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張先生の受験対策講座

張 百々代(はり ももよ)

受験勉強のガイド役となるのがこのコーナーです。受験対策のプロである張(はり)先生が、あなたの合格までの道のりをサポートします。

プロフィール張 百々代(はり ももよ)

精神保健福祉士・社会福祉士。児童養護施設、老人福祉施設での勤務を経て福祉系専門学校講師に。
現在は受験対策講座講師、各大学での受験対策に従事しており、第三者後見人として精神障害者・知的障害者の成年後見活動にも携わっている。

第18回  「低所得者に対する支援と生活保護制度」

 皆さん、こんにちは。厳しい暑さが続きます。毎日忙しいなかでの学習は困難をおぼえることと思います。健康に留意しながら、限られた時間のなかで効率的な学習を進めていきましょう。
 今回は「低所得者に対する支援と生活保護制度」を取り上げます。この科目は、生活保護法をしっかり勉強しておけば、一定の得点を確保できます。ぜひ、生活保護法に習熟しておきましょう。

 また、生活保護法の改正や生活困窮者自立支援制度など、低所得者対策については近年大きな改正や新しい取り組みが進められていますので、こうした推移についても注意して学習していきましょう。では、最初に前回の課題の解説をしておきます。

第22回 精神保健福祉士国家試験 「障害者に対する支援と障害者自立支援制度」

問題57  障害者福祉制度の発展過程に関する次の記述のうち、最も適切なもの1つ選びなさい。

  • 1 1960年(昭和35年)に成立した精神薄弱者福祉法は、ノーマライゼーションを法の理念とし、脱施設化を推進した。
  • 2 1981年(昭和56年)の国際障害者年で主題として掲げられたのは、合理的配慮であった。
  • 3 1995年(平成7年)に精神保健法が精神保健及ぴ精神障害者福祉に関する法律に改正され、保護者制度が廃止された。
  • 4 2013年(平成25年)に成立した「障害者差別解消法」では、障害者を医学モデルに基づいて定義している。
  • 5 2018年(平成30年)に閣議決定された障害者基本計画(第4次)では、命の重さは障害によって変わることはないという価値観を社会全体で共有できる共生社会の実現に寄与することが期待されている。



正答5

解答解説

  • 1 適切でない。1960(昭和35)年に制定された精神薄弱者福祉法は、脱施設化ではなく、精神薄弱者のための入所施設を整備することを目的として制定されました。成人した精神薄弱者の入所施設のための法整備がなされていなかったため、精神薄弱者の親の会が中心となって全国的な運動を展開した結果、制定されたものです。精神薄弱者の入所施設設置体制の整備、精神薄弱者の人権を護るための精神薄弱者福祉審議会、精神薄弱者更生相談所の設置、精神薄弱者福祉司を規定し、精神薄弱者の援護体制の整備と援護施設の拡充等により、精神薄弱者の保護と更生援助を行うことを規定しました。
  • 2 適切でない。1981年(昭和56年)の国際障害者年で主題として掲げられたのは、「完全参加と平等」です。1982(昭和57)年には、「国際障害者年」の理念を浸透し実質化するために「障害者に関する世界行動計画」を採択し、1983年から1992年の「国連・障害者の十年の計画」として位置づけました。
  • 3 適切でない。1995(平成7)年「精神保健法」が改称・改正された「精神保健福祉法」は、精神障害者を始めて生活者の視点でとらえた改正で、精神障害者の自立と社会参加、精神障害者保健福祉手帳制度の創設、社会復帰施設の類型化、精神障害者福祉ホームの創設等が盛り込まれました。保護者制度が廃止されたのは、2013(平成25)年の精神保健福祉法の改正によります。この改正では、厚生労働大臣による精神障害者医療提供確保指針策定規定、精神科病院の管理者に対する医療保護入院者の退院後の生活環境に関する相談・指導を行う者(精神保健福祉士等)の設置、地域援助事業者との連携、退院促進のための体制整備、精神医療審査会の委員規定の改正等が行われました。
  • 4 適切でない。2013年(平成25年)に成立した「障害者差別解消法」では、障害者を社会モデルに基づいて、「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害がある者であって、障害及び社会的障壁により、継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう」と定義しています。また、障害者差別解消措置として合理的配慮を規定し、行政機関には合理的配慮を義務づけ、民間事業者には努力義務としました。
  • 5 適切。障害者基本計画(第4次)では、「基本計画を通じて実現を目指すべき社会」として、(1)「一人ひとりの命の重さは障害の有無によって少しも変わることはない」という当たり前の価値観を国民全体で共有できる社会、(2)誰もが活躍できる社会、(3)障害者施策が国民の安全や社会経済の進歩につながる社会を挙げています。また「基本原則」として、地域社会における共生、差別の禁止、国際的協調を掲げています。

 いかがでしたか。それでは、今回の「低所得者への支援と生活保護制度」について、出題基準に沿って近年の出題傾向を分析し、対策を立てていきます。

低所得階層の生活実態とこれを取り巻く社会情勢、福祉需要と実際

 この分野からは、「全国消費実態調査 所得分布等に関する結果」(総務省)の貧困線の推移、「所得再分配調査報告書」(厚生労働省)のジニ係数の推移、「被保護者調査」(厚生労働省)の世帯類型別割合の推移、「生活困窮者自立支援制度における支援状況調査集計結果」(厚生労働省)の新規相談受付件数、「医療扶助実態調査」(厚生労働省)の医療扶助受給者の入院傷病分類別構成割合についての出題がありました。

 貧困の概念と格差、貧困線等についての出題実績があります。相対的貧困率の定義、ジニ係数、絶対的貧困と相対的貧困の概念、貧困の再発見、貧困の連鎖等も押さえておきましょう。

生活困窮者の支援

 生活困窮者の支援として、生活困窮者自立支援制度をよく学習しておきましょう。生活困窮者自立支援事業における公共職業安定所(ハローワーク)との連携による就労支援、住居確保給付金制度、一時生活支援事業、自立相談支援事業、就労準備支援事業、家計改善支援事業等が出題されています。必須事業と努力義務事業、任意事業の種類とそれぞれの事業の具体的内容をよく整理しておきましょう。

生活保護費と保護率の動向

 生活保護費と保護率の動向として、保護率、被保護実人員数、保護開始・保護廃止の主な理由、保護の種類別扶助人員が出題されています。被保護人員、被保護世帯等について、年齢階級別、世帯類型別、扶助の種類別に整理しておきましょう。

 また、保護開始理由、保護廃止理由、生活保護受給期間、保護の推移等を、経済的、社会的背景等を踏まえてよく理解しておきましょう。最新データは、「生活保護の動向」や「被保護者調査」「福祉行政報告例」等で確認することができます。

生活保護制度

 ここが最も出題率の高い分野で毎回3問から5問の出題がみられます。生活保護の理念や概念、公的扶助と社会保険の性質や機能の違い等も理解しておきましょう。
では、「生活保護法の概要」について、具体的に個別の内容を確認していきましょう。

「生活保護法の目的、基本原理・基本原則」

 生活保護法の目的については、法第1条の意味をよく理解しておきましょう。「国家責任の原理」「無差別平等の原理」「最低生活保障の原理」「保護の補足性の原理」の4原理、「申請保護の原則」「基準及び程度の原則」「必要即応の原則」「世帯単位の原則」の4原則の考え方と実際について、それぞれの基本的な考え方と具体的な対応を押さえておきましょう。今回は、後ほどこの分野について取り上げて解説していきます。

 「保護の補足性の原理」については、扶養義務者との関係が近年出題率が高くなっています。絶対的扶養義務者と相対的扶養義務者、扶養義務者の扶養義務の履行、扶養義務者への通知、報告の請求等をよく学習しておきましょう。

 「申請保護の原則」については、申請権者、申請書への必要書類の添付義務等が出題されています。「基準及び程度の原則」については、保護基準の決定権者、保護基準と他施策との関連の出題実績があります。保護基準は他の施策に大きな影響を与えますので、その範囲や対象についても注意しておきましょう。

「保護の種類と内容」

 生活保護の各扶助は、非常に出題率が高い分野です。8扶助の種類と各扶助の給付内容について、丁寧に学習しておきましょう。介護保険料加算、就職支度費、遺体検案の費用、小学生の校外活動参加費、入学準備金、高等学校就学費等が、どの扶助に該当するかという形で出題されています、現物給付と金銭給付の違いも含めて整理しておきましょう。

「保護の実施機関と実施体制」

 福祉事務所の現業員の定数規定、社会福祉主事規定、福祉事務所の指揮監督権者、福祉事務所設置規定、社会福祉主事の年齢規定等が出題されています。社会福祉法における福祉事務所に関する規定、福祉事務所長、査察指導員、現業員、事務員に関して、その役割、資格要件等を丁寧に学習しておきましょう。

 急迫時における居住地が無い要保護者の実施機関、居住地保護、現在地保護、他法他施策と生活保護の関係、生活保護の受給要件、保護の開始・変更の決定の期限等の出題実績があります。実施手続きについても、条文に当たって法律上の規定を押さえておきましょう。

「保護の財源」

 生活保護の費用の負担割合として、国の負担割合は4分の3、実施機関の負担割合は4分の1であることを覚えておきましょう。居住地がないかまたは明らかでない被保護者の保護の実施機関は現在地になるため、現在地の実施機関が4分の1を負担することになりますので気をつけておきましょう。

「保護施設の種類」

 保護施設については、保護施設の設置主体、「救護施設」「更生施設」「医療保護施設」「授産施設」「宿所提供施設」のそれぞれの役割、関連事業として通所事業があることなど、基本的な内容を確認しておきましょう。

「被保護者の権利と義務」

 急迫保護の費用返還義務や保護金品の差し押さえ、保護の不利益変更等についての出題がみられます。指導指示等に従う義務と保護の変更、停止、廃止との関係についても注意しておきましょう。

生活保護制度に係る組織及び団体の役割と実際

 この分野では、国、都道府県、市町村のそれぞれの役割と、福祉事務所の組織と役割等が出題されています。被保護者に対するハローワークの役割については、就労支援に係る連携内容を確認しておきましょう。

 生活保護事務の監査、保護施設の運営に関する指導、生活保護法に基づく医療機関の指定権者、福祉事務所を設置していない町村の役割と機能等の出題実績があります。急迫保護、要保護者発見時の通報義務、申請を受けたときの実施機関への5日以内送付義務、実施機関から求められた場合の保護金品の交付義務、実施機関から求められた場合の調査義務等を押さえておきましょう。

生活保護制度における専門職の役割と実際

 福祉事務所の現業員、査察指導員の役割と位置づけ、それぞれの権限、指揮監督系統等を学習しておきましょう。また、市町村が設置する福祉事務所と都道府県が設置する福祉事務所の現業員の定数の違いが出題されています。それぞれの標準数を確認しておきましょう。この分野についても後ほど解説します。

生活保護制度における多職種連携、ネットワーキングと実際

 この分野では、保健医療との連携、労働施策との連携、その他の施策との連携、連携の方法、連携の実際が上げられています。

 被保護者の家族の認知症対応の連携先としての地域包括支援センター、要介護認定を実施する行政機関、被保護者への就労支援と就労支援員の配属先、介護支援専門員の役割等の出題がありました。被保護者への支援のために連携すべき行政機関、活用すべき様々な諸制度について、丁寧に学習しておきましょう。

 DVと児童虐待の要保護者に対する連携先としての配偶者暴力相談支援センターも出題されています。事例に応じて多職種連携の取り方、連携先である相談機関と配置されている専門職種を把握しておくとよいでしょう。

福祉事務所の役割と実際

 福祉事務所の組織体系、福祉事務所の設置義務、任意設置、社会福祉主事についての配置義務規定等、「福祉行財政と福祉計画」とも重なる内容ですので、並行して学習しておきましょう。

 福祉事務所の活動の実際としては、要保護者の発見から、申請受付、資力調査、要否判定、決定、受給、訪問調査等についてそれぞれの段階で留意すべきことや、自立支援の実際についての相談援助活動について、短文事例を想定して対応できる力を身につけておきましょう。

 保護の実施機関による指導・指示、雇主からの報告徴収、扶養義務者との関係等の出題実績があります。また、この分野からは、生活保護における不服申立制度が出題されています。行政不服申立制度、行政事件訴訟制度と生活保護法における審査請求制度との関係をよく理解しておきましょう

自立支援プログラムの意義と実際

 自立支援プログラムによる支援の進め方について、厚生労働省から出されている「自立支援プログラムの基本方針について」、アルコール依存症の被保護者の自立支援についての短文事例での出題実績があります。アルコール依存症患者の症状の特徴と、被保護者への実践的対応が問われています。今後も、様々な状況における専門職としての対応事例の出題が予想されますから、優先すべきこと、自立支援の考え方等を押さえておきましょう。

低所得者対策

「生活福祉資金貸付の概要」

 生活福祉資金貸付については、第16回で出題されて以降出題実績がありませんが、実施主体、貸付対象、利用手続き、貸付内容、貸付条件と貸付利率、保証人の必要性の有無、費用返還等について整理しておきましょう。

 生活困窮者自立支援制度との関係で、生活困窮者自立支援制度の自立相談支援事業を受けていないと、生活福祉資金の総合支援資金と緊急小口資金は貸し付けの対象外になることにも気をつけておきましょう。

「低所得者の自立支援」

 低所得者に対する自立支援については、生活困窮者自立支援制度の出題率が高くなっています。生活保護に至る前の第二のセーフティネットとして位置づけられているこの制度は、現在とても重視されています。

 従来の必須事業、任意事業に加えて、新たに努力義務規定となった「就労準備支援事業」や「家計改善支援事業」について、それぞれの事業内容と相互関連をしっかりと理解しておきたいものです。事業に携わる主任相談支援員や相談支援員、就労支援員のそれぞれの役割と業務内容等、詳細な内容も理解しておきましょう。

低所得者への住宅施策

 低所得者への住宅対策として公営住宅制度の概要について、また生活困窮者自立支援法における必須事業としての「住居確保給付金」等の内容を理解しておくとよいでしょう。

 近年、無料低額宿泊所の出題率が高くなっています。また、公営住宅法、生計困難者や低所得者に対する住宅施策に関する制度等、関連施策に関する知識を習得しておきましょう。

ホームレス対策

 この分野からは、ホームレスの実態調査の結果やホームレス自立支援法の支援対象者、ホームレスの支援に向けての実施計画の策定等の出題実績があります。ホームレス自立支援法、ホームレス自立支援基本方針、ホームレス自立支援施設、ホームレスの実態調査結果等を押さえておきましょう。

 以上、全体の概要をみてきましたが、今回は生活保護法が規定する「基本原理・基本原則」について取り上げていきます。

生活保護の基本原理

 生活保護法では、保護の基本原理として、「国家責任の原理」「無差別平等の原理」「最低生活保障の原理」「保護の補足性の原理」の4種類の原理を提示しています。

国家責任の原理

 生活保護法第1条では、「この法律は、日本国憲法第25条に規定する理念に基づき、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする」と規定しています。

 この第1条で、国は、生活に困窮する国民に対して保護を行い、最低生活を保障する責任があると、「国家責任の原理」を明記しています。また、生活保護法の目的として、国民に対する最低生活の保障だけではなく、生活保護を受ける者の自立の助長があることにも気をつけておきましょう。

無差別平等の原理

 生活保護法第2条は、「すべて国民は、この法律の定める要件を満たす限り、この法律による保護を、無差別平等に受けることができる」としています。この無差別平等とは、生活の困窮に陥った原因は問わず、現に生活が困窮に陥っているかどうかということだけを判断の基準にして、平等に保護を行うということを意味しています。

 現行の生活保護法は、救護法、旧生活保護法に規定されていた「困窮に陥った原因が怠惰、素行不良である場合は、保護の対象から除外する」という「除外規定」は削除され、困窮に陥った原因は問わないという、無差別平等の原理が実体化されました。要保護者の生活態度や借金の有無等は、一切関係ありません。

 要保護者には、無差別平等に保護請求権が与えられています。ただし、外国籍の者には、保護請求権はありません。この法律自体が、国が日本国民に対して最低生活の保障を行う責務を規定しているのであって、本来外国籍の者は対象としていないからです。ただし、実態としては、国の道義上の責任として、外国籍の者に対しても保護が実施されています。

 また、無差別平等といっても、まったく無条件で受けられるという意味ではなく、「この法律の要件を満たす限り」とされていることに注意しておきましょう。この要件とは、要保護者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することが前提であるということ、また、扶養義務者の扶養は生活保護法による保護に優先するという、保護の補足性の原理に基づく要件を意味します。

最低生活保障の原理

 生活保護法第3条は、「この法律により保障される最低限度の生活は、健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならない」と、最低限度の生活の保障を定めています。この最低限度の生活とは、肉体的に生存を維持することが可能な程度ではなく、「健康で文化的」な生活を維持できるという生活水準を規定しています。

保護の補足性の原理

 生活保護法第4条に、「保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる」と規定されています。

 また、民法に定める扶養義務者の扶養を優先するということで、生活保護法以外の他の法律、他の施策をすべて活用しても、最低限度の、健康で文化的な生活をすることが困難である場合の、最後の手段としてのセーフティネットという意味です。

 具体的には、資産の活用として、預貯金、生活に利用されていない土地・家屋等があれば売却等し生活費に充てる、能力の活用として、働ける者はその能力に応じて働くこと、あらゆるものの活用とは、様々な年金給付や社会手当等、他の制度で給付を受けることができる場合はそれらを活用する、扶養義務者の扶養とは、扶養義務者からの扶養を受けることができる場合は、それを優先するということです。

 ただし、扶養義務者の扶助が生活保護に「優先する」だけであって、扶養義務者のいる要保護者が、すべて生活保護を受給することができないわけではないということに気をつけておきましょう。また、働く意思や能力があり求職活動をしていても就職先が無く就職できていない場合や、就職していても最低生活費に届かない収入の場合は保護の対象になります。

 土地・家屋についても、すべて処分しなければ保護を受けられないということではなく、処分するよりも所持していたほうが生活の維持や自立の助長に資する場合は、処分しなくても保護の対象となります。

生活保護の4原理
国家責任の原理 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する(憲法第25条)
無差別平等の原理 すべて国民は、この法律の定める要件を満たす限り、この法律による保護を、無差別平等に受けることができる
保護の決定は、困窮の原因は問わず困窮の程度に応じる
最低生活保障の原理 この法律により保障される最低限度の生活は、健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならない
保護の補足性の原理 他法他施策優先。民法に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする

生活保護の4原則

 生活保護法には、保護の原則として、「申請保護の原則」「基準及び程度の原則」「必要即応の原則」「世帯単位の原則」が規定されています。

申請保護の原則

 申請保護の原則とは、生活保護は申請に基づいて行うという原則です。「保護は、要保護者、その扶養義務者又はその他の同居の親族の申請に基いて開始する」とされています。生活保護を申請することができる人は、「要保護者」「その扶養義務者」「同居の親族」だけであることを覚えておきましょう。

 生活保護は申請保護が原則ですが、「急迫した状況にあるとき」は、申請が無くてもまた、本人の意思確認は必要とせずに職権保護が行われます。たとえば、ホームレスが救急搬送され本人に意識が無い場合等、保護の要件が確認できない場合は、医療機関から福祉事務所に連絡し、福祉事務所の判断で急迫保護が行われ、本人の意識が戻り、保護の要件が確認できる状態になった時点で、保護の受給の意思を確認します。

 保護を申請する場合は、保護の申請書を実施機関に提出しなければなりませんが、必ずしも福祉事務所が指定する申請書でなければならないという規定はありません。また、特別な事情があるときは、口頭でも可能とされています。

基準及び程度の原則

 生活保護法に、「健康で文化的な最低限度の生活」の水準に関する具体的な規定があるわけではなく、生活保護の基準は、厚生労働大臣が定めることになっています。生活保護は、「厚生労働大臣が定める基準」によって測定した、要保護者の需要を基として、要保護者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行われます。

 この基準は、要保護者の年齢別、性別、世帯構成別、所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した、最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであつて、かつ、これを超えないものでなければなりません。

生活保護基準の役割

 生活保護基準は、被保護者の保護基準を定めているだけでなく、その他の低所得者対策にも影響を与えています。たとえば、住民税の非課税限度額等を定める場合は、生活保護基準を参考にしています。この住民税非課税限度額を参照している医療保険等の自己負担限度額の軽減にも、必然的に影響を与えています。

 このほかにも、医療関係では難病法に基づく医療費助成、児童福祉法に基づく小児慢性特定疾患医療費助成、養育医療給付事業等の助成金や国民健康保険料の減免の基準額、教育関係では地方自治体の就学援助、大学授業料減免、生活関係では市営住宅家賃の減免、生活福祉資金の貸付対象、保育料や介護保険料等の非課税優遇措置の対象等に、幅広く影響を与えています。

 また、地域別最低賃金の決定にあたっては、労働者の生計費、労働者の賃金、通常の事業の賃金支払い能力を総合的に勘案して定めるものとされており、労働者の生計費を考慮するにあたっては、労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、生活保護の施策との整合性に配慮すること、とされています。

生活保護基準の算定方式

 わが国の生活保護基準は、昭和23年の8月から昭和35年度までは、最低生活を維持するのに必要な飲食物費、被服費、光熱水費、家具什器費等の一つひとつの品目を積み上げて足していく「マーケット・バスケット方式」を採用していました。これは、ラウントリーが貧困調査で使用した方法なので、ラウントリー方式あるいは理論生計方式とも呼ばれるものです。

 昭和36年度から昭和39年度までは、生活費の総額に占める飲食物費の占める割合であるエンゲル係数を用いて、総生活費を算出する「エンゲル方式」が採用されました。以上の2つの算出方式は、絶対的水準という考え方に基づく算出方式といえるでしょう。

 昭和40年度から昭和58年度までは、一般世帯と被保護世帯の、生活水準の格差を縮小するという考え方に基づいて、「格差縮小方式」が採用されました。一般世帯の消費水準が上がってきたため、被保護世帯の水準との格差が大きくなってきたことに対応するものでした。

 昭和59年度から現在は、「水準均衡方式」が採用されています。最低生活の水準は、一般の国民生活の消費水準との比較において相対的なものであるべきだという考え方に基づき、政府の予算見通しによる消費支出の伸び率に所定の修正を加えて、扶助基準の改定率を決定する方式です。一般国民の消費動向を調べて、その年度に想定される消費動向と昨年までの消費動向との調整を図るという、一般国民の生活状況に対する相対的な基準です。

必要即応の原則

 保護は、要保護者の年齢別、性別、健康状態等その個人又は世帯の実際の必要の相違を考慮して、有効且つ適切に行うものとされています。社会保険のように、保険事故に対して画一的に行うのではなく、被保護者の個別の状況をよく勘案して、それぞれの必要の違いに応じて行わなければなりません。

世帯単位の原則

 保護は、世帯を単位としてその要否及び程度を定めます。ただし、これによりがたいときは個人を単位として定めることができるとされています。これを世帯分離といいます。これは、世帯単位であるために、かえって保護を受給できなくなることを防ぐために例外的に設けられている制度です。

生活保護の4原則
申請保護の原則 保護は、要保護者、その扶養義務者又はその他の同居の親族の申請に基いて開始する
要保護者が急迫した状況にあるときは、保護の申請がなくても資産調査を待たずに保護を開始することができる
基準及び程度の原則 保護は、厚生労働大臣の定める基準により測定した不足分を補う程度において行う
生活保護基準の算定は、現在は水準均衡方式が採用されている
地域別最低賃金や非課税世帯限度額等に影響を与えている
必要即応の原則 保護は、要保護者の年齢別、性別、健康状態等その個人又は世帯の実際の必要の相違を考慮して行う
世帯単位の原則 保護は、世帯を単位としてその要否及び程度を定めるが、これによりがたいときは個人を単位として定めることができる

 いかがでしたか。次回は「保健医療サービス」を取り上げていきます。では、第22回の精神保健福祉士国家試験から今回の課題を上げておきますので、チャレンジしてみてください。

第22回 精神保健福祉士国家試験「低所得者に対する支援と生活保護制度」

問題64 生活保護法が規定する基本原理・原則に関する次の記述のうち。 正しいもの1つ選びなさい。

  • 1 日本国憲法第26条に規定する理念に基づく。
  • 2 保護は、世帯を単位としてその要否及び程度を定めるものとする。
  • 3 保障される最低限度の生活とは、肉体的に生存を続けることが可能な程度のものである。
  • 4 生活困窮に陥った年齢によって、保護するかしないかを定めている。
  • 5 生活保護の基準は、厚生労働省の社会保障審議会が定める。