張先生の受験対策講座

受験勉強のガイド役となるのがこのコーナーです。受験対策のプロである張(はり)先生が、あなたの合格までの道のりをサポートします。
- プロフィール張 百々代(はり ももよ)
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精神保健福祉士・社会福祉士。児童養護施設、老人福祉施設での勤務を経て福祉系専門学校講師に。
現在は受験対策講座講師、各大学での受験対策に従事しており、第三者後見人として精神障害者・知的障害者の成年後見活動にも携わっている。
第31回 「地域福祉の理論と方法」
皆さん、こんにちは。試験まであと約3か月になりました。模擬試験等は受けましたか。模擬試験は自分の弱点を把握してそれを克服するのが目的です。模擬試験を受けたら復習して弱点を補強していきましょう。
今回は、「地域福祉の理論と方法」を取り上げていきます。最初に前回の課題の解説をしておきましょう。
- 第25回精神保健福祉士国家試験「現代社会と福祉」
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問題27 福祉のニーズとその充足に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
- 1 ジャッジ(Judge, K.)は、福祉ニーズを充足する資源が不足する場合に、市場メカニズムを活用して両者の調整を行うことを割当(ラショニング)と呼んだ。
- 2 「ウルフェンデン報告(Wolfenden Report)」は、福祉ニーズを充足する部門を、インフォーマル、ボランタリー、法定(公定)の三つに分類した。
- 3 三浦文夫は、日本における社会福祉の発展の中で、非貨幣的ニーズが貨幣的ニーズと並んで、あるいはそれに代わって、社会福祉の主要な課題になると述べた。
- 4 ブラッドショー(Bradshaw, J.)は、サービスの必要性を個人が自覚したニーズの類型として、「規範的ニード」を挙げた。
- 5 フレイザー(Fraser, N.)は、ニーズの中身が、当事者によってではなく、専門職によって客観的に決定されている状況を、「必要解釈の政治」と呼んだ。
- 正答 3
- 1 × ジャッジは、市場メカニズムを用いないで福祉ニーズを充足する方法をラショニングであるとした。
- 2 × ウルフェンデン報告は、インフォーマル部門、ボランタリー部門、法定(公定)部門、民間営利部門の4種類に分類した。
- 3 〇 三浦文夫は、貨幣的ニーズを金銭給付で充足できるニーズ、非貨幣的ニーズを現物給付で充足できるニーズとし、非貨幣的ニーズの増大を指摘した。
- 4 × サービスの必要性を個人が自覚したニードの類型を「感得されたニード」とした。「規範的ニード」は専門家が客観的基準に基づいて判断したニードである。
- 5 × フレイザーは、当事者によってではなく、専門職によって客観的に決定されている状況を、「必要充足の政治」と呼んだ。
解答解説
いかがでしたか。今回は、地域共生社会の実現に向けた厚生労働省の取組みについて解説していきます。
2015年の高齢者介護~高齢者の尊厳を支えるケアの確立に向けて~
2003年、高齢者介護研究会から「2015年の高齢者介護~高齢者の尊厳を支えるケアの確立に向けて~」(高齢者介護研究会)が出されました。団塊の世代が65歳以上になる2015年までに実現すべき高齢者介護の政策を提言しています。
この報告書の中で初めて「地域包括ケアシステム」が具体的に明示されました。
地域包括ケアシステムとは、「介護保険のサービスを中核としつつ、保健・福祉・医療の専門職相互の連携、ボランティアなどの住民活動も含めた連携によって、地域の様々な資源を統合した包括的なケア(地域包括ケア)を提供することである」と説明されています。

2015年の高齢者介護
初めて「地域包括ケアシステム」を具体的に明示
「これからの地域福祉のあり方に関する研究会」報告書
2008年に「これからの地域福祉のあり方に関する研究会」報告書が出されました。
「制度の谷間」にある問題や多様で複合的なニーズへの対応と、住民の自己実現への意欲の高まりの地域福祉への位置付けという課題に対応すべきであるとしています。
地域における「新たな支え合い」(共助)の確立と住民主体の場とネットワークづくりを提言しています。
適切な圏域設定、環境整備、情報共有、地域福祉のコーディネーターの必要性を指摘しました。
この提言を契機に「生活困窮者の自立と尊厳の確保」、「生活困窮者支援を通じた地域づくり」を目的に、生活困窮者自立支援法が2013年に制定されました。

「これからの地域福祉のあり方に関する研究会」報告書
「新たな支え合い」(共助)の確立と住民主体、ネットワークづくりを提唱
誰もが支え合う地域の構築に向けた福祉サービスの実現-新たな時代に対応した福祉の提供ビジョン-
2015年9月、「新たな福祉サービスのシステム等のあり方検討プロジェクトチーム」報告として、「新たな時代に対応した福祉の提供ビジョン」が次のように出されました。
目的 | 地域住民の参画と協働により、誰もが支え合う共生社会の実現 |
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4つの改革 |
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ニッポン一億総活躍プラン
2016年5月、国民会議から「ニッポン一億総活躍プラン」が出されました。
「希望出生率1.8」「介護離職ゼロ」「働き方改革」「地方創生」などとともに、「新たな時代に対応した福祉の提供ビジョン」を受けて、地域共生社会の実現が盛り込まれました。

ニッポン一億総活躍プラン
「地域共生社会の実現」が盛り込まれた
「地域力強化検討会」中間とりまとめ
2016年12月に「地域力強化検討会」から出された中間とりまとめでは、「~従来の福祉の地平を超えた、次のステージへ~」をサブタイトルとしています。
「住民に身近な圏域」で他人事を我が事に変える働きかけをし、市町村で包括的な相談支援体制を整備する必要性を提言しています。
「地域共生社会」の実現に向けて(当面の改革工程)」
厚生労働省は、2017年2月、「地域共生社会」の実現に向けて(当面の改革工程)」を公表しました。
「地域課題の解決力の強化」「地域丸ごとのつながりの強化」「地域を基盤とする包括的支援の強化」「専門人材の機能強化・最大活用」を改革の骨格4本柱として提示しています。

「地域共生社会」の実現に向けて
地域を基盤とする包括的支援の強化を提言
地域包括ケアシステムの強化のための介護保険法等の一部を改正する法律
上記法律が2017年6月に公布、2018年4月に施行されました。
この法律により、社会福祉法が改正され、市町村は包括的な支援体制作りが努力義務とされました。また、市町村地域福祉計画、都道府県地域福祉支援計画の策定が努力義務化され、計画の中に、高齢者、障害者、児童等の福祉の各分野における共通して取り組むべき事項を横断的に記載することとされました。
介護保険法の改正により、地域包括ケアシステムの深化・推進が掲げられ、地域共生社会の実現に向けた取り組みの推進等が盛り込まれました。また、介護保険制度の持続可能性の確保のため、現役世代並所得者の3 割負担が導入されました。
社会福祉法改正 | 市町村、包括的な支援体制づくり努力義務 |
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地域福祉計画策定努力義務。各分野における共通して取り組むべき事項を横断的に記載する | |
介護保険法改正 | 地域共生社会の実現に向けた取り組みの推進、現役世代並所得者の3 割負担の導入 |
「地域力強化検討会」最終とりまとめ
2017年9月には、「地域力強化検討会」から最終とりまとめが出されました。
「市町村における包括的な支援体制の構築」として、【他人事を「我が事」に変えていくような働きかけをする機能】【「複合課題丸ごと」「世帯丸ごと」「とりあえず丸ごと」受け止める場】【市町村における包括的な相談支援体制】が掲げられています。
地域共生社会の理念として、制度・分野の枠や、「支える側」「支えられる側」という関係を超えた包摂的なコミュニティの創造が提言されました。

「地域力強化検討会」最終とりまとめ
「支える側」「支えられる側」という関係を超えた包摂的なコミュニティの創造を提言
ソーシャルワーク専門職である社会福祉士に求められる役割等について
2018年3月、社会保障審議会福祉部会福祉人材確保専門委員会が、上記提言を出しました。
社会福祉士には、分野横断的な支援体制・地域づくり、業種横断的な社会資源との関係形成・地域づくり、関連機関の組織化と機能や役割の整理・調整機能、地域での中核的役割を担う能力の養成が求められるとしています。

社会福祉士に求められる役割
分野横断的・業種横断的な支援体制・地域づくりの役割
「地域共生社会推進検討会」最終とりまとめ
2019年12月26日の上記の最終とりまとめにおいて、市町村における包括的な支援体制の整備の在り方が示されました。
包括的支援体制整備のために、「断らない相談支援」「参加支援」「地域づくりに向けた支援」の3つの支援を一体的に行う市町村の新たな事業を創設すべきとしています。
この提言が後の重層的支援体制整備事業につながっていきます。

「地域共生社会推進検討会」最終とりまとめ
「断らない相談支援」「参加支援」「地域づくりに向けた支援」を一体的に行う市町村事業の創設を提言
地域共生社会の実現のための社会福祉法等の一部を改正する法律
これらの経過を経て、上記法律が2020年に制定され、2021年4月に施行されました。
地域福祉推進の目的規定の追加 | 地域福祉の推進は、共生する地域社会の実現を目指して行われなければならないと規定 |
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市町村 | 重層的支援体制整備事業が創設され、市町村の任意事業とされた |
地域福祉計画 | 市町村地域福祉計画・都道府県地域福祉支援計画に包括的提供体制整備に関する事項を盛り込むこととされた |
重層的支援体制整備事業
社会福祉法で規定された重層的支援体制整備事業では、「属性を問わない相談支援」「参加支援」「地域づくりに向けた支援」の3つの支援を一体的に実施することを必須にしています。この3事業を支えるための事業として、「アウトリーチ等を通じた継続的支援事業」「多機関協働事業」が設定されています。
それぞれの事業は個々に独立して機能するものではなく、一体的に展開することで一層の効果が出るとしています。
包括的相談支援事業 |
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参加支援事業 |
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地域づくり事業 |
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アウトリーチ等を通じた継続的支援事業 |
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多機関協働事業 |
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いかがでしたか。では、第25回精神保健福祉士国家試験の中から今回の課題にチャレンジしてみてください。次回は「福祉行財政と福祉計画」を取り上げます。
- 第25回精神保健福祉士国家試験「地域福祉の理論と方法」
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問題34 地域共生社会の実現に向けた、厚生労働省の取組に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
- 1 2015年(平成27年)の「福祉の提供ビジョン」において、重層的支援体制整備事業の整備の必要性が示された。
- 2 2016年(平成28年)の「地域力強化検討会」の中間とりまとめにおいて、初めて地域包括ケアシステムが具体的に明示された。
- 3 2017年(平成29年)の「地域力強化検討会」の最終とりまとめにおいて、縦割りの支援を当事者中心の「丸ごと」の支援とする等の包括的な支援体制の整備の必要性が示された。
- 4 2018年(平成30年)の「ソーシャルワーク専門職である社会福祉士に求められる役割等について」において、社会福祉士は特定の分野の専門性に特化して養成すべきであると提言された。
- 5 2019年(令和元年)の「地域共生社会推進検討会」の最終とりまとめにおいて、生活困窮者自立支援法の創設の必要性が示された。
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