張先生の受験対策講座

受験勉強のガイド役となるのがこのコーナーです。受験対策のプロである張(はり)先生が、あなたの合格までの道のりをサポートします。
- プロフィール張 百々代(はり ももよ)
-
精神保健福祉士・社会福祉士。児童養護施設、老人福祉施設での勤務を経て福祉系専門学校講師に。
現在は受験対策講座講師、各大学での受験対策に従事しており、第三者後見人として精神障害者・知的障害者の成年後見活動にも携わっている。
第22回 「精神保健の課題と支援」
皆さん、こんにちは。厳しい暑さの中ですが、健康に留意しながら着実な学習を進めていきましょう。
今回は「精神保健の課題と支援」を取り上げます。この科目は、範囲が広く苦手意識があるかもしれませんが、出題パターンは決まっていますので頻出分野を中心に学習することをおすすめします。
では、まず前回の課題の解説をしていきましょう。
- 第25回精神保健福祉士国家試験「精神疾患とその治療」
-
問題3 次のうち、統合失調症の陰性症状として、正しいものを1つ選びなさい。
- 1 言葉のサラダ
- 2 貧困妄想
- 3 感情鈍麻
- 4 作為体験
- 5 思考抑制
- 正答 3
- 1 × 言葉のサラダは、統合失調症の陽性症状である。思考の統合が失われる「連合弛緩」の1つで、無意味な言葉を羅列させる状態をいう。
- 2 × 貧困妄想は、微小妄想の1つでうつ病においてみられることがある。微小妄想には、貧困妄想、罪業妄想、心気妄想がある。
- 3 〇 感情鈍麻とは、活き活きとした感情が喪失した状態である。陰性症状にはこのほか、自発性の低下、意欲欠如、自閉等がある。
- 4 × 作為体験は、統合失調症の陽性症状である。作為体験とは、自我障害の一種で、他者によって操られていると感じてしまうことである。自我障害には、このほかにも思考伝播、思考干渉、思考奪取、離人症等がある。
- 5 × 思考抑制は、うつ病の症状である。思考抑制とは、考えが停滞してしまい前に進まなくなり、思考の進み方が鈍くなる状態である。
解答解説
いかがでしたか。それでは、職場における精神保健に関する法制度について解説していきます。
労働に関する主な法律には、労働基準法、労働契約法、労働安全衛生法、過労死等防止対策推進法、労働者施策総合推進法、男女雇用機会均等法等があります。
労働基準法
労働基準法は、賃金、労働時間、休憩時間、休日、時間外労働等、労働者の労働条件を定めている法律です。就業規則の作成、有給休暇、男女同一賃金の原則、妊娠中・産前産後の働き方や休暇の取得等について規定しています。
妊産婦に関する規定
使用者は、妊娠中の女性や産後1年が経っていない女性を、重量物を取り扱う業務、有害ガスを発散する場所での業務等、有害な業務に就かせてはなりません。
産前6週間の女性が休業を請求した場合は、就業させてはなりません。
産後8週間以内の女性は就業禁止です。ただし、産後6週間経過後、本人が請求した場合は、医師が支障がないと認めた業務に就かせてもよいとされています。
1歳未満の乳児を育てている女性は、育児時間として、休憩時間のほか1日2回、各々少なくとも30分、その乳児を育てるための時間を請求できます。
時間外労働の上限規制
労働基準法が改正され、時間外労働の上限は、原則、月45時間・年360時間とされました。
臨時的な特別の事情で労使が合意する場合は、年720時間以内、時間外労働と休日労働時間の合計は月100時間未満、2〜6か月の平均を80時間以内にすることとされています。
なお、時間外労働が月45時間を超えることができるのは年6か月までです。
これらに違反した場合は、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。

労働契約法
労働契約法は、合理的な労働条件の決定・変更、労働者の保護、個別の労働関係の安定を目的とした法律です。労働契約は、労働者と使用者が対等の立場での合意に基づいて締結すべきと規定され、就業規則違反の労働契約は無効であるとしています。
この法律では、「労働者の安全への配慮」として、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」としています。
無期転換
有期労働者が5年以上労働すると本人からの申し出により、無期契約にしなければなりません。

労働安全衛生法
労働安全衛生法は、安全衛生管理体制、労働者の健康の保持増進のための措置、ストレスチェック制度等について定めています。
国は、「労働者の心の健康の保持増進のための指針」策定義務があります。
常時50人以上の従業員を抱える事業所は、衛生委員会の設置、衛生管理者・産業医の選任義務があります。
労働者の心の健康の保持増進のための指針
事業者 | 事業者は、「心の健康づくり計画」を策定 |
---|---|
セルフケア | 労働者自身によるストレスの気づき、ストレスへの対処 |
ラインによるケア | 管理者による職場環境等の改善、個別の相談・指導 |
事業場内産業保健スタッフによるケア | 産業医、衛生管理者等による職場の実態把握、個別相談支援、ラインによるケアへの支援 |
事業場外資源によるケア | 事業場外資源による直接サービスの提供 |
メンタルヘルス推進担当者 | 事業者は、事業場内メンタルヘルス推進担当者選任努力義務(産業医、医師、衛生管理者、衛生推進者、保健師等) |
コラボヘルスの推進 | 事業者は保険者と連携して健康の保持増進に取り組み、健康診断の結果を保険者に提供義務 |
ストレスチェック制度
国は、ストレスチェック指針を出しています。ストレスチェックは、メンタルヘルス不調の未然防止と職場環境の改善を目的としており、一次予防に位置づけられています。
従業員50人以上事業者にはストレスチェックの実施が義務付けられており、従業員50人以下事業者は努力義務です。
ストレスチェックの実施者は、医師、保健師か、厚生労働大臣が定める研修を修了した看護師、精神保健福祉士等です。医師、保健師には研修義務がないことをおさえておきましょう。
なお、労働者は、ストレスチェックを受けなければならないという義務規定はありません。
ストレスチェックの結果は本人に直接通知されます。ストレスチェックの実施者が面接指導を受ける必要があると判断した場合、労働者本人から申出があったときに限り、医師による面接指導を実施します。本人からの申し出がなければ、医師による面接指導を行わせることはできないことに注意しておきましょう。
事業者は、医師の意見を聴いた上で、必要な場合は、作業の転換や労働時間の短縮等、適切な就業上の措置を講じなければなりません。
また、事業者は、ストレスチェック結果の記録を作成し、5年間保存する義務があります。
ストレスチェック指針
ストレスチェック | 一次予防に位置づけ |
---|---|
対象事業所 | 50人以上の事業所(義務)、50人以下(努力義務) |
労働者の受検規定 | 労働者の受検についての義務規定はない |
医師による面接指導 | 労働者の申し出により医師は面接指導を行う |
事業者の措置 | 事業者は、ストレスチェックの結果、必要に応じて適切な就業上の措置を講じなければならない |
記録の保存 | 事業者は、ストレスチェック結果の記録5年間保存義務 |
過労死等防止対策推進法
過労死等の定義
過労死等防止対策推進法は、過労死等を「業務における過重な負荷による脳血管疾患若しくは心臓疾患を原因とする死亡若しくは業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡又はこれらの脳血管疾患若しくは心臓疾患若しくは精神障害をいう」と定義しています。この定義は頻出なので、よく理解しておきましょう。
この法律では、過労死等防止啓発月間を11月としています。
また、政府に過労死防止対策大綱の策定を義務付けています。2021年に改正された大綱では、ウィズコロナ・ポストコロナの時代におけるテレワーク等の新しい働き方への対応、過労死の遺児のための相談対応等が新たに盛り込まれています。

労働施策総合推進法
労働施策総合推進法は、国の責務として、労働時間の短縮、労働条件の改善、均等待遇等を規定しています。また、労働者に対するパワーハラスメント対策についても規定しています。
パワーハラスメントとは、労働者の意に反する「①優越的な関係を背景とした」「②業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により」「③就業環境を害すること」(身体的もしくは精神的な苦痛を与えること)をいいます。
労働者とは、正規労働者だけでなく、パートタイム労働者、契約社員等の非正規労働者を含む、事業主が雇用するすべての労働者が対象です。
事業主に対して、パワーハラスメント防止のため、相談体制の整備等の雇用管理上の措置を講じることを義務付けています。
また、パワーハラスメント問題を相談した者や事実を述べた者に解雇等の不利益な取扱いを行うことは禁止されています。

男女雇用機会均等法
男女雇用機会均等法は、労働者の性別を理由とした配置、昇進、教育訓練、福利厚生、職種等の差別的取扱いの禁止、婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止、事業主の職場におけるセクシャアルハラスメント対策などを規定しています。
事業主は、男女雇用機会均等推進者を選任する努力義務が課せられています。男女雇用機会均等推進者は、職場における男女の均等な機会・待遇の確保が図られるための業務を担当します。
セクハラ対策
職場におけるセクシュアルハラスメントには、同性に対するものも含まれ、労働者が業務を遂行する場所であれば、すべて職場に含まれます。
対象は、正規労働者だけでなく、パートタイム労働者、契約社員等の非正規労働者を含む、事業主が雇用するすべての労働者です。
事業主には、労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備等、雇用管理上必要な措置を講じることが義務付けられています。
また、事業主に対して、労働者が相談をしたことや事実を述べたことを理由に、解雇するなどの不利益な取扱いを行うことを禁止しています。

いがでしたか。次回は「精神保健福祉相談援助の基盤」を取り上げていきます。第25回試験から今回の課題をあげておきますので、チャレンジしてみてください。
- 第25回精神保健福祉士国家試験「精神保健の課題と支援」
-
問題15 次の記述のうち、労働と精神保健に関連する法律の説明として、正しいものを1つ選びなさい。
- 1 労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度で高ストレス者と判定された労働者には、医師による面接指導を受ける義務がある。
- 2 過労死等防止対策推進法が規定する過労死等の原因には、精神障害が含まれている。
- 3 「男女雇用機会均等法」は、妊娠中及び産後の危険有害業務の就業制限を規定している。
- 4 健康増進法は、事業者に対してパワーハラスメント防止のための措置を講じなければならないと規定している。
- 5 労働契約法では、国が労働者の心の健康の保持増進のための指針を策定することが規定されている。
受験対策WEB講座、好評配信中!
もっと問題を解きたい人は受験対策アプリ!
受験対策コンテンツによりアクセスしやすい! けあサポアプリ版
けあサポ ― 介護・福祉の応援アプリ ―
- ※ 上記リンクから閲覧端末のOSを自動的に判別し、App StoreもしくはGoogle playへと移動し、ダウンロードが可能です。
中央法規メルマガ会員 募集中!
「精神保健福祉士」業務に役立つ新刊情報やオンラインイベント情報等を、いち早くお届けします! この機会にぜひお申し込みください。