張先生の受験対策講座

受験勉強のガイド役となるのがこのコーナーです。受験対策のプロである張(はり)先生が、あなたの合格までの道のりをサポートします。
- プロフィール張 百々代(はり ももよ)
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精神保健福祉士・社会福祉士。児童養護施設、老人福祉施設での勤務を経て福祉系専門学校講師に。
現在は受験対策講座講師、各大学での受験対策に従事しており、第三者後見人として精神障害者・知的障害者の成年後見活動にも携わっている。
第14回 「地域福祉の理論と方法」
皆さん、こんにちは。今回は「地域福祉の理論と方法」を取り上げていきます。この科目は、地域における様々な分野の実践について出題されますので、高齢、障害、児童等の地域実践について、どの分野から出題されても対応できるようにしておきましょう。
まず前回の課題の解説をします。
- 第25回精神保健福祉士国家試験「現代社会と福祉」
-
問題24 福祉政策に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
- 1 アダム・スミス(Smith, A.)は、充実した福祉政策を行う「大きな政府」からなる国家を主張した。
- 2 マルサス(Malthus, T.)は、欠乏・疾病・無知・不潔・無為の「五つの巨悪(巨人)」を克服するために、包括的な社会保障制度の整備を主張した。
- 3 ケインズ(Keynes, J.)は、不況により失業が増加した場合に、公共事業により雇用を創出することを主張した。
- 4 フリードマン(Friedman, M.)は、福祉国家による市場への介入を通して人々の自由が実現されると主張した。
- 5 ロールズ(Rawls, J.)は、国家の役割を外交や国防等に限定し、困窮者の救済を慈善事業に委ねることを主張した。
- 正答3
- 1 × アダム・スミスは、『国富論』で、国家は経済に介入しないで自由競争に任せるほうが「神の見えざる手」が働いて経済が活性化するとし、小さな政府を主張した。
- 2 × マルサスは、『人口論』を著し、各人は自己責任において人口抑制策をとり、貧困に陥らないようにすべきであるとした。この思想は、新救貧法の理論的根拠となった。
- 3 〇 経済学者のケインズは、国家が公共事業を行うことで失業者を救済し、経済を活性化すべきであるとして、大きな政府の立場からルーズヴェルト政権のニューディール政策に理論的根拠を与えた。
- 4 × フリードマンは、国家は経済に介入せず市場に任せておくべきであるとする小さな政府の立場から、貨幣供給量を調整することによって経済を安定させるマネタリズムを提唱した。
- 5 × ロールズは、社会的不平等を解消するため、最も不遇な人々の利益を最大化するための資源配分が正義にかなうという格差原理を提唱した。
解答解説
いかがでしたか。「現代社会と福祉」の科目では、福祉の発展の歴史や現代社会の課題などについてもよく学習しておきましょう。
それでは、「地域福祉の理論と方法」について、出題基準に沿って頻出分野を中心に対策を立てていきます。
地域福祉の基本的考え方
地域福祉に関する諸理論、地域福祉に関する報告書とそれらに基づく政策の展開との関係を把握しておきましょう。現在進められている地域共生社会の実現に向けた取り組みの経緯について、地域共生社会推進検討会の最終とりまとめなどに目を通しておくとよいでしょう。
また、ローカルガバナンス、社会的企業、ソーシャルキャピタルなどの基本的な理念・概念も押さえておきましょう。

地域福祉の主体と対象
社会福祉法における地域福祉を推進する主体としての地域住民、社会福祉を目的とする事業を経営する者、社会福祉に関する活動を行う者の法律上の位置づけ、支援機関との連携、国・地方公共団体の地域福祉を推進するための役割等を理解しておきましょう。援助を必要とする各分野の対象ごとの法制度を学習しておくとよいでしょう。

地域福祉に係る組織、団体及び専門職や地域住民
社会福祉法人、特定非営利活動法人、社会福祉協議会、民生委員、共同募金については、それぞれの組織の歴史的発展の経緯、性格と役割、専門職の位置づけ等を整理しておきましょう。

地域福祉の推進方法
最近は社会福祉協議会の福祉活動専門員の事例問題の出題が見られ、状況に応じた専門員の対応方法等、判断力と応用力が問われる問題に出題傾向がシフトしています。社会資源の活用の仕方や住民の組織化などの視点を含めて、応用力と実践力を身につけておきましょう。
地域福祉のニーズの把握方法、評価方法の出題が多くなっています。質的ニーズと量的ニーズの把握方法や、プロセス評価とアウトカム評価などの評価方法について、基本的な知識を整理しておくとよいでしょう。第三者評価事業については、組織体系、研修体系、評価機関の認証要件、評価項目等に目を通しておきましょう。

以上、全体を概観してきましたが、今回は、地域福祉計画について解説していきます。
根拠法と計画策定の目的
地域福祉計画は、2000年に「社会福祉事業法」が「社会福祉法」に改称され、内容が大幅に見直された際に「地域福祉の推進」という章が新たに設けられ、その中に規定されました。地域福祉計画の策定は、地域福祉の推進に向けた役割を担っています。
地域福祉計画と地域福祉活動計画
地域福祉計画は、市町村と都道府県が策定する行政計画です。このほか、地域に関する計画には、社会福祉協議会が作成する地域福祉活動計画があるので注意しておきましょう。地域福祉活動計画は、法律に基づく計画ではなく民間計画です。
行政計画である「地域福祉計画」は、地域福祉を推進するための基盤整備や体制整備をしていくという重要な役割があります。
民間計画である「地域福祉活動計画」は、行政が策定した地域福祉計画に基づいて、それを実行するための住民の活動のあり方を定める計画です。域福祉計画と地域福祉活動計画は、相互に補完し合う関係となっています。

行政計画と民間計画
- ・地域福祉計画は行政計画
- ・地域福祉活動計画は民間計画
市町村と都道府県の関係
地域福祉計画には、市町村地域福祉計画と都道府県地域福祉支援計画があります。都道府県地域福祉支援計画は、市町村の地域福祉計画を支援するという位置づけになっています。
2017年の法改正により、市町村地域福祉計画、都道府県地域福祉支援計画の策定は努力義務になりました。
計画期間
地域福祉計画の計画期間については、社会福祉法には規定がありません。
社会保障審議会が出した「市町村の地域福祉計画及び都道府県地域福祉支援計画策定指針の在り方について」に他の計画との調整が必要であることから概ね5年とし3年で見直すことが適当であるとされています。
調査・分析・評価
地域福祉計画を策定したら、定期的に調査、分析及び評価を行うよう努めること、必要がある場合は、計画を変更することとされています。地域福祉計画の評価等は努力義務であることを覚えておきましょう。

地域福祉計画(市町村・都道府県)
- ・策定:努力義務
- ・計画期間:指針に基づき概ね5年とし3年で見直す
- ・調査・分析・評価:定期的実施、努力義務
次に、市町村地域福祉計画と都道府県地域福祉支援計画の違いについてみていきましょう。
市町村地域福祉計画
意見の反映
住民等の意見の反映については、市町村地域福祉計画を策定するとき、変更するときは、地域住民、社会福祉を目的とする事業を経営する者、社会福祉に関する活動を行う者の意見を反映するよう努めること、策定したら内容を公表するよう努めることが規定されています。
定める内容
市町村地域福祉計画に定める内容は次のとおりです。
- ①地域における高齢者の福祉、障害者の福祉、児童の福祉その他の福祉に関し、共通して取り組むべき事項
- ②地域における福祉サービスの適切な利用の推進に関する事項
- ③地域における社会福祉を目的とする事業の健全な発達に関する事項
- ④地域福祉に関する活動への住民の参加の促進に関する事項
- ⑤地域生活課題の解決に資する支援が包括的に提供される体制の整備に関する事項
都道府県地域福祉支援計画
意見の反映
計画を策定するとき、変更するときは、公聴会の開催等により、住民の意見を反映させるよう努めること、策定したら内容を公表するよう努めることが規定されています。
定める内容
都道府県地域福祉支援計画に定める内容は次のとおりです。
- ①地域における高齢者の福祉、障害者の福祉、児童の福祉その他の福祉に関し、共通して取り組むべき事項
- ②市町村の地域福祉の推進を支援するための基本的方針に関する事項
- ③社会福祉を目的とする事業に従事する者の確保又は資質の向上に関する事項
- ④福祉サービスの適切な利用の推進及び社会福祉を目的とする事業の健全な発達のための基盤整備に関する事項
- ⑤市町村による地域生活課題の解決に資する支援が包括的に提供される体制の整備の実施の支援に関する事項
地域福祉計画の策定状況
2022年4月1日時点での「市町村地域福祉計画」と「都道府県地域福祉支援計画」の策定状況は次のとおりです。
市町村地域福祉計画
策定済み率 | 84.8%(前回調査比+1.9ポイント) |
---|---|
市区部・町村部別 | 市区部:95.1%、町村部: 75.7% |
未策定の理由 | 「計画策定に係る人材やノウハウ等が不足している」が最多で |
都道府県地域福祉支援計画
策定済み率 | 100% |
---|---|
策定内容 | 地域福祉支援計画の策定ガイドラインで定めている項目のうち、法定上必要となる5項目すべてを計画に位置付けているのは97.9% |
策定期間 | 策定期間「5年」は63.8% 計画を定期的に点検しているのは89.4% |
以上、地域福祉計画についてみてきましたが、いかがでしたか。この科目は、出題率の高い分野を丁寧に学習すれば十分対応できます。着実に学習して力をつけていきましょう。次回は「福祉行財政と福祉計画」を取り上げます。
では、第25回の精神保健福祉士国家試験から今回の課題にチャレンジしてみてください。
- 第25回精神保健福祉士国家試験「地域福祉の理論と方法」
-
問題37 地域福祉の推進に向けた役割を担う、社会福祉法に規定される市町村地域福祉計画に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
- 1 市町村地域福祉計画では、市町村社会福祉協議会が策定する地域福祉活動計画をもって、地域福祉計画とみなすことができる。
- 2 市町村地域福祉計画の内容は、市町村の総合計画に盛り込まれなければならないとされている。
- 3 市町村地域福祉計画では、市町村は策定した計画について、定期的に調査、分析及び評価を行うよう努めるとされている。
- 4 市町村地域福祉計画は、他の福祉計画と一体で策定できるように、計画期間が法文上定められている。
- 5 市町村地域福祉計画は、2000年(平成12年)の社会福祉法への改正によって策定が義務化され、全ての市町村で策定されている。
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