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張先生の受験対策講座

張 百々代(はり ももよ)

受験勉強のガイド役となるのがこのコーナーです。受験対策のプロである張(はり)先生が、あなたの合格までの道のりをサポートします。

プロフィール張 百々代(はり ももよ)

精神保健福祉士・社会福祉士。児童養護施設、老人福祉施設での勤務を経て福祉系専門学校講師に。
現在は受験対策講座講師、各大学での受験対策に従事しており、第三者後見人として精神障害者・知的障害者の成年後見活動にも携わっている。

第5回 「精神保健福祉相談援助の基盤」

 皆さん、こんにちは。5月を迎え、さわやかな初夏の光が輝く季節になってきました。学習は進んでいますか。忙しい毎日をお過ごしのことと思いますが、わずかな時間も有効に使って知識を積み重ね、力をつけていきましょう。

 今回は、「精神保健福祉相談援助の基盤」を取り上げていきます。この科目は、精神保健福祉士としての相談援助の理念や価値という、援助の根幹にかかわる内容になります。人間の尊厳という価値や倫理、権利擁護等の理念をしっかりと理解しておきましょう。また、社会情勢の多様な変化に対して精神保健福祉士に求められている範囲や役割も一層広がり、重要になってきています。精神保健福祉士の法律上の位置付けや役割とともに他職種連携やマクロ的な介入の視点などをしっかり押さえておきましょう。
 では最初に、前回の課題の解説をしていきたいと思います。

第21回 精神保健福祉士試験 「精神保健の課題と支援」

問題16 次のうち、2016年(平成28年)の自殺対策基本法改正によって新たに加えられた内容として、正しいもの2つ選びなさい

  • 1 精神科医の診療を受けやすい環境の整備
  • 2 自殺未遂者の再企図防止のための施策
  • 3 心理的負担を受けた場合の対処方法を身に付けるための児童生徒に対する教育
  • 4 自殺者又は自殺未遂者の親族等への支援に必要な施策
  • 5 都道府県及び市町村は、自殺対策計画を定めること

正答 3、5

解答解説

  • 1 誤り。2016(平成28)年の自殺対策基本法改正によって新たに加えられた内容は、(1)基本理念の追加、(2)国の責務・自殺予防週間・自殺対策強化月間の規定の追加、(3)関係者の連携協力、(4)都道府県・市町村に自殺対策計画策定義務付け、(5)国からの交付金規定、(6)調査研究等の推進及び体制の整備である。
  • 2 誤り。自殺未遂者の再企図防止のための施策は、既に規定されていた内容である。「自殺未遂者等の支援」として、第20条に「 国及び地方公共団体は、自殺未遂者が再び自殺を図ることのないよう、自殺未遂者等への適切な支援を行うために必要な施策を講ずるものとすると規定されている。
  • 3 正しい。第17条第3項に、学校は、各人がかけがえのない個人として共に尊重し合いながら生きていくことについての意識の涵養等に資する教育又は啓発、困難な事態、強い心理的負担を受けた場合等における対処の仕方を身に付ける等のための教育又は啓発その他当該学校に在籍する児童、生徒等の心の健康の保持に係る教育又は啓発を行うよう努めるものとする、と規定された。
  • 4 誤り。この項目は、「自殺者の親族等の支援」として、既に規定されていたものである。 国及び地方公共団体は、自殺又は自殺未遂が自殺者又は自殺未遂者の親族等に及ぼす深刻な心理的影響が緩和されるよう、当該親族等への適切な支援を行うために必要な施策を講ずるものとするとされている(第21条)。
  • 5 正しい。都道府県は、自殺総合対策大綱及び地域の実情を勘案して、当該都道府県の区域内における自殺対策についての計画「都道府県自殺対策計画」を定めるものとする。市町村は、自殺総合対策大綱及び都道府県自殺対策計画並びに地域の実情を勘案して、当該市町村の区域内における自殺対策についての計画「市町村自殺対策計画」を定めるものとするとされている(第13条)。

 いかがでしたか。では、今回の「精神保健福祉相談援助の基盤」について、出題基準と過去問題の出題実績を分析しながら、頻出分野を中心に受験対策について取り上げていきたいと思います。

精神保健福祉士の役割と意義

 「精神保健福祉士法」は、私たちが目指している精神保健福祉士の根拠法です。法律に規定されている精神保健福祉士の定義、業務、役割、義務、罰則規定等を押さえておきましょう。第20回では、精神保健福祉士の義務として、誠実義務、信用失墜行為の禁止、資質向上の責務等が出題されました。

 「精神保健福祉制度の歩み」として、精神保健福祉士国家資格成立に至るまでの精神科ソーシャルワーカーの歴史、資格成立の経緯についても基本的な内容を整理しておきましょう。第21回では精神科ソーシャルワーカーの歴史が出題されました。今回はこの分野を中心に、のちほど解説していきたいと思っています。

 「精神保健福祉士の専門職倫理」については、第21回、第20回で連続して、国際ソーシャルワーカー連盟(IFSW)の倫理綱領が出題されています。「精神保健福祉士協会倫理綱領」と併せてよく読み込んでおくとよいでしょう。第19回では、精神保健福祉士実践の現場で出会う倫理的ジレンマが短文事例で出題されています。実践のなかで出合う倫理的ジレンマへの対応方法も押さえておきましょう。

社会福祉士の役割と意義

 精神保健福祉士に関連する専門職として、社会福祉士、介護福祉士について、それぞれの役割、法律上の定義、業務、義務等を理解しておきましょう。第16回、第17回、第18回試験と、社会福祉士等に関する業務規定が出題されています。
 第20回では、日本社会福祉士会、日本介護福祉士会、日本精神医学ソーシャルワーカー協会等の社会福祉に関する、専門職団体が設立された経緯が出題されています。

相談援助の概念と範囲

 国際ソーシャルワーカー連盟のソーシャルワーカーの定義、ソーシャルワークが拠り所とする基盤、仲介者としての位置付け、価値、理論、実践について、重要語句を押さえて理解しておきたいものです。

 ソーシャルワークの形成過程として、第19回では仲村優一、浅賀ふさ、竹内愛二、村松常雄、窪田暁子が、第18回では、ジャレット、ビアーズ、キャノンが出題されています。医療ソーシャルワーカー、精神科ソーシャルワーカーの歴史等を、よく学習しておきましょう。

 アプローチ論としては、第21回では生活モデルが、第20回ではホリス、トール、マイヤー、ジャーメイン、アプテカーが、第16回ではロビンソン、ホリス、ジャーメイン、マイヤー等が出題されています。「精神保健福祉の理論と相談援助の展開」の科目と併せて、代表的な理論と人物を押さえておくとよいでしょう。

相談援助の理念

 この分野は、精神保健福祉士として実践を進めていく上で、精神障害者の人権をどうとらえるかという理念を扱っています。
 ノーマライゼーション、アドボカシー、エンパワメント、ストレングス、ピープルファースト、社会的包摂(ソーシャルインクルージョン)などの相談援助の基本的理念は、援助の際の基盤となる考え方ですから、人権尊重の視点、利用者主体の考え方等とともに、事例問題にも対応できるよう、それぞれの理念の内容をよく押さえておきましょう。

 第21回ではヴォルフェンスベルガーのノーマライゼーションの理念、アカウンタビリティ、アドボカシーが、第20回ではストレングスの概念が、第19回ではソーシャルインクルージョンの概念が出題されています。

精神保健福祉士が行う相談援助活動の対象と相談援助の基本的考え方

 この分野の中項目は、「保健、医療、福祉等の各分野における相談援助の対象及び相談援助の基本的考え方」とされています。ピアサポーター、ピアカウンセラー、セルフヘルプグループ、ヘルパーセラピーの原則、リカバリー等の概念とそれらを相談援助の実践の場でどのように活用するか、事例問題に対応できるようにしておきましょう

 第19回では、精神保健福祉士が行う相談援助活動に関して、セルフヘルプグループへのかかわり方、プロセス重視という援助の視点、生活障害の捉え方、ストレスとコーピングスキル、人間と環境との関係の視点という、具体的な援助の視点が出題されています。第20回では、援助者に対するOJTやスーパービジョン、専門性の向上についての出題がありました。

相談援助に係る専門職の概念と範囲

 この分野は、医療機関、福祉行政機関とその専門職、民間における専門職とその役割を、制度面からも十分に学習しておくことが求められます。
 看護師、作業療法士、理学療法士、言語聴覚士、介護福祉士、管理栄養士等について、それぞれの専門的業務について整理しておきましょう。また、行政機関としての保健所や市町村、福祉事務所、地域包括支援センター等の役割についても理解しておきましょう。

 第21回と第17回では医療機関における専門職が、第20回では社会復帰調整官、精神保健指定医、社会福祉主事、精神保健福祉相談員、介護福祉士が、第18回では障害者にかかわる相談支援専門員の資格要件と業務内容が出題されています。関連分野の専門職種について、基本的な業務内容等を整理しておくとよいでしょう。

精神障害者の相談援助における権利擁護の意義と範囲

 ここは、非常に出題頻度の高い分野です。権利擁護の機能、アドボカシーの種類、権利擁護システムとしての第三者評価事業、苦情解決制度、障害者の権利条約における合理的配慮等、様々な側面からの出題が見られますので、注意して学習しておいてください。

 第21回ではアドボカシーの機能が、第20回ではアドボカシーについて短文事例問題が、第19回では、精神障害者の権利擁護を行う際の調整機能についての出題がありました。ケースアドボカシー、クラスアドボカシー、シチズンアドボカシー等の意味、権利擁護の発見機能、仲介的弁護機能、介入の機能、対決の機能、変革の機能等について、よく理解しておきましょう。

精神保健福祉活動における総合的かつ包括的な援助と多職種連携(チームアプローチ含む)の意義と内容

 この分野では、コミュニティソーシャルワークや多職種連携、チームアプローチの考え方についての学習が求められます。コミュニティソーシャルワークとしては、第17回試験で、イギリスにおけるソーシャルワークの専門性の発展の歴史的経緯が出題されました。コミュニティソーシャルワークを提唱した、バークレイ報告の内容を中心に学習しておきましょう。

 多職種連携については、第21回、第19回、第15回で、多職種チームの連携形態が、第20回ではデイケアにおけるチームビルディングの諸段階が出題されました。

 精神科病院からの退院促進に伴い、地域での多職種連携の重要性が増してきている現在、障害者にかかわるさまざまな相談機関やサービス、専門職種との連携のありかたを問う問題は今後一層増えていくと思われます。多職種連携とチームワークの目的、また、チームを形成していく諸段階で、精神保健福祉士として留意すべき事柄について、しっかり押さえておきましょう。

 以上、出題範囲と重点内容を確認してきましたが、今回は、日本における精神科ソーシャルワークの発展の歴史について取り上げていきたいと思います。

我が国の医療ソーシャルワーク

 わが国では、医療ソーシャルワークと精神科ソーシャルワークが最初から明確に分かれていたのではなく、医療ソーシャルワークがまず実践され、その後、精神科に特化したソーシャルワークが発展していきました。まず、医療ソーシャルワークの発展の経緯からみていきましょう。

【清水利子】
 わが国の医療ソーシャルワークは、最初は、貧困者に対する事業として実施されました。清水利子は、日本女子大学で社会事業教育を受け、済生会芝病院の済世社会部で救済事業に従事し、患者や家族の相談にかかわっていきました。

【浅賀ふさ】
 1929(昭和4)年には、聖路加国際病院に、アメリカのシモンズ女子大学で社会事業の専門教育を受けた浅賀ふさが、医療ソーシャルワーカーとして配置されました。その当時は結核と性病が社会問題だったため、これらに対する予防策として、医療ソーシャルワークの技法が実践されていきました。

我が国の精神科ソーシャルワーク

【遊動事務員】
 わが国で初の精神科ソーシャルワーカーに言及した記録としては、1928年の出版物に掲載された「松沢病院の歴史」という記事に、「遊動事務員」という言葉がみられます。この記録によると、遊動事務員は、精神病院に入院する患者の家族の実情の把握や患者の様子を家族に知らせるなどをして患者の幸福を増進し、家族や社会との連絡を円滑にする業務を行う者として想定されていました。
 この記録から、1920年代当初に、精神科医療ソーシャルワーカーの萌芽のようなものを見ることができるといえるでしょう。

【国際精神衛生会議への出席】
 1930年に開催された、「国際精神衛生会議」に、我が国からも2名が出席しました。この会議では、PSWの役割が取り上げられました。1933年から1935年まで、アメリカに留学しビアーズとも親交のあった東大の村松常雄は、精神衛生相談の重要性を指摘し、そのために、教育訓練を受けた人材の育成の必要性も指摘しています。

【社会事業婦の配置】
 その後のわが国では、第二次世界大戦後の1948(昭和23)年に、国立国府台病院の精神科に、院長である村松常雄が医療社会事業部を設置し、社会事業婦を配置したのが、本格的な精神科ソーシャルワークの導入となります。

 村松常雄は、「精神衛生相談なる事業は精神衛生運動の実際的仕事として最も重要なるものの一つであって、精神の健康、異常、疾病其他に関する一切の相談に応じ、鑑別、診断、処置等を行うが、原則として医療は行わない建前を普通とすることは、他の健康相談に於けると一般である。」「右の事業のためには精神科専門医師の外に、精神衛生の教育訓練を受けた社会婦、又は保健指導婦、又は公衆看護婦を必要とする。」としています。

【国立精神衛生研究所】
 1952(昭和27)年には、国は、この国府台病院に隣接して、精神障害の発生予防と国民の精神衛生の向上にかかる研究体制を整備することを目的として、「国立精神衛生研究所」を開設し、精神科医、心理学者に加えて、精神科ソーシャルワーカーをも含む臨床チームの運営を開始しました。
 この国立精神衛生研究所では、ソーシャルワーカーを含めた精神保健の専門家の研修が行われるようになり、精神科ソーシャルワーカーへの関心が高まっていきました。

【日本社会事業家協会】
 1953(昭和28)年には、浅賀ふさらにより「日本医療社会事業家協会」が結成され、精神科の領域を含む医療ソーシャルワーカーが加入しました。1958(昭和33)年には、「日本医療社会事業協会」に改組され、現在の「日本医療社会福祉協会」へと発展していきます。

【日本精神医学ソーシャルワーカー協会設立】
 この翌年の1959(昭和34)年には、都立松沢病院に、精神科ソーシャルワーカーが配置されていきます。その後、次第に精神科ソーシャルワーカーの配置が進められていき、1964(昭和39)年には、現在の精神保健福祉士協会の前身である、「日本精神医学ソーシャルワーカー協会」が設立されました。このときの構成員の所属先は、ほとんどが精神科病院でした。精神科病院で働く精神科ソーシャルワーカーは、生活療法等のリハビリテーションを主に行っていました。