メニュー(閉じる)
閉じる

ここから本文です

張先生の受験対策講座

張 百々代(はり ももよ)

受験勉強のガイド役となるのがこのコーナーです。受験対策のプロである張(はり)先生が、あなたの合格までの道のりをサポートします。

プロフィール張 百々代(はり ももよ)

精神保健福祉士・社会福祉士。児童養護施設、老人福祉施設での勤務を経て福祉系専門学校講師に。
現在は受験対策講座講師、各大学での受験対策に従事しており、第三者後見人として精神障害者・知的障害者の成年後見活動にも携わっている。

第5回 「精神保健福祉相談援助の基盤」

 皆さん、こんにちは。初夏を迎えましたが新型コロナ感染症の厳しい状況は変わらず、連日の報道に不安が募ります。1日も早い終息を待ち望むばかりです。落ち着かない日々の中だと思いますが、少しずつでも学習に取り組むことによって集中力が養われ、前向きになることができます。着実に知識を積み重ね、力をつけていきましょう。  今回は「精神保健福祉相談援助の基盤」を取り上げます。この科目は、精神保健福祉士としての相談援助の理念や価値という、援助の根幹にかかわる内容になります。人間の尊厳という価値や倫理、権利擁護等の理念をしっかりと理解しておきましょう。また、社会情勢の多様な変化に対して精神保健福祉士に求められている範囲や役割も一層広がり、重要になってきています。精神保健福祉士の法律上の位置づけや役割とともに、多職種連携やマクロ的な介入の視点、アプローチ論などをしっかり押さえておきましょう。今回は後ほど、アプローチ論を中心に取り上げていきます。では、最初に前回の課題の解説をしていきます。
第22回 精神保健福祉士試験 「精神保健の課題と支援」

問題17 災害時の精神保健に関する次の記述のうち、正しいもの1つ選びなさい。

  • 1 災害発生後48時間以内に被災者が呈する精神症状を心的外傷後ストレス障害 (PTSD)という。
  • 2 厚生労働省によって組織される専門的な研修・訓練を受けたチームを災害派遣精神医療チーム(DPAT)という。
  • 3 重度の精神障害者のために考案された介入法を、サイコロジカル・ファーストエイド(PFA)という。
  • 4 被災者の治療優先順位を決める手法を、デブリーフィングという。
  • 5 被災者へのケア活動によって、被災を直接経験していない支援者に生じる外傷性ストレス反応のことを二次受傷という。

解答解説

  • 1 誤り。心的外傷後ストレス障害 (PTSD)は、外傷的出来事を体験・目撃したあと一定期間を置いてから症状が現れ、その症状が一定期間持続する障害です。被災等の後一定の期間が経過してから心身の不調が顕在化してくる障害で、被災時等の出来事や恐怖が再現されて想起されるフラッシュバックや、過覚醒、回避症状などがみられます。治療としては、SSRIなどの薬物療法や認知行動療法が用いられます。
  • 2 誤り。災害派遣精神医療チーム(DPAT)は、都道府県及び政令指定都市によって組織され、専門的な研修・訓練を受けた災害時の精神保健のために組織されたチームです。チーム構成は、精神科医、看護師、業務調整員を基本としますが、必要に応じて児童精神科医、薬剤師、保健師、精神保健福祉士、臨床心理技術者などを加えることができます。災害時こころの情報支援センター(厚生労働省の委託事業)が、技術的支援や災害時精神保健医療情報支援システムの運用・保守を行っています。
  • 3 誤り。サイコロジカル・ファーストエイド(PFA)とは、心理的応急処置のことで、災害による被害や犯罪による被害で苦しんでいる人に、専門職だけではなく、だれでもできる人道的、支持的な対応のことです。実際に役立つケアや支援の提供、ニーズや心配事の確認、食料・水などの基本的ニーズを満たす援助、無理強いしないで話を聞く、必要な情報やサービスが得られるような手助け、二次被害を受けないような支援を行います。
  • 4 誤り。デブリーフィングとは、災害や精神的ショックを経験した人々に対して行われる、急性期の支援方法のことです。トラウマとなるような出来事を体験した人が、その体験をグループで話し合い、互いを理解しあう雰囲気のなかで、心に溜まったストレスを処理することを目指します。悲惨な体験をわかち合うことによって、自分自身の感情の変化を適切に認識することができ、回復へとつながっていきます。ただし、話し合いをすることによって被災時等のショックをさらに強めてしまい逆効果になることがありますので注意が必要です。
  • 5 正しい。二次受傷とは代理受傷とも呼ばれ、災害や事故等の悲惨な体験を負った人を支援することで、被災者と同じようなPTSD症状を起こすことです。医療従事者や精神保健従事者、福祉従事者等、熱心な支援者が二次受傷を受けやすいといわれています。予防のためには、社会的なサポートが必要です。

 いかがでしたか。では、今回の「精神保健福祉相談援助の基盤」について、出題基準と過去問題の出題実績を分析しながら、頻出分野を中心に受験対策について取り上げていきます。

精神保健福祉士の役割と意義

 「精神保健福祉士法」は、私たちが目指している精神保健福祉士の根拠法です。法律に規定されている精神保健福祉士の定義、業務、役割、義務、罰則規定等を押さえておきましょう。精神保健福祉士の義務として、誠実義務、信用失墜行為の禁止、資質向上の責務等の出題がみられます。

 「精神保健福祉制度の歩み」として、精神保健福祉士国家資格成立に至るまでの精神科ソーシャルワーカーの歴史、資格成立の経緯についても基本的な内容を整理しておきましょう。精神科ソーシャルワーカーの歴史が出題されています。

 「精神保健福祉士の専門職倫理」については、国際ソーシャルワーカー連盟(IFSW)の倫理綱領が出題されています。「日本精神保健福祉士協会倫理綱領」と併せてよく読み込んでおくとよいでしょう。精神保健福祉士実践の現場で出会う倫理的ジレンマについては、様々な場面における倫理的ジレンマとその対応方法を押さえておきましょう。

社会福祉士の役割と意義

 精神保健福祉士に関連する専門職については、社会福祉士、介護福祉士について、それぞれの役割、法律上の定義、業務、義務等を理解しておきましょう。社会福祉士等に関する業務規定や日本社会福祉士会、日本介護福祉士会、日本精神医学ソーシャルワーカー協会等の、社会福祉に関する専門職団体が設立された経緯が出題されています。

相談援助の概念と範囲

 国際ソーシャルワーカー連盟のソーシャルワークの定義、ソーシャルワークが拠り所とする基盤、仲介者としての位置づけ、価値、理論、実践について、重要語句を押さえて理解しておきたいものです。

 ソーシャルワークの形成過程としては、仲村優一、浅賀ふさ、竹内愛二、村松常雄、窪田暁子、ジャレット、ビアーズ、キャノンが出題されています。医療ソーシャルワーカー、精神科ソーシャルワーカーの歴史等をよく学習しておきましょう。

 アプローチ論としては、ホリス、トール、マイヤー、ジャーメイン、アプティカー、ロビンソン、トーマス等が出題されています。課題中心アプローチ、ナラテイプアプローチ、解決志向アプローチ、システムズアプローチ、ストレングスアプローチ等の出題実績があります。短文事例問題に対応できるように、アプローチ論の内容をよく理解しておきましょう。今回は後ほど、この分野を取り上げて解説していきます。

相談援助の理念

 この分野は、精神保健福祉士として実践を進めていく上で、精神障害者の人権をどうとらえるかという理念を扱っています。ノーマライゼーション、アドボカシー、エンパワメント、ストレングス、ピープルファースト、社会的包摂(ソーシャルインクルージョン)などの相談援助の基本的理念は、援助の際の基盤となる考え方ですから、人権尊重の視点、利用者主体の考え方等とともに、事例問題にも対応できるよう、それぞれの理念の内容をよく押さえておきましょう。

 ノーマライゼーションの理念、アカウンタビリティ、アドボカシー、ストレングス、レジリエンス、ソーシャルインクルージョンの概念等が繰り返し出題されています。基本的な理念ですから、理解を深めておきましょう。

精神保健福祉士が行う相談援助活動の対象と相談援助の基本的考え方

 この分野の中項目は、「保健、医療、福祉等の各分野における相談援助の対象及び相談援助の基本的考え方」とされています。ピアサポーター、ピアカウンセラー、セルフヘルプグループ、ヘルパーセラピーの原則、リカバリー等の概念とそれらを相談援助の実践の場でどのように適用するか、事例問題に対応できるようにしておきましょう。

 精神保健福祉士が行う相談援助活動に関しては、セルフヘルプグループへのかかわり方、プロセス重視という援助の視点、生活障害の捉え方、ストレスとコーピングスキル、人間と環境との関係の視点という、具体的な援助の視点、OJTやスーパービジョン、専門性の向上等が出題されています。

相談援助に係る専門職の概念と範囲

 この分野は、医療機関、福祉行政機関とその専門職、民間における専門職とその役割を、制度面からも十分に学習しておくことが求められます。看護師、作業療法士、理学療法士、言語聴覚士、介護福祉士、管理栄養士等について、それぞれの専門的業務について整理しておきましょう。また、行政機関としての保健所や市町村、福祉事務所、地域包括支援センター等の役割についても理解しておきましょう。

 医療機関における専門職、社会復帰調整官、精神保健指定医、社会福祉主事、精神保健福祉相談員、介護福祉士が、障害者にかかわる相談支援専門員の資格要件と業務内容が出題されています。関連分野の専門職種について、基本的な業務内容等を整理しておくとよいでしょう。

精神障害者の相談援助における権利擁護の意義と範囲

 ここは非常に出題頻度の高い分野です。権利擁護の機能、アドボカシーの種類、権利擁護システムとしての第三者評価事業、苦情解決制度、障害者の権利条約における合理的配慮等、様々な側面からの出題がみられますので、注意して学習しておいてください。

 アドボカシーの機能、精神障害者の権利擁護としての調整機能について出題されています。ケースアドボカシー、クラスアドボカシー、シチズンアドボカシー等の意味、権利擁護の発見機能、仲介的弁護機能、介入の機能、対決の機能、変革の機能等について、よく理解しておきましょう。

 第22回で初めて、「障害福祉サービス等の提供に係る意思決定支援ガイドライン」(平成29年3月厚生労働省)が出題されました。現場では、利用者の意思決定をどのように支援するかということが絶えず問われています。今後も出題の可能性は高いと思われますから、ガイドラインをよく読み込んでおきたいものです。

精神保健福祉活動における総合的かつ包括的な援助と多職種連携(チームアプローチ含む)の意義と内容

 この分野では、コミュニティソーシャルワークや多職種連携、チームアプローチの考え方についての学習が求められます。多職種チームの連携形態、チームビルディングの諸段階等が出題されています。

 精神科病院からの退院促進に伴い、地域での多職種連携の重要性が増してきている現在、障害者にかかわる様々な相談機関やサービス、専門職種との連携のありかたを問う問題は今後一層増えていくと思われます。多職種連携とチームワークの目的、また、チームを形成していく諸段階で、精神保健福祉士として留意すべき事柄について、しっかり押さえておきましょう。

 以上、出題範囲と重点内容を確認してきましたが、今回はソーシャルワ-クのアプローチ論に関して取り上げていきます。

リッチモンド

 リッチモンドは、慈善組織協会の活動を通して『ソーシャルケースワークとは何か』を著し、ソーシャルワーク理論を確立しました。社会診断によって生活課題を診断し、個人のパーソナリティの改善のために働きかける直接的活動とともに、社会環境を通じて働きかける間接的活動を重視しました。

診断主義アプローチ

 リッチモンドが確立したソーシャルワークを、フロイトの精神分析学を基盤にして提唱されたのが診断主義アプローチで、医学モデルとも呼ばれます。心的側面を重視し、過去の生活史についての面接を行うことにより、援助者主導の長期的な援助を行うアプローチ方法です。ケースワークの展開過程を治療の過程として捉え、人格の変容を援助の目的とすることを特徴としています。

トール

 トールは、リッチモンドの貧困者に対するケースワークを継承して『コモン・ヒューマンニーズ』を著わし、人間に共通の欲求充足を権利として求める公的扶助ケースワークを理論化しました。貧困が子どもに及ぼす影響がどのように大きなものかを指摘し、人間の自立と成長のための公的扶助の必要性と、パーソナリティの発達のために公的扶助の運用的側面の重要性を、診断主義の立場から論じました。

ハミルトン

 ハミルトンは、フロイトの精神分析学を取り入れ、調査、診断、目標設定により、科学的根拠に基づく専門的相談対応として介入するケースワーク理論を提唱し、医学モデルに基づく診断主義アプローチ理論を体系化しました。

ホリス

 ホリスは、リッチモンドのケースワーク理論を源流とし、フロイトの精神分析学の影響を受けたハミルトンやトールが確立した診断主義の立場から、「心理社会的アプローチ」を提唱しました。ホリスは人を「状況の中の人」としてとらえ、利用者とソーシャルワーカーとのコミュニケーションによって、利用者のパーソナリティの変容を実現して、人と環境との機能不全を改善しようとする理論を提唱しました。

 心理社会的アプローチは、診断主義ケースワークを、単に心理的な側面だけに限定するのではなく、利用者の社会的側面に対する援助も含めた概念として応用したものです。クライエントの心理的な側面と社会環境的な側面を一体的に捉えて、人と環境の関係が正常に機能しているかどうかという視点からソーシャルワークを捉えました。

リッチモンド ケースワーク理論を確立。社会診断によって生活課題を診断し人格の変容と社会への働きかけを重視した
トール 診断主義。公的扶助ケースワークを理論化した
ハミルトン 診断主義。フロイトの精神分析学を基盤とし、調査、診断、目標設定により介入するケースワークを体系化した
ホリス 診断主義。クライエントを「状況の中の人」としてとらえる心理社会的アプローチを提唱した

機能主義アプローチ

 1930年代の不安定な社会状況を背景に、新フロイト派のランクが意思心理学を提唱しました。ランクはフロイトの弟子でしたが、集団や社会、文化的背景を重視する立場に立ち、クライエントの成長しようとする意思を重視する「意思心理学」を提唱しました。この意思心理学を基盤にして提唱されたのが、機能主義アプローチです。

 機能主義アプローチは、利用者が機関の機能を代表する援助者の援助を受けつつ、本人主体で課題を解決することを重視したアプローチで、開始期―中間期―終結期と時間的展開を重視したケースワークを提唱しました。ロビンソン(V.Robinson)、タフト(J.taft)らが提唱し、機関の機能を用いて、クライエントの成長しようとする自由意思を尊重すべきであるとしました。

問題解決アプローチ

 診断主義アプローチと機能主義アプローチを折衷したアプローチとして、パールマン(Perlman,H.)はソーシャルケースワークを「個人的に機能する際に出会う問題を、より効果的に処理できるように福祉機関によって用いられる一つの過程である」と定義し、「問題解決アプローチ」を提唱しました。

 「問題解決アプローチ」は、ソーシャルケースワークは援助を必要としている人(Person)、その人が抱えている問題(Problem)、援助が展開される機関としての場所(Place)、援助の過程(Process)の4つのPから構成されるとし、その後、援助を提供する専門家(Professional)、制度や政策・資源(Provisions)を追加しました。

 パールマンは、問題解決の主体はクライエントであるとして、ワーカビリティという概念を提唱しました。ワーカビリティとは、問題を抱えている当事者であるクライエントの問題解決能力のことで、動機づけ(Motivation )、能力(Capacity)、機会(Opportunity)の3つを提示しました。

 動機づけ(Motivation )とはクライエントの問題解決への動機づけのこと、能力(Capacity)とは問題解決のためのクライエントの能力のこと、機会(Opportunity)とはクライエントが自分自身の能力を発揮して問題解決に取り組む機会のことです。

 問題解決アプローチとは、機関の機能を用いて、クライエントが自分自身で問題を解決しようとする動機づけをし、クライエント自身の問題解決能力を発揮できるよう支援していくアプローチ方法です。

エコロジカル・アプローチ

 エコロジカル・アプローチは、生活モデル(ライフモデル)と同じ意味であると理解してよいでしょう。ジャーメイン(Germain,C.)とギッターマン(Gitterman,A.)は、ソーシャルワークに生態学的な視点を導入し、その実践モデルをエコロジカル・アプローチとして提唱しました。人間と環境との相互作用に介入し課題解決を図ろうとするアプローチです。クライエントが抱える生活課題は、人と環境との交互作用が適切に行われないためであるとし、人と環境との接点に加入して、環境を改善しつつ、クライエントの対処能力を高め、よりよい交互作用が行われるよう援助するアプローチ方法です。

エコシステム論

 マイヤー(Meyer,C.H)は、一般システム論とエコロジーを融合し、課題と環境を一体的に捉えるエコシステム論を提唱しました。エコシステム理論とは、クライエントと環境を、ばらばらなものとして捉えるのではなく、一体のものとして捉える考え方です。クライエントを取り巻く家族や友人、地域等と、クライエントとの関係を包括的に捉え分析して、多様な介入方法によって、問題解決を図ろうとすることを特徴とします。

システムズアプローチ

 システムズアプローチは、システム理論を基盤にしたアプローチ方法です。生活課題の対象を、個人ではなくシステムとして捉え、その課題にシステムとして介入するアプローチ方法で、部分と全体の関係から課題を分析し、システムの機能の相互作用を用いて介入し課題解決を図ります。家族療法は、代表的なシステムズアプローチを用いた心理療法です。

機能主義アプローチ ランクの意思心理学を基盤に、機関の機能を用いてクライエントの成長しようとする自由意思を尊重して課題解決を図ろうとするアプローチ方法。 ロビンソン(V.Robinson)、タフト(J.Taft)らが提唱
問題解決アプローチ 問題解決の主体はクライエントであるとして、クライエントの問題解決能力(ワーカビリティ)を重視。パールマン(Perlman,H.)が提唱
エコロジカルアプローチ 生態学の視点から人間と環境との相互作用に介入し課題解決を図るアプローチ。ジャーメイン(Germain,C.)とギッターマン(Gitterman,A.)が提唱
エコシステム論 一般システム論とエコロジーを融合し、課題と環境を一体的に捉える理論。マイヤー(Meyer,C.H)が提唱
システムズアプローチ システム理論を基盤に生活課題の対象をシステムとして捉えシステムとして介入するアプローチ方法。家族療法は、この立場から家族をシステムとしてとらえて介入する方法

行動変容アプローチ

 行動変容アプローチは、トーマス(Thomas,E.D.)やフィッシャー( Fischer,J.)が提唱したアプローチで、学習理論や行動療法を基盤にしています。学習理論や行動療法の特徴は、精神分析療法のように、問題行動の原因を過去の出来事や体験に求めようとするのではなく、現在クライエントが抱えている問題行動だけに焦点を当て、その行動を変容させようとする点です。

 学習理論とは、刺激と反応によって行動は学習されるという理論で、オペラント条件づけが代表的な学習理論です。行動療法は、オペラント条件づけ等の学習理論を用いたもので、望ましい行動は、「賞賛」や「報酬」等という「強化子」を用いて強化し、望ましくない行動は消去させていく治療法で、行動変容アプローチはこのように学習理論と行動療法を使って、問題とされる特定の行動を変容させていくアプローチです。

 精神保健福祉の分野で、この行動変容アプローチが実践的に適用されている代表的なものとして、社会生活技能訓練(SST)を挙げることができます。指導者の手本となる行動をみて、それを真似るモデリングや、実際の場面を想定して役割演技を行うロールプレイ等として活用されています。

課題中心アプローチ

 課題中心アプローチとは、リード(W.J. Reid,W.J.)やエプスタイン(Epstein,L.)が提唱したアプローチ方法で、利用者自身が課題を自覚し、短期目標を設定して援助を行うアプローチ方法です。

 援助者は、クライエント自身が課題を自覚できるように、クライエントとともに生活における課題を明確化し、短期間に取り組めるような解決可能な具体的な課題を設定し、クライエントがそれに自覚的に取り組むことで、短期間で問題の解決を図っていこうとするアプローチ方法です。

 問題の原因を探るのではなく、課題そのものに焦点をあてて、その問題に対処していくことを重視する立場に立っており、心理社会的アプローチや問題解決アプローチ、 行動変容アプローチ等の様々なアプローチ論から影響を受けています。

危機介入アプローチ

 危機介入アプローチは、精神保健分野で発達した方法で、リンデマン(Lindemann,E.)の急性悲嘆反応研究や、カプラン(Caplan,G.)の地域予防精神医学を起源として、ラポポート(Rapoport,L.)が提唱したアプローチです。エリクソンの自我心理学に基づく心理社会的発達理論や学習理論を基礎として、危機的状況への予防と、対処としての介入を行います。

 災害や予想しなかった事故等による、急性の感情的な混乱状況の中にあるクライエントに、早期に接触して短期的に適切にかかわる方法で、危機状態の中で、感情の混乱状態にある利用者が、安心して不安を表出できる環境を確保し、危機状態のために脆弱化している対処能力を強化して、社会的に適応できるよう社会的機能の回復に焦点を当てる介入方法です。

ナラティブアプローチ

 ナラティブアプローチは、ホワイト(White,M.)やエプストン(Epston,D.)、ハートマン(Hartmann,H.)らが提唱したアプローチ方法で、社会構成主義を理論的基盤としています。社会構成主義とは、客観的な現実が最初にあるのではなく、言葉、すなわち人間が体験してきたものの見方や考え方が、現実を規定しているという考え方です。

 ナラティブアプローチは、クライエントが体験した人生を通して作り上げてきた、クライエント自身の人生観を尊重しながら、ワーカーはクライエントとの対話によって、クライエントのものの見方や考え方、受けとめ方を再構築していくことを援助するアプローチ方法です。

 ものの見方や考え方や受けとめ方を再構築することを、リフレーミングといい、否定的なものの見方を、肯定的なものの見方に変えられるように援助します。ワーカーとクライエントとの対話によって認知の転換を促し、肯定的世界観を取り戻せるようリフレーミングを行い、新しい意味の世界を見出すことを重視します。

解決志向アプローチ

 解決志向アプローチは、問題の追求よりも課題の解決に焦点を当てるアプローチ方法です。問題の原因の追及よりも、クライエント自身が持っている能力や強さ、可能性等のリソースを活用することを重視します。何もできないと思われるような状況の中で、「例外(できていること)探し」の技法や、「解決したら一番初めに何をしたいですか」のような、ミラクルクエスチョンの技法を用いて問いかけます。バーグ(Berg,I.)やシェザー(Shazer,S.)が提唱しました。

エンパワメントアプローチ

 エンパワメントアプローチは、アメリカの公民権運動から生まれたアプローチ方法です。人種差別を受けた黒人たちが、社会的抑圧によって、本来持っていたパワーを出し切ることができずにパワーレス状態に陥っていた状態から、本来のパワーを取り戻す運動理念から生まれたアプローチ方法です。

 このエンパワメントの理念を提唱したのが、ソロモン(Solomon,B.)です。ソロモンは、抑圧的な環境が、クライエントが本来持っている力を奪いパワレス状態にしていると考え、クライエントが自信を取り戻し、自ら問題を解決する力をつけて、主体的に解決することができるよう、側面的に援助するアプローチ方法を提唱しました。

 このエンパワメントアプローチは、権利擁護活動と密接に関連しており、セルフヘルプ活動にも活用されるようになっています。現在は、障害者や社会的弱者、マイノリティ等の分野などにも幅広く適用されており、精神保健福祉の分野におけるソーシャルワークでは、非常に重要な位置を占めるようになってきています。

ストレングスアプローチ

 サリービー(Seleebey,D.)やラップ(Rapp,C.)、ゴスチャ(Goscha,R.)は、重度の精神障害を持つ人々の地域生活を支援するためのケースマネジメントに、「ストレングスアプローチ」を提唱しました。ストレングスアプローチは、本人の能力に焦点を当てて、自信を持つことによって自己の能力を発揮できるように援助する援助方法で、本人の長所、可能性、希望等の強さを重視しそれらを活用して援助します。環境の強さにも目を留め、地域を資源のオアシスとして捉えます。

行動変容アプローチ 学習理論や行動療法を基盤とし、現在クライエントが抱えている問題行動だけに焦点を当て、その行動を変容させようとするアプローチ。トーマス、フィッシャーが提唱
課題中心アプローチ 利用者自身が課題を自覚し、短期目標を設定して援助を行うアプローチ。リードやエプスタインが提唱
危機介入アプローチ 危機的状況の中で感情的な混乱状態にあるクライエントに早期に短期的に介入し、対処能力を強化して社会的機能の回復に焦点を当てる介入方法。ラポポートが提唱
ナラティブアプローチ 対話による認知の転換(リフレーミング)を行い、新しい意味の世界を見出す。ホワイト、エプストン、ハートマンが提唱
解決志向アプローチ 問題の解決に焦点を当てミラクルクエスチョン等の技法を用いてクライエント自身のリソースを活用して解決を図る。バーグやシェザーが提唱
エンパワメントアプローチ 抑圧的な環境により本来の力を抑圧されているクライエントが自ら問題を主体的に解決する力をつけられるよう援助するアプローチ。ソロモンが提唱
ストレングスアプローチ 本人の長所、可能性、希望等の強さに焦点を当てそれらを活用して援助する。サリービー、ラップ、ゴスチャが提唱

 いかがでしたか。精神保健福祉士として、援助の理論や理念を実践に活かせるよう、様々な制度に対する知識や、具体的な援助技術についての理解をさらに深めておきましょう。
 次回は、「精神保健福祉の理論と相談援助の展開(1)」について取り上げます。では、今回の課題を第22回精神保健福祉士国家試験から挙げておきますので、チャレンジしてみてください。

問題23 ソーシャルワークの理論の発展に貢献した人物とそのアプローチに関する次の記述のうち、適切なもの1つ選びなさい。

  • 1 カプラン(Caplan,G.)は、 ソーシャルワークに生態学的な視点を導入し、 その実践モデルをエコロジカルアプローチとした。
  • 2 ジャーメイン(Germain,C.)は。 クライエントの心理的側面や生活史を重視し、診断主義アプローチを提唱した。
  • 3 トール(Towle,C.)は、家族療法の各流派の知見を統合し、多元的な家族中心アプローチを構築した。
  • 4 トーマス(Thomas,E.)は、 学習理論の応用に基づく多様な行動変容の方法を整理し、行動変容アプローチとして確立した。
  • 5 ハートマン(Hartman,A.)は、 危機の状況から効果的で早急に脱出することを目的とした危機介入アプローチの基礎を築いた。