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張先生の受験対策講座

張 百々代(はり ももよ)

受験勉強のガイド役となるのがこのコーナーです。受験対策のプロである張(はり)先生が、あなたの合格までの道のりをサポートします。

プロフィール張 百々代(はり ももよ)

精神保健福祉士・社会福祉士。児童養護施設、老人福祉施設での勤務を経て福祉系専門学校講師に。
現在は受験対策講座講師、各大学での受験対策に従事しており、第三者後見人として精神障害者・知的障害者の成年後見活動にも携わっている。

第23回 「精神保健福祉相談援助の基盤」

 皆さん、こんにちは。朝夕は秋めいてきたとはいえ、まだまだ暑さが続きます。学習は進んでいますか。焦らずに着実に進めていくことが合格の秘訣です。一緒に頑張っていきましょう。

 今回は、「精神保健福祉相談援助の基盤」を取り上げます。相談援助の対象・価値・理念・意義や、関連専門職、権利擁護、チームアプローチなど、精神保健福祉士として押さえておくべき価値や権利擁護が大きなテーマになっている科目です。今回は相談援助の理念としての正義の概念とノーマライゼーション、意思決定支援を中心に取り上げます。では、最初に前回の課題の解説をしておきましょう。

第22回 精神保健福祉士国家試験 「精神保健の課題と支援」

問題16 精神作用物質の乱用対策及び使用者への援助に関する次の記述のうち、正しいもの1つ選びなさい。

  • 1 有効な外来治療として、ワークブックとマニュアルを用いた集団認知行動療法プログラムが開発されている。
  • 2 大麻は、麻薬及び向精神薬取締法で使用と所持が規制されている。
  • 3 ハーム・リダクションとは、 薬物使用を厳罰化することで、その流通量を減らすことを目的とした政策のことである。
  • 4 薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部執行猶予制度とは、一定期間服役させた後、残りの期間を社会復帰促進センターで処遇するものである。
  • 5 覚せい剤取締法違反は、「医療観察法」における重大な他害行為とされる6罪種の一つである。

正答1

解答解説

  • 1 正しい。ワークブックとマニュアルを用いた集団認知行動療法プログラムとは、SMARPP:スマープ(せりがや覚醒剤依存再発防止プログラム)のことで、動機づけ面接を重視した「マトリックスモデル」を参考に開発されました。マトリックスモデルとは、アメリカのロサンゼルスのマトリックス研究所が開発した治療プログラムで、薬物の使用をすぐにやめることを目標とするのではなく、動機づけ面接を重視し、薬物使用者に支持的、受容的に接して、徐々に薬物を辞める動機を強めていくという方法です。
  • 2 誤り。大麻の使用と所持が規制されているのは、大麻取締法です。大麻取締法では大麻の取り扱いについて、「大麻取扱者以外は、大麻を所持し、栽培し、譲り受け、譲り渡し、又は研究のために使用してはならない」と規定しており、この法律に違反したときは罰則規定が設けられています。
  • 3 誤り。「ハーム・リダクション」とは、精神作用性のあるドラッグについて、その使用を禁止するのではなく、その使用によって生じる健康・社会・経済上の被害や悪影響を減少させることを目的とする実践方法のことをいいます。これは、薬物使用に対して厳罰化や厳しい規制がむしろ薬物消費量の増加やHIV感染症者増等を引き起こしていることに対して考えられた援助技法で、清潔な注射器の配布、代替薬物の使用や情報提供等を実施することにより、薬物使用者のスティグマの減少、居場所の確保、人権の尊重、薬物使用者の減少等の効果をもたらしています。
  • 4 誤り。薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部執行猶予制度とは、一定期間の服役後、残期刑の一部の執行を猶予し社会の中で処遇する制度です。対象者は、3年以下の懲役または禁固の言い渡しを受けた者で、執行猶予期間中は必ず保護観察に付されなければならないこととされています。
  • 5 誤り。覚せい剤取締法違反は、「医療観察法」における重大な他害行為とされる6種類の罪には該当しません。「医療観察法」における重大な他害行為は、「殺人、放火、強盗、強制性交等、強制わいせつ、傷害」です。

第19回 精神保健福祉士国家試験 「精神保健の課題と支援」

問題16 精神作用物質の乱用対策及び援助に関する次の記述のうち、正しいもの1つ選びなさい。

  • 1 ハーム・リダクションとは、刑務所での服役の代わりに、裁判所の監督下で治療施設に通所させる処遇システムである。
  • 2 危険ドラッッグとは、麻薬及び向精神薬取締法に基づいて厚生労働省が指定し、その販売が規制される薬物を指す。
  • 3 AA(アルコホーリクス・アノニマス)とは、アルコール依存症を抱えた人が治療のために入所する民間リハビリテーション施設のことである。
  • 4 ブリーフ・インターベンションとは、多量飲酒等の問題飲酒者の、飲酒量を減らすことを支援する方法の一つである。
  • 5 CAGE(ケージ)とは、10項目から構成される問題飲酒の早期発見を目的としたスクリーニングテストである。

正答4

解答解説

  • 1 誤り。上記選択肢3の解説参照。
  • 2 誤り。危険ドラッグの法律上の定義はありませんが、一般的に、医薬品・医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保に関する法律に規定されている「指定薬物」を含むものと理解されています。「指定薬物」は、広告中止命令・販売停止命令の対象となっており、薬物乱用対策として危険ドラッグ販売店への立ち入り検査、危険ドラッグ事犯の摘発などが実施されています。危険ドラッグの所持、購入、譲り受け、授与、使用は禁止されていて、違反者は、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金が科せられます。
  • 3 誤り。AA(Alcoholics Anonymaous)は、飲酒問題を解決することを希望する自助グループのことです。匿名を条件とした非組織性のグループで、会員制はなくメンバー間の関係は平等です。具体的な方法は、ミーティングと呼ばれる飲酒問題を抱えた当事者の集いで12のステップを使用してのわかち合い、アルコール依存症からの回復への手助け等をしています。
  • 4 正しい。ブリーフ・インターベンションとは、対象者の飲酒行動に変化をもたらすことを目的とした、短時間のカウンセリングのことです。飲酒量をどれだけ減らすかを具体的に自分で設定し実践します。スクリーニングテスト等で飲酒問題を客観的に評価して、飲酒を続けた場合の将来のリスクについての情報を提供する「フィードバック」、リスク回避のための具体的な対処法の助言やヒントを与える「アドバイス」、本人ができそうな飲酒量の低減目標を自ら設定する「ゴールセッティング」から構成されています。ブリーフ・インターベンションの対象は、AUDIT(オーディット)の点数が8~14点の者です。
  • 5 誤り。CAGE(ケージ)とは、自己診断により、質問に「はい」か「いいえ」で解答し判定する方法です。「飲酒量を減らさなければならないと感じたことはありますか」「他人があなたの飲酒を非難するので悩んだことはありますか」、「自分の飲酒について、罪悪感を感じたことがありますか」「二日酔いを治すために、迎え酒をしたことがありますか」という質問の2項目以上に該当した場合は、アルコール依存症の可能性が高いと判断されます。

 いかがでしたか。「精神保健の課題と支援」では、自殺、児童虐待、職場のメンタルヘルス対策、災害時支援等についても幅広く学習しておきましょう。

 それでは、今回の「精神保健福祉相談援助の基盤」に入っていきましょう。この科目は、ソーシャルワーカーの価値や倫理、関連専門職とのチームアプローチ、自己決定、権利擁護などが出題基準として上げられています。権利擁護のためのエンパワメントやアドボカシーの概念など、援助の基本的姿勢をよく理解しておきましょう。
 今回は、相談援助の理念としての社会正義、ノーマライゼーション、自己決定支援について取り上げていきます。

相談援助の原理

 2000年に国際ソーシャルワーカー連盟の総会で採択されたソーシャルワークの定義において、ソーシャルワークが拠りどころとする基盤は、「人権と社会正義」であるとされました。2014年に、国際ソーシャルワーカー連盟と国際ソーシャルワーク学校連盟の総会で採択された「ソーシャルワーク専門職のグローバル定義」においては、ソーシャルワークの諸原理として「社会正義、人権、集団的責任、多様性尊重」が挙げられています。

 両者に共通して掲げられているソーシャルワークの基盤及び諸原理である「人権と社会正義」は、どのようなものとして考えられているのでしょうか。「人権」とは、人が人としての尊厳を持って生きていくという権利であり、その人が何かができるかどうかということは問われず、「人が人であるがゆえに持っている尊厳が守られる権利」ということができるでしょう。

 この、「人間としての尊厳が守られるための権利」としての「人権」が保障されるための環境として、必然的に「社会正義」が必要になります。社会正義に関しては、今まで多くの論者が、それぞれの立場から様々な理論が提示されてきました。

 今回は、その中から、ベンサムの功利主義、ロールズの正義論、サンデルのコミュニタリアニズム、キムリッカの多文化主義、フリーダンのフェニミズム運動等について取り上げていきます。この分野は、共通科目の「現代社会と福祉」と重なる分野ですので、並行して学習しておくと理解が深まります。

功利主義

 ジェレミ・ベンサム(Benntham,J.)が提唱した功利主義は、「快楽や幸福をもたらす行為が善である」という考え方をもとに、正しい行為や政策は、「最大多数の最大幸福」をもたらすものであるとし、「社会の幸福の総量が最大となるしくみ」が最も優れた仕組みであるとしました。

 ベンサムは、「個人の幸福の総計」を「社会全体の幸福」として、「社会全体の幸福の最大化」が「社会の善」であるとしました。そのために、ある行為がもたらす快楽の量を計算することによって行為の善悪の程度を決定する「幸福計算」という方法を提案しています。これは、人々の喜びや苦しみを「量」として計算し、「喜びから苦しみを引いたもの」を「幸福」として、幸福の量を最大にするのが正しい行為であり政策であるという考え方です。

ロールズの正義論と格差原理

 ジョン・ロールズ(Rawls,J.)は、ベンサムの功利主義の「善と幸福」という概念に対して、「公正としての正義」という概念で、人々に幸福をもたらす社会のしくみについて論じました。公正な所得の再分配とはどのような分配であるかという、「所得の配分」に関する正義の理論です。

 ロールズは、公正としての正義がなりたつための前提として、次の2つの原理を提示しました。第一原理は、「諸個人に対して平等な基本的自由が保障されていること」、第二原理は、「格差原理と公正機会均等の原理」です。第一原理である「基本的自由」が保障されると、必然的に社会的・経済的不平等、すなわち「格差」が生じます。

 しかし、その格差が許されるのは、「最も不遇な立場にある人々の一定の権利・利益が保障されること」が前提であるとしました。これを「格差原理」といいます。また、格差原理の前提として、「公正な機会の均等」が保障されるべきであるとしました。

コミュニタリアニズム

 アメリカの政治学者であるマイケル・サンデル(Sandel,M.)は、ロールズの正義論が、何ものにもとらわれない、独立した人間のあり方を前提としているとしてその限界を批判し、コミュニタリアニズムを提唱しました。

 サンデルは、ロールズの正義論が、人々の属している家族や地域や共同体という属性を軽視し、すべてから解放されている個人を前提としている考え方を「負荷なき自己」として批判し、人は共同体の中で生き、共同体の中で共通の善を追求して正義を実現するとし、正義よりも共通善を優位に置いた理論を展開しました。

多文化主義

 多文化主義とは、異なる文化や生活様式を対等なものとして尊重し、それらの共存を図っていこうとする考え方で、「マルチカルチュラリズム」と同義です。様々な人種、民族、階層が、それぞれの独自性を保ちながら、それぞれの違いを積極的に認め受け入れていこうとする考え方です。

 カナダの政治学者であるウィル・キムリッカ(Kymlicka,W.)は、ロールズが提唱した「基本財」のなかに、「文化」も含めるべきであるとしました。キムリッカは、「文化」の中核には、「言語」と「伝統と約束事という共有された語彙」があるとし、それぞれの独自の「文化」は、基本財産であり代替困難なものであるとしました。また、マイノリティの文化としての権利を保障すべきであるとしました。

 多文化主義に対置する政策として、「同化政策」があります。「同化政策」とは、力を持つ民族が弱い民族や集団に対して、自分たちの文化や伝統を受け入れるよう強制する政策のことです。先住民族に対する植民政策や戦勝国が敗戦国に対して行う同化政策等が該当します。抑圧されている民族の文化や言語を消滅させることによって、支配を容易にしようとする支配方法です。

フェニミズム運動

 フェニミズム運動とは、女性解放運動のことで、政治や文化、社会等における性的差別をなくし、性による差別に影響されず男女が平等に権利を行使できる社会を目指す運動です。

 第一波フェニミズム運動は、アメリカやイギリスで19世紀半ばに始まり、女性の権利を訴える集会が各地で開かれました。20世紀に入ると、それらが女性の参政権運動に発展し、1920年には女性の参政権を獲得しました。

 その後、1949年には、フランスの哲学者シモーヌ・ド・ボーヴォワール(Beauvoir,S.)がその著書『第二の性』で、女性は、女性として生まれるのではなく、歴史的・社会的・文化的に女性として構築されていくという理論を展開しました。

 この思想に影響を受けたアメリカのベティ・フリーダン(Friedan,B.)らの活動により、新たなフェニミズム運動が生まれました。個人に起こった女性差別は、たまたま「個人的」に起こった出来事ではなく、社会のしくみが引き起こした女性差別であるとして、「個人的なことは政治的なこと」というスローガンを掲げて世界的な第二波フェニミズム運動が展開されていき、この思想は、障害者やLGBTなどマイノリティの人々に対する差別撤廃運動にも影響を与えていきました。

ベンサムの功利主義最大多数の最大幸福
ロールズの正義論と格差原理「最も不遇な立場にある人々の一定の権利・利益が保障されること」として格差原理を提唱
サンデルのコミュニタリアニズムロールズの理論を「負荷なき自己」と呼んで批判。共同体の中で共通の善が正義を実現するとした
キムリッカの多文化主義マルチカルチュラリズム。異なる文化や生活様式を対等なものとして尊重し共存を図ろうとマイノリティの保持・共存に力を注ぐ
フリーダンのフェニミズム「個人的なことは政治的なこと」であるとし、第二波フェニミズム運動を展開

ノーマライゼーションの理念

 次に、援助の理念としてのノーマライゼーションについて取り上げていきましょう。
 ノーマライゼーションの理念を最初に提唱したのは、デンマークのバンク-ミケルセン(Bank-Mikkelsen,N.E)です。バンク-ミケルセンは、反ナチス運動のために強制収容所に入れられ、戦争が終わってからは、社会省の知的障害者施設の担当行政官として任命されて、大型施設で生活する障害者の実態に触れました。

 障害者施設での障害者の生活が、自由のない強制収容所の生活と重なって感じられたバンク-ミケルセンは、知的障害者の親の会とともに活動し、親の会の要請により社会省に法改正と施設の運営改善の委員会が設置されて報告書が出されました。この報告書に基づいて、世界で初めてノーマライゼーションの理念を盛り込んだ1959年法が制定されました。

 バンク-ミケルセンは、ノーマライゼーションとは、障害を持っている人をノーマルにするのではなく、障害者にノーマルな生活条件を提供することであるとしました。

ニィリエの8つの原理

 デンマークのバンク-ミケルセンによって提唱されたノーマライゼーションの理念は、スウェーデンのベンクト・ニィリエ(Nirje,B.)によってさらに整理されて世界に広められました。ニィリエは、ノーマライゼーションとは、「社会で主流となっている毎日の生活条件に近い環境での暮らしを目指す」ことであるとし、8つの原理を提唱しました。

 8つの原理とは、「1日のノーマルなリズム、1週間のノーマルなリズム、1年間のノーマルなリズム、ライフサイクルにおけるノーマルな発達経験、ノーマルな個人の尊厳と自己決定権、その文化におけるノーマルな性的関係、その社会におけるノーマルな経済水準とそれを得る権利、その地域におけるノーマルな環境形態と水準」です。これらが保障されてこそ、真のノーマライゼーションを達成できるとしました。

 また、ニィリエは、障害者の自己決定を重視し、自分自身が人生における選択権を持つ者であると認識し主張できる力を持つことができるようになるための支援の重要性を指摘し、それが障害差の真の自立につながるとしました。

ヴォルフェンスベルガーのソーシャル・ロール・バロリゼーション

 ニィリエが提唱した8つの原理によるノーマライゼーションの理念は全世界に広げられ、ヴォルフェンスベルガーは、アメリカやカナダでノーマライゼーションの理念を紹介して、政策に導入していくことを提唱していきました。

 ヴォルフェンスベルガーは、地域や文化に根差したノーマライゼーションを実現すべきであるとし、可能な限り、文化的に通常である行動や特徴を確立し維持するために、可能な限り文化的に通常となっている手段を利用することができるように支援することが必要であるとしました。

 また、障害者が社会的に低い役割しか与えられていないという状況に対して、障害者が社会の中で社会的役割を持ち、その役割を実践できるような社会こそノーマライズされた社会であるとし、「ソーシャル・ロール・バロリゼーション(Social Role Valorization):社会的役割の実践」を提唱し、障害者に対する社会全体の意識の改善に取り組みました。

バンク-ミケルセンノーマライゼーションを提唱。1959年法制定
ニイリエ8つの原理を提唱
ヴォルフェンスベルガー障害者が役割を持つことができる社会の形成を提唱

障害福祉サービス等の提供に係る意思決定支援ガイドライン

 最後に、ノーマライゼーション実現のための重要な「意思決定支援」について取り上げます。2017(平成29)年3月に厚生労働省から、「障害福祉サービス等の提供に係る意思決定支援ガイドライン」が出されました。

 障害者基本法の第23条には、「国及び地方公共団体は、障害者の意思決定の支援に配慮しつつ、障害者及びその家族その他の関係者に対する相談業務、成年後見制度その他の障害者の権利利益の保護等のための施策又は制度が、適切に行われ又は広く利用されるようにしなければならない」と、障害者の意思決定の支援が、国と地方公共団体の責務として規定されています。

 このガイドラインは、障害者の意思決定を支援するための具体的なガイドラインとして示されたもので、意思決定支援のための基本的な考え方や姿勢、方法、配慮されるべき事項、意思決定支援のための枠組みなどが提示されています。

意思決定支援の定義

 このガイドラインでは、意思決定支援を「意思決定支援とは、自ら意志を決定することに困難を抱える障害者が、日常生活や社会生活に関して、自らの意志が反映された生活を送ることができるように、可能な限り本人が自ら意志決定できるよう支援し、本人の意志の確認や意思及び選考を推定し、支援を尽くしても本人の意思及び選考の推定が困難な場合には、最後の手段として本人の最善の利益を検討するために事業者の職員が行う支援の行為及び仕組みをいう」と定義しています。

意思決定の構成要素

 障害者の意思決定の要素として、「本人の判断能力」「意思決定が必要な場面」「人物・物理的環境による影響」の3つを上げています。「本人の判断能力」については、本人の判断能力についての慎重なアセスメントが必要であること、「意思決定が必要な場面」については、日常生活場面における意思決定支援を継続的に行うことにより、本人が自らの意思を他者に伝えようとする意欲を育てることにつながるとしています。社会生活場面に応じた支援では、地域移行等の際の体験の機会の活用、関係者等の客観的な根拠に基づく評価を参考にしながら意思決定を支援すること等が挙げられています。

意思決定支援の基本原則

 本人の意思決定に必要な情報の説明は、本人が理解できるよう工夫してわかりやすく行うこと、本人が選択しやすいよう絵カードを使用する等の工夫、職員等の価値観からみれば不合理と思われるような意思決定でも、他者への権利侵害が無い場合はその選択を尊重する姿勢、本人に不利益が生じる意思決定へのリスクの予測やリスク回避の工夫等が必要であるとしています。

最善の利益の判断

 本人の意思を推定することがどうしても困難な場合は、最善の利益を判断するためにメリット・デメリットを検討し、相反する選択肢を両立させることができる可能性を探る努力を行います。また、自由の制限は、本人の理解と同意を求める努力を行い最小になるようにします。

事業者以外の視点からの検討

 意思決定支援について、事業者だけではどうしても事業者の視点に偏りがちになるので、事業者以外の本人の家族や知人、成年後見人、ピアサポーター、相談員等の直接サービスを提供する事業者以外の第三者の多様な視点から、本人の意思決定を支援することが望ましいとされています。

成年後見人等の権限との関係

 成年後見人等には、身上配慮義務があります。意思決定支援と成年後見人等の身上配慮義務に基づく方針が齟齬をきたさないよう、意思決定プロセスに成年後見人等の参画を促して検討を進めることが望ましいとされています。

意思決定支援の枠組み

 意思決定支援の枠組みは、意思決定支援責任者の配置、意思決定支援会議の開催、意思決定結果を反映したサービス等利用計画の作成とサービスの提供、モニタリングと評価・見直しの5つの要素から構成されます。

 意思決定支援を行うためには、本人の生活歴、人間関係、嗜好等を把握し、日常生活における意思表示の方法や表情、感情、行動を観察し、意思決定支援の内容と結果における判断の根拠や支援結果を記録しておくことが重要であるとされています。また、職員の知識・技術の向上、関係者・関係機関との連携、本人と家族に対して意思決定に関する説明責任を果たすべきこととされています。

意思決定の構成要素(1)本人の判断能力、(2)意思決定が必要な場面、(3)人物・物理的環境による影響、を構成要素とする
意思決定の基本原則情報の説明は本人が理解できるよう工夫する。不合理と思われる意思決定でも他者への権利侵害が無い場合はその選択を尊重する。本人に不利益が生じる意思決定にはリスクの予測やリスク回避の工夫等を行う
最善の利益の判断本人の意思を推定することがどうしても困難な場合は、本人にとっての最善の利益を判断する
事業者以外の視点からの検討事業者以外の多様な視点から意思決定を支援することが望ましい
成年後見人等の権限との関係成年後見人の身上配慮義務と齟齬が生まれないように意思決定プロセスに成年後見人等の参画を促す
意思決定支援の枠組み意思決定支援責任者の配置、意思決定支援会議の開催、意思決定結果を反映したサービス等利用計画等の作成、モニタリングと評価・見直し

 いかがでしたか。次回は、「精神保健福祉の理論と相談援助の展開」を取り上げます。では、第22回と第21回の精神保健福祉士国家試験問題から今回の課題をあげておきますので、チャレンジしてみてください。

第22回 精神保健福祉士国家試験 「精神保健福祉相談援助の基盤」

問題24 社会における正義の実現に関する次の記述のうち、正しいものを1 つ選びなさい。

  • 1 ロールズ(Rawls,J.)が『正義論』で主張した格差原理は、その社会において最も恵まれない人が有利となるよう、資源の配分を目標とした。
  • 2 キムリッカ(Kymlicka. W.)による多文化主義は、固有の文化や生活様式を保持するため、同化政策の確立を目標とした。
  • 3 ベンサム(Bentham,J.)による功利主義は、人々の直感から得られた快の総計を計り、「最大多数の最大幸福」の実現を目標とした。
  • 4 サンデル(Sandel,M.)によるコミュニタリアニズムは、自己の在り方を「負荷なき自己」と捉え、共同体への帰属から自由になることを目標とした。
  • 5 フリーダン(Friedan,B.)らによる第二波フェミニズムは、「個人的なことは政治的なことである」というスローガンの下、家父長制の維持を目標とした。

第21回 精神保健福祉士国家試験 「精神保健福祉相談援助の基盤」

問題23 次の記述のうち、ヴォルフェンスベルガー(Wolfensberger,W)が新たに提唱したノーマライゼーションの理念として、適切なもの1つ選びなさい。

  • 1 障害がある人たちに、障害のない人々と同じ生活条件を作り出す。
  • 2 社会で主流となっている、毎日の生活条件に近い環境での暮らしを目指す。
  • 3 自己決定と選択権が最大限尊重されている限り、人格的には自立しているとみなす。
  • 4 社会に完全かつ効果的に参加し、社会に受け入れられるようにする。
  • 5 社会的に価値を低められている人々に、社会的役割を作りだす。