張先生の受験対策講座

受験勉強のガイド役となるのがこのコーナーです。受験対策のプロである張(はり)先生が、あなたの合格までの道のりをサポートします。
- プロフィール張 百々代(はり ももよ)
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精神保健福祉士・社会福祉士。児童養護施設、老人福祉施設での勤務を経て福祉系専門学校講師に。
現在は受験対策講座講師、各大学での受験対策に従事しており、第三者後見人として精神障害者・知的障害者の成年後見活動にも携わっている。
第24回 「精神保健福祉の理論と相談援助の展開」
皆さん、こんにちは。今回は「精神保健福祉の理論と相談援助の展開」を取り上げます。精神保健福祉の分野で援助するための理論を分野ごとに整理しながら、学習していきましょう。
最初に前回の課題の解説をしておきます。
- 第25回精神保健福祉士国家試験「精神保健福祉相談援助の基盤」
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問題28 次の記述のうち、精神保健福祉士が行う権利擁護における発見機能として、適切なものを1つ選びなさい。
- 1 生活費の管理に課題を抱えるクライエントに対し、日常生活自立支援事業の活用を促す。
- 2 退院後に単身生活を控えているクライエントに対し、アパートの物件情報を提供する。
- 3 ソーシャルワークの理念と組織・制度の問題を結び付けるために、クライエント集団と地域福祉政策とを結び付ける。
- 4 市民を対象とした精神保健福祉講座の運営を通して、精神障害に対する理解を求める。
- 5 長期入院にあるクライエントに対し、地域生活のイメージを描けるような働きかけを行う。
- 正答 5
- 1 × 調整(仲介)機能に該当する。調整(仲介)機能とは、クライエントのニーズとサービスや資源を調整し、結合させる機能である。
- 2 × 情報提供機能に該当する。情報提供機能とは、ニーズに応じて情報を提供していく機能である。退院を控えたクライエントに対して、障害特性に応じてわかりやすく情報を提供することや自己決定のための選択肢を具体的な形で正確に提示することが求められる。
- 3 × 介入機能に該当する。介入機能とは、ソーシャルワークの理念と組織や制度の問題を結び付けるために、クライエント集団と地域福祉政策を結び付ける機能である。
- 4 × 教育・啓発機能に該当する。地域住民やボランティア、関係機関の職員等、多様な人々の障害に対する理解を深め、障害者の人権に関する意識を啓発する機能である。
- 5 〇 長期入院者に対して、地域生活の可能性を提示し、そのイメージを描けるようにすることは、クライエントに自らのニーズと権利に気づきをもたらす発見機能に該当する。
解答解説
いかがでしたか。今回は、ソーシャルワークのアプローチ論について解説していきます。
ソーシャルワークのアプローチ論
ソーシャルワークのアプローチ論には、心理社会的アプローチ、危機介入アプローチ、問題解決アプローチ、行動変容アプローチ、課題中心アプローチ、ナラティブ・アプローチ、解決志向アプローチ、エンパワメントアプローチ、ライフモデルアプローチ等があります。
心理社会的アプローチ・危機介入アプローチ
心理社会的アプローチ
心理社会的アプローチは、ホリスが提唱したアプローチです。
フロイトの精神分析学の影響を受けた診断主義の立場から、人を「状況の中の人」としてとらえました。クライエントとソーシャルワーカーのコミュニケーションを通して、クライエントのパーソナリティの変容を実現し、人と環境との機能不全を改善しようとする理論です。
人を単に心理的な側面だけでなく、心理的な側面と社会環境的な側面を一体的にとらえて支援します。
危機介入アプローチ
危機介入アプローチは、リンデマンの急性悲嘆反応研究や、キャプランの地域予防精神医学を起源にしています。
災害や予想しなかった事故等による急性の感情的な混乱状況の中にあるクライエントに早期に介入して、短期的に適切にかかわる方法です。
安心して不安を表出できる環境を確保し、危機状態のために脆弱化している対処能力を強化して、社会的機能の回復に焦点を当てます。

・心理社会的アプローチ
ホリス。「状況の中の人」ととらえる
・危機介入アプローチ
災害や事故等の緊急時に介入。安全な環境と対処能力の強化
問題解決アプローチ・行動変容アプローチ・課題中心アプローチ
問題解決アプローチ
問題解決アプローチは、パールマンが提唱したアプローチです。
パールマンは、ケースワークを「個人的に機能する際に出会う問題を、より効果的に処理出来るように福祉機関によって用いられる一つの過程」と定義しています。
パールマンは、ケースワークは、援助を必要としている人(Person)、抱えている問題(Problem)、援助が展開される機関としての場所(Place)、援助の過程(Process)の4つのPから構成されるとし、その後、援助を提供する専門家(Professional)、制度や政策・資源(Provisions)を追加しました。
そして、問題解決の主体はクライエントであるとして、ワーカビリティという概念を提唱しました。ワーカビリティとは、問題を抱えている当事者であるクライエントの問題解決能力のことで、動機付け(Motivation )、能力(Capacity)、機会(Opportunity)の3つを提示しました。
「動機付け」とは、クライエントの問題解決への動機付けのことです。
「能力」とは、問題解決のためのクライエントの能力のことです。
「機会」とは、クライエントが自分自身の能力を発揮して問題解決に取り組む機会のことです。
問題解決アプローチは、クライエントが自分自身で問題を解決しようとする動機付けをし、援助者がクライエント自身の問題解決能力を発揮できるよう支援していくアプローチ方法です。
行動変容アプローチ
行動変容アプローチは、トーマスやフィッシャーが提唱したアプローチで、学習理論や行動療法を基盤にしています。
学習理論や行動療法の特徴は、現在クライエントが抱えている問題行動だけに焦点を当て、その行動を変容させようとするという点です。
行動療法は、オペラント条件付け等の学習理論を用いたもので、望ましい行動は「賞賛」や「報酬」等という「強化子」を用いて強化し、望ましくない行動は消去させて行くという治療法です。
精神保健福祉の分野で、この行動変容アプローチが実践的に適用されている代表的なものとして、社会生活技能訓練(SST)を挙げることができます。指導者の手本となる行動を見て、それを真似るモデリングや、実際の場面を想定して役割演技を行うロールプレイ等として活用されています。
課題中心アプローチ
課題中心アプローチとは、リードやエプスタインが提唱したアプローチ方法で、クライエント自身が課題を自覚し、短期目標を設定して援助を行うアプローチ方法です。
援助者は、クライエント自身が課題を自覚できるように、クライエントとともに生活における課題を明確化し、短期間に取り組めるような解決可能な具体的な課題を設定し、クライエントがそれに自覚的に取り組むことで、問題の解決を図っていこうとするアプローチ方法です。
問題の原因を探るのではなく、課題そのものに焦点を当てて、その問題に対処していくことを重視するという立場に立ち、それまでの心理社会的アプローチや問題解決アプローチ、 行動変容アプローチ等の様々なアプローチから影響を受けています。

・問題解決アプローチ
クライエントのワーカビリティを活用して支援
・行動変容アプローチ
望ましい行動を強化、望ましくない行動を消去
・課題中心アプローチ
クライエントが自覚している課題に短期的に介入
ナラティブ・アプローチ・解決志向アプローチ
ナラティブ・アプローチ
ナラティブ・アプローチは、ホワイトやエプストンが提唱したアプローチで、社会構成主義を理論的基盤としています。社会構成主義とは、客観的な現実が最初にあるのではなく、人間が体験してきたものの見方や考え方が現実を規定しているという考え方です。
ナラティブ・アプローチは、クライエントが人生を通して作り上げてきた否定的なドミナントストーリー(支配されているストーリー)について、ワーカーとの対話によって、新たな意味を見出し、オルタナティブストーリー(代替のストーリー)を構築していくことを支援するアプローチです。
ものの見方や考え方や受け止め方を再構築することをリフレーミングといい、否定的なものの見方を肯定的なものの見方に変えられるように援助します。
このナラティブ・アプローチは、様々な問題の原因を自分自身の中に帰属させてしまいやすいクライエントが問題を客観的にとらえることができるように、問題の外在化を促す役割を果たします。
解決志向アプローチ
解決志向アプローチは、問題の原因を追究するのではなく、解決の可能性に焦点を当てたアプローチです。問題の原因の追及よりもクライエントのリソース(能力・強さ・可能性)を活用することを重視します。
問題を抱えている現状の中でも、問題が起きていないときやうまく問題に対処できた「例外」を振り返り、解決の糸口を見つけます(例外探し)。
解決したら何をしたいですか等のようなミラクルクエスチョンの技法を用いて、生活に起こるよい変化、新たな行動目標を見出していきます。

・ナラティブ・アプローチ
対話を通して新たな人生の意味を見出していく
・解決志向アプローチ
解決の可能性に焦点を当てクライエントのリソースを活用する
エンパワメントアプローチ・ライフモデルアプローチ
エンパワメントアプローチ
エンパワメントアプローチは、1960年代のアメリカの公民権運動から生まれました。
エンパワメントとは、人種差別を受けた黒人たちが社会的抑圧によって、パワレス状態に陥っていた状態から本来のパワーを取り戻す運動の中からソロモンが提唱した理念です。
この理念をもとに、社会的抑圧を是正し、クライエントが自信を取り戻し、自ら問題を解決する力をつけて、主体的に解決することができるよう、側面的に援助するというエンパワメントアプローチが生まれました。
エンパワメントアプローチは、権利擁護活動と密接に関連しており、セルフヘルプ活動、障害者や社会的弱者、マイノリティ等の分野などに、広く適用されています。
ライフモデルアプローチ
ライフモデルアプローチは、生態学を理論的基盤としています。
ジャーメインとギッターマンは、生態学の視点からライフモデルを体系化し、人間と環境との相互作用に介入し課題解決を図ろうとするライフモデルアプローチを提唱しました。
クライエントが抱える生活課題は、人と環境との交互作用が適切に行われないためであるとし、人と環境との相互作用の接点に介入して、環境を改善しつつ、クライエントの対処能力を高め、よりよい交互作用が行われるよう援助するアプローチです。

・エンパワメントアプローチ
社会的抑圧を是正し、クライエントの本来の力を引き出す
・ライフモデルアプローチ
人と環境との接点に介入。環境を改善しクライエントの対処能力を高める
いかがでしたか。次回は「精神保健福祉に関する制度とサービス」を取り上げます。第25回の精神保健福祉士国家試験問題の中から今回の課題を挙げておきますので、チャレンジしてみてください。
- 第25回精神保健福祉士国家試験「精神保健福祉の理論と相談援助の展開」
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問題40 解決志向アプローチに関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
- 1 解決を要する問題行動の生じる頻度を測定する。
- 2 問題に対するこれまでの対処方法は用いず、新しい方法を提案する。
- 3 問題が解決した場合の状況について質問する。
- 4 専門的知見から、問題解決のイメージを提案する。
- 5 問題を解決するために、直接的な原因を追究して除去する。
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