張先生の受験対策講座

受験勉強のガイド役となるのがこのコーナーです。受験対策のプロである張(はり)先生が、あなたの合格までの道のりをサポートします。
- プロフィール張 百々代(はり ももよ)
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精神保健福祉士・社会福祉士。児童養護施設、老人福祉施設での勤務を経て福祉系専門学校講師に。
現在は受験対策講座講師、各大学での受験対策に従事しており、第三者後見人として精神障害者・知的障害者の成年後見活動にも携わっている。
第30回 「現代社会と福祉」
皆さん、こんにちは。いよいよ試験までの期間が迫ってきましたね。自分の弱点や苦手な科目を把握して、焦らず丁寧に学習を進めていきましょう。
今回は、「現代社会と福祉」を取り上げます。最初に前回の課題の解説をしましょう。
- 第25回精神保健福祉士国家試験「社会理論と社会システム」
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問題21 次の記述のうち、ラベリング論の説明として、最も適切なものを1つ選びなさい。
- 1 社会がある行為を逸脱とみなし統制しようとすることによって、逸脱が生じると考える立場である。
- 2 非行少年が遵法的な世界と非行的な世界の間で揺れ動き漂っている中で、逸脱が生じると考える立場である。
- 3 地域社会の規範や共同体意識が弛緩することから、非行や犯罪などの逸脱が生じると考える立場である。
- 4 下位集団における逸脱文化の学習によって、逸脱が生じると考える立場である。
- 5 個人の生得的な資質によって、非行や犯罪などの逸脱が生じると考える立場である。
- 正答 1
- 1 〇 ある行為に周囲から逸脱というラベルを貼られることによって、逸脱行動が生み出されるという理論である。
- 2 × 選択肢は、漂流理論の説明である。非行少年は、社会規範から一時的に逸脱し、漂流している中で逸脱が生まれるという理論である。
- 3 × 地域社会の規範や共同体意識の弛緩が逸脱を生み出すという理論は、社会統制論やアノミー論に該当する。
- 4 × 選択肢は、文化学習理論に関する記述である。犯罪は、下位集団である仲間集団における犯罪文化の学習を通して形成されるという理論である。
- 5 × 選択肢は、生来性犯罪者説の説明である。個人の生得的な資質によって、非行や犯罪等の逸脱が生じるという理論である。
解答解説
今回は、福祉のニーズとその充足について解説します。
必要と需要
「必要」と「需要」はとても似た概念ですが、福祉の分野では区別して使用されます。
「必要」は、専門家などによる客観的な根拠に基づいて充足が求められる概念で、基準が当事者の外部に存在する外在的な概念です。
例えば、要介護者のAさんに1週間に2回の入浴サービスが必要であると専門家によって判断されるのは、客観的な概念である「必要」に該当します。
「需要」は、欲求という主観的な根拠に基づいて充足が求められる内在的な概念で、基準は当事者がそれを望んでいるかどうかです。
例えば、要介護者のAさんが入浴サービスは1週間に1回だけでいいと思っているのは、「需要」に該当します。
ただ、「必要」と「需要」の概念には、重複する部分もあります。例えば、要介護者Aさんにとっての生活必需品などは、「必要」と「需要」が重複する部分です。

必要
客観的・外在的概念
需要
主観的・内在的概念
需要
次に、経済学で使用する「需要」の概念についてみていきましょう。
経済学で使用する「需要」とは、ある商品を購入しようとすることで、「供給」とは、ある商品を売ろうとすることです。
自由主義経済においては、価格は「需要」と「供給」のバランスによって決定されます。
これを市場原理あるいは市場メカニズムといいます。
需要の概念は、「有効需要」「無効需要」「行政需要」に分類することができます。
有効需要 | 貨幣を保有していて料金を支払うことができる需要 |
---|---|
無効需要 | 需要はあるが購買力がない需要、情報がないために気づかれていない需要 |
行政需要 | 即時的行政需要:国民からの行政に対する要望 真の行政需要:即時的行政需要のうち行政が必要と認めた需要 |
潜在的ニードと顕在的ニード
本人がニードを「自覚」しているかどうかを基準にすると、「潜在的ニード」と「顕在的ニード」に分類することができます。
潜在的ニード | ニードがあるにもかかわらず本人がニードを自覚していないため潜在化しているニード |
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顕在的ニード | 本人がニードを自覚しているため顕在化しているニード |
貨幣的ニードと非貨幣的ニード
三浦文夫は、ニードを貨幣的ニードと非貨幣的ニードに分類し、現代は非貨幣的ニードが増大していることを指摘しました。

貨幣的ニード
金銭の給付によって充足されるニード
非貨幣的ニード
現物給付によって充足されるニード
ブラッドショーのニード論
ブラッドショーは、ニードを感得されたニード(フェルト・ニード)、表明されたニード(エクスプレスト・ニード)、規範的ニード(ノーマティブ・ニード)、比較ニード(コンパラティブ・ニード)に分類しました。
感得されたニード(フェルト・ニード) | 本人が自覚しているニード |
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表明されたニード(エクスプレスト・ニード) | 感得されたニードが表明されたニード |
規範的ニード(ノーマティブ・ニード) | 専門家が社会的規範に基づいて判断したニード |
比較ニード(コンパラティブ・ニード) | 他の集団との比較に基づいて存在するニード |
フレイザーの「必要解釈の政治」
フレイザーは、ニーズ判定において、ニーズの中身を専門職が客観的に把握し決定する状況を必要充足の政治と名付けました。
専門職による決定に対して、当事者たちからの異議申し立てがあったことに対して、フレイザーは、当事者自身の思いを含めてニードを解釈すべきであるとして必要解釈の政治を提唱し、ニーズの捉え方に一石を投じました。
フレイザーは、「ニーズは、最初から決められている固定された、動かすことのできない概念ではなく、ニーズ要求に従って変化する政治概念となっている」としています。
必要充足の政治 | ニーズを専門職が客観的に把握し決定されている状況のこと |
---|---|
必要解釈の政治 | ニーズをニーズ要求に従って変化する政治概念として捉える考え方 |
報酬的資源と用具的資源
ニーズを満たすためには、資源が必要です。資源は、「報酬的資源」と「用具的資源」に分類されます。
報酬的資源
報酬的資源とは、ニーズを直接的に充足できる資源のことで、福祉サービス等の現物給付等を指します。報酬的資源は、利用者の選択の自由の保障が低いのが特徴です。

報酬的資源
- ・ニーズを直接的に充足できる資源。現物給付が該当
- ・選択の自由が少ない
用具的資源
用具的資源とは、ニーズを間接的に充足する資源のことで、具体的には、現金給付、クーポン券等のバウチャーを指します。用具的資源は、利用者の選択の自由の保障が高いのが特徴です。
ただ、現金給付は、利用者に目的以外に使われやすいという欠点があります。使用目的が特定されているクーポン券等のバウチャー給付のほうが目的以外に使われないので、支給目的を達成することができます。

用具的資源
- ・ニーズを間接的に充足する資源。現金給付、バウチャー等が該当
- ・現金給付は目的以外に使用されやすい
- ・バウチャーは支給目的を達成しやすい
提供主体による資源の分類
提供主体によって資源を分類すると、「フォーマルな資源」と「インフォーマルな資源」に分類することができます。
フォーマルな資源 | 制度化されている資源。安定供給が可能だが柔軟性に欠ける 社会福祉法人やNPO 法人の提供サービス等 |
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インフォーマルな資源 | 制度化されていない資源。柔軟性に富むが安定供給が困難 近隣や知人、ボランティア等による援助等 |
「ウルフェンデン報告」の資源の供給主体の分類
「ウルフェンデン報告」の正式名称は、『民間非営利団体の将来』です。
この報告書では、資源の供給主体をインフォーマル部門、ボランタリー部門、法定(公的)部門、民間営利部門の4部門に分類し、多元的な供給主体によって資源を供給すべきであるとしています。これを福祉多元主義といいます。
インフォーマル部門とは、法律や制度に基づかないサービスの供給主体のことで、ボランティアや家族、近隣、地域コミュニティなどが該当します。
ボランタリー部門とは、営利を目的とせず、社会的な使命を達成するために自主的に活動する民間の非営利組織が供給主体となるサービス部門のことで、社会福祉法人やNPO法人などが該当します。
法定(公的)部門とは、行政が供給主体となるサービスのことです。
民間営利部門とは、営利を目的とする民間営利部門のことです。

ウルフェンデン報告
- ・福祉多元主義を提唱
- ・資源の供給主体をインフォーマル部⾨、ボランタリー部⾨、法定(公的)部⾨、⺠間営利部⾨に分類
資源の配分の考え方
資源の配分の考え方には、「必要原則」と「貢献原則」があります。
必要原則とは、必要を充足するために、資源を必要に応じて平等に分配すべきであるという考え方です。市場メカニズムによらず、「必要」だけに焦点を当てて資源を分配します。具体的には、ラショニング等の方法が該当します。

必要原則
- ・必要に焦点を当て、資源を分配
- ・市場メカニズムによらないラショニング等が該当
貢献原則とは、貢献度、すなわち金銭の支払いに応じて資源を分配するという考え方です。具体的には、金銭を多く支払ったものに優先的にサービスが提供されるという市場メカニズムによる方法です。

貢献原則
- ・金銭の支払いに応じて資源を分配
- ・市場メカニズムによる分配
福祉政策の手法としての資源の配分方法
福祉政策の手法としての資源の配分方法には、利用券支給方式、税額控除、所得控除、給付付き税額控除、ラショニング等の方法があります。
利用券支給方式 | 使い途が特定されている利用券を配布 |
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税額控除 | 所得税額から一定の金額を控除 「財政福祉」に該当し間接給付に分類される |
所得控除 | 所得から一定の金額を控除 医療費控除や社会保険料控除等 |
給付付き税額控除 | 一定水準以下の所得者に給付金を支給 「負の所得税」と呼ばれる 所得格差を是正する機能がある |
ラショニング
ラショニングとは割り当ての意味で、市場メカニズムを用いないで、希少な資源を必要とする人々に供給する方法です。ジャッジが提唱しました。
ラショニングには、財政ラショニングとサービスラショニングがあります。
財政ラショニングとは、予算配分等のように、公共部門への財配分と個々の社会部門への財配分、すなわち割り当てを行うことです。国の毎年度の一般会計予算で福祉のために社会保障関係費として計上されるのは、財政ラショニングに該当します。
サービスラショニングとは、ニーズ判定から資源の配分を行うことです。例えば、福祉事務所のケースワーカーが生活保護の申請に対してニーズ判定を行い、保護の実施を決定する等のことが該当します。

財政ラショニング
予算配分による分配
サービスラショニング
ニーズ判定による分配
以上が「福祉ニーズとその充足」に関する考え方です。次回は「地域福祉の理論と方法」を取り上げます。それでは、第25回の精神保健福祉士国家試験にチャレンジしてみてください。
- 第25回精神保健福祉士国家試験「現代社会と福祉」
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問題27 福祉のニーズとその充足に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
- 1 ジャッジ(Judge, K.)は、福祉ニーズを充足する資源が不足する場合に、市場メカニズムを活用して両者の調整を行うことを割当(ラショニング)と呼んだ。
- 2 「ウルフェンデン報告(Wolfenden Report)」は、福祉ニーズを充足する部門を、インフォーマル、ボランタリー、法定(公定)の三つに分類した。
- 3 三浦文夫は、日本における社会福祉の発展の中で、非貨幣的ニーズが貨幣的ニーズと並んで、あるいはそれに代わって、社会福祉の主要な課題になると述べた。
- 4 ブラッドショー(Bradshaw, J.)は、サービスの必要性を個人が自覚したニーズの類型として、「規範的ニード」を挙げた。
- 5 フレイザー(Fraser, N.)は、ニーズの中身が、当事者によってではなく、専門職によって客観的に決定されている状況を、「必要解釈の政治」と呼んだ。
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