の別。個別の法律行為の申し立て内容等、後見人候補人
後見人の要件複数、法人も可能。欠格事由あり

精神鑑定

 「家事審判手続き法」には、「家庭裁判所は、成年被後見人となるべき者の精神の状況につき鑑定しなければ、後見開始の審判をすることができない。ただし、明らかにその必要が無いと認めるときは、この限りではない」と規定されています。

 家庭裁判所は、後見類型の申し立てを受けて必要と認めるときは精神鑑定を行うことになっています。保佐類型は、後見の規定を準用することとされています。補助類型については、精神鑑定は義務づけられておらず、医師その他適当な者の意見を聴かなければならないとされています。

 精神鑑定の実態としては、成年後見関係事件の終局事件のうち、鑑定を実施したものは平成30年1月~12月までは全体の約8.3%、平成31年1月~令和元年12月までは、全体の7.0%となっています。

精神鑑定
後見家庭裁判所は、鑑定義務。明らかに必要がないと認めるときは必要ない
保佐後見の規定を準用
補助家庭裁判所は、医師その他適当な者の意見を聴く義務

後見開始の審判

 家庭裁判所は、後見開始の審判の請求を受けて、親族後見人、あるいは、家庭裁判所に登録されている後見人候補者名簿から、最も適切だと思われる後見人を選任し、後見開始の審判を下します。

 後見人候補人が申し立て書に記載されていた場合は、その候補人が適切かどうかを審査し、適切ならばその候補人を選任し、適切でなければ家庭裁判所の成年後見人登録者名簿のなかから適切な後見人を選任します。

 もし、本人の息子が、自分が後見人になることを希望して、後見人候補人として自分の名前を記入して後見開始の審判の申し立てを行ったにもかかわらず、家庭裁判所から、自分ではなく第三者後見人の選任の意向が示された場合、勝手に審判を取り下げるということはできません。一度後見開始の審判の申し立てを行った場合は、家庭裁判所の許可を得なければ、申し立てを取り下げることはできないことになっています。
 また、後見開始の審判が下る前の本人の法律行為に関しては、後見人等には、代理権、取り消し権、同意権はありません。

登記

 後見開始の審判が下されると、審判内容が本人、成年後見人等に書面で通知されます。その審判に不服があるかどうか審判内容が公告され、2週間以内に不服申し立てすなわち「即時抗告」が無い場合は審判が確定し、後見人は職務を開始します。家庭裁判所は後見開始の審判確定後、東京法務局に登記をします。

後見監督人

 成年後見制度においては、成年後見人、保佐人、補助人とも、家庭裁判所が監督することになります。家庭裁判所が、成年後見人に成年後見監督人が必要であると認めた場合のみ、家庭裁判所の権限で監督人を選任します。後見人、保佐人、補助人の配偶者、直系血族、兄弟姉妹は後見監督人になることはできません。

 任意後見制度では、任意後見監督人は必ず選任されますが、成年後見制度では、家庭裁判所が必要と認めたときだけ選任され、基本的に、成年後見人を監督するのは家庭裁判所であるということに気をつけておきましょう。

後見人の解任・辞任

 家庭裁判所は、成年後見人に不正な行為、著しい不行跡、後見の任務に適しない事由があるときは、後見監督人、被後見人、親族、検察官の請求によって、又は請求が無くても職権で後見人を解任することができます。不正な行為、著しい不行跡等とは、具体的には、被後見人の財産の私的流用や横領、財産管理事務・身上監護事務の怠慢などです。
 また、後見人が高齢になり後見事務の遂行に支障をきたすようになった場合や、病気等で後見事務の遂行が困難等の正当な事由があるときは、後見人は家裁の許可を得て辞任できます。

後見開始の審判家裁は請求により職権で後見人を選任
登記後見の法的効力の成立は登記による
後見監督人家裁が必要と認めたときにのみ選任
後見人の解任 被後見人等は、家裁に後見人解任請求ができる
家裁は、成年後見人に不正な行為、著しい不行跡等の事実がある場合、職権で解任できる
後見人の辞任後見人は、正当な事由があるとき家裁の許可を得て辞任できる

意思尊重・身上配慮義務

 後見事務の理念原則として、民法第858条には、「成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護、及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない」と規定されています。これを、成年後見人の「本人の意思尊重義務」「身上配慮義務」といいます。

善管注意義務

 後見人等は、後見等事務を行うとき、「善管注意義務」を負います。「善管注意義務」とは、「善良な管理者の注意で委任事務を処理する義務」のことです。委任契約は、当事者の信頼を基礎とする契約であるため、報酬の有無にかかわらず、「受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって委任事務を処理する義務を負う」と民法第644条に規定されています。

財産管理

 具体的な後見職務についてみていきましょう。後見職務には大きく分けて、「財産管理」と「身上監護」があります。財産管理では、財産の維持と本人の利益のための財産の活用を行います。具体的には、預貯金、保険、有価証券等の管理、年金の請求と受給、売買契約、賃貸借契約、税金の申告・納付等です。

身上監護

 「身上監護」とは、身体介護や食事介護等の事実行為ではなく、本人に必要な介護サービスの契約や病院入院時の医療契約、要介護認定の申請等のような法律行為における身上監護のことです。成年後見人は、入院等の医療契約はできますが、身体にメスや注射針を入れること、検査のために身体に薬物を注入するなどのような「医的侵襲行為」についての代理権、取り消し権はないことに気をつけておきましょう。

後見事務
意思尊重・身上配慮義務成年被後見人の意思を尊重し、心身の状態等に配慮しなければならない
善管注意義務 民法に規定する善良な管理者の注意で委任事務を処理する義務を負う
財産管理財産の維持と本人の利益のための財産の活用
身上監護「医療契約」はできるが「医的侵襲行為」に関する代理権、取り消し権はない

代理権・同意権・取り消し権

 後見人等の機能として、後見人には、後見開始の審判が下ると同時に包括的代理権と取り消し権が付与されます。保佐人と補助人には、個別の法律行為について付与申し立てを行い、それぞれについて審判が下され、代理権、同意権、取り消し権が付与されます。

代理権

 代理権とは、本人に代わって行う法律行為に関する権利のことで、成年後見人が本人の代理人として行う行為が法的効力を有する権利のことです。例えば、本人の判断能力がない場合、介護サービスが必要であると判断される状況であるにもかかわらず、本人が契約を締結するという判断能力がない場合等、代理権のある後見人等が、本人に代わって介護サービス事業所と利用契約を行うことができる権利等のことです。

同意権・取り消し権

 同意権と取り消し権は表裏一体のものです。取り消し権とは、本人が後見人、保佐人、補助人の同意を得ずに、本人にとって不利益な法律行為を行った場合は、後見人等はその法律行為を取り消すことができるという権利です。

 例えば、悪徳業者に騙されて、被後見人が後見人の同意を得ずに、必要のない羽毛布団などを通常の必要以上に過量契約をしてしまったような場合、後見人は、本人に代わってその売買契約を取り消すことができます。この場合、本人も取り消すことができ、後見人等(後見人、保佐人、補助人)いずれからも取り消すことができます。

 ただ、後見開始の審判が下る前に行った法律行為については、取り消し権はありません。例えば、判断能力が低下した状況で自分が所有する土地を安価で売却してしまった高齢者に、その後成年後見人が選任された場合でも、選任前の本人の行為については、その成年後見人には取り消し権はなく、後見人はその売買契約を取り消すことはできません。

取り消し権の制限

 後見人、保佐人、補助人とも、取り消し権が付与されても、日用品の購入その他日常生活に関する法律行為に関する取り消し権はありません。これは、本人の自己決定を尊重するという考え方に基づいています。

監督義務者責任等

 後見人等には、被後見人等に対する監督義務者責任及びそれに準ずる責任があります。監督義務者責任とは、民事上の責任能力が無い者、すなわち責任無能力者が第三者に損害を与えた場合、その損害の賠償義務を生じることをいいます。この責任は、監督義務者がその監督義務を怠らなかったとき、あるいは監督義務を怠らなくても損害が生じたであろう場合は責任を免れます。成年後見人が監督義務者あるいはそれに準ずる者に該当する場合は、損害賠償責任を負うことになります。

代理権本人の代理人として行う行為が法的効力を有する権利
取消権被後見人等が後見人等の同意を得ずに行った法律行為を取り消すことができる権利
取消権の制限後見人等に日用品の購入その他日常生活に関する法律行為に関する取り消し権はない
監督義務者責任と損害賠償責任責任無能力者が第三者に損害を与えた場合は、法定監督義務者及びそれに準ずる者に損害賠償義務が発生する

 いかがでしたか。この科目は、憲法、民法、行政関係法、消費者契約等、範囲が広く法律用語が難しいため苦手意識のある方が多いようですが、出題内容は限られていますから、頻出内容をしっかり押さえ、法律的な考え方を身につけることによって十分対応できます。ぜひ自信を持って取り組んでください。

 次回からは、総まとめとして、頻出の法改正と直近の法改正を中心に取り上げていきます。では、最後に第22回の精神保健福祉士の試験問題から今回の課題をあげておきますので、チャレンジしてみてください。

第22回 精神保健福祉士国家試験 「権利擁護と成年後見制度」

問題80 成年後見制度に関する次の記述のうち、適切なもの1つ選びなさい。

  • 1 子が自分を成年後見人候補者として、親に対する後見開始の審判を申し立てた後、家庭裁判所から第三者を成年後見人とする意向が示された場合、審判前であれば、家庭裁判所の許可がなくても、その子は申立てを取り下げることができる。
  • 2 財産上の利益を不当に得る目的での取引の被害を受けるおそれのある高齢者について、被害を防止するため、市町村長はその高齢者のために後見開始の審判の請求をすることができる。
  • 3 成年被後見人である責任無能力者が他人に損害を加えた場合、その者の成年後見人は、法定の監督義務者に準ずるような場合であっても、被害者に対する損害賠償責任を負わない。
  • 4 判断能力が低下した状況で自己所有の土地を安価で売却してしまった高齢者のため、その後に後見開始の審判を申し立てて成年後見人が選任された場合、行為能力の制限を理由に、その成年後見人はこの土地の売買契約を取り消すことができる。
  • 5 浪費者が有する財産を保全するため、保佐開始の審判を経て保佐人を付することができる。