張先生の受験対策講座

受験勉強のガイド役となるのがこのコーナーです。受験対策のプロである張(はり)先生が、あなたの合格までの道のりをサポートします。
- プロフィール張 百々代(はり ももよ)
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精神保健福祉士・社会福祉士。児童養護施設、老人福祉施設での勤務を経て福祉系専門学校講師に。
現在は受験対策講座講師、各大学での受験対策に従事しており、第三者後見人として精神障害者・知的障害者の成年後見活動にも携わっている。
第5回 「精神保健福祉相談援助の基盤」
皆さん、こんにちは。初夏を迎えました。自分の夢の実現に向けて、一歩一歩着実に学習を進めていきましょう。
最初に前回の課題の解説をします。
- 第25回精神保健福祉士国家試験「精神保健の課題と支援」
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問題16
N県で大規模災害が発生したことから、P県に勤務するC精神保健福祉士に対し、その担当部署より被災地支援チームの一員として参加するよう要請がなされた。当該支援チームの主な活動内容は、急性期の精神科医療ニーズへの対応、精神保健医療ニーズの把握、他の保健医療体制との連携、専門性の高い精神科医療の提供と精神保健活動の支援である。C精神保健福祉士は国が認めた専門的な研修・訓練も受け、同チームの構成メンバーとして登録されている。
次のうち、このチームの名称として、正しいものを1つ選びなさい。- 1 DHEAT
- 2 DMAT
- 3 DPAT
- 4 DWAT
- 5 JMAT
- 正答3
- 1 × DHEATは、都道府県・指定都市に組織される「災害時健康危機管理支援チーム」のことで、被災した地方公共団体の指揮調整機能の応援を行うチームである。
- 2 × DMATは、「災害派遣医療チーム」のことで、大規模災害等の現場で急性期から活動する機動性をもった専門的な訓練を受けた医療チームである。
- 3 〇 DPATは、「災害派遣精神医療チーム」のことで、災害時の急性期の専門性の高い精神科医療の提供と精神保健活動を行うチームである。
- 4 × DWATは、「災害派遣福祉チーム」のことで、大規模災害時に、一般避難所等における災害時要配慮者の福祉ニーズに対応するための福祉専門職チームである。
- 5 × JMATは、「日本医師会災害医療チーム」のことで、被災者の医療や健康管理、公衆衛生の回復と地域医療の再生を支援する専門職のチームである。
解答解説
いかがでしたか。それでは、「精神保健福祉相談援助の基盤」について、出題基準と過去の出題実績を分析しながら、頻出分野を中心に受験対策のポイントを押さえていきます。
精神保健福祉士の役割と意義
「精神保健福祉士法」は、皆さんが目指している精神保健福祉士の根拠法です。法律に規定されている精神保健福祉士の定義、役割、義務、罰則規定等を押さえておきましょう。精神保健福祉士の義務として、「誠実義務」「信用失墜行為の禁止」「資質向上の責務」等の出題がみられます。
「精神保健福祉制度の歩み」の分野は、出題頻度は低いですが、精神保健福祉士国家資格成立に至るまでの精神科ソーシャルワーカーの歴史、資格成立の経緯などを押さえておくとよいでしょう。
「精神保健福祉士の専門職倫理と倫理的ジレンマ」については、「国際ソーシャルワーカー連盟(IFSW)の倫理綱領」や「精神保健福祉士の倫理綱領」に目を通しておくとよいでしょう。また、様々な場面における倫理的ジレンマとその対応方法を押さえておきましょう。

社会福祉士の役割と意義
社会福祉士及び介護福祉士法に規定されている役割、法律上の定義、義務等を理解しておきましょう。
相談援助の概念と範囲
国際ソーシャルワーカー連盟の「ソーシャルワーク専門職のグローバル定義」(2014年)は出題率が高いので、ソーシャルワークの定義と注釈の「中核となる任務」「原則」「知」「実践」について整理しておくとよいでしょう。今回は後ほど、この分野を解説します。
なお、日本ソーシャルワーカー連盟は「ソーシャルワーク専門職のグローバル定義」の内容を反映して、2020(令和2)年に新たな倫理綱領を作成しています。
「社会福祉士・精神保健福祉士が行うソーシャルワークの形成過程」としては、診断主義、機能主義、生活モデルなどの発展の経緯や様々なアプローチ論を整理しておきましょう。

相談援助の理念
相談援助の理念として、ノーマライゼーション、アドボカシー、エンパワメント、ストレングス、自立支援、ピープルファースト、ソーシャルイクオリティなどの基本理念や、利用者主体の考え方等について、事例問題にも対応できるようにしておきましょう。

精神保健福祉士が行う相談援助活動の対象と相談援助の基本的考え方
この分野では、当事者組織への支援、ピアサポーター、ピアカウンセラー、ヘルパーセラピーの原則、リカバリー等の概念と、それらを相談援助の実践の場でどのように適用するかを確認しましょう。
精神保健福祉士が行う相談援助活動に関しては、セルフヘルプグループへの関わり方、ストレスとコーピングスキル、OJTやスーパービジョン等が出題されています。

相談援助に係わる専門職の概念と範囲
この分野では、医師、看護師、作業療法士、理学療法士、言語聴覚士、管理栄養士等の専門的業務について整理しておきましょう。
また、社会復帰調整官、精神保健指定医、精神保健福祉相談員、相談支援専門員等のそれぞれの資格要件と業務内容も出題されています。関連分野の専門職種について、基本的な業務内容等を押さえることをおすすめします。
あわせて保健所や市町村、福祉事務所、地域包括支援センター等の役割についても理解しておくとよいでしょう。

精神障害者の相談援助における権利擁護の意義と範囲
ここは非常に出題頻度の高い分野です。アドボカシーの機能と種類、第三者評価事業、苦情解決制度、障害者権利条約における合理的配慮等、様々な側面からの出題があります。注意して学習しておきましょう。
特に、アドボカシーの機能の分野が頻出です。発見機能、仲介的弁護機能、介入の機能、対決の機能、変革の機能等についてよく理解しておきましょう。ケースアドボカシー、クラスアドボカシー、シチズンアドボカシーの違いについても押さえておきましょう。
「障害福祉サービス等の提供に係る意思決定支援ガイドライン」(平成29年3月厚生労働省)にも目を通しておくとよいでしょう。

精神保健福祉活動における総合的かつ包括的な援助と多職種連携(チームアプローチ含む)の意義と内容
コミュニティソーシャルワークや多職種連携、チームアプローチの考え方について出題されています。多職種チームの連携形態、チームビルディングの諸段階、マルチディシプリナリ・モデル、インターディシプリナリ・モデル、トランスディシプリナリ・モデルのそれぞれの性格と適用対象について整理しておきましょう。
多職種連携とチームワークの目的、また、チームの諸段階で精神保健福祉士として留意すべき事柄についてしっかり押さえておきましょう。

以上、出題範囲と重点内容を確認してきました。今回は、「ソーシャルワーク専門職のグローバル定義」について取り上げていきます。
ソーシャルワーク専門職のグローバル定義
「ソーシャルワーク専門職のグローバル定義」(以下、グローバル定義)は、2014年7月に、メルボルンにおける国際ソーシャルワーカー連盟(IFSW)総会および国際ソーシャルワーク学校連盟(IASSW)総会において採択されました。
まず、グローバル定義は4つのテーマで提示されており、注釈として「中核となる任務」「原則」「知」「実践」の分野ごとに詳細に解説されています。

ソーシャルワークの定義
グローバル定義では、「ソーシャルワークは、社会変革と社会開発、社会的結束、および人々のエンパワメントと解放を促進する、実践に基づいた専門職であり学問である」としています。
ソーシャルワークの諸原理
ソーシャルワークの諸原理として、「社会正義」「人権」「集団的責任」「多様性尊重」を挙げており、これらがソーシャルワークの中核をなすとされています。
基盤とするもの
ソーシャルワークの基盤として、ソーシャルワークの理論、社会科学、人文学、地域・民族固有の知が挙げられています。ソーシャルワークは、この基盤に基づいて生活課題に取り組み、人々やさまざまな構造に働きかけます。
展開
この定義は、各国および世界の各地域で展開してもよいとされています。
具体的には、各国、世界の各地域は、このグローバル定義をもとに、それに反しない範囲で、それぞれの置かれた社会的・政治的・文化的状況に応じた独自の定義を作ることができます。
これによりソーシャルワークの定義は、グローバル(世界)、リージョナル(地域)、ナショナル(国)という3つのレベルをもつ重層的なものとなります。
中核となる任務
ソーシャルワーク専門職の中核となる任務として、社会変革・社会開発・社会的結束の促進・人々のエンパワメントと解放を挙げています。
社会変革・人々のエンパワメントと解放
社会変革の任務は、個人、家族、小集団、共同体、社会のどのレベルであっても、変革が必要とみなされるとき、ソーシャルワークが介入します。
人種・階級・言語・宗教・ジェンダー・障害・文化・性的指向などに基づく抑圧や、特権の構造的原因の探求を通して批判的意識を養うこと、構造的・個人的障壁の問題に取り組む行動戦略を立てることは、人々のエンパワメントと解放をめざす実践の中核をなします。
社会開発
社会開発とは、介入のための戦略、最終的にめざす状態、政策的枠組みなどを意味します。それは社会構造的・経済的な開発に優先権を与えるものであり、経済成長を社会開発の前提条件とするという従来の考え方とは異なります。
社会的結束の促進
ソーシャルワーク専門職は、貧困を軽減し、脆弱で抑圧された人々を解放し、社会的包摂と社会的結束を促進するために努力します。
ソーシャルワーク専門職は、社会変革の任務とともに、それがいかなる特定の集団の周縁化・排除・抑圧にも利用されない限りにおいて、社会的安定の維持にも等しく関与します。

中核となる任務
- ・社会変革、人々のエンパワメントと解放
- ・社会開発
- ・社会的結束の促進
原則
ソーシャルワークの大原則は、人間の内在的価値と尊厳の尊重、危害を加えないこと、多様性の尊重、人権と社会正義の支持です。
これらを実現するためには、人権と集団的責任の共存が必要です。
集団的責任とは、人々が相互に責任をもち、環境に責任をもつことで、個人の権利が日常レベルで実現されるということ、共同体の中で互恵的な関係を確立することの重要性を指摘した概念です。
「危害を加えないこと」と「多様性の尊重」は、状況によっては、対立し、競合する価値観となることがあります。

原則
- ・人間の内在的価値と尊厳の尊重
- ・危害を加えないこと
- ・多様性の尊重
- ・人権と社会正義の支持
知
ソーシャルワークは、複数の学問分野をまたぎ、その境界を超えていくものであり、広範な科学的諸理論および研究を利用します。
ソーシャルワークは特定の実践環境や西洋の諸理論だけでなく、先住民を含めた地域・民族固有の知にも拠っています。
世界中の先住民たちの声に耳を傾け学ぶことによって、西洋の歴史的な科学的植民地主義と覇権を是正しようとします。西洋における個人主義への批判から、集団を重視しています。

知
- ・広範な理論と研究を利用
- ・地域・民族固有の知、集団を重視
実践
ソーシャルワークの正統性と任務は、人々がその環境と相互作用する接点への介入にあります。できる限り「人々のために」ではなく「人々とともに」働くという考え方をとります。
ソーシャルワークの実践は、さまざまな形のセラピーやカウンセリング・グループワーク・コミュニティワーク、政策立案や分析、アドボカシーや政治的介入など、広範囲に及びます。
ソーシャルワークの戦略は、抑圧的な権力や不正義の構造的原因と対決し、それに挑戦するために、人々の希望・自尊心・創造的力を増大させることをめざすもので、そのため、介入のミクロ-マクロ的、個人的-政治的次元を一貫性のある全体に統合することができます。

実践
- ・環境と相互作用する接点に介入
- ・「人々とともに」働く
- ・ミクロからマクロまで
いかがでしたか。それでは、第25回の試験から今回の課題にチャレンジしてみてください。
- 第25回精神保健福祉士国家試験「精神保健福祉相談援助の基盤」
-
問題24 「ソーシャルワーク専門職のグローバル定義」(2014年)におけるソーシャルワークに関する次の記述のうち、正しいものを2つ選びなさい。
- 1 実践に基づいた専門職であり学問である。
- 2 原理の一つに社会正義がある。
- 3 集団的権利ではなく個人の権利を尊重する。
- 4 西洋の諸理論を基準に展開される。
- 5 「人々とともに」ではなく「人々のために」働くという考え方をとる。
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