張先生の受験対策講座

受験勉強のガイド役となるのがこのコーナーです。受験対策のプロである張(はり)先生が、あなたの合格までの道のりをサポートします。
- プロフィール張 百々代(はり ももよ)
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精神保健福祉士・社会福祉士。児童養護施設、老人福祉施設での勤務を経て福祉系専門学校講師に。
現在は受験対策講座講師、各大学での受験対策に従事しており、第三者後見人として精神障害者・知的障害者の成年後見活動にも携わっている。
第13回 「現代社会と福祉」
皆さん、こんにちは。今回は「現代社会と福祉」を取り上げます。福祉の歴史的な発展、福祉政策、現代社会の課題等、広範囲に及ぶ知識と理解が求められます。この科目は全科目の基盤となる科目なので、他の科目を理解するためにも基本的な福祉の考え方と福祉政策の枠組みについて学習しておくとよいでしょう。
では最初に、前回の課題の解説をしておきます。
- 第25回精神保健福祉士国家試験「社会理論と社会システム」
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問題16 社会変動の理論に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
- 1 ルーマン(Luhmann, N.)は、社会の発展に伴い、軍事型社会から産業型社会へ移行すると主張した。
- 2 テンニース(Tonnies, F.)は、自然的な本質意志に基づくゲマインシャフトから人為的な選択意志に基づくゲゼルシャフトへ移行すると主張した。
- 3 デュルケム(Durkheim, E.)は、産業化の進展に伴い、工業社会の次の発展段階として脱工業社会が到来すると主張した。
- 4 スペンサー(Spencer, H.)は、近代社会では適応、目標達成、統合、潜在的パターン維持の四つの機能に対応した下位システムが分出すると主張した。
- 5 パーソンズ(Parsons, T.)は、同質的な個人が並列する機械的連帯から、異質な個人の分業による有機的な連帯へと変化していくと主張した。
- 正答2
- 1 × ルーマンは、社会構造の変化に伴い、環節的分化から、階級的分化、機能的分化に移行するという「機能的分化論」を提唱した。選択肢の記述は、スペンサーの理論である。
- 2 〇 テンニースは、産業の発展による近代化により、集団の性格がゲマインシャフトからゲゼルシャフトに移行するとした。
- 3 × デュルケムは、近代化による分業の進展により、社会は同質的成員による機械的連帯から、異質な成員による有機的連帯へ変化するとした。選択肢の記述は、ベルの理論である。
- 4 × スペンサーは、社会は産業の発展によって分業と機能の分化が進み、画一的・統制的な軍事型社会から、個人の意志を尊重する産業型社会に進化するとした。選択肢の記述は、パーソンズの理論である。
- 5 × パーソンズは、産業が発展し分業化が進んで社会秩序が維持されている状態をシステム論の視点から分析し、AGIL理論を提唱した。選択肢の記述は、デュルケムの理論である。
解答解説
いかがでしたか。では「現代社会と福祉」について、出題基準に沿って頻出分野を中心に対策を立てていきます。
現代社会における福祉制度と福祉政策
この分野は、福祉制度の概念の変遷、福祉政策の概念と理念に焦点をあてて学習しておくとよいでしょう。わが国の社会保障制度の概念と対象、方法について、戦後混乱期、戦後復興期、高度経済成長期、少子高齢化によってどのように変遷してきたかを理解しておきましょう。
福祉の原理をめぐる理論と哲学
福祉の原理をめぐる理論や哲学・倫理として、エスピン-アンデルセン、ティトマスの福祉国家論、ロールズの格差原理、センの潜在能力(ケイパビリティ)理論、マーシャル、ウィレンスキー、ローズ等の福祉政策の学説について押さえておきましょう。

福祉制度の発達過程
イギリスの福祉政策の歴史とわが国の福祉制度の発達過程について理解しておきましょう。
イギリスについては、産業革命による産業の発展と貧困との関係、救貧法、ナショナルミニマム、ベバリッジ報告、福祉国家の形成を押さえておきましょう。
わが国については、明治期以降の貧困対策や民間の慈善事業、第二次世界大戦後の福祉の発展の歴史、枠組みなどに関して社会背景もふまえて学習しておくと理解が深まります。

福祉政策におけるニーズと資源
ニーズと資源の関係については、ブラッドショーのニード論を押さえ、福祉政策との関連で理解しておくとよいでしょう。資源の概念、福祉政策におけるニーズと資源の関係、ニード充足のための資源の配分と福祉政策について、水平的再分配、垂直的再分配等を学習しておきましょう。

福祉政策の課題
この分野からは、現代社会の福祉政策の課題があらゆる分野から出題されます。厚生労働白書や国民生活基礎調査等に目を通しておきましょう。各国の社会保障制度の特徴も整理しておきましょう。
福祉政策の構成要素
OECDの相対的貧困率の定義、ジニ係数などは定番問題です。また、福祉政策における市場の役割として福祉政策における公と民の関係を理解しておきましょう。NPM、準市場、指定管理者制度、PFI、市場化テスト等の意味も理解しておきましょう。
福祉政策における資源供給のあり方として、現物給付と現金給付の違い、負の所得税の考え方、普遍主義と選別主義の違い、資源供給の方法について、その目的と性格を整理しておくとよいでしょう。

福祉政策と関連政策
関連政策として、非常に幅広い分野からの出題があります。労働施策、教育施策、住宅施策、災害対策等、関連施策の法体系や制度について確認しておくとよいでしょう。
以上全体を概観してきましたが、今回は国家と経済の関係、ロールズとセンの理論について解説していきます。
小さな政府
まず、国家と経済の関係についてみていきましょう。国家は経済に介入しないという考え方を「小さな政府」といいます。アダム・スミスは、『国富論』で、国家は経済に介入しないほうが自由競争の結果「神の見えざる手」が働いて、経済が活性化するとし、経済は自由競争に任せるべきであるというレッセ・フェール(自由放任)という考えを提唱しました。
ラッサール
この「小さな政府」を批判したのが、ラッサールです。ラッサールは、国家が経済に介入しないのなら、国家の役割は、外敵の防御、国内の治安維持に限定されてしまうとしました。これを夜警国家と呼んで、「小さな政府」の考え方を批判しました。
大きな政府
「小さな政府」に対して、国家が経済に介入するという考え方を「大きな政府」といいます。1929年の世界大恐慌を背景に、アメリカでは失業者が増大し、資本主義が危機を迎えました。
経済学者のケインズは、国家が公共事業を行うことで失業者を救済し経済を活性化すべきであるとして、「大きな政府」の立場から、ルーズヴェルト政権のニューディール政策に理論的根拠を与えました。
ハイエクとフリードマン
その後、1970年代に起きた二度にわたるオイルショックによって、世界経済は停滞し、国家経済が縮小してしまったため、ケインズ理論による「大きな政府」への批判が生まれました。そして、再び「小さな政府」論が主流を占めるようになりました。「小さな政府」の代表的な提唱者として、ハイエクとフリードマンがいます。
ハイエク
ハイエクは、ケインズ理論による「大きな政府」に基づく福祉国家を批判しました。「大きな政府」は、個人の自由を妨げ経済の停滞を招くだけであって、個人の自由を保障することこそが経済の全般的、急速な発展をもたらすとしました。
フリードマン
フリードマンは、国家は経済に介入せず、市場に任せておくべきであるとする「小さな政府」の立場から、マネタリズムを提唱しました。マネタリズムとは、貨幣供給量を調整することによる経済の自己調整力で、長期的に経済を安定させるべきであるという考え方です。
第三の道
小さな政府、大きな政府の考え方に対して、ギデンズは、小さな政府でもなく大きな政府でもない第三の道を提唱しました。「第三の道」とは、権利は必ず責任を伴うとして、ポジティブ・ウェルフェアすなわち積極的な福祉を実現すべきであるという考え方です。
ポジティブ・ウェルフェア(積極的福祉)とは、失業手当の給付のためには、積極的に職探しをする義務が伴わなければならないとして、福祉の実現は、主体的に就労のための訓練を受け、就労によって福祉を実現していこうという考え方です。イギリスのブレア政権はこの第三の道を採用し、教育や職業訓練による人的投資によって福祉を実現する政策をとりました。
福祉の原理
ロールズとセンを取り上げます。
ロールズ
ロールズは『正義論』を著し、基本的自由を前提に正義を論じ、社会的不平等を解消するため、最も不遇な人々の利益を最大化するための資源配分が正義にかなうという格差原理を提唱しました。
自由主義経済では格差が生じるのは許容せざるを得ないが、その場合、社会の中で最低生活さえできないというような人が生まれないように所得保障すべきであるという考え方です。
セン
センは、個人が達成することが可能な諸機能の総体である潜在能力(ケイパビリティ)を十分に達成できる社会を真に平等な社会であるとする潜在能力理論を提唱しました。人間の福祉は、どのような財をもっているかではなく、何をすることができるかという人間の機能の集合によって決まるという理論です。

福祉の原理論
- ・ロールズ:格差原理
- ・セン:ケイパビリティ(潜在能力)理論
いかがでしたか。それでは、第25回精神保健福祉士国家試験にチャレンジしてみてください。
- 第25回精神保健福祉士国家試験「現代社会と福祉」
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問題24 福祉政策に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
- 1 アダム・スミス(Smith, A.)は、充実した福祉政策を行う「大きな政府」からなる国家を主張した。
- 2 マルサス(Malthus, T.)は、欠乏・疾病・無知・不潔・無為の「五つの巨悪(巨人)」を克服するために、包括的な社会保障制度の整備を主張した。
- 3 ケインズ(Keynes, J.)は、不況により失業が増加した場合に、公共事業により雇用を創出することを主張した。
- 4 フリードマン(Friedman, M.)は、福祉国家による市場への介入を通して人々の自由が実現されると主張した。
- 5 ロールズ(Rawls, J.)は、国家の役割を外交や国防等に限定し、困窮者の救済を慈善事業に委ねることを主張した。
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