張先生の受験対策講座

受験勉強のガイド役となるのがこのコーナーです。受験対策のプロである張(はり)先生が、あなたの合格までの道のりをサポートします。
- プロフィール張 百々代(はり ももよ)
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精神保健福祉士・社会福祉士。児童養護施設、老人福祉施設での勤務を経て福祉系専門学校講師に。
現在は受験対策講座講師、各大学での受験対策に従事しており、第三者後見人として精神障害者・知的障害者の成年後見活動にも携わっている。
第25回 「精神保健福祉に関する制度とサービス」
皆さん、こんにちは。試験まであと4か月あまりとなり、なかなか勉強時間がとれず内心焦りを覚えている方も多いのではないでしょうか。今からでも十分間に合います。焦らずに、一つひとつ丁寧な学習を進めていきましょう。
今回は「精神保健福祉に関する制度とサービス」の医療観察制度を中心に取り上げていきます。
最初に前回の課題の解説をします。
- 第25回精神保健福祉士国家試験「精神保健福祉の理論と相談援助の展開」
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問題40 解決志向アプローチに関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
- 1 解決を要する問題行動の生じる頻度を測定する。
- 2 問題に対するこれまでの対処方法は用いず、新しい方法を提案する。
- 3 問題が解決した場合の状況について質問する。
- 4 専門的知見から、問題解決のイメージを提案する。
- 5 問題を解決するために、直接的な原因を追究して除去する。
- 正答 3
- 1 × 解決志向アプローチは、問題行動ではなく、課題解決に焦点を当てたアプローチである。
- 2 × 解決志向アプローチでは、問題に対するこれまでの対処方法の中でうまくいった対処方法に注目する。これを例外探しという。
- 3 〇 「問題が解決したら、最初に何をしたいですか」というように、問題解決のイメージを抱くことによって解決への動機づけを行う。
- 4 × 問題解決のイメージを抱くのはクライエントであり、援助者が専門的知見から提案するのではない。解決志向アプローチでは、クライエントの中に解決するリソースがあると考える。
- 5 × 解決志向アプローチは、問題の原因を追究して除去するのではなく、問題が解決された状態に焦点を当てるアプローチ方法である。
解答解説
いかがでしたか。それでは、医療観察制度について解説をしていきます。
医療観察法の目的、定義、申し立て
医療観察法は、心身喪失等の理由で重大な他害行為を行った者に医療の確保と社会復帰の促進を図ることを目的としています。
重大な他害行為とは、殺人、放火、強盗、不同意性交等罪、不同意わいせつ、傷害(軽微な傷害は除く)と定義されています。
加害者が心神喪失等により責任能力がなく、無罪・減刑・不起訴になった場合、検察官は地方裁判所に対して医療観察法による処遇の申し立てを行います。

鑑定入院
検察官から審判の申し立てを受けた地方裁判所は、まず精神鑑定のために鑑定入院命令を出します。入院期間は原則として2か月以内で、必要な場合は1か月の延長が可能です。鑑定入院では、検査、診断だけではなく精神科治療も行われます。
精神鑑定をするために入院する医療機関は、対象者を鑑定入院させるための施設として、医療観察法で規定された精神科指定病院(総合病院の精神科病棟を含む)のことです。
鑑定医とは、鑑定入院した対象者の鑑定を行うように裁判所に命令された医師です。鑑定医の条件は、精神保健判定医またはこれと同等以上の学識経験を有する医師とされています。
鑑定医は鑑定後、医療観察法に基づく入院による医療の必要性について、鑑定結果に医学的見地からの意見を付して地方裁判所に提出する義務があります。

審判のための生活環境の調査
検察官から審判の申し立てを受けた地方裁判所は、保護観察所に対して対象者の生活環境の調査を依頼します。
保護観観察所は、対象者の居住の有無、生計の状況、家族の状況や家族関係、生活歴等を調査し、生活環境調査報告書を地方裁判所に提出します。
社会復帰調整官は、保護観察所長の命を受けて、この生活環境の調査を実施します。
地方裁判所による審判
地方裁判所の審判に際しては、対象者は、弁護士である付添人を選任することができます。対象者に付添人がいないときは、裁判所が職権で国選弁護士等をつけることになります。
申し立てを受けた地方裁判所は、裁判官、一定の研修を受けた精神科の医師である精神保健審判員の2名による合議体を構成します。
合議体の審議において、必要なときは精神保健参与員の意見を聴取します。
地方裁判所は、鑑定入院報告書と生活環境調査報告書等を勘案し、医療観察法における医療の必要性を判断し審判を下します。
地方裁判所の審判には、「入院決定」「通院決定」「不処遇」の3種類があります。入院決定あるいは通院決定がおりたら、指定入院医療機関に入院、あるいは指定通院医療機関に通院します。

入院処遇
次に入院処遇についてみていきましょう。地方裁判所から入院決定が下されたら、厚生労働大臣の指定を受けた指定入院医療機関に入院します。
入院中は、社会復帰を促進するために、病状の改善のために必要な治療や指導を受けます。指定医療入院機関の管理者は、入院対象者を医学的管理の下に指定入院医療機関の敷地外に外出・外泊させることができます。
生活環境の調整
社会復帰調整官は、保護観察所長の命を受けて、退院後の地域社会への円滑な移行を進めるために、退院後の居住の確保や身元引受人、精神保健福祉サービスの調整等、生活環境の調整を行います。
退院許可の申し立て
指定入院医療機関の管理者は、入院患者が入院医療を行う必要がなくなったと判断した場合は、保護観察所長の意見を付して直ちに地方裁判所に退院許可の申し立てをしなければなりません。
退院許可の申し立てを受けた地方裁判所は、合議体により、退院あるいは入院継続のいずれかの判断を下します。退院許可がおりた場合は、通院処遇に移行します。
入院継続確認の申し立て
指定入院医療機関の医師が入院医療の継続の必要性を認める場合は、管理者は入院決定があった日から起算して6か月以内に、保護観察所長の意見を付して、地方裁判所に入院継続確認の申し立てをしなければなりません。
地方裁判所による入院継続決定があった後も6か月ごとに入院継続の申し立てを行わなければなりません。
入院決定等に関する不服申し立て
地方裁判所が下した入院決定や通院決定に不服がある場合は、対象者、保護者、付添人は2週間以内に高等裁判所に抗告できます。また、高等裁判所の決定に不服がある場合は、最高裁判所に抗告できます。
入院者の処遇に関する不服申し立て
本人に対する入院処遇内容への不服がある場合、本人または保護者は、厚生労働大臣に対して処遇改善請求を行うことができます。処遇改善請求を受けた厚生労働大臣は、社会保障審議会に通知し、審議を求めなければなりません。
入院処遇
指定入院医療機関 | 厚生労働大臣の指定を受けた医療機関 |
---|---|
生活環境の調整 | 入院中に保護観察所による生活環境の調整を実施 |
退院 | 地裁の退院許可決定による |
入院継続 | 6か月ごとに地裁による入院継続確認決定が必要 |
入院決定等の不服申し立て | 高等裁判所、その後は最高裁に抗告できる |
入院処遇の不服申し立て | 厚生労働大臣に処遇改善請求を行う |
地域処遇
地方裁判所から通院決定が下されると、指定通院医療機関に通院し、通院処遇を受けることになります。通院処遇期間は、原則3年で最大2年の延長が可能です。指定通院医療機関に通院中も精神保健福祉法に基づく入院は可能です。
精神保健観察
通院処遇期間中は、精神保健観察の対象となります。精神保健観察は社会復帰調整官によって行われます。
精神保健観察に付された者には、守るべき事項が定められています。
②住居を移転し、または長期の旅行をするときは、あらかじめ保護観察所の長に届け出ること
③保護観察所の長から出頭または面接を求められたときは、これに応ずることと
これらに違反すると、地方裁判所の決定により、入院あるいは再入院の措置が採られます。
ケア会議の開催
通院決定が下されると、社会復帰調整官は保護観察所長の命により、ケア会議を開催し処遇実施計画を作成しなければなりません。
ケア会議には、指定通院医療機関、保護観察所、地方裁判所、行政職員、保健医療機関、福祉サービス機関等の関係者等が招集されます。処遇実施計画が作成され、その計画に基づいて関係機関は地域処遇を支援します。
地域処遇における医療観察期間終了後は、一般の精神医療に移行し精神保健福祉を継続します。
地域処遇
指定通院医療機関 | 指定医通院医療機関に通院 指定通院医療機関に通院中も、精神保健福祉法に基づく入院は可能 |
---|---|
通院期間 | 原則3年。2年以内延長可能 |
精神保健観察 | 社会復帰調整官による精神保健観察を受ける |
ケア会議の開催 | 保護観察所はケア会議を開催し処遇の実施計画を定める |
医療観察制度の担い手
最後に、医療観察制度の担い手について整理しておきましょう。
社会復帰調整官
社会復帰調整官は、国家公務員で医療観察法に基づき地方更生保護委員会および保護観察所に配置されます。
保護観察所が地方裁判所から対象者の生活環境の調査を依頼されたら、保護観察所長の命を受けて、生活環境の調査を実施し、生活環境調査報告書を作成し、これを保護観察所長は地方裁判所に提出します。
対象者が地方裁判所から入院決定の審判を受けたら、入院決定者の退院後の生活環境の調整を行います。
対象者が通院決定の審判を受けたら、通院決定者の精神保健観察、処遇実施計画案の作成、関連機関との連絡調整等を行います。
社会復帰調整官の任用要件は、精神保健福祉士、その他一定の経験のある保健師、看護師、作業療法士、社会福祉士等となっています。
精神保健審判員
精神保健審判員は、医療観察法に基づき地方裁判所において、裁判官とともに審判を行う精神科の医師で、鑑定医とは別の医師とされています。
心神喪失あるいは心神耗弱の状態で、重大な他害行為を行い、不起訴処分または無罪、減刑が確定した人に対して、医療観察法に基づく医療観察の要否を裁判官と合議して決定する精神科医で、厚生労働大臣が作成した精神保健判定医名簿の中から裁判所が事件ごとに任命します。
精神保健参与員
精神保健参与員は、地方裁判所の裁判官と精神保健審判員が行う対象者への処遇決定に対し、求められた場合、精神保健福祉の観点から必要な意見を述べる者です。
厚生労働大臣があらかじめ作成した精神障害者の保健および福祉に関する専門的知識および技術を有する精神保健福祉士等の名簿の中から地方裁判所が事件ごとに指定します。
医療観察制度の担い手
社会復帰調整官 | 保護観察所に配置 生活環境の調査・調整、精神保健観察、処遇実施計画案の作成等 |
---|---|
精神保健審判員 | 地方裁判所で裁判官とともに審判を行う 精神保健判定医名簿の中から裁判所が事件ごとに任命 |
精神保健参与員 | 地方裁判所の処遇決定の際、求められたら精神保健福祉の観点から必要な意見を述べる |
いかがでしたか。次回は、「精神障害者の生活支援システム」を取り上げます。第25回の精神保健福祉士国家試験問題にチャレンジしてみてください。
- 第25回精神保健福祉士国家試験「精神保健福祉に関する制度とサービス」
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問題66 「医療観察法」における鑑定入院に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
- 1 入院期間は、6か月が限度である。
- 2 地方裁判所の命令に基づく。
- 3 精神保健審判員が鑑定する。
- 4 医療観察病棟で実施される。
- 5 精神保健福祉士を付添人として選任できる。
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